アルバイト職員と正社員の賃金格差は不合理か?
今年の6月1日に,ハマキョウレックス事件
と長沢運輸事件の最高裁判決があり,
労働契約法20条が注目されています。
今日は,アルバイト職員と正社員の労働条件
の違いが労働契約法20条に違反するかが争われた,
学校法人大阪医科薬科大学事件
(大阪地裁平成30年1月24日判決・労働判例1175号5頁)
を紹介します。
大阪医科薬科大学の事務職員は,
正職員,契約職員,アルバイト職員,嘱託職員
の4種類に分かれており,
正職員には,雇用期間の定めがありませんが,
契約職員,アルバイト職員,嘱託職員には,
雇用期間の定めがあり,雇用期間が満了すれば,
職を失う可能性がある不安定な立場にあります。
アルバイト職員である原告の時給は950円で,
フルタイムで換算すると月額15万円から16万円の範囲となります。
他方,正社員の初任給は19万2570円です。
アルバイト職員と正社員の間には,
約2割程度の賃金水準の違いがあります。
さらに,正社員には,賞与が支給されていますが,
アルバイト職員には,賞与が支給されていません。
その結果,賞与を含めた年間の給与の総支給額
を比較すると,原告の給与は,新規正職員の
約55%程度の水準になっていました。
そこで,原告は,正職員との賃金格差が
労働契約法20条に違反すると主張して,
裁判をおこしました。
労働契約法20条は,
仕事の内容や責任の程度などを考慮して,
正職員と非正規雇用労働者との労働条件の違いが
不合理であってはならないと規定されています。
本件においては,大阪医科薬科大学の正職員は,
学校法人全体に影響を及ぼすような
重要な施策の事務を行うことがあり,
責任も重いものがあり,別の部署への異動もありました。
他方,アルバイト職員は,
書類のコピーやパソコンへの登録といった
定型的な事務が多く,他の部署へ異動することは
基本的にありませんでした。
さらに,学校法人内部の登用試験に合格すれば,
アルバイト職員から正職員になることも可能でした。
これらの事情を考慮すると,
アルバイト職員の原告の給与が新規採用の正職員の
給与の約55%の水準であっても,この給与の違いは,
不合理とはいえないと判断されて,原告が敗訴しました。
ざっくりと言ってしまえば,
正職員とアルバイト職員とでは,
仕事内容や異動範囲が違うので,
賃金に約55%程度の格差があっても問題ないとされたのです。
個人的には,どこまで仕事内容が違っているのか
微妙なところもありますので,賃金格差が55%も
開いてしまっているのであれば,是正される余地が
あるのではないかと思います。
また,大阪医科薬科大学の正職員は,
附属病院を受信した場合,医療費が
月額4000円を上限に補助されていましたが,
アルバイト職員には,医療費の補助はありませんでした。
この医療費の補助については,
学校法人に広い裁量が認められているので,
正職員にだけ医療費の補助をして,
アルバイト職員に医療費の補助をしなくても
不合理ではないと判断されました。
しかし,この医療費の補助については,
正社員だけを特別に優遇する必要性が
どこまであるのか疑問ですので,
不合理な格差に該当すると考えます。
給与や賞与の格差を争う対応の事件では
労働者に不利な判決がだされていますが,
ハマキョウレックス事件のように手当を争う事件であれば,
手当の内容などが慎重に審査されて,
労働者に有利な判決がだされる傾向にあります。
今後,労働契約法20条をめぐる裁判
が増えていくので,裁判の流れに注目していきます。