パワハラ防止対策法案の閣議決定

労働者側で労働相談を受けていて,

最も相談件数が多いなと感じるのはパワハラの案件です。

 

 

実際に,都道府県労働局の総合労働相談コーナーに寄せられる

職場のいじめやパワハラの相談件数は年々増加傾向にあり,

平成28年度には70,917件に到達しました。

 

https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/statistics/より抜粋

 

今年に入っても,パワハラをめぐる裁判の判決がなされています。

 

 

1月10日には,東京高裁で,日本郵便において,

上司が新入社員に対して,ミーアキャット,寄生虫,パラサイト

などと罵倒したというパワハラについて,

慰謝料120万円が認められました。

 

 

1月31日には,大阪高裁で,パチンコ店において,

上司が部下に対して,インカムマイクを通じて,

全従業員が聴こえる状態で,しばくぞ,殺すぞなどと

発言したというパワハラについて,損害賠償請求が認められました。

 

 

3月12日には,長崎地裁で,陸上自衛隊において,

上司が部下に対して,使えない,早く辞めろと暴言をはき,

顔を平手打ちしたというパワハラについて,

100万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

このように,パワハラの問題は頻発しており,

裁判に発展することもあります。

 

 

 

 

現時点では,パワハラを禁止する法律はないのですが,

3月8日,職場でのパワハラの防止策を盛り込んだ

関連法改正案が閣議決定されました。

 

 

今の通常国会で法改正が成立すれば,

2020年度から施行される見通しです。

 

 

今回,労働施策総合推進法が改正されて,

パワハラの定義は次のようになりました。

 

 

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること

 

 

法改正後は,上司のパワハラと考えられる言動が,

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」か否かが

争点になることが予想されます。

 

 

上司の言動が,許される指導の範囲なのか,

部下の人格を否定する違法なものかが認定されます。

 

 

業務上必要かつ相当な範囲かについて評価するためには,

上司の言動が正確に再現される必要がありますので,

やはり,録音が重要になっていくと考えます。

 

 

会社は,職場においてパワハラが生じた場合の相談体制の整備などの

雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。

 

 

具体的に,どのような措置を講じなければならないかについては,

今後,厚生労働省が指針を作成します。

 

 

会社が,パワハラの相談窓口を設置していない状況で,

パワハラが発生した場合,会社が損害賠償責任を負うリスクは高まります。

 

 

 

 

また,会社がパワハラを防止するための措置を講じていない場合,

厚生労働大臣は,その会社に対して,勧告をすることができ,

会社が勧告に従わない場合,厚生労働省は,

その旨を公表することができます。

 

 

さらに,厚生労働大臣は,会社に対して,

パワハラを防止するための措置について報告を求めることができ,

会社が,報告をしなかったり,虚偽の報告をした場合には,

20万円の過料が処せられます。

 

 

そのため,公表や罰則によって,

ブラック企業であるという風評が広がることをおそれる会社は,

パワハラを防止するための措置を講じていくことになる

のではないかと期待したいです。

 

 

法改正後は,会社においてパワハラを防止するための

研修が多く実施されていきますので,依頼がありましたら,

積極的に対応していきたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

NHKの受信料集金人は労働組合法の労働者か?

昨日,コンビニ店主が労働組合法の労働者にあたるか

についてブログを投稿した関連で,本日は,

NHKの放送受信契約取次受託者,受信料集金人

である地域スタッフは労働組合法の労働者にあたるか

について解説します。

 

 

引越しシーズンがまっただ中なところ,

新居に引越した後,NHKに引越したことを

連絡しないでいると,夜中にピンポーンとインターホンがなります。

 

 

宅急便でも届いたのかなと思って,表へ出ると,

地域スタッフの人がいて,自宅にテレビを設置していますよね,

NHKの放送受信契約を締結してくださいと言ってきます。

 

 

 

 

子供が生まれて,NHKの教育テレビに

子育てを助けられている今なら喜んで受信料を支払っていますが,

大学生のころであれば,NHKを見ていなくても,

ましてやテレビを見ていなくても,テレビを設置しているだけで,

見てもいないのにNHKの受信料を支払うことに納得がいかず,

地域スタッフが自宅アパートにやってきて,

受信料を引き落とすことになって,

残念な気持ちになったのを覚えています。

 

 

地域スタッフは,夜に自宅アパートに戻ってくる

学生の動向などを把握して,テレビは見ていないから

受信料を支払いたくないと文句を言う人達を粘り強く説得して,

受信料を回収しなければならないので,

大変な仕事やなぁと思います。

 

 

このような地域スタッフですが,

NHKと労働契約を締結しているのではなく,

契約期間が定めれている委託契約を締結しており,

地域スタッフが労働者なのかが争われてきました。

 

 

労働基準法の労働者にあたれば,最低賃金が保障されたり,

よほどのことがない限り解雇されず,手厚く保護されるのですが,

高裁レベルでは,地域スタッフは,

労働基準法の労働者ではないという判断が定着しています。

 

 

高裁レベルでは労働基準法の労働者ではない

と判断されているですが,東京高裁平成30年1月25日判決は

(NHK全受労南大坂支部事件・労働判例1190号54頁),

地域スタッフは,労働組合法の労働者であると判断しました。

 

 

 

 

労働組合法の労働者は,会社との交渉上の対等性を確保するための

労働組合法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者

が含まれるので,労働基準法の労働者よりも,範囲が広いので,

労働基準法の労働者ではなくても,

労働組合法の労働者にあたることがあります。

 

 

そして,労働組合法の労働者に当たるかについては,

契約の実際の運用などの実態に即して,

次の要素を総合考慮して判断されます。

 

 

1 基本的判断要素

 ①事業組織への組み入れ

 ②契約内容の一方的・定型的決定

 ③報酬の労務対価性

2 補充的判断要素

 ④業務の依頼に応ずべき関係

 ⑤広い意味での指揮監督下の労務提供・一定の時間的場所的拘束

3 消極的判断要素

 ⑥顕著な事業者性

 

 

NHKの事業収入の約96%が受信料収入で,地域スタッフは,

受診者の転居の移動状況や受信料の支払状況を把握することが

中心的な業務であり,NHKの事業活動の根幹を成す業務の一つを

担当しており,貢献度が高いことから,

NHKの事業の継続にとって不可欠な存在として

事業組織に組み込まれているとされました(①)。

 

 

地域スタッフに求められる契約取次業務の目標数は

NHKが一方的に決め,NHKから支払われる報酬額も

NHKが決めており,地域スタッフには交渉の余地がないので,

契約内容の一方的・定型的決定が認められます(②)。

 

 

地域スタッフの報酬は,基本給的な性格と歩合給的な性格があり,

全体として労務提供の対価として認められました(③)。

 

 

地域スタッフは,目標達成に向けて業務に関する

事細かな指導を受け,目標達成に至らなかったときには,

委託業務の削減や委託契約の解除につながり,

NHKの指揮監督下に置かれていたと判断されました(⑤)。

 

 

 

 

以上より,地域スタッフは,労働組合法の労働者に該当し,

NHKが団体交渉を拒否することは

不当労働行為に該当するとされました。

 

 

この裁判例をみると,地域スタッフは,

労働基準法の労働者にもあてはまるのではないかと思いますが,

高裁レベルでは否定されているが残念です。

 

 

このように,労働組合法の労働者は広く捉えられているので,

コンビニ店主の事件でも,裁判所において,

労働組合法の労働者と判断されることを願います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コンビニ店主は労働組合法の労働者か2~中央労働委員会命令~

セブンイレブン東大阪上小阪店の店主が,

24時間営業を辞めて,セブンイレブンの本部と対立していた問題で,

セブンイレブン本部は,店主に対して,

時短営業を理由とする契約解除をしないことを伝えたようです。

 

 

 

 

とりあえず,現状は時短営業が事実上追認されたのですが,

セブンイレブン本部は,24時間営業を維持する方針に

変わりはないようで,今後,この問題がどのように

進展していくのか見守っていきたいと思います。

 

 

さて,コンビニ店主の働き方がクローズアップされている中,

3月15日に中央労働委員会において注目すべき命令をくだしました。

 

 

先日,ブログで紹介した,コンビニ店主を

労働組合法の労働者としたセブンイレブンの

岡山県労働委員会の命令と,ファミリーマートの

東京都労働委員会の命令の判断を覆し,

コンビニ店主は,労働組合法上の労働者ではないと判断されたのです。

 

 

 

 

コンビニ店主にとっては,残念な逆転敗訴でした。

 

 

本日は,3月15日の中央労働委員会の命令について説明します。

 

 

労働組合法の労働者は,相手方との個別の交渉において

交渉力に格差が生じ,契約自由の原則を貫いたのでは

不当な結果が生じる場合に,労働組合を組織して

集団的な交渉によって保護が図れるべき者が含まれます。

 

 

そのため,労働基準法の労働者よりも,

保護される範囲が広いのです。

 

 

労働組合法の労働者に該当するかについては,

次の要素を総合考慮して判断されます。

 

 

1 基本的判断要素

 ①事業組織への組み入れ

 ②契約内容の一方的・定型的決定

 ③報酬の労務対価性

2 補充的判断要素

 ④業務の依頼に応ずべき関係

 ⑤広い意味での指揮監督下の労務提供・一定の時間的場所的拘束

3 消極的判断要素

 ⑥顕著な事業者性

 

 

 

コンビニのフランチャイズ契約は,

本部が一方的定型的に定めており,

コンビニ店主が個別交渉で変更することは困難です(②)。

 

 

コンビニ店主は,本部から経営の助言・指導を受けて,

店舗において長時間働いています(⑤)。

 

 

そのため,都道府県労働委員会は,

コンビニ店主を労働組合法の労働者と認めたのでした。

 

 

しかし,中央労働委員会は,コンビニ店主は,

自ら資金調達をして事業の費用を負担し,

損失や利益の帰属主体として,

自らの判断で従業員の雇用や人事管理を行うことで

他人の労働力を活用し,自ら選択した場所で

コンビニの経営を行っているので,

経営者として相当の裁量を有する独立の小売事業者であり,

本部の労働力として組織に組み込まれていないと判断されました(①,⑥)。

 

 

フランチャイズ契約は,コンビニ店主の労働条件というよりは,

店舗経営という事業活動の態様について規定しており,

本部がその内容を一方的に決定していても,

労働組合法の労働者性を根拠付けることにはならず(②),

コンビニ店主が本部から受け取る金員については,

コンビニ店主の労務供給に対する報酬とはいえない(③),

と判断されました。

 

 

結論として,コンビニ店主は,

独立した小売事業者であって,

労働組合法の労働者に当たらず,

本部が,コンビニ店主が加盟する

コンビニ加盟店ユニオンからの

団体交渉申入に応じなかったとしても,

不当労働行為に当たらないと判断されたのです。

 

 

 

コンビニ店主は,コンビニの店舗を経営しているので,

「労働者」と捉えるのは多少違和感があるものの,

本部との間で,交渉力,資金,情報において,

圧倒的に格差があり,事実上長時間労働をしていることから,

コンビニ店主を保護すべき必要性があり,

現行法では,コンビニ店主を保護する仕組みは,

労働組合法以外にはないのです。

 

 

コンビニ店主個人では力がないのですが,

労働組合法の労働者と認められれば,

コンビニ店主が団体で交渉できて,本部は,

交渉に応じなければならず,対等に交渉でき,

本部に対して,自分達の要望を受け入れてもらえる

可能性がでてくるのです。

 

 

コンビニ店主の現状を見ると,

労働組合法の労働者として保護するか,

本部とコンビニ店主の法律関係を規律する

フランチャイズ法などを制定するか,

のどちらかが必要だと考えます。

 

 

コンビニ加盟店ユニオンは,

中央労働委員会の命令を不服として,

行政訴訟を提起するようですので,

裁判所において,コンビニ店主が労働組合法の労働者

として認められるのか,注目していきたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

タクシー運転手に対する雇止め

イチロー選手がついに引退しました。

 

 

私は,イチロー選手が数々の記録を塗り替えていく

過程のインタビューにおいて,イチロー選手が語る

名言に勇気付けられてきました。

 

 

特に,イチロー選手の次の名言が好きです。

 

 

誰よりも自分が期待している。

自信がなければこの場にいない。

重圧のかかる選手であることを誇りに思う。

 

 

私は,司法試験の受験時代に,

この言葉を自分に言い聞かせて,

受験のプレッシャーを克服してきました。

 

 

 

 

イチロー選手,本当にお疲れ様でした。

 

 

さて,偉大な選手が引退する一方,

人生100年時代に突入した私達には,

引退はまだまだ先の話です。

 

 

本日は,定年後7年間契約が更新されてきた

タクシー運転手に対する雇止めが争われた

国際自動車事件を紹介します

(東京地裁平成30年5月11日判決・労働判例1192号60頁)。

 

 

原告の労働者は,65歳で定年を迎えた後,7年間,

契約期間を1年とする有期労働契約を締結,更新して,

フルタイムのタクシー運転手として勤務してきましたが,

会社からは,乗務日数が減少していたこと,

年齢及び健康状態を理由に,契約期間満了によって,

次の有期労働契約の更新を拒絶されました。

 

 

 

 

有期労働契約において,契約期間満了に際し,

会社から次の契約更新を拒絶することを,雇止めといいます。

 

 

有期労働契約は,契約期間の満了によって

終了するのが原則なのですが,

非正規雇用労働が正社員と同じ業務を行うことが多い現状において,

この原則を貫くと,労働者の地位が著しく不安定になります。

 

 

また,有期労働契約といっても,労使双方が,

契約期間を超えて労働関係を継続することを

予定して就労していることも多いです。

 

 

そこで,労働契約法19条では,労働者が,

有期労働契約が更新されると期待することについて

合理的な理由がある場合には,雇止めは,

客観的に合理的な理由を欠き,

社会通念上相当であると認められないときに無効となります。

 

 

ようするに,1有期労働契約が更新されると期待することについて

合理的な理由があるか否かという基準と,

2客観的合理的理由と社会通念上相当性の基準の2つを満たせば,

従前と同一の労働条件で,有期労働契約が更新されるのです。

 

 

1の基準については,次の要素が総合考慮されて判断されます。

 

 

①雇用の臨時性・常用性(仕事の内容が臨時的・補助的か,基幹的か)

 ②更新の回数

 ③雇用の通算期間

 ④契約期間管理の状況

(契約書を毎回締結しているか,手続が形式的となっていないか)

 ⑤雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無

 

 

本件事件では,①原告のタクシー運転手の仕事は,

タクシーの運転業務であり,定年の前後で特に変化はなく,

被告タクシー会社の恒常的かつ基幹的な仕事であるため,

そのような仕事をしていた非正規雇用労働者は,

契約が更新されると期待します。

 

 

 

 

また,⑤被告のタクシー会社では,

65歳で定年退職になった後も75歳までの

再雇用が運用として行われており,過去の団体交渉において,

社長が75歳までの雇用継続を決定事項としており,

タクシー運転手に問題がなければ

自動的に再雇用となると述べていたことがあり,

この会社側の言動は,労働者の雇用継続の期待につながります。

 

 

そのため,原告の労働者が有期労働契約が更新されるものと

期待することについて合理的理由があると判断されました。

 

 

そして,原告の労働者には,健康状態に問題を抱えていたものの,

フルタイムの勤務ができないほどではないこと,

乗務日数が減少していたのは,有給休暇を取得していたからであること

の事情があり,被告の会社の雇止めには,

客観的合理的理由がなく,社会通念上相当ではない

と判断されて,無効と判断されました。

 

 

もっとも,本件事件は,労働者の地位を仮に定めることと,

賃金の仮払いを求める仮処分の事件であり,裁判所は,

仮の地位を定めることは認めず,

月額15万円の賃金の仮払いを認めました。

 

 

仮処分の事件では,なかなか,仮の地位を定める

ところまでは認められにくいのが現状です。

 

 

タクシー運転手の雇止めを争うときに

参考になる裁判例ですので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラと労災申請

パワハラを受けたことによって,

うつ病などの精神疾患を発症したとして,

労災申請をする件数が増加しています。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/H29_no2.pdf

 

 

もっとも,労災申請をしても,パワハラなどの

仕事上の出来事が原因で,精神疾患を発症したと認められるのは,

約3割程度であり,狭き門です。

 

 

 

 

本日は,会社の代表者からパワハラを受けて,

うつ病に罹患したと主張する労働者が労災申請したものの,

労災とは認められなかったため,国を相手に,

労災の不支給決定処分の取消を求めて提訴した事件について紹介します

(国・さいたま労基署長(ビジュアルビジョン)事件・

東京地裁平成30年5月25日判決・労働判例1190号23頁)。

 

 

まず,精神障害の労災認定基準では,

労災認定を受けるためには次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

①対象疾病である精神障害を発病していること

 ②対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に,

業務による強い心理的負荷が認められること

 ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により

対象疾病を発症したとは認められないこと

 

 

本件事件の原告の労働者は,うつ病を発症しているので

①の要件を満たします。

 

 

そこで,原告の労働者が,②と③の要件を

満たすのかが争点となりました。

 

 

②の要件については,精神障害の労災認定基準に

「別表1:業務による心理的負荷評価表」という資料がついており,

そこに記載されている具体的出来事のどこにあてはまり,

その具体的出来事の心理的負荷の強度はどれくらいなのかを検討します。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,会社の会議において,

代表者から,「幹部の中で会社の手帳を使っていない馬鹿なやつがいる」

などと言われて叱責されたことについて,具体的出来事としては,

「上司とのトラブルがあった」にあたり,

上司から業務指導の範囲内である強い叱責を受けたに該当するので,

心理的負荷は「中」と判断されました。

 

 

 

次に,原告の労働者は,休暇中にすぐに

電話に対応しなかったことで叱責,罵倒されたことについて,

同様に,心理的負荷は「中」と判断されました。

 

 

そして,原告の労働者は,代表者に対して,

退職を申し出たのですが,思い直して,

退職の申し出を撤回したものの,代表者からは,

「一度辞めると言ったのだから辞めなさい。甘ったれた顔をしやがって」

などと言われて,退職の申し出の撤回は認められませんでした。

 

 

さらに,代表者の側近からは,

土下座をする気持ちで謝るように言われていたので,

原告の労働者は,土下座を強要されているように感じました。

 

 

この退職の申し出の撤回を拒否されたことは,

具体的出来事としては,「退職を強要された」にあたり,

退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず,

執拗に退職を求められたに該当するので,

心理的負荷は「強」と認定されました。

 

 

 

 

②の要件については,心理的負荷が「強」の具体的出来事が

1つあれば要件を満たすことになり,

心理的負荷が「中」の具体的出来事が複数ある場合は,

総合評価を行い,「強」となれば,要件を満たす場合があります。

 

 

③の要件については,原告の労働者には,

プライドが高いなどの面はあるものの,

退職をめぐるやりとりの過程で代表者との人間関係が悪化するまでは,

良好な人間関係を築いていたことから,

平均的な労働者の部類に入り,

原告の性格傾向が精神障害の発症に主として

影響したとはいえないと判断されました。

 

 

結果として,原告の労働者のうつ病発症は代表者からの

パワハラが原因であるとして,労災認定がされたのです。

 

 

精神疾患の労災認定は,専門的な判断が必要となりますので,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

保有個人情報開示請求で労災資料を取り寄せる

建設業や製造業の仕事場では,転倒や墜落・転落,

機械に腕を挟まれるなどの労災事故が発生することがあり,

4日以上の休業を伴う死傷事故が増加傾向にあります。

 

 

 

 

人手不足により,安全衛生管理体制が疎かになったり,

働く時間が長くなり,疲労がたまって,集中力の低下を招き,

労災事故が発生しているのかもしれません。

 

 

労災事故にあったならば,労働者は,

労働基準監督署に対して,労災申請をするべきです。

 

 

労災認定がされると,けがによる治療費が国から支給され,

仕事を休んでも,休業期間中は給料の8割が補償され,

後遺障害が残っても,障害年金や傷害一時金が支給され,

日々の生活の不安が軽減されます。

 

 

労災認定がされても,労災保険からは,

慰謝料は支給されませんので,

労災事故による慰謝料を請求するには,

会社に対して,別途,損害賠償請求をする必要があります。

 

 

また,労災と認定されなかった場合,

その決定に対して,不服申立てをすることができます。

 

 

このように,労災と認定されてもされなくても,

次の手続に進むためには,労働基準監督署が

労災事故の調査をした際に集めた資料を

検討しておくことが効果的です。

 

 

労働基準監督署が集めた資料を入手するための方法として,

保有個人情報開示請求という手続を利用します。

 

 

 

 

具体的には,下記URLにある所定の書式に

必要事項を記入した上で,労災の決定を行った労働基準監督署

のある都道府県の労働局長宛て(窓口は労働局総務部)に

書類を提出して行います(郵送も可能です)。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/jouhou/hogo06/dl/01.pdf

 

 

上記URLにある「保有個人情報開示請求書」の

「1 開示を請求する保有個人情報」には,

次のことを記載するといいです。

 

 

①私が~年~月~日に負傷した事故について,

~(事業者名)から~労働基準監督署に提出された死傷病報告書及び,

災害調査や是正指導などがなされていた場合はその書類一式

 

 

②私が,~年~月~日に負傷した事故について治療をした

~県内のすべての医療機関のすべてのレセプト(調剤薬局を含む)

 

 

③私が~年~月~日に負傷した事故に関して,

療養の給付・休業補償・障害給付などの請求書全て(添付資料も含む)

及び支給決定決議書,支給決定にあたり調査をしていれば

その調査書全て(添付資料含む)

 

 

保有個人情報開示請求をすると,1ヶ月程度で,

開示決定がでて,次の資料を入手できます。

 

 

・労働者死傷病報告

 ・災害調査復命書

 ・診療報酬明細書

 ・療養補償給付たる療養の給付請求書

 ・休業補償給付請求書・決議書とそれぞれの添付資料

 ・障害補償給付支給請求書・決議書とそれぞれの添付資料

 

 

開示される資料の中には,聞き取り内容など関係者の

個人情報に属する部分が黒塗りになるといった限界がありますが,

調査復命書の内容の一部が開示されるため,

労働基準監督署がどのような枠組みで判断を行ったか

などについて知ることができて,効果的です。

 

 

 

 

保有個人情報開示請求を利用して,労災の資料を取り寄せて,

不服申立てや会社に対する損害賠償請求の準備をしていくのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

アルバイト労働者は年次有給休暇を取得できるのか?

昨日,アルバイト労働者から次のような法律相談を受けました。

 

 

相談者は,平日の4日間は20時から24時まで,

日曜日は9時から17時までのアルバイトを

9年間ほど継続しています。

 

 

 

 

相談者は,県外に住む家族の体調がよくないため,

お見舞いにいくために,支配人の許可をもらって,

日曜日に休みをとりました。

 

 

すると,支配人からは,日曜日に出勤する条件で雇っているので,

今後日曜日に休むのであれば,もうこなくていいと言われました。

 

 

納得がいかない相談者は,年次有給休暇を取得すれば,

日曜日に休んでも問題はないのではないですか,

と質問したところ,支配人は,

うちには年次有給休暇制度はないと回答しました。

 

 

この支配人は,労働基準法に違反することを回答しています。

 

 

まず,日曜日に出勤することが労働条件となっていたか

について検討します。

 

 

この問題は,労働者と会社がどのような労働条件で,

労働契約を締結したのかということです。

 

 

労働基準法15条により,会社は,労働者を雇用する際に,

賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければならず,

通常は,労働条件通知書を交付します。

 

 

 

 

この労働条件通知書に,勤務日は何曜日で,

労働時間が何時から何時までと記載されています。

 

 

しかし,相談者の話を聞くと,

労働条件通知書の交付を受けておらず,

日曜日が勤務日であるという文書は

見たことがないとのことです。

 

 

そうなると,相談者と会社との間で,

日曜日を勤務日とする労働契約が成立したのか不明です。

 

 

もっとも,長年,日曜日に勤務していた実績があるので,

日曜日を勤務日とする労働契約が成立したと

認定される可能性があります。

 

 

次に,日曜日が勤務日だとしても,アルバイト労働者は,

年次有給休暇を取得することができるのでしょうか。

 

 

所定労働時間や所定労働日数が正社員よりも短い労働者を

パートタイム労働者といい,アルバイトも

パートタイム労働者に含まれます。

 

 

パートタイム労働者であっても,

次の①~③のいずれかに該当すれば,

正社員と同じ年休日数を取得できます。

 

 

①所定労働日数が週5日以上の者

 ②所定労働日数が年217日以上の者

 ③週4日以下でも所定労働時間が週30時間以上の者

 

 

 

 

なお,週所定労働時間が30時間未満であり,

かつ,週所定労働日数が4日以下

(週以外の期間によって所定労働日数を定める労働者については

年間所定労働日数が216日以下)の労働者については,

下記のURLに記載されている表のとおり,

所定労働日数及び勤続年数に応じた日数の

年次有給休暇が与えられます。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf

 

 

相談者の場合,1週間に平日4日と日曜日の合計5日働いているので,

正社員と同じ日数の年次有給休暇を取得できます。

 

 

相談者は,9年ほど勤務しているので,

1年間に20日間の年次有給休暇を取得できます。

 

 

そのため,相談者は,日曜日に年次有給休暇を取得すれば,

勤務日である日曜日に休んでも賃金を請求できるのです。

 

 

会社から,うちには年次有給休暇制度はないと言われても,

6ヶ月以上継続勤務して,全労働日の8割以上出勤すれば,

権利として年次有給休暇を取得できますので,

休みたいときには,年次有給休暇を利用すればいいのです。

 

 

最後に,相談者が日曜日に年次有給休暇を取得して

休んだことを理由に解雇された場合,

その解雇は当たり前ですが,違法無効となります。

 

 

労働基準法136条には,会社は,

年次有給休暇を取得した労働者に対して,

不利益な取扱をすることを禁止していますので,

年次有給休暇を取得したことを理由に解雇することは,

この規定に違反して無効となります。

 

 

アルバイト労働者であっても,年次有給休暇は取得できますし,

会社から,うちには年次有給休暇はないと言われても,

労働者には,権利として年次有給休暇を取得できますので,

アルバイト労働者は,休みたいのであれば,

遠慮なく年次有給休暇を取得するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

著者に会いに行く2~立花岳志先生~

「好き」と「ネット」を接続すると,あなたに「お金」が降ってくる

の著者立花岳志先生主催の立花Be塾金沢の

レベル1の第1回目の講座を受講しました。

 

 

 

 

知人の永栄康子さんから,立花岳志先生が金沢に

よくいらっしゃっているという情報を教えてもらい,

さらに,永栄康子さんの勤務先の会社の社長の高由紀さんから,

立花先生のセミナーは,本当に勉強になるよと教えてもらい,

立花先生にフェイスブックのメッセンジャーで連絡をしてみました。

 

高社長のブログ→http://www.frappu.co.jp/?cat=47

 

 

すると,立花先生から,返信をいただき,

3月17日から,立花先生のブログセミナーが

金沢で開催されることを教えてもらいました。

 

 

しかし,日曜日の午後にセミナーに参加するには,

妻の許可が必要になります。

 

 

そこで,先週は,大阪の阪急百貨店で,

アンジェリーナのモンブランや,ホワイトデーのお返しを買い,

昨日は,アイボリッシュという渋谷のフレンチトースト専門店が

東京駅に出店していたので,そこでクッキーとフィナンシェを買い,

妻にお願いしたところ,セミナーに参加することの許可をもらえました。

 

 

というわけで,念願の立花先生のセミナーに

参加することができましたので,

セミナーで学んだことをアウトプットします。

 

 

 

 

ブログをするにあたって最も大事なことは,

ブログを更新することを習慣化することだと,

立花先生はおっしゃりました。

 

 

習慣化するためには,未来の自分を遠くに設定し,

ほどよい負荷を自分にかけて,

適切な成長カーブを描くことにあります。

 

 

短期的なところに目標を設定しても,効果がでず,

効果がでないと挫折して,習慣化ができないのです。

 

 

ブログを毎日更新していても,すぐには効果はでません。

 

 

しかし,毎日更新を継続していくと,

ブログ筋力が鍛えられて,

ブログを更新することが楽しくなり,

長期間継続できるようになって,

ブログの文章の質と量が向上し,

自分の専門分野が深化していきます。

 

 

人は急には変われないので,

長いスパンで自分の成長を見守ることが,

習慣化のコツのようです。

 

 

 

次に,メンタリティを転換することの大切さを学びました。

 

 

ただの人では人気がでないので,

特別な人へ変わるために,

自分のメンタリティを転換する必要があります。

 

 

具体的には,自分の言葉で語る,

積極的に自分の意見を言う,

自分軸をもって行動する,

他人がどう言おうと自分の言動は変えない,

自分ブランドを積極的に構築する,

唯一無二の存在を目指す,などです。

 

 

これまで,私は,周囲の状況に合わせて

発言していたところがあったのですが,今後は,

人と違うことやNoと言うことを恐れずに,

書くべきことを書き,言うべきことを言う自分に変わります。

 

 

著者から直接指導を受けると,

著者のオーラやリズム感などを含む全人格的なものを体感できて,

本を読む以上に学びが倍増します。

 

 

著者が本に表現できなかった

非言語的な情報を入手できるのです。

 

 

そして,不思議なことに,人は,出会うべきときに,

必要な人と出会っているのだという実感をもてました。

 

 

 

 

今回のブログセミナーに集まった方々は皆,

向上心が高く,魅力的で素敵な人格者ばかりで,

とても刺激を受けました。

 

 

自分が次のステージに移行するタイミングで,

必然的に大切な出会いが人生にあるのだと実感できました。

 

 

ブログセミナーの仲間から,プライベートな記事も

投稿した方が人間味がでていいのではないか

というアドバイスをいただきましたので,

今後は,労働問題以外にもプライベートな記事も

投稿していこうと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

賃金から銀行の振込手数料を相殺することは違法です

求人票には,日当1万円と記載されており,

派遣元会社からも,日当1万円という説明を受けて,

日雇派遣や日々職業紹介で働くことになりました。

 

 

派遣労働者は,お金がなく,給料支給日まで待っていては,

生活が困難になるので,給料支給日よりも前に

給料を受けとりたいというニーズがあります。

 

 

すると,派遣元会社からは,給料支給日よりも前に

給料を受け取るには,105円から315円の振込手数料を

給料から天引きする即給サービスというシステムの紹介を受けて,

派遣労働者は,給料支給日よりも前に,

振込手数料を天引きされて給料を受け取っていました。

 

 

このように,給料から銀行の振込手数料を天引きすることは,

違法ではないのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,給料から銀行の振込手数料を天引きすることの是非

について争われた東京高裁平成30年2月7日判決を紹介します

(判例時報2388号104頁)。

 

 

この問題は,労働者の同意がある場合に,

給料と銀行の振込手数料を相殺することは,

労働基準法24条1項の賃金全額払の原則

に違反するかというものです。

 

 

賃金は,労働者の生活の糧となるものなので,

労働者の生活の安定のために,

賃金全額が確実に労働者の手元に渡るように,

会社は,賃金全額を労働者に支払う義務を負っています。

 

 

他方,相殺というのは,会社が労働者に対して

金銭を請求する権利を有しているときに,

労働者が会社に対して,金銭を支払い,

その後に,会社が労働者に対して,給料を支払うのでは,

手間がかかるので,会社の労働者に対する債権と

労働者の会社に対する賃金債権を対当額で消滅させることです。

 

 

会社の労働者に対する債権と,労働者の会社に対する賃金債権とを

相殺すれば,労働者の手取り賃金が減少し,

日々の生活が苦しくなるので,

原則として賃金からの相殺は禁止されています。

 

 

 

 

例外的に,労働者が相殺に同意しており,

その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると

認めるに足る合理的理由が客観的に存在している場合に限り,

賃金からの相殺が認められるのです

(最高裁平成2年11月26日判決・日新製鋼事件)。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,会社から,

即給サービスを利用するには,

振込手数料105円若しくは315円が利用者負担となる

という文書を渡されて,同意していました。

 

 

しかし,被告会社は,即給サービスによって

現金による賃金支払の事務の負担を免れることができ,

原告の労働者は,不安定な雇用に置かれている者であり,

不本意ながら即給サービスを利用せざるをえない立場にあり,

被告会社から即給サービスの利用を誘導されて,

利用したという事情がありました。

 

 

そのため,原告の労働者の即給サービスを利用したときに,

給料から銀行の振込手数料が相殺されることの同意について,

労働者の自由な意思に基づいてされたものであると

認めるに足る合理的理由が客観的に存在する場合ではないと判断され,

給料から銀行の振込手数料を相殺することは違法と判断されました。

 

 

さらに,労働基準法24条1項の賃金全額払の原則に違反することは,

労働者の経済的利益だけでなく,人格的利益を侵害するものとして,

民法の不法行為における違法性を構成し,

被告会社は賃金全額を支払っていないことを認識していたので,

過失があるとして,不法行為に当たると判断されました。

 

 

 

 

原告の労働者の時給が800円であり,

即給サービスの1回の利用により315円を違法に

賃金から控除されていたことから,控除の額が

原告の労働者にとって小さくないことから,

原告に精神的苦痛があったとして,

慰謝料1万円が認められました。

 

 

賃金が相殺される際の労働者の同意を厳格に判断した上で,

賃金全額払の原則の違反が,労働者の人格的利益を侵害して

不法行為にあたり,慰謝料の支払いを命じたのが画期的です。

 

 

賃金からよくわからない控除がされていたときに,

労働者にとって参考になる判例です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

手当の不正受給による懲戒解雇と退職金の不支給

先日,アルバイトによる不適切な動画がSNSに投稿されたことで,

大戸屋が店舗を休業して,アルバイトに対して,研修を行いました。

 

 

 

 

このようなバイトテロに対して,会社は,

懲戒処分や損害賠償請求をすることが多くなる可能性があります。

 

 

労働者の不祥事について,会社が,労働者に対して,

懲戒処分をした場合,労働者が,

懲戒処分に該当する行為をしていない,

懲戒処分は重すぎるなどと主張して,

懲戒処分を争うことがあります。

 

 

本日は,労働者が会社の諸手当を不正受給して懲戒解雇されて,

退職金が不支給となったことが争われたKDDI事件を紹介します

(東京地裁平成30年5月30日判決・労働判例1192号40頁)。

 

 

この事件の原告は,もともと長女と同居していたのですが,

長女が大学に進学して,長女と別居していたにもかかわらず,

長女と同居したままとして,住宅手当を多く取得しました。

 

 

また,原告は,長女と別居していたので,

被告会社の単身赴任基準を満たしていないにもかかわらず,

被告会社に対して,異動に伴いそれまで同居していた長女との

別居を余儀なくされたと虚偽の事実を申告して,

被告会社に誤認させて,単身赴任手当を不正に受給しました。

 

 

その他にも,原告は,社宅の賃料を不正に免れたり,

帰省旅費を不正に受給したりして,被告会社に対して,

合計約400万円の損害を与えました。

 

 

 

 

原告の不正行為には,会社に対する届出を忘れたという性質

がある反面,積極的に事実を偽り,会社を騙した詐欺の性質もあり,

3年以上の期間にもわたって不正が行われていたことから,

原告と被告会社が雇用関係を継続する前提となる

信頼関係が回復困難なほどに毀損されたと判断されました。

 

 

さらに,原告には,過去に2日間の停職の懲戒処分歴があり,

被告会社に対して,明確な謝罪や被害弁償がないことから,

懲戒解雇は有効と判断されました。

 

 

会社の金銭の不正受給に対する懲戒処分の場合,

重い懲戒処分がなされても,有効となる傾向にあると思います。

 

 

懲戒解雇が有効の場合,多くの会社では,

退職金を不支給にするか減額する規定を設けていることが多いです。

 

 

本件事件でも,懲戒解雇の場合は,退職金を不支給にする

規定があったため,被告会社は,原告の退職金を不支給にしました。

 

 

しかし,退職金には,賃金の後払い的性格と功労報償的性格の2つ

があり,退職金の不支給や減額をするには,

労働者のそれまでの長年の勤続の功を抹消ないし減額してしまうほどの

著しく信義に反する行為があった場合に限られる

とするのが裁判所の立場です。

 

 

退職金の賃金の後払い的性格を重視すれば,

不支給や減額を否定する方向に働き,

退職金の功労報償的性格を重視すれば,

労働者の非違行為の内容によっては,

不支給や減額も肯定されるのですが,

それでも抑制的に判断されています。

 

 

 

本件事件においても,原告の非違行為の性質は悪質ではあったものの,

裁判所は,原告の30年以上の勤続の功を完全に抹消したり,

そのほとんどを減殺するものとはいえず,

退職金のうちの6割を不支給として,

退職金の4割を支給することを命じました。

 

 

これまでに,さまざまな事件で,

懲戒解雇と退職金の不支給や減額が争われてきましたが,

懲戒解雇の場合に,退職金を不支給とすることが

認められた裁判例はないと思います。

 

 

労働者としては,懲戒解雇が有効となっても,

退職金がいくらか支給される可能性があることを知っておいてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。