基本給の格差が不合理と認められた事件2~学校法人産業医科大学事件~

昨日のブログの続きで,基本給の格差を不合理と判断した

学校法人産業医科大学事件の福岡高裁平成30年11月29日判決

(労働判例1198号63頁)を紹介します。

 

 

臨時職員として30年以上もの長期にわたり

雇用されてきたということが,労働契約法20条の

③その他の事情にあたると判断されたので,次に,

この点を考慮して,基本給の格差が不合理となるかが検討されました。

 

 

まず,正社員には,俸給,賞与のほかに

退職手当が支給されていましたが,

臨時職員に対しては退職手当が支給されていなかったこと,

臨時職員は,人事考課制度の対象ではなく,

給与月額は毎年一律で人事院勧告に従って

引き下げや引上げが行われ,原告の基本給は,

同じ頃に採用された正社員と比較して

2分の1くらいになっていたことが考慮されました。

 

 

 

 

次に,原告と同じ頃に採用された正社員は,

当初は,原告と類似した業務に携わり,

業務に対する習熟度を上げるなどして,

採用から6年ないし10年で主任として

管理業務に携わる地位に昇格していったことが考慮されました。

 

 

以上の事情を総合考慮した上で,次のように判断されました。

 

 

30年以上の長期にわたり雇用を続け,

業務に対する習熟度を上げた原告に対し,

臨時職員であるとして人事院勧告に従った

賃金の引上げのみであって,原告と学歴が同じ

短大卒の正社員が管理業務に携わる地位である

主任に昇格する前の賃金水準すら満たさず,

現在では,同じ頃に採用された正社員との基本給の額に

約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は,

同学歴の正社員の主任昇格前の賃金水準を下回る

3万円の限度において不合理であるとされました。

 

 

また,労働者の賃金に関する労働条件のあり方については,

基本的には,団体交渉等の労使自治に

委ねられるべき部分が大きいのですが,

臨時職員については,正社員への登用や

採用が中止されてからの期間の経過の中で退職する人がいたりして,

その数が少数になっていたことが認められ,

必ずしも,団体交渉等による労使自治により,

労働条件の改善が図られていたことができていなかったことも,

この判断の背景にはありそうです。

 

 

結果として,基本給の格差が不合理であり,

労働契約法20条違反となり,

合計113万4000円の損害賠償請求が認められました。

 

 

この事件では,本来は長期雇用を予定していなかったはずの

臨時職員が長期にわたって採用されているという雇用状態の変化と,

同学歴で長期間勤務している正社員との格差が大きすぎることから,

基本給の格差が不合理と判断されました。

 

 

 

今までの裁判例では,基本給の格差は不合理とは

認められませんでしたが,この裁判例によって,

基本給であっても,格差が不合理と判断される

余地があることがわかりました。

 

 

非正規雇用労働者にとって画期的な裁判例ですので,

紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

基本給の格差が不合理と認められた事件~学校法人産業医科大学事件~

ここ数年,労働契約法20条が問題となる

裁判例が増えてきています。

 

 

特にここ最近では,大阪医科薬科大学事件の

大阪高裁平成31年2月15日判決で

賞与の格差が不合理と判断されたり,

メトロコマース事件の東京高裁平成31年2月20日判決で

退職金の格差が不合理と判断されたりと,

労働者側にとって有利な判断がなされています。

 

 

このような中,基本給の格差について不合理と判断された

珍しい裁判例がありましたので紹介します。

 

 

学校法人産業医科大学事件の

福岡高裁平成30年11月29日判決です

(労働判例1198号63頁)。

 

 

この事件は,任期を1年とする有期労働契約を

30年以上にわたって更新してきた臨時職員の原告労働者が,

正社員との間で基本給について著しい格差が生じていることが,

労働契約法20条に違反するとして,

損害賠償請求をしたというものです。

 

 

 

 

労働契約法20条は,非正規雇用労働者と

正社員との間の労働条件の相違が,

①労働者の業務の内容及び当該乗務に伴う責任の程度,

②当該職務の内容及び配置の変更の範囲,

③その他の事情を考慮して,

不合理と認められるものであってはならないと規定されています。

 

 

まず,この事件では,臨時職員である原告労働者と,

ほぼ同じ勤務年数の正社員とを比較したところ,

①仕事内容が,正社員の方が専門的,技術的な業務をしていたり,

仕事量が,正社員の方が多かったりしており,

②正社員は,全ての部署に配属されたり,

出向を含む異動の可能性があり,

実際に配置転換を命じられていた一方,

臨時職員は,異動や出向,業務内容の変更は

予定されていませんでした。

 

 

ようするに,臨時職員と正社員とでは,

仕事内容が違っており,配置転換の有無でも違いがあるので,

基本給に格差が生じていても,やむを得ないといえそうです。

 

 

そのため,労働契約法20条が規定している

①と②の考慮要素だけでは,

基本給の格差が不合理とはいえなかったのです。

 

 

ところが,労働契約法20条には,

③その他の事情を考慮できると規定されています。

 

 

そして,本件事件では,③その他の事情を考慮した結果,

基本給の格差は不合理であると判断されたのです。

 

 

 

それでは,本件事件で,考慮された③その他の事情

とはなんだったのでしょうか。

 

 

それは,臨時職員として30年以上もの

長期にわたり雇用されてきたということです。

 

 

被告法人では,正社員は,定年制であって,

長期雇用や年功的処遇を前提とするもので,賃金体系も,

正社員を定年退職するまでの長期雇用することを前提にしているのに対し,

臨時職員は,1ヶ月以上1年以内と期間を限定して雇用する職員であり,

大学病院開設当時の人手不足を補う目的で採用を開始し,

間もなく採用を中止したことから,

長期間雇用することを採用当時は予定していませんでした。

 

 

それにもかかわらず,30年以上もの長期にわたり

雇い止めもなく雇用されるという,

その採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は,

労働契約法20条の③その他の事情にあたると判断されました。

 

 

長期間雇用されることが予定されていなかった非正規雇用労働者が,

正社員と同じように長期間雇用されている場合には,

長期間働いて雇用主に対して同じように貢献しているはずなので,

非正規雇用労働者と正社員という違いだけで,

賃金に格差を生じさせるのはおかしいのではないか,

という価値判断がはたらいたのだと推測されます。

 

 

長くなりましたので,この裁判例の解決の続きは,

明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます

無期転換後の解雇通告

朝日新聞の報道によれば,日立製作所が,

5年を超えて有期労働契約を締結して働き,

無期労働契約への転換を求めた女性労働者に対して,

解雇を通告したようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM3Q5FYDM3QULFA01X.html

 

 

本日は,この無期転換後の解雇通告の問題について解説します。

 

 

 

 

まず,有期労働契約とは,契約社員,嘱託社員,派遣社員

といった非正規雇用労働者のように,契約期間が

6ヶ月や1年などに区切られている労働契約のことです。

 

 

契約期間が満了になると原則として,

労働契約は終了し,労働者には,仕事がなくなります。

 

 

会社が労働契約を更新しれくれれば,

引き続き働き続けることができますが,

更新するか否かは,会社の意向によりますので,

雇用が不安定なのです。

 

 

これに対して,無期労働契約は,正社員のように,

契約期間の区切りがないので,会社から解雇されない限り,

労働者は,働き続けることができるのです。

 

 

そして,非正規雇用労働者は,正社員と比べて,

待遇が低く,雇用が不安定であることから,

これを是正するために,労働契約法18条で,

無期転換ルールが定められたのです。

 

 

無期転換ルールとは,有期労働契約が2回以上,

通算5年を超えて更新された場合には,

非正規雇用労働者の申し込みによって,

無期労働契約へ転換させる制度です。

 

 

ちなみに,「ムキテンカンの歌」というユーチューブ動画があります。

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=ZzDSmipMylk

 

 

 

現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に,

非正規雇用労働者が,会社に対して,無期転換の申し込みをすれば,

有期労働契約が終了する日の翌日から無期労働契約に転換されます。

 

 

無期転換の申し込みは,口頭でもできますが,

会社から聞いていないと言われるリスクがありますので,

文書で申し込みをするようにしましょう。

 

 

5年の通算契約期間ですが,途中に育児休業期間や休職期間

があった場合でも,通算契約期間にカウントされます。

 

 

無期転換後ですが,労働条件については,

契約期間が有期から無期に変わるだけで,

その他の労働条件は,従前の有期労働契約のままとなります。

 

 

 

 

もっとも,無期転換の際に,会社との間で,

賃金を正社員並に近づけるような「別段の定め」を締結できれば,

有期労働契約の労働条件を改善することが可能となります。

 

 

無期転換後であれば,労働契約の契約期間はなくなりますので,

労働者は,解雇されない限り,働き続けることができるのですが,

日立製作所は,無期転換後に解雇をしてきたのです。

 

 

会社が労働者を解雇するためには,

客観的合理的理由があり,

社会通念上相当でなければできません。

 

 

ようするに,会社側に解雇を正当化できるよほどの根拠があり,

解雇以外に他に手段がなかったといえない限り,

解雇は無効になるのです。

 

 

よほどのことがない限り,解雇できないのですから,

日立製作所の無期転換後の解雇は,

無期転換を回避するための解雇であると批判されています。

 

 

実際に,解雇する理由があったか否かは,

最終的には裁判で決着することになるのですが,

無期転換後にすぐに解雇したのであれば,

無期転換逃れのための解雇ではないかと疑いたくなります。

 

 

無期転換後の解雇が安易に認められたのでは,

非正規雇用労働者の雇用を安定させるという

無期転換ルールの趣旨がないがしろにされてしまいます。

 

 

日立製作所の事件については,団体交渉において,

無期転換後の解雇が撤回されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

正社員と非正規雇用労働者の賞与の格差は不合理か?

2019年2月15日,大阪医科大学の元アルバイト労働者が,

アルバイト労働者には,賞与が支給されないなどの待遇格差は

労働契約法20条に違反するとして,大学に対して,

差額の支給を請求した事件の控訴審判決がくだされました。

 

 

この判決では,アルバイト労働者に対して,

賞与を支給しないことが不合理であると判断されました。

 

 

非正規雇用労働者に対して,賞与を支給するべきだと判断した

画期的な判決であり,今後の,非正規雇用労働者と正社員の

賃金格差の裁判に与える影響は大きいと思います。

 

 

 

 

本日は,この大阪医科薬科大学の大阪高裁判決について解説します。

 

 

まず,労働契約法20条は,正社員と非正規雇用労働者の

労働条件に相違がある場合,業務の内容,業務に伴う責任の程度,

職務の内容及び配置の変更の範囲,その他の事情を考慮して,

その相違が不合理であってはならないと定められています。

 

 

おおざっぱに言えば,正社員と非正規雇用労働者が,

同じ仕事をしているなら,同じ労働条件にしましょうということです。

 

 

労働契約法20条の趣旨は,非正規雇用労働者については,

正社員と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,

両者の労働条件の格差が問題となってきたことをふまえて,

非正規雇用労働者の公正な処遇を図るため,

その労働条件につき,期間の定めがあることにより

不合理なものとすることを禁止したことにあります。

 

 

さて,大阪医科大学の事件では,正社員には,

通年で4.6ヶ月分の賞与が支給され,契約社員には,

正社員の賞与の8割に当たる額の賞与が支給されていましたが,

原告のアルバイト労働者には,賞与は支給されていませんでした。

 

 

そのため,アルバイト労働者に全く賞与を支給しないのは

不合理であるとして争われたのです。

 

 

 

 

ここで,労働契約法20条違反について争われた裁判では,

問題となる手当などの趣旨や性質を詳細に検討して,

不合理か否かが判断されてきました。

 

 

そして,賞与とは,会社業績や労働者の勤務成績によって

変動することが多く,支給対象期間における労働の対償としの性格

だけでなく,功労報奨的な意味や生活補填的な意味も含まれ,

労働者の労働意欲を高めるインセンティブという性質もあります。

 

 

この賞与の性質のうち,労働意欲を高めるインセンティブの側面

を重視すれば,長期雇用へのインセンティブを与えるものとして,

正社員にだけ賞与を支給しても不合理とはいえないという方向に傾き,

労働の対償という側面を重視すれば,正社員にだけ賞与を

支給することは不合理であるという方向に傾きます。

 

 

そこで,大阪医科大学の賞与がどのような性質のものかが

検討されたところ,基本給にのみ連動するものであり,

労働者の年齢や成績に連動するものではなく,

大学の業績にも一切連動しておらず,大阪医科大学の賞与は,

賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する

対価としての性質を有するものと判断されました。

 

 

そうであるなら,フルタイムのアルバイト労働者に対して,

額の多寡があるにせよ,全く支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

 

 

もっとも,大阪医科大学の賞与には,

付随的には長期雇用へのインセンティブという趣旨も含まれており,

正社員とアルバイト労働者とでは,実際の仕事内容も

採用の際に求められる能力にも相違があり,

アルバイト労働者の賞与算定期間における功労も相対的に低いことから,

アルバイト労働者の賞与の金額を正社員と同額にしなければ

不合理とまではいえず,正社員の賞与の60%を下回る

支給しかしない場合に不合理になると判断されました。

 

 

なぜ,アルバイト労働者に正社員の賞与の60%を支給すれば

不合理にならないのかについて不明な点はありますが,

正社員とアルバイト労働者の仕事内容が異なっているものの,

アルバイト労働者に賞与を全く支給しないのはおかしいとして,

バランスをとったのだと考えられます。

 

 

非正規雇用労働者に対して,

賞与を支給すべきとした画期的判決であり,

非正規雇用労働者の格差是正に一歩前進したと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

皆勤手当の不支給は不合理か?~ハマキョウレックス事件差し戻し審判決~

2018年は,正社員と非正規雇用労働者の待遇の格差が

不合理か否かが争われた裁判の判決が多く出た年でした。

 

 

 

 

労働契約法20条(法改正により

短時間労働者及び有期雇用労働者の

雇用管理の改善等に関する法律8条)には,

業務内容や責任の程度,

仕事内容と配置の変更の範囲,

その他の事情を考慮して,

正社員と非正規雇用労働者の待遇の格差が

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

具体的には,正社員と非正規雇用労働者が

ほぼ同じ仕事をしているのに,

ある手当が正社員にだけ支給されていて,

非正規雇用労働者には支給されていない場合に,

ある手当が非正規雇用労働者に支給されていないのは

不合理であるとして,裁判で争われるのです。

 

 

さて,今年6月に労働契約法20条について

重要な判断が下されたハマキョウレックス事件の最高裁において,

皆勤手当について,高裁でもう一度審理をするように,

差し戻されたのですが,この大阪高裁の判決が12月21日にありました。

 

 

6月の最高裁判決では,手当の趣旨や目的を個別に丁寧に検討して,

不合理か否かが判断され,大阪高裁でも同じように検討されました。

 

 

ハマキョウレックス事件の皆勤手当は,

会社が運送業務を円滑に進めるには実際に

出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから,

トラック運転手に皆勤を奨励する趣旨で支給されていました。

 

 

そして,正社員であっても,非正規雇用労働者であっても,

トラック運転手の主な業務は,配車担当者の指示に基づいて

配送業務を行うものであり,仕事内容や責任の程度において,

異なるとことはありません。

 

 

 

 

トラック運転手に皆勤してもらい,

トラックの配送業務をしてもらうという点において,

正社員と非正規雇用労働者には違いがないのです。

 

 

ハマキョウレックス事件では,

正社員と非正規雇用労働者との間には,

能力の開発と人材の育成,

活用に資することを目的とする等級・役職制度の有無や,

配転及び出向の可能性などの点で相違はありますが,

これらの相違は,皆勤手当の趣旨とは

合理的な関連性はないと判断されました。

 

 

そして,非正規雇用労働者に皆勤手当が不支給とされていることに

対する合理的な代償措置はなにもありませんでした。

 

 

その結果,皆勤手当の趣旨を踏まえると,

正社員と非正規雇用労働者との皆勤手当の支給における相違は,

不合理と認められ,労働契約法20条に違反しており,

皆勤手当2年8ヶ月分の合計32万円の

損害賠償請求が認められました。

 

 

正社員と非正規雇用労働者の待遇の格差については,

賃金の手当の趣旨や目的を個別に丁寧に検討するという

方向性が定着しつつあります。

 

 

非正規雇用労働者は,正社員との待遇の格差に

疑問を思ったときには,労働契約法20条に違反しないか,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

住宅手当の格差について労働契約法20条違反が認められた裁判例

正社員には,賞与や各種手当が支給されているにもかかわらず,

非正規雇用労働者には,賞与や各種手当が支給されていない場合,

このような格差は認められるのでしょうか。

 

 

最近,正社員と非正規雇用労働者との賃金格差が

労働契約法20条に違反するか否かが争われる事件が増えてきています。

 

 

 

 

本日は,最近増加傾向にある労働契約法20条をめぐる

裁判の中において,労働者に有利な判断がされた

井関松山製造所事件を紹介します

(松山地裁平成30年4月24日・労働判例1182号20頁)。

 

 

労働契約法20条には,正社員と非正規雇用労働者との間の,

①仕事の内容と責任の程度,

②仕事内容と配置の変更の範囲,

③その他の事情を考慮して,

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の違いが

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

ようするに,正社員と非正規雇用労働者の仕事内容や責任が同じで,

同じように配置転換がされているのに,正社員にだけ,

各種手当が支給されていて,非正規雇用労働者には,

各種手当が支給されていないのであれば,

それは不合理な格差となり,会社は,非正規雇用労働者に対して,

各種手当分の損害を賠償しなければなりません。

 

 

さて,井関松山製造所事件では,正社員には,

36~39万円ほどの賞与が支給され,

家族手当や住宅手当も支給されていましたが,

非正規雇用労働者には,賞与は支給されず,

5万円ほどの寸志が支給され,

家族手当や住宅手当が一切支給されていませんでした。

 

 

そこで,非正規雇用労働者が,正社員に支給されている

賞与,家族手当,住宅手当が,非正規雇用労働者に

支給されていないのは,労働契約法20条

に違反するとして,裁判を起こしました。

 

 

まず,上記①仕事の内容について,被告会社には,

正社員と非正規雇用労働者との間に違いはあまりみられませんでした。

 

 

②仕事内容と配置の変更の範囲について,被告会社には,

部長,次長,課長,職長,組長という5つの職制があり,

非正規雇用労働者は,組長以上の職制に就任することはありませんでした。

 

 

③その他の事情として,被告会社では,

非正規雇用労働者から正社員への中途採用が多く実施されており,

正社員と非正規雇用労働者との地位が

固定的ではないことが考慮されました。

 

 

その上で,賞与については,将来,

組長以上の職制に就任する可能性がある正社員に対して,

より高額な賞与を支給することで,

有為な人材の確保とその定着を図ることに

合理性があると判断されました。

 

 

 

 

また,非正規雇用労働者には5万円ほどの寸志が支給されており,

中途採用制度により,非正規雇用労働者から正社員になることが

可能であり,その実績もあることから,

賞与についての格差は不合理とは認められませんでした。

 

 

他方,家族手当は,生活補助的な性質があり,

労働者の仕事内容とは無関係に,

扶養家族の有無,属性,人数に着目して支給されていることから,

扶養家族がいることで生活費が増加することは,

正社員でも非正規雇用労働者でも変わらないので,

正社員にだけ家族手当を支給しているのは不合理と判断されました。

 

 

また,住宅手当についても,被告会社では,

住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化して,

費用負担を補助するものであるから,非正規雇用労働者であっても

住宅費用を負担する場合があるので,

正社員にだけ住宅手当を支給しているのは不合理と判断されました。

 

 

 

 

近年,手当の性質に注目して,

不合理が否かが判断される傾向にあります。

 

 

他の裁判例では,住宅手当について,

正社員は転勤の可能性があり,

非正規雇用労働者には転勤の可能性がないから,

正社員にだけ住宅手当を支給していることは不合理とはいえない

と判断されることが多かったのですが,本件では,

住宅手当についても,不合理と判断された点が注目されます。

 

 

手当の性質や,正社員と非正規雇用労働者との

労働条件の格差の実態を丁寧に検討していけば,

労働契約法20条違反が認められる可能性がでてくると思います。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

郵便局における正社員と非正規雇用労働者の労働条件の格差は不合理か

最近,正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差

が不合理であるとして,労働契約法20条違反

が争われるケースが増えています。

 

 

本日は,日本郵便において,正社員と非正規雇用労働者の労働条件

の相違が不合理か否かが争われた大阪地裁平成30年2月21日判決

(労働判例1180号・26頁)について解説します。

 

 

一般的に,正社員と非正規雇用労働者との仕事内容や責任,

配置の変更が同じであれば,手当等の労働条件は

同じにしないと不合理と考えられます。

 

 

他方,正社員と非正規雇用労働者との仕事内容や責任,

配置の変更について,正社員の方が負担が重く,

その見返りの意味も含めて,正社員に,

手厚い手当等が支給されることは,不合理とはいえないと考えられます。

 

 

 

 

 

日本郵便では,正社員は,郵便物の集荷や配達といった仕事以外に,

郵便局内部の事務作業も行い,昇任によってシフト管理や企画立案,

労務管理といった管理業務を行い,異動や配置転換が実施されています。

 

 

他方,非正規雇用労働者は,郵便物の集荷や配達

といった仕事に限定され,昇任はなく,異動や配置転換はありません。

 

 

このように,正社員と非正規雇用労働者との間に,

仕事内容や責任,配置の変更について,違いが存在します。

 

 

そうなると,正社員と非正規雇用労働者との

手当などの労働条件について違いがあっても,

不合理とはいえないと判断されそうです。

 

 

しかし,本件では,年末年始勤務手当,住居手当,扶養手当について,

正社員に支給されているのに,非正規雇用労働者に

支給されていないのは不合理と判断されました。

 

 

まず,年末年始勤務手当について,郵便局の労働者は,

普通の会社は休みとしている12月29日から1月3日に

年賀状の集荷と配達をしなければならず,

1年で最も繁忙な時期に働いた場合に,

年末年始勤務手当として一律の金額が支給されています。

 

 

 

 

年末年始勤務手当は,繁忙期である年末年始に働いたことに

注目して支給される性質のものであり,

非正規雇用労働者も正社員と同様に年末年始に働いているので,

非正規雇用労働者にも同じ取扱にする必要があります。

 

 

そのため,年末年始勤務手当の性質から,

正社員にのみ支給して,非正規雇用労働者に支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

住居手当については,配転に伴う住宅の費用負担の軽減

という性質があり,配転が予定されている正社員に支給されて,

配転が予定されていない非正規雇用労働者に支給されなくても,

問題がないように思えます。

 

 

しかし,正社員の中にも,配転が予定されていない労働者がいるのに,

正社員全員に住居手当が支給されており,

住居手当の支給があるのとないのとでは,

最大で月額2万7000円の差が生じていることから,住居手当を,

正社員にのみ支給し,非正規雇用労働者に支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

これまでの裁判例は,配転が予定されているか否かで,

住居手当の支給に差があっても,不合理とはいえないと

判断される傾向にあったため,

住居手当で不合理と判断されたのは画期的だと思います。

 

 

そして,扶養手当については,労働者が扶養する家族の生活保障

としての性質があり,扶養家族の有無や状況に応じて

一定額が支給されており,扶養家族の状況によっては,

支給額が大きくなることから,扶養手当を正社員にのみ支給し,

非正規雇用労働者に支給しないことは不合理と判断されました。

 

 

本判決は,仕事や内容や責任,配転の可能性で差異があっても,

手当の性質に注目して,手当の差異が不合理であると判断される

余地があること,手当の金額で大きな格差が生じることも

考慮されることが,これまでの裁判例と異なるところであり,

労働者にとって有利に活用できそうです。

大学の研究支援者に対する雇止め問題

大学には,教授などの研究者たちの

仕事を支える「研究支援者」がいます。

 

 

実験装置の保守や資材の調達をする技術職,

特許事務や研究費の管理をする事務職など,

多岐にわたる研究支援者が,大学での研究を支えているのです。

 

 

 

 

この研究支援者の多くが,非正規雇用の労働者であり,

労働契約の期間が満了して,労働契約の更新ができなければ,

雇止めとなり,大学を去らなければなりません。

 

 

研究支援者が雇止めにあうことから,

研究支援者の雇用が不安定であり,

不安定な雇用は敬遠されるので,

研究支援者になる人が減少し,

研究支援者を確保することが困難になり,

研究者が研究に割ける時間が減少して,

日本の研究者の研究力が低下するという問題が生じます。

 

 

ここで,非正規雇用とよばれる

期間の定めのある労働契約について説明します。

 

 

契約期間が定められていない正社員は,

解雇されない限り,働き続けることができますが,

契約期間が定められている労働契約を締結した

非正規雇用の労働者は,労働契約で定められた

契約期間が満了して,更新されなかったら,

その職場で働き続けることはできません。

 

 

もっとも,同じ職場で,期間の定めのある労働契約が

2回以上更新されて,トータルの契約期間が5年を超えた場合

非正規雇用の労働者は,会社に期間の定めのない労働契約

を申し込めば,期間の定めのない労働契約に転換されます

(労働契約法18条1項)。

 

 

これを無期転換ルールといいます。

 

 

会社は,非正規雇用労働者の人件費が正社員よりも低く,

非正規雇用労働者は,労働契約を更新しなければ,

契約を容易にきることができて,

雇用の調整弁として使い勝手がいいので,

無期転換を嫌がります。

 

 

そこで,会社は,無期転換をさせないために,

契約期間が5年を超える前に雇止めをすることがあります。

 

 

国立大学では,非正規雇用労働者の契約期間を

5年未満に設定しているところが多く,

無期転換ルールが適用されずに,

雇止めされてしまう非正規雇用労働者が多くいるのです。

 

 

 

 

さて,研究支援者が5年未満で雇止めされれば,

研究者が,新しい研究支援者に一から仕事を教えなければならず,

非常に効率が悪いです。

 

 

研究者が本来の仕事である研究に集中するためには,

研究者の仕事をサポートする研究支援者の

雇用が安定していることが重要になりそうです。

 

 

日本の研究力を向上させるためにも,大学には,

研究支援者の雇用を安定させる方法を模索してもらいたいです。

通勤手当の格差は不合理!

最近,労働契約法20条違反を争う裁判例が増えています。

 

 

本日は,正社員と非正規雇用労働者の通勤手当の格差

について争われた九水運輸商事事件を紹介します。

(福岡地裁小倉支部平成30年2月1日判決・

労働判例1178号5頁)

 

 

被告会社では,正社員とパート社員にわかれており,

集荷の段階から配達,検品までを行うのは正社員だけでしたが,

それ以外の仕事は,正社員もパート社員も同じでした。

 

 

被告会社では,正社員には通勤手当が1万円支給され,

パート社員には通勤手当が5千円支給されており,

5千円の差がもうけられていました。

 

 

原告らパート社員は,通勤手当に5千円の差

もうけられていることについて,

労働契約法20条違反を主張して,裁判をおこしました。

 

 

労働契約法20条には,正社員と非正規雇用労働者の

労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲

その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

被告会社が通勤手当をもうけた理由は,

少しでも手当が多い方が求人に有利であるというもので,

正社員とパート社員の通勤手当に格差が生じる

合理的な理由ではありません。

 

 

また,正社員もパート社員も仕事場へ自家用車で通勤しており,

パート社員の方が正社員よりも通勤時間や

通勤経路が短いということはなく,

被告会社が通勤手当の金額を決めるに当たり,

正社員の通勤経路を調査したこともありません。

 

 

 

 

被告会社において,通勤手当は,

労働者の通勤のための交通費を補填するものである

という性質からして,正社員とパート社員との間に,

通勤手当に5千円の格差を生じさせることは不合理であるとして,

労働契約法20条違反が認められ,

原告らが主張した毎月の通勤手当5千円の差額分

の損害賠償請求が認められました。

 

 

正社員も非正規雇用労働者も等しく会社に通勤しており,

一般的に通勤手当とは,通勤にかかる交通費の補填

という性質があることから,正社員と非正規雇用労働者との間に,

通勤手当について格差があると,

労働契約法20条違反が認められやすいです。

 

 

実際に,労働契約法20条違反が争われた

最近の裁判例をみてみると,通勤手当については,

労働者の主張が認められています。

 

 

さらに,先日成立した働き方改革関連法の中の

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

9条において,非正規雇用労働者であることを理由として,

基本給,賞与その他の待遇について,

差別的取扱をしてはならないと改正されました。

 

 

今後は,この条文を根拠に,非正規雇用労働者は,

正社員との待遇の格差の是正を求めやすくなります。

 

 

非正規雇用労働者が通勤手当の格差に

疑問をいだいたのであれば,

専門家に相談することをおすすめします。

定年退職後に30~40%も賃金が減額されても合法なのか?

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差が,

労働契約法20条に違反するかが争われている

事件が増えています。

 

 

労働契約法20条では,

正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

 

 

 

仕事内容が同じなのに,正社員ではないというだけで,

非正規雇用労働者の賃金が低いのはおかしいと考える

非正規雇用労働者が増えているのかもしれません。

 

 

本日は,定年後再雇用された労働者が,

定年前の賃金から30~40%ほど減額されたことについて,

労働契約法20条に違反しているとして,

定年前との差額賃金を請求した学究社事件

(東京地裁立川支部平成30年1月29日判決・

労働判例1176号・5頁)を紹介します。

 

 

原告の労働者は,被告が経営している進学塾の

正社員の講師をしていて,定年退職しました。

 

 

 

原告が定年退職した後,被告との間で,再雇用契約について,

労働条件の交渉が行われましたが,

被告から定年退職後の賃金が定年退職前の賃金の

30~40%削減された額になるとの労働条件を提示されて,

原告は,再雇用契約書にサインをしませんでしたが,

再雇用後の労働の対価として,定年退職前の賃金から

30~40%削減された金額が支給されていました。

 

 

原告は,定年退職の前後で,

仕事内容が変わっていないのに,

賃金が30~40%減額されたことが不合理であるとして,

労働契約法20条違反を訴えましたが,

判決では,労働契約法20条違反は認められませんでした。

 

 

労働契約法20条違反が認められるためには,

定年退職の前と後の仕事内容や責任がほぼ同じ

であることが前提になります。

 

 

本件では,原告の定年退職の前と後の仕事内容や

責任が異なると判断されたのです。

 

 

具体的には,原告は,定年退職前には,授業以外にも,

生徒・保護者への対応や研修が義務付けられていたのに対して,

定年退職後には,基本的には授業のみを行い,

生徒・保護者への対応は上司からの指示がある

例外的な場合に限られていました。

 

 

そのため,定年退職の前後で,

仕事の内容や責任の程度に差があり,また,

定年退職後に賃金が下がることは一般的に

どの会社でも実施されていることでもあり,

不合理ではないとして,労働契約法20条違反

ではないと判断されました。

 

 

とはいえ,定年退職後に賃金が30~40%も

減額されたのでは,労働者のモチベーションが下がりますし,

なかなか納得いかないはずです。

 

 

定年退職後に大幅な賃金減額がされるケースでは,

どこまでの減額幅なら許容されるのかが,

まだまだ不明ですので,今後の労働契約法20条

に関する裁判例の動向をチェックしていく必要があります。