基本給の格差が不合理と認められた事件~学校法人産業医科大学事件~

ここ数年,労働契約法20条が問題となる

裁判例が増えてきています。

 

 

特にここ最近では,大阪医科薬科大学事件の

大阪高裁平成31年2月15日判決で

賞与の格差が不合理と判断されたり,

メトロコマース事件の東京高裁平成31年2月20日判決で

退職金の格差が不合理と判断されたりと,

労働者側にとって有利な判断がなされています。

 

 

このような中,基本給の格差について不合理と判断された

珍しい裁判例がありましたので紹介します。

 

 

学校法人産業医科大学事件の

福岡高裁平成30年11月29日判決です

(労働判例1198号63頁)。

 

 

この事件は,任期を1年とする有期労働契約を

30年以上にわたって更新してきた臨時職員の原告労働者が,

正社員との間で基本給について著しい格差が生じていることが,

労働契約法20条に違反するとして,

損害賠償請求をしたというものです。

 

 

 

 

労働契約法20条は,非正規雇用労働者と

正社員との間の労働条件の相違が,

①労働者の業務の内容及び当該乗務に伴う責任の程度,

②当該職務の内容及び配置の変更の範囲,

③その他の事情を考慮して,

不合理と認められるものであってはならないと規定されています。

 

 

まず,この事件では,臨時職員である原告労働者と,

ほぼ同じ勤務年数の正社員とを比較したところ,

①仕事内容が,正社員の方が専門的,技術的な業務をしていたり,

仕事量が,正社員の方が多かったりしており,

②正社員は,全ての部署に配属されたり,

出向を含む異動の可能性があり,

実際に配置転換を命じられていた一方,

臨時職員は,異動や出向,業務内容の変更は

予定されていませんでした。

 

 

ようするに,臨時職員と正社員とでは,

仕事内容が違っており,配置転換の有無でも違いがあるので,

基本給に格差が生じていても,やむを得ないといえそうです。

 

 

そのため,労働契約法20条が規定している

①と②の考慮要素だけでは,

基本給の格差が不合理とはいえなかったのです。

 

 

ところが,労働契約法20条には,

③その他の事情を考慮できると規定されています。

 

 

そして,本件事件では,③その他の事情を考慮した結果,

基本給の格差は不合理であると判断されたのです。

 

 

 

それでは,本件事件で,考慮された③その他の事情

とはなんだったのでしょうか。

 

 

それは,臨時職員として30年以上もの

長期にわたり雇用されてきたということです。

 

 

被告法人では,正社員は,定年制であって,

長期雇用や年功的処遇を前提とするもので,賃金体系も,

正社員を定年退職するまでの長期雇用することを前提にしているのに対し,

臨時職員は,1ヶ月以上1年以内と期間を限定して雇用する職員であり,

大学病院開設当時の人手不足を補う目的で採用を開始し,

間もなく採用を中止したことから,

長期間雇用することを採用当時は予定していませんでした。

 

 

それにもかかわらず,30年以上もの長期にわたり

雇い止めもなく雇用されるという,

その採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は,

労働契約法20条の③その他の事情にあたると判断されました。

 

 

長期間雇用されることが予定されていなかった非正規雇用労働者が,

正社員と同じように長期間雇用されている場合には,

長期間働いて雇用主に対して同じように貢献しているはずなので,

非正規雇用労働者と正社員という違いだけで,

賃金に格差を生じさせるのはおかしいのではないか,

という価値判断がはたらいたのだと推測されます。

 

 

長くなりましたので,この裁判例の解決の続きは,

明日以降に記載します。

 

 

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