残業時間を証明するための証拠をどのようにして集めるのか(証拠保全の活用)

未払残業代請求事件では,労働者が労働時間を1日

ごとに主張立証しなければらならないのが原則です。

 

 

また,過労死や過労自殺で労災申請をする場合も,遺族が

発症前6ヶ月間の残業時間が1ヶ月80~100時間

あったことを裏付ける証拠を労基署に提出する必要があります。

 

 

未払残業代請求事件や過労死・過労自殺事件では,

残業時間を証明するための証拠をどれだけ確保できるかが

勝負の分かれ目になります。

 

 

それでは,労働者は,残業時間を証明するための証拠を

どうやって集めればいいのでしょうか。

 

 

 

 

まずは,労働者が自分で証拠を集める方法があり,

簡単かつ費用もかかりません。

 

 

退職前であれば,タイムカードや日報をコピーする,

パソコンの起動やシャットダウンのログデータを

自分で保存しておけばいいのです。

 

 

次に,退職後であれば,会社に立ち入ることは困難なので,

弁護士が労働者の代理人として,会社に対して,

タイムカードなどの資料の写しを開示するように求めれば,

会社にも弁護士が就いて,資料を開示してくることが多いです。

 

 

私の経験でも,タイムカードなどの資料の開示

を拒まれたことはありません。

 

 

もっとも,会社が証拠を破棄したり,改ざんするような恐れ

がある場合には,会社に任意で証拠の開示を求めるのは

逆効果になります。

 

 

また,パソコンのログなどのデジタルデータは

時間の経過と共に消えていくので,一刻も早く,

証拠を確保する必要があります。

 

 

そのようなときに利用するのが,証拠保全という手続です。

 

 

証拠保全とは,裁判を提起する前に,裁判官らと共に会社へ行き,

会社に証拠を提示してもらい,その場で証拠をコピーしたりして,

証拠の状態を記録に残すという手続です。

 

 

 

 

証拠保全は,手続を実施する約1時間ほど前までは

会社に連絡がいかないので,会社が証拠を

破棄したり改ざんしたりする時間的な余裕がないうちに,

現場で証拠を確保できるので,会社の証拠の破棄や改ざんを

防止することができます。

 

 

もっとも,証拠保全は,時間と手間がかかります。

 

 

まず,弁護士がクライアントから事情を聞いて,

証拠保全の申立書を作成するのにある程度の手間と時間がかかります。

 

 

次に,裁判所が証拠保全の申立書を検討し,

弁護士と裁判官が何を優先的に確保するのかや

当日の段取りを打ち合わせします。

 

 

そして,裁判所と弁護士の日程調整をして,

デジカメやパソコンなどを準備して,

会社へ行って,証拠保全を実施します。

 

 

裁判所の業務が立て込んでいると,

裁判所との調整に時間がかかることがあり,

証拠保全の申立をしてから,

約1ヶ月以上先に証拠保全が実施されることがあります。

 

 

そのため,紙媒体で保存されている資料であれば,

会社に長期間保管されていて,証拠を確保できる確率は高いのですが,

パソコンのログなどのデジタルデータの場合,

パソコンのOSをアップデートした際に消去されたり,

古いデータから自動的に削除されていたりすることがあるので,

証拠保全にいったときには,ログデータが残ってなくて,

空振りに終わってしまうことがあります。

 

 

証拠保全という奥の手があるのですが,

手間と時間がかかるので,やはり,

労働者は,在職中にタイムカードなどの証拠をコピーしたり,

タイムカードがない場合には,GPS機能で残業時間を

記録するアプリを利用して,自分で残業時間を記録するなどして,

自分の手で証拠を確保するべきなのです。

 

 

なお,GPS機能で残業時間を記録するアプリとして,

残業証拠レコーダーhttps://zanreko.com/)や,

残業証明アプリhttp://残業証明アプリ.com/

といったものがありますので,紹介させていただきます。

残業証明アプリ~労働時間を記録しよう!~

未払残業代を請求するには,労働者が,

労働した日に何時から何時まで働いたのかを

証拠によって証明しなければなりません。

 

 

この証明ができないと,未払残業代請求

の裁判をしても,負けてしまいます。

 

 

 

 

タイムカードや会社のシステムなどで

労働時間が管理されている会社であれば,

労働者の代理人弁護士が会社に対して

タイムカードなどの証拠を開示するように求めれば,

たいていの会社は,タイムカードなどの証拠を

開示してくれますので,労働時間の証明は容易にできます。

 

 

タイムカードなどで労働時間の管理が

全くされていない会社の場合,どのようにして

労働時間を証明するかで知恵を絞ります。

 

 

パソコンでデスクワークをしている労働者であれば,

使用しているパソコンにパソコンの起動時刻と

シャットダウンの時刻が記録されたログが

保存されていることがあるので,

このログデータを入手できれば,

労働時間を証明することができます。

 

 

しかし,ログデータは,時間の経過やOSのアップデート

をしたときに,自動的に消去されることがあります。

 

 

また,会社を退職してしまえば,会社のパソコン

からログデータを入手することは困難になります。

 

 

そのため,労働者は,会社に労働時間の管理

を任せるのではなく,いざというときのために,

自分で労働時間を記録するべきです

 

 

具体的には,毎日労働時間をメモするという方法があります。

 

 

 

 

もっとも,メモをし忘れたり,

メモの内容が本当に信用できるのかと争われることがあり,

メモだけですと証拠としてはやや弱いです。

 

 

そこで,最近では,残業時間を記録するアプリが活用されています。

 

 

ソフィアライト株式会社が開発した「残業証明アプリ」は,

GPS機能を活用して,スマホにダウンロードしたアプリに,

何時から何時まで勤務先にいたのかを正確に記録してくれます。

 

 

 

 

このアプリのポイントは,GPSの位置情報が

正確に記録されることにあります。

 

 

このアプリを利用すれば,何時から何時まで

勤務先にいたのかを証明することができ,

勤務先にいたということは通常働いていたと推認できますので,

労働時間の証明が容易になります。

 

 

さらに,自分の給料などの情報を入力しておけば,

残業代を自働で計算してくれます。

 

 

残業代の計算は複雑なので,これはとても便利な機能です。

 

 

労働者の労働時間を把握するのは,会社の義務なのですが,

労働時間把握義務をまもっている会社が

まだまだ少ないのが現状ですので,労働者は,

残業証明アプリ」などを利用して,

自分の労働時間の記録をとるべきです。

 

 

自分の労働時間を記録すれば,自分が働き過ぎ

であることが客観的にわかって,休息をとる

インセンティブがわきますので,健康管理の側面もあります。

 

 

労働時間を記録するこが重要であることを伝えたかったので,

残業証明アプリ」を紹介させていただきました。

パソコンのログデータで労働時間を証明する

残業代を請求したり,過労死の労災申請や

損害賠償請求をする事件の場合,

労働者側が何時から何時まで働いたのかを

証明しなければなりません。

 

 

労働者が労働時間を証明できないと,

残業代は認められませんし,

過労死の認定も困難になります。

 

 

それでは,労働者は,どうやって自分の

労働時間を証明すればいいのでしょうか。

 

 

もっとも手っ取り早いのはタイムカードです。

 

 

 

 

タイムカードで労働時間の管理がされている職場であれば,

タイムカードを入手できれば,

タイムカードで労働時間を証明することができます。

 

 

では,タイムカードがない職場では,どうすればいいのでしょうか。。

 

 

会社には労働時間を適正に把握する責務があることが,

厚生労働省のガイドラインで定められていますが,

これが守られていない中小企業も多いです。

 

 

タイムカードがなくても,パソコンでデスクワーク

をしている労働者であれば,パソコンの起動時刻と

終了時刻のログデータで労働時間を証明することができます。

 

 

パソコンには,自動的に,起動時刻と終了時刻

のログデータが保存されています。

 

 

 

パソコンでデスクワークをしている労働者であれば,

まず出社すれば,パソコンの電源をいれて,パソコンを立ち上げます。

 

 

そして,パソコンをつけっぱなしにしたまま,

パソコンで文書を作成したり,検索エンジンを利用して調べ物をして

,仕事が終わるときに,パソコンをシャットダウンします。

 

 

そのため,パソコンでデスクワークをする労働者の場合,

自分が使っていたパソコンのログデータを入手できれば,

パソコン起動時刻に出社して,パソコン終了時刻に退社した

と証明できるのです。

 

 

実際,残業代を請求する事件で

パソコンのログデータが活用されています。

 

 

東京地裁平成18年11月10日判決

(PE&HR事件・労働判例931号65頁)は,

「デスクワークをする人間が,通常,パソコンの立ち上げと

立ち下げをするのは出勤と退勤の直後と直前であることを

経験的に推認できる」として,

パソコンのログデータをもとに労働時間を認定しました。

 

 

労働者が会社を辞めてから会社のパソコンの

ログデータを入手するのは困難ですので,

会社を辞める前に自分でログデータを確保しておく必要があります。

 

 

自分でパソコンのログデータを調べる方法については,

次のサイトが非常に参考になります。

 

 

https://pentan.net/win10-kidou-jikoku/

 

 

このサイトのとおりに,自分のパソコンを操作すれば,

ログデータを入手することができます。

 

 

実際に私も自分のパソコンでためしてみましたが,

そんなに難しくない作業です。

 

 

また,パソコンのログデータは,

放って置くと消えていく可能性がありますので,

早目にログデータを確保しておく必要があります。

 

 

未払残業代は2年前までさかのぼって請求できますが,

古いログデータほど消えている可能性が高いので,

早目にログデータを確保するべきです。

 

 

タイムカードがなくても,

他の証拠で労働時間を証明できる場合がありますので,

未払残業代を請求する場合には,

専門家に相談することをおすすめします。

労働者が会社の情報を勝手に持ち出すことは違法なのか

労働者が,会社に対して,裁判手続において,解雇が無効であることや,残業代を請求するには,労働者が自分で証拠を集めて,裁判所に提出しなければなりません(裁判所は,証拠を集めてくれません)。

 

労働事件の場合,労働条件を証明するための就業規則や,労働時間を証明するためのタイムカードや日報などは,会社が保管しているので,それらの証拠を,労働者がどうやって入手するのかを考える必要があります。

 

労働者が会社を辞めていないのであれば,弁護士に相談して,必要となる証拠を教えてもらい,会社にある証拠をこっそりコピーして集めれば,問題はありません。

 

もっとも,労働者が裁判で証拠に使うために持ち出した資料について,会社が裁判手続中に,「機密情報を社外に持ち出したので守秘義務(秘密を守る義務)である」や「個人情報が含まれており社外に無断で持ち出す行為は窃盗である」などいって,刑事告訴または損害賠償請求をするといっておどしてくることがあります。

 

それでは,労働者が裁判で証拠として使用することだけを目的として,会社の資料を持ち出して,弁護士に提出して,裁判の証拠として用いることは違法なのでしょうか。

 

結論としては,違法になりません。これからその理由を説明します。

 

まず,労働契約法3条4項により,労働者は,在職期間中,知りえた企業情報について守秘義務を負います。

 

しかし,労働者が漏らしてはならない秘密とは,まだ広く知られていない情報であって,これが会社の外に漏れると,顧客からの信用などを含む会社の正当な利益を害するもの,に限定されます。

 

そのため,就業規則やタイムカードなどの資料は,守秘義務の対象となる秘密には該当しないため,会社の外に持ち出しても問題はありません。

 

次に,労働者が守秘義務を負う情報を,弁護士に相談するために,会社の許可なく,弁護士に提示することの是非について検討します。

 

弁護士は,弁護士法23条によって,職務上知りえた秘密を守る守秘義務を負っています。弁護士には,秘密を守る義務があるので,クライアントは,安心して弁護士に相談することができるのです。

 

労働者が,守秘義務を負う弁護士に,会社の秘密を話しても,弁護士から外部に秘密が漏れる心配はありません。

 

また,労働者が自分の権利を実現するためには,プロである弁護士に秘密である証拠をみてもらわないと何もできません。

 

そのため,弁護士に相談するために,会社の秘密情報を弁護士に提示しても違法にはなりません。

 

なお,労働者は,在職中には守秘義務を負いますが,退職後も守秘義務を負うことを誓約する文書などを会社に提出していない限り,退職後には守秘義務を負うことはないとされています。

 

以上まとめると,労働者は,自分の権利を実現するために,会社の秘密情報を弁護士に提示しても守秘義務違反にはなりませんので,裁判で必要になりそうな会社の情報を自分で集めるようにしましょう。