会社からの借金と賃金の相殺

労働者が,会社からお金を借りたところ,

毎月の給料から,借金の返済分が天引きされたとします。

 

 

このように,給料から借金の返済分を

会社が天引きすることが認められるのでしょうか

 

 

 

 

本日は,労働者と会社のお金の貸し借りと

賃金の関係について解説します。

 

 

まず,労働基準法17条には,

使用者は,前借金その他労働することを条件とする

前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」と規定されています。

 

 

この条文の中の「前借金」とは,

労働契約の締結の際またはその後に,

労働することを条件として使用者から借り入れ,

将来の賃金により返済することを約束する金銭のことをいいます。

 

 

 

 

また,「相殺」とは,AさんがBさんに対して,

10万円を支払うように求める債権があり,

他方,BさんはAさんに対して,

2万円支払うように求める債権がある場合,

AさんがBさんに2万円支払った後に,

BさんがAさんに10万円を支払うのは手間がかかるので,

Aさんの債権とBさんの債権を対当額で消滅させて,

AさんがBさんに対して,8万円支払うことにするものです。

 

 

労働基準法で,前借金と賃金を相殺してはいけない

としている趣旨は,お金の貸し借りという関係と

労働関係を完全に分離することで,

お金の貸し借りに基づく身分的拘束の発生を防止することにあります。

 

 

ようするに,お金の貸し借りによって,

労働者が強制的に働かされてしまうことを防ごうとしているのです。

 

 

労働基準法17条によって禁止されているのは,

前借金と賃金の相殺であり,

労働者が会社からお金を借りることは禁止されていません。

 

 

もっとも,前借金により返済が完了するまでは

労働すべきことが義務付けられていたり,

労働者が退職を申し出た際に未返済の前借金を即座に返還

しなければこれを承認しないと脅して労働を強制することは,

労働基準法5条の強制労働の禁止に違反して,

前借金が無効になる可能性があります。

 

 

また,労働基準法24条1項において賃金全額払いの原則

が規定されていることからも,借金と賃金とを相殺してはいけません。

 

 

この借金と賃金の相殺を禁止されているのは会社だけであり,

労働者が自分の自由な意思に基づいて

借金の返済を給料からの天引きでしてもいいですよと認めた場合には,

借金と賃金の相殺は認められます。

 

 

しかし,労働者は会社からみれば立場は弱いですし,

借金をしているという負い目もあるので,

労働者が本当に自分の自由な意思に基づいて

相殺に合意したのかが厳格に判断されることになります

 

 

 

 

労働者が文書で形式的に相殺に合意していても,

実質的に見て会社の強制による場合には,

借金と賃金の相殺は認められません。

 

 

まとめると,会社が一方的に,労働者の給料から

借金の返済分を天引きすることは労働基準法違反になります。

 

 

会社は,給料全額を労働者に支払い,その後に,

労働者から借金の返済を受けなければならないのが原則です。

 

 

とくに,夜の世界では,給料から借金が勝手に天引きされている

ことは日常茶飯事だと思いますが,そのような対応は

労働基準法違反なので,労働者は,会社に対して,

借金の天引きをやめるように請求できるのです。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

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