定年退職後に30~40%も賃金が減額されても合法なのか?
正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差が,
労働契約法20条に違反するかが争われている
事件が増えています。
労働契約法20条では,
正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,
「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,
当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,
不合理であってはならないと定められています。
仕事内容が同じなのに,正社員ではないというだけで,
非正規雇用労働者の賃金が低いのはおかしいと考える
非正規雇用労働者が増えているのかもしれません。
本日は,定年後再雇用された労働者が,
定年前の賃金から30~40%ほど減額されたことについて,
労働契約法20条に違反しているとして,
定年前との差額賃金を請求した学究社事件
(東京地裁立川支部平成30年1月29日判決・
労働判例1176号・5頁)を紹介します。
原告の労働者は,被告が経営している進学塾の
正社員の講師をしていて,定年退職しました。
原告が定年退職した後,被告との間で,再雇用契約について,
労働条件の交渉が行われましたが,
被告から定年退職後の賃金が定年退職前の賃金の
30~40%削減された額になるとの労働条件を提示されて,
原告は,再雇用契約書にサインをしませんでしたが,
再雇用後の労働の対価として,定年退職前の賃金から
30~40%削減された金額が支給されていました。
原告は,定年退職の前後で,
仕事内容が変わっていないのに,
賃金が30~40%減額されたことが不合理であるとして,
労働契約法20条違反を訴えましたが,
判決では,労働契約法20条違反は認められませんでした。
労働契約法20条違反が認められるためには,
定年退職の前と後の仕事内容や責任がほぼ同じ
であることが前提になります。
本件では,原告の定年退職の前と後の仕事内容や
責任が異なると判断されたのです。
具体的には,原告は,定年退職前には,授業以外にも,
生徒・保護者への対応や研修が義務付けられていたのに対して,
定年退職後には,基本的には授業のみを行い,
生徒・保護者への対応は上司からの指示がある
例外的な場合に限られていました。
そのため,定年退職の前後で,
仕事の内容や責任の程度に差があり,また,
定年退職後に賃金が下がることは一般的に
どの会社でも実施されていることでもあり,
不合理ではないとして,労働契約法20条違反
ではないと判断されました。
とはいえ,定年退職後に賃金が30~40%も
減額されたのでは,労働者のモチベーションが下がりますし,
なかなか納得いかないはずです。
定年退職後に大幅な賃金減額がされるケースでは,
どこまでの減額幅なら許容されるのかが,
まだまだ不明ですので,今後の労働契約法20条
に関する裁判例の動向をチェックしていく必要があります。
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