正社員と非正規雇用労働者の賞与の格差は不合理か?
2019年2月15日,大阪医科大学の元アルバイト労働者が,
アルバイト労働者には,賞与が支給されないなどの待遇格差は
労働契約法20条に違反するとして,大学に対して,
差額の支給を請求した事件の控訴審判決がくだされました。
この判決では,アルバイト労働者に対して,
賞与を支給しないことが不合理であると判断されました。
非正規雇用労働者に対して,賞与を支給するべきだと判断した
画期的な判決であり,今後の,非正規雇用労働者と正社員の
賃金格差の裁判に与える影響は大きいと思います。
本日は,この大阪医科薬科大学の大阪高裁判決について解説します。
まず,労働契約法20条は,正社員と非正規雇用労働者の
労働条件に相違がある場合,業務の内容,業務に伴う責任の程度,
職務の内容及び配置の変更の範囲,その他の事情を考慮して,
その相違が不合理であってはならないと定められています。
おおざっぱに言えば,正社員と非正規雇用労働者が,
同じ仕事をしているなら,同じ労働条件にしましょうということです。
労働契約法20条の趣旨は,非正規雇用労働者については,
正社員と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,
両者の労働条件の格差が問題となってきたことをふまえて,
非正規雇用労働者の公正な処遇を図るため,
その労働条件につき,期間の定めがあることにより
不合理なものとすることを禁止したことにあります。
さて,大阪医科大学の事件では,正社員には,
通年で4.6ヶ月分の賞与が支給され,契約社員には,
正社員の賞与の8割に当たる額の賞与が支給されていましたが,
原告のアルバイト労働者には,賞与は支給されていませんでした。
そのため,アルバイト労働者に全く賞与を支給しないのは
不合理であるとして争われたのです。
ここで,労働契約法20条違反について争われた裁判では,
問題となる手当などの趣旨や性質を詳細に検討して,
不合理か否かが判断されてきました。
そして,賞与とは,会社業績や労働者の勤務成績によって
変動することが多く,支給対象期間における労働の対償としの性格
だけでなく,功労報奨的な意味や生活補填的な意味も含まれ,
労働者の労働意欲を高めるインセンティブという性質もあります。
この賞与の性質のうち,労働意欲を高めるインセンティブの側面
を重視すれば,長期雇用へのインセンティブを与えるものとして,
正社員にだけ賞与を支給しても不合理とはいえないという方向に傾き,
労働の対償という側面を重視すれば,正社員にだけ賞与を
支給することは不合理であるという方向に傾きます。
そこで,大阪医科大学の賞与がどのような性質のものかが
検討されたところ,基本給にのみ連動するものであり,
労働者の年齢や成績に連動するものではなく,
大学の業績にも一切連動しておらず,大阪医科大学の賞与は,
賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する
対価としての性質を有するものと判断されました。
そうであるなら,フルタイムのアルバイト労働者に対して,
額の多寡があるにせよ,全く支給しないことは
不合理であると判断されました。
もっとも,大阪医科大学の賞与には,
付随的には長期雇用へのインセンティブという趣旨も含まれており,
正社員とアルバイト労働者とでは,実際の仕事内容も
採用の際に求められる能力にも相違があり,
アルバイト労働者の賞与算定期間における功労も相対的に低いことから,
アルバイト労働者の賞与の金額を正社員と同額にしなければ
不合理とまではいえず,正社員の賞与の60%を下回る
支給しかしない場合に不合理になると判断されました。
なぜ,アルバイト労働者に正社員の賞与の60%を支給すれば
不合理にならないのかについて不明な点はありますが,
正社員とアルバイト労働者の仕事内容が異なっているものの,
アルバイト労働者に賞与を全く支給しないのはおかしいとして,
バランスをとったのだと考えられます。
非正規雇用労働者に対して,
賞与を支給すべきとした画期的判決であり,
非正規雇用労働者の格差是正に一歩前進したと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。
返信を残す
Want to join the discussion?Feel free to contribute!