居酒屋で発生したパワハラについて会社に損害賠償請求できるのか
1 パワハラ防止の指針案の問題点
先日のブログで,パワハラ防止の指針案について,解説し,
優越的な関係を背景とした言動の解釈として,
抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景とした言動
とすることは,パワハラの範囲を不当に狭めることになる
という問題点を指摘しました。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201911298782.html
このパワハラ防止の指針案には,
もう一つ重要な問題点があります。
それは,パワハラ防止の指針案が,
規制の対象を「職場における」パワハラに限定していることです。
パワハラ防止の指針案において,「職場」とは,
「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し,
当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても,
当該労働者が業務を遂行する場所については,職場に含まれる」
と定義されています。
この定義では,労働者が本来的に働いている場所と,
営業先や出張先は職場に含まれますが,
居酒屋における会社の飲み会の席でのパワハラが,
職場ではないパワハラなので,
規制の対象からはずれてしまうおそれがあります。
2 居酒屋などで行われたパワハラの損害賠償請求を認めた裁判例
ここで,会社の外の居酒屋などで行われたパワハラについて判断した
コンビニエースほか事件の東京地裁平成28年12月20日判決
(労働判例1156号28頁)を紹介します。
この事件では,コンビニを複数店舗経営する経営者と,
コンビニの店長が,被害者の労働者に対して,
次のような,悪質なパワハラをしました。
①居酒屋で会社の飲み会があったときに,
被害者の鼻の頭にタバコの火を押し付けた。
②会社のメンバーでカラオケ店にいったときに,
被害者は,カラオケのマイクで10~20回殴られた。
③居酒屋で会社の飲み会があったときに,
被害者は,焼き鳥の串で手の甲を刺され,灰皿で頭を殴られた。
④コンビニの店舗の中でエアガンで撃たれる。
⑤会社の飲み会の代金をむりやり支払わされて,
その総額が200万円以上となった。
⑥売れ残り商品をむりやり買わされる。
上記の④と⑥は,会社の中で行われたパワハラなので,
パワハラ防止の指針案の対象となるですが,
①~③と⑤は,会社の外の居酒屋やカラオケ店で行われたパワハラなので,
パワハラ防止の指針案の対象からはずれてしまいます。
しかし,会社の外で行われたパワハラであっても,
会社やパワハラ行為者に対する損害賠償請求が認められました。
3 使用者責任
この事件では,会社に対する損害賠償請求は,
民法715条の使用者責任が根拠となりました。
使用者責任とは,会社が雇っている労働者が,
会社の仕事をしていたときに,他人に損害を与えた場合に,
会社も損害賠償の責任を負うというものです。
この点,居酒屋における飲み会での出来事が,
会社の仕事と関連があるのかが問題となります。
裁判所は,「職務との関連性や使用者による支配・統制の可能性の程度等
から判断して,当該不法行為が客観的に使用者の支配領域内の事柄である
と認められる場合」には,使用者責任を認めると判断しました。
ようするに,居酒屋における飲み会であっても,
飲食しながら,注意や指導が行われて,
その延長線上に暴力や暴言があれば,
会社の支配領域内の出来事として,会社は,
居酒屋で生じたパワハラの責任を負わなければならなくなるのです。
裁判では,居酒屋におけるパワハラも
損害賠償請求の対象とする場合があることを認めていることから,
パワハラ防止の指針案でも,職場以外の場所におけるパワハラも
規制対象に含めるべきです。
本日もお読みいただきありがとうございます。
記事拝見しました。パワハラになる条件として、場所は職場には限らないという司法の常識的な判断に安心しました。法律素人の一般人、かつ労働者(現在は自営ですが)の立場から申し上げたいのは、もっと労働者が使用者をバンバン気軽に訴訟できる世の中になって欲しいということですね。