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会社から基本給の減額の打診を受けた場合の対処法

1 会社から基本給の減額を求められたらどうするか

 

 

先日、次のような法律相談を受けました。

 

 

仕事中にケガをしてしまい、長期間治療をしていたものの、

後遺障害があり、労災事故前のように働くことはできないものの、

今の自分の能力を活かした働き方ができるとして、

職場復帰したところ、基本給を減額する内容の労働条件通知書に

サインするように求められたというものです。

 

 

不幸にも労災事故にあい、後遺障害が残ったものの、

なんとか職場復帰したのに、基本給を減額することを求められのでは、

やるせない気持ちになります。

 

 

 

このように、会社から基本給の減額を求められ場合には、

どのように対処すべきなのでしょうか。

 

 

2 自由な意思に基づく同意が必要

 

 

結論から言うと、会社が基本給を減額するには、

原則として、労働者の同意が必要となり、

労働者が基本給の減額に納得がいかないのであれば、

同意しなければ、会社は、基本給の減額をできないのです。

 

 

就業規則などに、降格などの減給の根拠規定があり、

その根拠規定に基づいて基本給を減額する場合には、

減給が認められる余地があるのですが、

そのような根拠規定がない場合、会社は、

労働者の同意なくして、一方的に、

基本給を減額することはできません。

 

 

この点について、労働者に有利な裁判例がありますので、紹介します。

 

 

木の花ホームほか1社事件の宇都宮地裁令和2年2月19日判決です

(労働判例1225号27頁)。

 

 

この事件では、原告の労働者は、

最初に毎月の月額賃金が8万3333円減額され、

次に毎月の月額賃金が6万4500円減額されて、

合計14万7833円も減額されました。

 

 

原告の労働者は、2回も賃金を減額させられたのですが、

この減額に格別異議を述べなかったものの、

これに同意する書面は提出していませんでした。

 

 

このような賃金の減額の同意については、裁判所は厳格に判断します。

 

 

すなわち、賃金は最も重要な労働条件であり、

その引き下げが労働者の生活に重大な影響を及ぼすことに鑑みると、

労働者の賃金減額に対する同意は、

その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が

客観的に存在するか否かという観点から判断されます。

 

 

この事件では、被告会社が、減給の根拠や理由について、

これを受け入れざるを得ないような合理的な説明を

行った形跡がうかがわれないなどの事情から、

原告の労働者が自由な意思に基づいて、

減額に同意したとはいえないと判断されました。

 

 

そのため、会社が勝手に基本給を減額してきて、

労働者が異議を述べていなかったとしても、

会社が減額の理由などの説明をしていない場合には、

自由な意思に基づいて減額に同意していないとして、

基本給の減額が無効になるのです。

 

 

基本給の減額が無効になれば、

減額された分の基本給を会社に対して、

請求することができるのです。

 

 

なお、木の花ホームほか1社事件では、職務手当28万円が、

131時間の時間外労働に対する固定残業代として支給されていましたが、

過労死ラインと言われる80~100時間の時間外労働

をはるかに超えていますので、

長時間労働の温床ともなり得る危険性を有しているため、

公序良俗に違反して無効と判断されました。

 

 

会社から、基本給の減額を求められても、応じたくない場合には、

断固として、基本給の減額に同意しないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金について、シフトが入らなかったアルバイトなども対象になります

1 労働基準法26条の休業手当

 

 

石川県では新型コロナウイルスの感染は落ち着いていますが、

大都市圏では感染が継続しています。

 

 

また、ヨーロッパでは、都市封鎖が実施されており、

世界では、新型コロナウイルスの感染が抑えられていないので、

また再び、日本でも感染が爆発するリスクがあります。

 

 

 

特にこれから冬が始まるので、

インフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行が懸念されます。

 

 

このように、新型コロナウイルスの感染爆発が起きた場合、

会社が休業することがあります。

 

 

 会社が休業する場合、労働基準法26条に基づき、

会社は、休業期間中、労働者に対して、

平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりません。

 

 

しかし、新型コロナウイルスの影響で、

会社の売上がなくなり、会社が労働者に対して、

休業手当を支払わない事態が生じます。

 

 

会社の休業期間中に、休業手当が支払われないとなると、

労働者の生活が困窮することになります。

 

 

2 新型コロナウイルス感染症休業支援金・給付金の制度概要

 

 

そこで、このような事態を改善するための制度として、

新型コロナウイルス感染症休業支援金・給付金があります。

 

 

新型コロナウイルス感染症休業支援金・給付金は、

新型コロナウイルスの影響で休業した中小企業に雇用されている労働者が、

休業手当の支給を受けていない場合に、

休業前賃金の8割が支給されるという制度です。

 

 

 

労働者としては、休業手当を支払わない会社を相手に、

交渉や裁判手続をするよりも、

スピーディーに国から直接支給がえられるので、

この制度を利用するのが得策です。

 

 

この制度では、労働者と会社が作成する支給要件確認書などで、

労働局が、休業の事実を確認することになります。

 

 

3 アルバイトのシフト削減の問題

 

 

この休業の事実の確認の際に、シフト制のアルバイトなどであれば、

会社が、もともとシフトを組んでいないとして、休業を認めず、

その結果、シフト制のアルバイトが休業支援金を受給できない

という問題がありました。

 

 

この問題について、厚生労働省は、10月30日、

以下のケースについて、支給要件確認書において

休業の事実が確認できなくても、

休業支援金の対象となる休業として取扱うことにしました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000689989.pdf

 

 

①労働条件通知書に週○日勤務などの具体的な勤務日の記載がある、

申請対象月のシフト表が出ているといった場合であって、

事業主に対して、その内容に誤りがないことが確認できるケース。

 

 

②休業開始前の給料明細等により、6ヶ月以上の間、

原則として月4日以上の勤務がある事実が確認可能で、

かつ、事業主に対して、新型コロナウイルス感染症の影響がなければ

申請対象月において同様の勤務を続けさせていた意向が確認できるケース。

 

 

このように、シフトが入らなかったアルバイトも、

休業支援金の支給対象になると明記されたので、

救済される労働者が拡大されることが期待されます。

 

 

そして、会社が支給要件確認書に、

休業手当を支払っていないことを記載しても、それだけで、

労働基準法26条の休業手当の支払義務の有無の判断に影響しないので、

会社は、労働者から、支給要件確認書の記載を求められたら、

応じるようにしてもらいたいです。

 

 

新型コロナウイルスに関する労働者保護の施策が

よい方向に改善されているのが嬉しいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ANAホールディングスの賃金減額案に対して労働者はどう対処するべきか

1 ANAホールディングスの人件費削減案

 

 

ANAホールディングスが5000億円前後の

赤字になるとの報道がありました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASNBP7H68NBPULFA021.html

 

 

新型コロナウイルスの影響で、海外旅行をする人がいなくなり、

国際線での売上がほとんどなくなり、

経費を支払うのが苦しくなっているようです。

 

 

 

そのため、ANAホールディングスは、

人件費を削減するために、労働組合に対して、

基本給などを一律5%減額すること、

厚生年金保険料の従業員負担を3割から5割に引き上げること、

退職金を加算する希望退職を募集すること、

理由を問わない休業・休職制度を活用すること、

などを提案したようです。

 

 

既に、冬のボーナスの支給は見送られることが決まっているようで、

基本給の削減などを合わせると、年収ベースで平均3割減となるようです。

 

 

このように、会社の業績が悪化した時に、

会社から労働条件の引き下げを提案された場合に

どう対処するべきかについて検討したいと思います。

 

 

2 整理解雇の前段階

 

 

まず、このままANAホールディングスの業績が悪化し続けると、

どうなるかといいますと、おそらく、

どこかのタイミングで、人件費を削減するために、

整理解雇、いわゆるリストラが実施されるでしょう。

 

 

会社の業績悪化を理由に労働者を解雇することを整理解雇といい、

整理解雇の場合、労働者側に落ち度がないのに解雇されることになるので、

①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性、

という4つの要件(要素)を総合考慮しなければ、

整理解雇は有効になりません。

 

 

ようするに、いきなり、整理解雇をすることはできず、

会社が、整理解雇を避けるために、

いろいろな手段を尽くしたけれど、

どうしても会社の業績悪化が止まらないから、

やむを得ず、会社の存続のために、

整理解雇を実施して、はじめて整理解雇が有効になるのです。

 

 

そのため、整理解雇の前に、②解雇回避努力として、

賞与の減額・不支給、賃金減額、

希望退職の募集などが実施されるのです。

 

 

会社が、解雇回避努力をしたことで、業績が回復すれば、

整理解雇を実施する必要はなくなるのですが、

解雇回避努力を尽くしても、業績の悪化が止まらなければ、

整理解雇もやむなしとなり、有効になりやすくなります。

 

 

 

3 賃金減額には原則として労働者の同意が必要

 

 

次に、会社からの賃金減額について、

応じるべきかについては、悩ましい問題です。

 

 

賞与については、会社の業績に連動しているところが多いので、

会社の業績が悪化すれば、賞与が支給されないことは

しかたがないことですが、毎月の基本給などが削減されると、

生活費が足りなくなり、生活が苦しくなるので、

労働者にとっても死活問題となります。

 

 

基本給などの賃金については、

労働基準法24条に賃金全額払の原則が規定されており、

保護が手厚く、会社が、労働者の同意なく、

一方的に賃金を減額することは原則としてできません。

 

 

そのため、会社が基本給などの賃金を減額したい場合には、

会社が労働者に対して、賃金減額について説明して、

労働者に賃金減額に合意してもらう必要があるのです。

 

 

労働者としては、賃金減額に合意しなければ、

基本的には、賃金減額はされないのです。

 

 

4 労働協約

 

 

また、労働組合が会社と交渉して合意したことについて、

労働協約を締結すれば、労働組合の組合員である労働者には、

労働協約が適用されるので、賃金減額についての労働協約が締結されれば、

組合員である労働者の賃金が減額されます(労働組合法16条)。

 

 

労働組合の組合員の労働者は、

労働組合が会社との間で賃金減額に合意するのかについて、

積極的に意見を述べて、

自分の意見が反映されるように行動すべきと考えます。

 

 

おそらく、ANAホールディングスは、

労働者との個別の合意や、労働組合との労働協約をもとに、

基本給などの賃金減額を実施しようとしていると考えられます。

 

 

労働者としては、無理に賃金減額に応じる必要はないものの、

ANAホールディングスの危機的状況は明らかであり、

新型コロナウイルスが終息すれば、業績が回復する可能性があるので、

ここは、労使が痛みを分け合うことも必要かと思います。

 

 

労働組合には、賃金減額に応じる代わりに、

業績が回復した場合には、すぐに元の賃金に復活させるなどの

条件を勝ち取ってもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が休業したときに請求できるのは平均賃金の6割以上の休業手当か賃金の満額か

1 大庄が休業手当を支払わない問題

 

 

居酒屋「庄や」などを経営する大庄で働くアルバイトの男性が、

10割の休業手当の支払を求めて、団体交渉を申し入れたようです。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/593a1eb9f0cad932d79bad6939997ed3161b87fd

 

 

5月の緊急事態宣言下の休業期間中に休業手当が支払われておらず、

8月3日から東京都から営業時間短縮の要請があり、

8月にシフトが大幅にカットされたのに、

休業手当が支払われていないようです。

 

 

報道によりますと、大庄は、

使用者の責に帰すべき事由により休業したわけではないので、

休業手当を支払う義務はないと主張しているようです。

 

 

このような場合に、休業手当が支払われなくてもよいのでしょうか。

 

 

結論としては、休業手当が支払われるべきと考えます。

 

 

2 緊急事態宣言下の休業の場合

 

 

まず,緊急事態宣言下における休業については、

パチンコ店のように、都道府県知事の休業指示に従わなかったら、

公表される場合以外の休業であれば、労働基準法26条に基づき、

平均賃金の6割以上の休業手当を請求できると考えます。

 

 

 

公表までいかない要請に応じて休業した場合は、

会社の経営判断に基づくもので、不可抗力とはいえないので、

平均賃金の6割以上の休業手当を請求できると考えます。

 

 

場合によっては、10割の賃金の支払を受けられることもあります。

 

 

3 緊急事態宣言終了後の休業の場合

 

 

次に、緊急事態宣言は終了した後も、都道府県知事は、

休業の要請ができるのですが、

これに応じるかは会社の判断に任せられます。

 

 

この場合、会社は、労働者に働いてもらうことが可能であるのに、

自らの判断で休みにしているので、

労働基準法26条の休業手当を支払わなければなりませんし、

民法536条2項の「責に帰すべき事由」があるとして、

10割の賃金を支払わなければなりません。

 

 

労働者としては、最低でも、平均賃金の6割の休業手当の請求を、

できれば、10割の賃金の支払をしてもらえるよに交渉すべきです。

 

 

 

そのため、大庄は、休業期間であっても、

最低でも平均賃金の6割の休業手当を、

場合によっては、10割の賃金を支払うべきなのです。

 

 

4 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

 

 

それでも、会社が休業手当を支払わない場合に、

労働者を保護するための制度として、

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

という制度が新設されました。

 

 

この制度は、会社が休業したのに、

労働者に休業手当を支払っていない場合に、

国が労働者に対して、休業前賃金の8割を支払うというものです。

 

 

労働基準法26条の6割の休業手当よりも手厚いです。

 

 

ただ、この休業支援金を受給できるのは、

中小事業主に雇用される労働者だけです。

 

 

大企業の労働者に休業手当が支払われない場合には、

利用できないのです。

 

 

中小事業主とは、飲食店を含む小売業の場合、

資本金の額が5000万円以下で、

常時雇用する労働者の数が50人以下、

サービス業の場合、資本金の額が5000万円以下で、

常時雇用する労働者の数が100人以下をいいます。

 

 

大庄は、資本金の額が5000万円を超えている、若しくは、

常時雇用ひる労働者の数が50人を超えていると考えられ、

中小事業主ではないため、大庄が、休業手当を支払わなかった場合に、

労働者は、休業支援金を受給できないのです。

 

 

制度ができたときは、大企業は、

休業手当をきちんと支払うだろうという予測がはたらいたと思いますが、

現実には、大企業でも、休業手当が支払わていないのです。

 

 

そのため、大企業が休業手当を支払わない場合でも、

休業支援金が支給されるように制度を改善する必要があると思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者が会社の破産手続において未払残業代の情報を入手するために使える破産管財人の情報提供努力義務

1 会社の破産手続

 

 

昨日は、会社が破産手続を開始した後には、

未払賃金立替払制度を利用して、未払賃金の8割を確保することと、

債権届出を忘れないことが重要であることについて解説しました。

 

 

会社が破産手続を開始した後に、

労働者がもう一つ活用できるものとして、

破産管財人の情報提供努力義務があります。

 

 

破産管財人とは、会社の破産手続開始決定と同時に、

裁判所から選任される、中立的な立場の弁護士です。

 

 

 

破産管財人は、破産会社の財産を管理し、その財産を換価して、

破産会社の債権者に対して配当を実施する仕事をします。

 

 

2 破産管財人の情報提供努力義務

 

 

破産法86条には、破産管財人は、破産債権である

給料の請求権や退職手当の請求権を有する労働者に対して、

破産手続に参加するのに必要な情報を提供するように

努めなければならない、と規定されています。

 

 

これを破産管財人の情報提供努力義務といいます。

 

 

会社の破産手続では、給料が未払となっている労働者は、

破産債権者として、裁判所に債権届出をして、

破産手続に参加しなければ、配当を受けることができません。

 

 

とはいえ、給料や退職手当の請求権については、

それに関する賃金台帳、タイムカード、退職金規定といった資料が、

破産する会社の手元に存在して、労働者が、

それらの資料を持っていないことが多く、

労働者は、破産会社に対して、

自分がいくらの未払の給料、残業代、退職金

を有しているのか分からないことが多いのです。

 

 

破産管財人は、破産会社の手元にある労働債権に関する資料を

引き継ぐので、その資料に基づいて、

破産債権者である労働者に対して、

必要な情報を提供するように努めなければならないのです。

 

 

破産管財人は、破産債権者である労働者に対して、

労働債権の額及び原因に関する情報を提供します。

 

 

具体的には、出勤日数・残業時間・早退時間等の集計、

各種手当の金額、退職金の計算といった情報です。

 

 

3 未払残業代で活用できる

 

 

特に、未払残業代については、労働者側に資料がほとんどなく、

残業代の計算は複雑なので、労働者が、

正確な残業代を自分で計算することは困難なのですが、

破産管財人に対して、自分の未払残業代がいくらあるのかを

問い合わせれば、破産管財人が、タイムカードなどについて、

過去にさかのぼって調査をして、

いくらの未払残業代があるなどの情報を提供してくれるのです。

 

 

労働者は、破産管財人から提供された未払残業代の情報をもとに、

債権届出書を作成して、裁判所に提出すればよいことになります。

 

 

もっとも、破産会社に財産がほとんどなかったり、

破産管財人が破産会社の財産を換価しても、

会社の財産に対して担保を持っている銀行が先に回収したり、

優先権のある租税債権に先に支払われたりして、

労働者に配当が回ってこないこともよくあります。

 

 

 

そのため、破産管財人から未払残業代の情報をもらっても、

未払残業代が全額返済されることはまずないので、

いくらかでも配当があればラッキー

という心境でいるのがいいと思います。

 

 

労働者は、破産手続において、破産管財人の情報提供努力義務

を活用することを検討してみるべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が破産した後は未払賃金立替払制度を利用する

1 会社が破産した後に未払賃金を確保するためには

 

 

昨日は、会社が倒産する前に、労働者が賃金請求権を

確保するための回収方法について解説しました。

 

 

本日は、会社が倒産した後に、

労働者が未払賃金を確保するための方法について解説します。

 

 

会社の倒産手続には、破産、民事再生、会社更生などがありますが、

実務で最も利用されている破産手続に基づいて解説します。

 

 

 

会社が裁判所に破産の申し立てをして、

裁判所が検討した結果、破産の要件を満たすと判断した場合、

裁判所は、破産手続開始決定を出します。

 

 

裁判所の破産手続開始決定と同時に、裁判所は、

破産管財人という弁護士を選任します。

 

 

破産管財人は、破産会社の財産を管理し、

その財産を売却して、金銭に換えて、

債権者に配当する仕事をします。

 

 

破産会社の財産は、破産管財人が管理するので、

一般の債権者は、破産会社の財産に対して

差し押さえなどができなくなります。

 

 

また、未払賃金債権については、

破産手続開始前3ヶ月間のものについては、

財団債権になります(破産法149条1項)。

 

 

財団債権とは、破産手続によらないで、

支払を受けられる優先的な債権のことです。

 

 

もっとも、未払賃金債権が財団債権になっても、

破産会社の財産がほとんどなければ、実際には回収できません。

 

 

結局のところ、会社の破産手続開始決定がでると、

労働者としては、何もできないのが現実です。

 

 

2 未払賃金立替払制度

 

 

そこで、会社の破産手続が開始した後に、

労働者が未払賃金債権を確保するための方法として、

未払賃金立替払制度があります。

 

 

 

この制度は、会社が破産して、

賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、

その未払賃金の一部を国が、会社に代わって立替払するものです。

 

 

https://www.johas.go.jp/tabid/687/Default.aspx

 

 

立替払の対象となる労働者は、

裁判所への破産の申立日の6ヶ月前から

2年間に破産会社を退職した者です。

 

 

立替払の対象となる未払賃金は、

退職日の6ヶ月前の日から立替払請求の日の前日までの間に

支払期日が到来している定期賃金と退職手当です。

 

 

例えば、賃金の支払日が毎月末日で、

2020年8月31日に退職した場合、

2020年3月から8月までの期間に

未払となっている賃金の立替払を請求できるわけです。

 

 

立替払される金額は、未払賃金総額の8割で、

年齢による上限額が定められています。

 

 

45歳以上の場合、立替払上限額は296万円、

30歳以上45歳未満の場合、立替払上限額は176万円、

30歳未満の場合、立替払上限額は88万円となっています。

 

 

ざっくりと言えば、給料の未払の8割が

国から支払われるということです。

 

 

この立替払の請求には、期限があり、

裁判所の破産開始決定日の翌日から2年以内にする必要があるので、

注意してください。

 

 

この立替払を受けるためには、労働者は、

所定の立替払請求書に、破産管財人の証明をもらって、

その立替払請求書を、独立行政法人労働者健康安全機構に郵送します。

 

 

機構が、送られてきた立替払請求書を審査をして、

立替払の決定をして、労働者の預金口座に立替払金の振り込みを行います。

 

 

3 債権届出をする

 

 

この未払賃金立替払の請求と同時に、

裁判所へ債権届出をすることを忘れないようにしてください。

 

 

裁判所から、労働者のもとに債権届出書が届きますので、

期限までに忘れずに、必要事項を記載して、送付してください。

 

 

もし、破産会社の財産を換価した結果、

債権者に配当できる場合には、

立替払されなかった2割分の未払賃金のうちのいくらかは、

配当で支払われることがあるかもしれません。

 

 

このように、会社が破産した後は、

未払賃金立替払制度を利用することと

債権届出をすることがポイントになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が破産する前に未払賃金請求権を回収する方法

1 コロナ倒産が増えています

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績悪化を理由とする、

会社の倒産が増えています。

 

 

 

帝国データバンクの情報によりますと、

2020年8月31日付の新型コロナウイルス関連倒産は、

全国で477件にのぼるようです。

 

 

https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/index.html

 

 

会社が倒産する時代に、労働者は、

自分の賃金や退職金といった労働債権を、

会社から回収するにはどうすればいいかを検討する必要があります。

 

 

本日は、会社が倒産する際の労働債権の確保の方法について解説します。

 

 

2 会社の破産手続

 

 

会社が法的に倒産する際には、

破産、民事再生、会社更生といった手続がありますが、

実務上一番多いのは破産手続なので、破産手続を前提に説明します。

 

 

裁判所において、会社の破産手続開始決定がでると、

会社に対する裁判手続は中断し(破産法44条1項)、

会社に対する強制執行手続は効力を失います(破産法42条1項)。

 

 

そして、会社の破産手続開始決定がでると、

労働者は、基本的には、破産手続によらなければ、

未払賃金の請求などはできません(破産法100条1項)。

 

 

また、破産手続開始前の3ヶ月間の未払賃金の請求権は、

破産手続によらなくても、優先的に支払ってもらえる財団債権として、

優遇されますが(破産法149条1項)、

破産する会社に財産が残っていなければ、

未払賃金の請求権が財団債権になっても、

結局、回収できなくなります。

 

 

そのため、会社が破産する前に、会社が危機的な状況に陥り、

給料が支払われなくなったら、迅速に、

未払賃金の請求権の回収に動き出す必要があります。

 

 

3 売掛債権と動産の譲受

 

 

会社が破産する前に、未払賃金の請求権を回収するための方法として、

労働者が会社の売掛債権や動産を譲り受けるという方法があります。

 

 

会社の取引先に対する売掛債権を、労働者が会社から譲り受けて、

労働者が会社の取引先から売掛債権の支払を受けて,

未払賃金の請求権を確保するのです。

 

 

これは、債権譲渡という方法で、会社が取引先に対して、

会社の取引先に対する売掛債権を労働者に譲渡しましたということを、

確定日付のある証書で通知する必要があります(民法467条)。

 

 

また、会社から、機材、貴金属、美術品などの動産を譲り受けて、

その動産を売却して金銭を得るという、回収方法もあります。

 

 

これらの方法は、労働債権よりも優先する、

税金や社会保険料の公租公課の債権に優越できますが、

会社の社長が夜逃げしてしまうと、実行は困難となります。

 

 

4 一般先取特権に基づく差押

 

 

会社が倒産する前の、未払賃金の請求権を回収するための

方法のもう一つが、一般先取特権に基づく差押という方法です。

 

 

 

民法308条で、未払賃金の請求権には、先取特権という、

会社の目的物を強制的に換価して、

優先的な支払を受ける権利が認められているのです。

 

 

一般先取特権の場合、裁判手続を経ることなく、いきなり、

会社の財産に対して、差押をすることができるので、

迅速な債権回収が実現できるのです。

 

 

この一般先取特権による差押をするには、裁判所に対して、

雇用関係の存在と未払賃金債権の額を証明しなければなりません

(民事執行法181条1項4号、193条)。

 

 

この証明のために活用できるのが、未払労働債権確認書です。

 

 

各労働者の未払労働債権の内容・種別と金額を

会社との間で確認する文書のことです。

 

 

会社の代表者印を押した未払労働債権確認書と、

代表者印の印鑑登録証明書を裁判所に提出すれば、

裁判所は、迅速に差押命令を出してくれるのです。

 

 

会社の売掛債権を差し押さえて、

会社に差押命令が送達されてから1週間が経過した後に、

取引先に対して、売掛債権の取立を行って、回収します。

 

 

このように、会社が破産する前に、

未払賃金の請求権を回収する方法がありますので、

会社が危なくなったら、弁護士に相談して、

迅速に,回収に動いてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

人事考課による賃金の減額を争うポイント

1 人事考課による賃金の減額

 

 

現在、私が担当している未払残業代請求事件において、

人事考課による賃金の減額が有効になるかが争点となっています。

 

 

私のクライアントは、人事考課について何も説明を受けておらず、

短期間に基本給を約半分にまで減額されているため、

賃金の減額は無効であると主張しています。

 

 

人事考課による賃金の減額が無効になれば、

減額前の賃金で残業代を計算できるので、

クライアントが請求できる残業代がアップするのです。

 

 

また、会社からの人事考課がどのようになされて、

どうしてこの金額の賃金になるのか

不満に思っている労働者の方々もいるでしょう。

 

 

 

それでは、会社から人事考課を理由に賃金を減額されたら、

どのような場合に、賃金の減額が無効になるのでしょうか。

 

 

結論から言うと、人事考課が公正な評価に基づかない場合に、

会社の人事考課権の濫用として、

人事考課による賃金減額が無効になります。

 

 

2 人事考課とは

 

 

まず、人事考課とは、労働者の能力や成果を評価して

賃金や処遇を決定する制度です。

 

 

おおむね、年度のはじめに、会社と労働者との間で、

評価基準と達成目標を設定し、中間レビューや賞与評価を経て、

年度末に評価が行われます。

 

 

評価項目は、①成果(職務の達成度)、

②能力(知識・技能、理解・判断力など)、

③意欲・職務行動(能力を成果に向けてどのように発揮したか)、

④情意(勤務態度、協調性など)に分かれ、

これらが基本給や賞与の決定や処遇に反映されます。

 

 

3 公正な評価

 

 

次に、人事考課が公正であることが、

人事権行使の必須の要件となります。

 

 

賃金は、労働者にとって重要な生活原資であり、

人事考課はその先行手続なので、人事考課を公正に行うことは、

会社の賃金支払義務に内在する責務なのです。

 

 

すなわち、会社が恣意的に人事考課を行い、

不当に低い評価となって、賃金が減額されたのでは、

労働者は、生活原資を不当に減額されて、

生活が困窮するリスクがあるので、会社は、

労働者の納得が得られるように

公正に評価をする責務を負っているわけです。

 

 

そして、人事考課における、公正な評価の具体的な内容としては、

①会社は、公正・透明な評価制度を設計し、

②それに基づいて公正な評価を行い、

③評価結果を労働者に対して開示して説明することです。

 

 

人事考課の制度や手続の公正さ(①と③)が重要でして、

実際の評価(②)の命運を握っています。

 

 

そのため、人事考課の制度や手続(①と③)が

十分に整備されていない場合には、

実際の評価(②)の不公正さが推定されて、

人事権を濫用したとされます。

 

 

 

実際の評価の部分(②)については、

会社の裁量が認められやすくて争いにくいですが、

問題となっている人事考課の制度や手続(①と③)については、

就業規則を検討したり、

実際に会社からどのような説明を受けたかなどによって、

人事権の濫用であると主張しやすいです。

 

 

問題となっている人事考課の制度や手続(①と③)が

十分に整備されているかについては、

具体的には、次の観点から検討します。

 

 

ⓐ透明性・具体性のある評価項目・基準の整備があるか。

 

 

ⓑ評価の納得性を確保するための評価方法が導入されているか。

 

 

ⓒ評価を処遇に反映されるためのルールが整備されているか。

 

 

ⓓ個々の労働者との間の面談・説明・情報提供がなされているか。

 

 

ⓔそれらルールの労働者への説明・情報提供・開示がなされているか

 

 

4 賃金の変動幅にも注意

 

 

加えて、人事考課による賃金の減額については、

減額できる賃金の幅に、一定の制約があると考えられます。

 

 

あまりにも大きな幅の賃金の減額は、

労働者の生活に大きな打撃を与えることになりますし、

制約のない大幅な賃金の減額は、退職強要などの

不当な動機も目的のために用いられることがあるからです。

 

 

まとめますと、人事考課による賃金の減額を争うときには、

人事考課の制度や手続が十分に整備されているか,

大幅な賃金の減額になっていないかを検討することが重要になります。

 

 

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会社から休業手当が支払われない場合には新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金を申請する

1 新型コロナウイルスの第2波の真っただ中

 

 

日本感染症学会の理事長が明言したように,

多くの方々は,現在の新型コロナウイルスの感染状況について,

「第2波の真っただ中」という認識を抱いていると思います。

 

 

 

多くの都道府県で,新規の感染者数が増えており,

クラスターもあちこちで発生しています。

 

 

一部の繁華街では休業要請がされていました。

 

 

このように新型コロナウイルスの感染が拡大してくると,

勤務先が休業することになり,

休業期間中の賃金がどうなるのかが問題となります。

 

 

2 休業期間中の賃金の支払はどうなるのか

 

 

結論からすると,緊急事態宣言が出ていない現状において,

都道府県知事から休業の要請があり,これに応じたとしても,

会社が自主的に協力しただけであり,

会社側の事情に基づく経営判断に過ぎず,

労働者は,民法536条2項に基づいて,

会社に対して,賃金の全額を請求すべきです。

 

 

場合によっては,会社側が休業に応じざるを得ない状況であれば

労働基準法26条に基づき,最低でも,

平均賃金の6割以上の休業手当を請求できます。

 

 

しかし,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,

売上が落ちている会社も多く,

休業手当すら支払われていない労働者も多くいます。

 

 

新型コロナウイルスに関する労働問題の電話相談を実施すると,

ほとんどの相談が,休業期間中に賃金が支払われないというものです。

 

 

休業期間中に,賃金が支払われないと

労働者は生活ができなくなるので,大問題です。

 

 

3 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

 

 

そこで,会社が休業期間中に労働者に賃金を支払わない場合に,

国が労働者に対して,直接,

支援金・給付金を支給する制度が始まっています。

 

 

これを「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

といいます。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html

 

 

この制度は,新型コロナウイルス感染症及びその蔓延防止のための

措置の影響により中小事業主に雇用される労働者が

事業主の指示により休業し,

休業中に休業手当を受けることができない場合に

休業前賃金の8割(日額上限11,000円)を支給するものです。

 

 

この制度が始まって約1ヶ月が経過し,

8月19日の厚生労働省の発表によりますと,

約9万2000件の申請があり,

約3万7000件の支給が決定されたようです。

 

 

 

やはり,休業期間中に賃金が支払われずに

困っている労働者が多いことがよくわかりました。

 

 

この制度ができたおかげで,会社から休業手当が支払われなくても,

国に対して,直接,支援金・給付金を請求できて,

安心できますので,画期的だと思います。

 

 

この制度では,労働者が提出しなければならない支給要件確認書に,

事業主が休業手当を支払っていないことを記載する欄があります。

 

 

会社がこの欄に正直に休業手当を支払っていないことを記載すれば,

労働基準法26条に違反していることを自白することになり,

会社の協力を得られにくいことが懸念されました。

 

 

この点については,厚生労働省のQ&Aにおいて,

会社が休業手当を支払っていないことの記述は,

「労働基準法26条の休業手当の支払義務の有無の判断に

影響することはありません。」と記載されているので,

会社としては,ありのままを記載すればいいわけです。

 

 

また,会社が支給要件確認書に記載することを拒否しても,

労働者は,会社が協力してくれないことを記載して,

申請すればいいのです。

 

 

もっとも,このような場合には,労働局が会社に対して,

報告を求めることになり,会社からの報告があるまで,

審査が進まず,支給までに時間がかかることが懸念されています。

 

 

労働者に対する迅速な支給が求められますので,

会社は,労働局に対して,迅速に報告をすべきです。

 

 

厚生労働省の発表を見るに,支給までに

そこまで時間がかかっているとは思われないです。

 

 

他にも,大企業の非正規雇用労働者は

この制度の対象になっていなかったり,

会社から6割の休業手当をもらうと

国から8割の支援金・支給金がもらえなくなるという

不均衡が生じています。

 

 

このような不均衡はあるものの,

休業期間中に賃金が支払われない労働者を救済する制度として,

貴重ですので,会社から休業期間中に賃金が支払われない場合には,

この支援金・支給金の申請をしてください。

 

 

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夏の賞与を全く支給しないことは認められるのか

1 東京女子医科大学病院では今年夏の賞与が支給されないようです

 

 

東京女子医科大学病院において,今年度は,

夏の賞与を支給しないことになったようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN7G6H2ZN7FULFA02W.html

 

 

新型コロナウイルスの影響で病院の収入が

大幅に減ったことが原因のようです。

 

 

 

これを受けて,東京女子医科大学病院の看護師らが

数百人規模で退職する可能性があるとのことです。

 

 

昨年度の東京女子医科大学病院の看護師夏の賞与が

平均で約55万円だったのに,今年度は

新型コロナウイルスの対応があって大変だったにもかかわらず,

賞与がゼロになるので,モチベーションが下がり,

退職してしまうのもやむを得ないことです。

 

 

新型コロナウイルスの対応で尽力されている医療従事者に対して,

適正な待遇がされることを期待したいです。

 

 

さて,東京女子医科大学病院のように,

これまで支給されていた賞与を,

経営悪化を理由に支給しないことは認めらるのでしょうか。

 

 

2 賞与請求権

 

 

本日は,労働者の賞与請求権について解説します。

 

 

まず,会社が労働者に対して,賞与を支給するかどうか,

賞与をいくらの金額にするかについて,法律には何も規定はなく,

会社と労働者の任意の合意に委ねられています。

 

 

労働者の会社に対する賞与請求権は,

就業規則や労働契約などの契約上の根拠に基づいて発生するものです。

 

 

そのため,就業規則や労働契約に賞与について何も記載がなかったなら,

労働者は,会社に対して,賞与を請求できないことになります。

 

 

地方の中小企業では,就業規則や労働契約で,

賞与の規定を定めていないところもありますが,

大企業では,就業規則に賞与の規定を定めていることが多いです。

 

 

とはいえ,就業規則の賞与の規定は,

「毎年6月及び12月に会社の業績,

従業員の勤務成績等を考慮して賞与を支給する」

などと抽象的に定められていることがほとんどです。

 

 

そのため,賞与の支給の前提となる具体的な支給率・額について

会社の決定や当事者間の合意がない場合に,

賞与請求権が発生するのかが問題となります。

 

 

この問題について,裁判例の多くは,

賞与の具体的な金額の決定がない以上,

賞与請求権は具体的には発生していないとしています。

 

 

例えば,最高裁平成19年12月18日判決

(労働判例951号5頁)は,賞与の支給について,

具体的な算定方法の定めや労使慣行などが存在しない以上,

従前の支給基準に基づいて具体的な請求権が発生するわけではなく,

会社が支給額を定めることによって賞与請求権が発生すると判断しました。

 

 

ようするに,賞与の請求権は,労働者に必ずしも

保障されているわけではなく,原則として

会社による査定や支給の決定がない限り,労働者は,

会社に対して,賞与の請求ができないのです。

 

 

 

もっとも,それまでの賞与の支給実績や

他の労働者に対する支給の有無や額に照らして,

当然に賞与の支給が見込まれるにもかかわらず,

会社が客観的かつ合理的な理由なく,

賞与を支給しない場合には,

賞与不支給が不法行為となって,

損害賠償が認められることがあります。

 

 

東京女子医科大学病院の場合,全労働者に対して一律に賞与なしで,

その理由が病院の経営悪化にあるのであれば,違法とまではいえず,

病院が賞与の支給を決定しない以上,労働者は,病院に対して,

賞与の請求ができなくなるのです。

 

 

もっとも,この賞与の不支給によって,

看護師が大量に退職すると,医療崩壊に拍車がかかるので,

病院の経営を支援する政策が求められます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。