過労死はどうして発生するのか~過労死等防止対策推進シンポジウムに参加して~
1 過労死等防止対策推進シンポジウムに参加しました
11月20日,石川県の過労死等防止対策推進シンポジウム
に参加してきました。
過労死弁護団全国連絡会議の代表幹事である弁護士の松丸正先生が,
「過労死問題の現状と今後の課題~なぜ生じるとのか。どうしたらなくせるのか~」
という演題で講演されました。
松丸先生は,現在,過労死事件だけを専門に取り扱っているようで,
今の手持ち事件として,裁判が20件,労災申請が30件と,
本当に多くの過労死事件を担当しており,
まさに過労死事件の第一人者です。
http://matumaru-blog.cocolog-nifty.com/
(松丸先生のブログです)
2 36協定の問題点
数多くの過労死事件を担当してきた松丸先生は,
過労死が発生する原因の一つに,
過労死ラインを超える36協定が締結されていることの問題
を指摘されていました。
労働基準法36条によれば,会社は,
労働者に残業をさせるためには,
労働者代表との間で36協定を締結しなければなりません。
36協定とは,会社と労働者代表との間で
時間外労働・休日労働に関して合意した内容を書面化したものです。
36協定には,①時間外労働をさせる必要のある具体的事由,
②業務の種類,③労働者数,④延長できる時間の上限,
⑤休日労働の回数,⑥有効期間を定めなければなりません。
厚生労働省の告示において,④延長できる時間の上限として,
時間外労働の上限時間として,1ヶ月45時間が設定されていました。
しかし,働き方改革関連法が成立する以前は,
36協定に特別条項を付けることで,特別の事情がある場合に,
1ヶ月45時間の時間外労働の上限時間を超えて働かせることができ,
さらに,この特別の事情がある場合の時間外労働の上限時間に
制限がありませんでした。
そのため,1ヶ月の時間外労働が300時間というありえない水準で,
36協定が締結されていたことがありました。
https://www.asahi.com/articles/ASK955FY4K95PTIL00R.html
もっとも,働き方改革関連法の時間外労働の上限規制によって,
36協定で特別条項を付ける場合であっても,
1ヶ月100時間未満という上限時間が定められ,
1ヶ月100時間を超えて働かせた場合には,
会社には,懲役6ヶ月以下または30万円以下の罰金の刑事罰
が科せられることになりました。
これによって,1ヶ月100時間の時間外労働という
過労死ラインを超える36協定を締結できなくなりましたが,
松丸先生は,有名な大企業であっても,
36協定の上限時間を1ヶ月99時間59分未満に設定している
という問題点を指摘していました。
1ヶ月99時間59分の時間外労働であれば,
1ヶ月100時間未満なので,確かに改正労働基準法に違反はしませんが,
長時間労働を抑制しようという働き方改革関連法の
趣旨にそぐわないといえますし,
場当たり的な対応しかできていないという印象を抱きます。
過労死をなくしていくためには,36協定において,
そもそも特別条項を設定しないこと,
仮に特別条項を設定するにしても,
上限時間を極力短くしていくことが重要であると考えます。
3 労働時間の適正な把握
次に,松丸先生は,労働時間の適正な把握がなされていないことの
問題点を指摘していました。
松丸先生は,ご自身の経験から,労働者が自己申告していた残業時間と,
パソコンのログデータや警備記録から導かれた実際の残業時間とが,
あまりにもかけ離れている現実に,警鐘を鳴らしていました。
労働者は,残業時間を過小に記録してしまうので,
労働者の自己申告では,正確な残業時間は記録されず,
知らず知らずのうちに,長時間労働となり,
過労死が発生するのです。
労働時間の適正な把握なしには,
労働時間の規制は死滅してしまいます。
この点では,働き方改革関連法において,
労働安全衛生法に,会社の労働時間把握義務が法律で明文化されたことは,
一歩前進といえます。
労働時間を把握するためには,タイムカード,
パソコンのログデータ,警備記録などの客観的な記録が重要になります。
松丸先生は,グーグルマップのタイムラインが,
自分のタイムカードを常に持ち歩いている状態になるので,
おすすめであるとおっしゃっていました。
過労死事件を担当する上で,
貴重な学びを得ることができました。
1日でも早く,日本から過労死がなくなることを願っています。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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