夏の賞与を全く支給しないことは認められるのか

1 東京女子医科大学病院では今年夏の賞与が支給されないようです

 

 

東京女子医科大学病院において,今年度は,

夏の賞与を支給しないことになったようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN7G6H2ZN7FULFA02W.html

 

 

新型コロナウイルスの影響で病院の収入が

大幅に減ったことが原因のようです。

 

 

 

これを受けて,東京女子医科大学病院の看護師らが

数百人規模で退職する可能性があるとのことです。

 

 

昨年度の東京女子医科大学病院の看護師夏の賞与が

平均で約55万円だったのに,今年度は

新型コロナウイルスの対応があって大変だったにもかかわらず,

賞与がゼロになるので,モチベーションが下がり,

退職してしまうのもやむを得ないことです。

 

 

新型コロナウイルスの対応で尽力されている医療従事者に対して,

適正な待遇がされることを期待したいです。

 

 

さて,東京女子医科大学病院のように,

これまで支給されていた賞与を,

経営悪化を理由に支給しないことは認めらるのでしょうか。

 

 

2 賞与請求権

 

 

本日は,労働者の賞与請求権について解説します。

 

 

まず,会社が労働者に対して,賞与を支給するかどうか,

賞与をいくらの金額にするかについて,法律には何も規定はなく,

会社と労働者の任意の合意に委ねられています。

 

 

労働者の会社に対する賞与請求権は,

就業規則や労働契約などの契約上の根拠に基づいて発生するものです。

 

 

そのため,就業規則や労働契約に賞与について何も記載がなかったなら,

労働者は,会社に対して,賞与を請求できないことになります。

 

 

地方の中小企業では,就業規則や労働契約で,

賞与の規定を定めていないところもありますが,

大企業では,就業規則に賞与の規定を定めていることが多いです。

 

 

とはいえ,就業規則の賞与の規定は,

「毎年6月及び12月に会社の業績,

従業員の勤務成績等を考慮して賞与を支給する」

などと抽象的に定められていることがほとんどです。

 

 

そのため,賞与の支給の前提となる具体的な支給率・額について

会社の決定や当事者間の合意がない場合に,

賞与請求権が発生するのかが問題となります。

 

 

この問題について,裁判例の多くは,

賞与の具体的な金額の決定がない以上,

賞与請求権は具体的には発生していないとしています。

 

 

例えば,最高裁平成19年12月18日判決

(労働判例951号5頁)は,賞与の支給について,

具体的な算定方法の定めや労使慣行などが存在しない以上,

従前の支給基準に基づいて具体的な請求権が発生するわけではなく,

会社が支給額を定めることによって賞与請求権が発生すると判断しました。

 

 

ようするに,賞与の請求権は,労働者に必ずしも

保障されているわけではなく,原則として

会社による査定や支給の決定がない限り,労働者は,

会社に対して,賞与の請求ができないのです。

 

 

 

もっとも,それまでの賞与の支給実績や

他の労働者に対する支給の有無や額に照らして,

当然に賞与の支給が見込まれるにもかかわらず,

会社が客観的かつ合理的な理由なく,

賞与を支給しない場合には,

賞与不支給が不法行為となって,

損害賠償が認められることがあります。

 

 

東京女子医科大学病院の場合,全労働者に対して一律に賞与なしで,

その理由が病院の経営悪化にあるのであれば,違法とまではいえず,

病院が賞与の支給を決定しない以上,労働者は,病院に対して,

賞与の請求ができなくなるのです。

 

 

もっとも,この賞与の不支給によって,

看護師が大量に退職すると,医療崩壊に拍車がかかるので,

病院の経営を支援する政策が求められます。

 

 

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