過労自殺で労災が認められなくても,会社に対する損害賠償請求が認められた事件
過労死や過労自殺事件の相談を受ける際に,
弁護士が気にするのは,長時間労働をどのようにして
証明していくかということです。
タイムカードやパソコンのログデータといった証拠は,
会社が保管しているので,それをどうやって入手するのか。
時間外労働が1ヶ月80~100時間を超えるのか。
弁護士は,このようなことを考えます。
証拠保全という裁判所の手続を利用して,
会社に乗り込み,タイムカードの証拠などを確保して,
長時間労働を立証できるかを検討します。
では,タイムカード等の労働時間を証明する
証拠がなかった場合,どうすればいいのでしょうか。
本日は,タイムカード等の客観的証拠が存在しなくても,
過重労働によって過労自殺したことを認めた
大阪地裁平成30年3月1日判決を紹介します
(判例時報2382号60頁)。
過労死や過労自殺事件で有名な大阪の
弁護士松丸正先生がご担当された事件です。
通常,過労死や過労自殺の事件では,
まず,労働基準監督署に労災の申請をし,
労災と認定された後に,会社に対して,
労災では補償されない慰謝料などについて
損害賠償請求をします。
労災申請をしても,労災と認定されない場合,
労災を不支給とする行政処分について,
異議申し立てをする審査請求をし,
それでも労災と認定されない場合,
再審査請求や労災不支給処分を取り消すことを
求める訴訟を提起します。
それでも,労災不支給処分の取消訴訟をしても,
労災と認定されない場合,裁判所が,
労働者の自殺は仕事が原因ではなかったと
判断したことになるので,会社に対して,
損害賠償請求をすることは非常に困難です。
しかし,この事件では,
労災不支給処分→審査請求→再審査請求→
労災不支給処分取消訴訟の第1審判決→高裁判決と,
全ての過程で労働者の自殺は仕事が原因ではない
と判断されたにもかかわらず,
会社に対する損害賠償請求では,
労働者の自殺は仕事が原因であるとして,
約6959万円の損害賠償請求が認められたのです。
遺族と弁護士のあきらめない熱い思いが,
裁判所を変えたという点で,本当にすごいことです。
この事件では,自殺した労働者が通院していた
精神科のカルテに3ヶ月休みなく働いていたことの記載があり,
同僚も3ヶ月休みがなく働いていたと証言していることから,
自殺した労働者が3ヶ月休みなく働いていたことが認定されました。
さらに,自殺した労働者のうつ病発症のきっかけは
過重労働と考えられるという主治医の意見書が提出されており,
仕事が原因で自殺したと認定されました。
労災の手続では,すべて負けたにもかかわらず,
あきらめずに,会社に対して損害賠償請求したところ,
それが認められたという画期的な判決です。
労働者の弁護士として,あきらめずに,
全力を尽くすことの大切さを学ばせていただきました。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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