エコノミークラス症候群と過労死の労災認定基準
朝日新聞の報道によりますと,海外出張先で長時間労働の末に
肺塞栓症(エコノミークラス症候群)を発症して死亡した
労働者の遺族が労災申請をしたものの,
労災と認定されなかったことから,
労災の不支給処分の取り消しの裁判が
大阪高裁で係属しているようです。
https://www.asahi.com/articles/ASM9P4H1RM9PPTIL002.html
朝日新聞の報道によりますと,死亡した労働者は,
中国出張の際,深夜までホテルで,外国人顧客に対する
プレゼンの資料などを作成するために仕事をしており,
死亡する前2ヶ月間の時間外労働は,
合計240時間以上に及んでいたようで,
中国における移動時間も多かったようです。
いわゆる過労死基準では,
①発症前1ヶ月間におおむね月100時間を超える時間外労働,
または,②発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって
おおむね月80時間を超える時間外労働があれば,
発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす
特に過重な業務に従事したといえ,労災と認定されます。
今回の中国出張で死亡した労働者の死亡前2ヶ月間の
時間外労働の合計が240時間以上であれば,
上記①または②の要件を満たすはずです。
それにもかかわらず,どうして,労災と認定されなかったのでしょうか。
それは,死亡原因となった病名に理由があります。
過労死の労災認定を得るためには,
業務による過重負荷があったことの他に,
「対象疾病を発症したこと」という
もう一つの要件を満たす必要があるのです。
この対象疾病ですが,①脳血管疾患と②虚血性心疾患があります。
①脳血管疾患とは,脳内出血(脳出血),
くも膜下出血,脳梗塞,高血圧性脳症などであり,
②虚血性心疾患とは,心筋梗塞,狭心症,
心停止,解離性大動脈瘤などです。
長時間労働や過酷な業務に従事したり,
あるいは業務上の強い過重負荷にさらされることによって,
脳や心臓にある血管へのダメージが積み重なり,
脳・心臓疾患を発症することになるのです。
そのため,過労死とは,仕事が原因で脳血管や心臓などの
循環器系の病気に罹患して死亡することを言うのです。
これに対して,エコノミークラス症候群は,
長時間同じ姿勢でいることが原因で,
ふくらはぎなどの足の血管にできた血栓が流されて,
肺の血管につまることで発症する肺の病気で,
上記の対象疾病とはされていません。
対象疾病に罹患していない場合,
労災と認定されるのは難しいのが現状です。
もっとも,長時間労働などの過重な仕事をして,
対象疾病以外の病気を発症して死亡した場合,
その病気と仕事の過重性との関連性を証明することができれば,
労災と認定される可能性はあります。
実際に,裁判では,対象疾病以外の病気であっても,
労災と判断されたケースがあります。
対象疾病以外の病気で,仕事の過重性との関連性を
証明するためには,医学的な証明が必要になるので,
主治医や専門医の協力が不可欠となります。
今回の事件でも,長時間のデスクワークで
エコノミークラス症候群が発症するリスクがあり,
過労と出張が重なって発症したと考えられるという
医師の意見書が裁判所に提出されているようです。
そのため,医学的にありえることなのであれば,
労災と認定されるべきだと思います。
地裁では遺族が敗訴していますが,
高裁で,労災と認定されることを願っています。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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