過労死事件の労災認定において移動時間は労働時間と認められるのか

1 社用車を運転して取引先をまわる営業マンの過労死事件

 

 

今年9月に開催された過労死弁護団の総会で,

川人博先生が痛烈に批判していた,

移動時間が労働時間といえるのかという問題について,

審査請求において,過労死の労災認定がされました。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20191129/k00/00m/040/303000c

 

 

審査請求において,労働基準監督署の判断が覆るのは珍しいことであり,

川人博先生をはじめとする弁護団の先生方の

熱心な弁護活動が結実したのだと思います。

 

 

この事件は,外国製の大型クレーン車の販売営業をしていた

20代の男性労働者が,会社の営業車を運転して,横浜から,

山形県や三重県など12の県にある得意先をまわる労働をしていたところ,

出張先の三重県のビジネスホテルで突然心臓死で亡くなりました。

 

 

 

男性労働者のご遺族が,過労死であるとして,

労災申請しましたが,鶴見労働基準監督署は,

過労死ではないとして,労災とは認定しませんでした。

 

 

2 移動時間は労働時間といえるのか

 

 

鶴見労働基準監督署は,男性労働者が横浜の自宅から

静岡の取引先で商談した後,

三重県のビジネスホテルで宿泊した日について,

静岡の取引先での商談のみを労働時間として,

それ以外の移動時間を労働時間ではないとしました。

 

 

また,三重県での取引先から,自宅の横浜へ帰宅する

移動時間も労働時間ではないとしました。

 

 

移動時間が労働時間にカウントされない結果,

時間外労働が1ヶ月約40時間と認定されて,

過労死と認められなかったのです。

 

 

一般的には,自宅から勤務先への通勤は労働時間ではなく,

勤務先から取引先への移動,取引先から別の取引先への移動,

取引先から勤務先への移動は労働時間となります。

 

 

これとパラレルに考えると,自宅から取引先への直行と

取引先から自宅への直帰は,労働時間ではないことになります。

 

 

 

おそらく,鶴見労働基準監督署は,この考え方から,

自宅と取引先の移動時間を労働時間と認めなかったものと思います。

 

 

しかし,長時間車を運転しないといけない移動の場合,

直行直帰だからという理由だけで,

移動時間が労働時間にならないのは,

あまりにも画一的であり,

車の運転による疲労を度外視しており,不当です。

 

 

決定書を入手していないので詳細はわかりませんが,

マスコミ報道によりますと,神奈川労働者災害補償保険審査官は,

男性労働者の担当する営業範囲が広く,

車でないと不便な営業先が多いため,社用車以外の移動は困難であり,

会社も社用車での営業を指示していたとして,

直行直帰の移動時間を労働時間と認めたようです。

 

 

すなわち,社用車の移動が業務に必須であり,

会社の指示も認められるので,直行直帰の移動時間も,

会社の指揮命令下に置かれていたとして,

労働時間と判断されたようです。

 

 

直行直帰の移動時間を労働時間と判断した点において画期的です。

 

 

3 時間外労働以外の業務の過重性を総合判断

 

 

もっとも,移動時間が労働時間として認められましたが,

労働者災害補償保険審査官の認定した時間外労働の時間は,

71時間で,1ヶ月80~100の過労死ラインには

とどいていませんでした。

 

 

時間外労働が1ヶ月80~100時間の

過労死ラインにとどいていなかったとしても,

その他の業務の過重性が認められれば,

総合判断で過労死の労災認定がされる可能性があります。

 

 

本件では,時間外労働以外の業務の過重性として,

出張回数の多さ,運転走行距離の長さ,

海外出張の時差などが考慮されました。

 

 

自分で車を運転して出張する回数が多いと,

疲労が蓄積しますので,時間外労働と出張の疲労の蓄積によって,

突然心臓死したと判断するのは妥当です。

 

 

 

このように,時間外労働が1ヶ月80~100時間に

とどいていなくても,他の業務の過重性を考慮することで,

過労死の労災認定がされる余地があるのです。

 

 

過労死の労災の審査請求において,

労働者に有利な画期的な判断がされましたので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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