北國新聞社員の過労自殺で労災と認定された事件

平成30年7月31日付で,当事務所の宮西香弁護士が

担当している北國新聞社の社員の過労自殺の労災事件で,

労災認定がされましたので,本日は,この労災認定について説明します。

 

 

過労自殺の場合,遺族は,労働基準監督署に対して,労災請求をします。

 

 

 

 

労働基準監督署の段階で,過労自殺が労災と認定されれば,

遺族は,国から遺族補償給付を受けられます。

 

 

他方,労働基準監督署の段階で,不支給決定処分という

労災と認定されない判断をされた場合,遺族は,不服申立てができます。

 

 

この不服申立てを審査請求といいます。

 

 

審査請求は,労働基準監督署の所在地である各都道府県の

労働局に置かれた労働者災害補償保険審査官に対して行います。

 

 

北國新聞社の事件では,労働基準監督署の段階では,

労災と認定されませんでしたが,審査請求の段階で

労災と認定されました。

 

 

さて,過労自殺で労災と認定されるためには,

仕事の心理的負荷が原因でうつ病などの精神疾患を

発症したと判断されなければなりません。

 

 

この心理的負荷について,厚生労働省は,

心理的負荷による精神障害の認定基準

という判断基準を公表しており,

労働者が負担に感じる出来事ごとに,

心理的負荷の程度を弱中強に分類し,

労働者が精神疾患を発症するおおむね6ヶ月の間に

体験した出来事の心理的負荷が「強」と判断されれば

基本的に労災と認定されます。

 

 

 

 

では,心理的負荷が「強」の出来事はなかったものの,

労働者が体験した出来事が複数あり,その心理的負荷が

「中」だった場合はどうなるのでしょうか。

 

 

厚生労働省の認定基準によれば,

労働者が体験した出来事が関連して生じている場合には,

全体評価を行い,「中」が複数ある場合には

「強」と評価されることがあります。

 

 

労働者災害補償保険審査官の判断によれば,

北國新聞社の事件では,労働者が体験した出来事が3つあり,

その3つの出来事の心理的負荷は「中」でしたが,

全体評価として「強」となりました。

 

 

まず,1つ目の出来事は,当該被災労働者は,

北國新聞社のグループ会社である北國新聞小松販売へ出向中に,

新聞配達員の欠員が生じたので,営業の仕事の他に,

朝刊の新聞配達をしていました。

 

 

この朝刊の新聞配達の仕事が増えたことで,

当該被災労働者の残業が1ヶ月あたり45時間以上となりました。

 

 

 

 

この出来事が,認定基準の

「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」

に該当し,心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

次に,2つ目の出来事は,当該被災労働者は,

「2週間以上にわたって連続勤務を行った」

ことが6ヶ月の間に5回ありました。

 

 

2週間以上連続で勤務するということは,

まったく働かない日が2週間の間に1日もないため,

十分に疲労を回復することができず,疲労が蓄積していきます。

 

 

この「2週間以上にわたって連続勤務を行った」ことの

心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

最後に,3つ目の出来事は,当該被災労働者は,

深夜の新聞配達の仕事を連続して27日間行ったことです。

 

 

新聞配達の仕事は,普通の人が寝ている早朝の時間帯

(午前3時ころから午前5時ころ)に行われます。

 

 

そして,新聞配達の仕事をした後に,

休憩時間をはさんだとしても,

日中の時間帯に営業の仕事をするのは大変なことです。

 

 

この出来事も,認定基準の

「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」

に該当し,心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

これら3つの心理的負荷が「中」の出来事が全体評価されて,

「強」となり,労災認定されたのです。

 

 

1つ1つの心理的負荷は「中」ですが,

深夜に連続で新聞配達の仕事をしてから,

日中の時間帯に通常の営業の仕事をすれば,

睡眠のリズムが崩れて,質の悪い短い睡眠が積み重なって,

疲労が蓄積されるので,全体評価として

心理的負荷が「強」となりました。

 

 

不服申立ての段階で,心理的負荷が「中」の出来事が複数あって,

それが全体評価で「強」と判断されて,

労災と認定されるのは珍しいので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

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