トラック運転手の運行時間外手当は固定残業代として有効か?
未払い残業代請求の事件において,会社から,
よく固定残業代の主張がされることが多いです。
固定残業代とは,一定時間分の時間外労働,
休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです。
固定残業代は,基本給に残業代を組み込んでいる場合と,
残業代を~手当という形式で支払う場合の2つがあります。
会社の固定残業代の主張が認められれば,
会社は,残業代を既に支払っていることになり,
労働者の残業代請求が認められなくなることが多いので,
固定残業代が争点になることが多いのです。
本日は,この固定残業代について争われたシンワ運輸東京事件
を紹介します(東京高裁平成30年5月9日判決・
労働判例1191号52頁)。
この事件では,トラック運転手の運行時間外手当が,
労働基準法37条に定める割増賃金の支払に
あたるかが争点となりました。
運行時間外手当は,トラック運転手が車両を運行することによって
会社が取引先から得る運賃収入の70%に
一定の率を乗じて得られる金額を割増賃金として
支給すると定められていました。
そして,基本給等をもとに労働基準法37条で定められた
計算方法で算出した残業代が,運行時間外手当よりも多かった場合,
その差額が支給されており,逆に,運行時間外手当が,
基本給等をもとに労働基準法37条で定められた計算方法で
算出した残業代よりも多かった場合であっても,
その差額をトラック運転手に取得させていました。
さて,固定残業代が有効となる要件は,最高裁の判例によれば,
①通常の労働時間の賃金に当たる部分と
割増賃金に当たる部分とに判別することができること(判別可能性),
②固定残業代である手当が時間外労働に対する
対価として支払われていること(対価性)です。
本件事件では,運行時間外手当は,基本給等の
通常の労働時間の賃金に当たる部分と
判別できるようになっていたため,
対価性の要件を満たすかが問題となったのです。
すなわち,固定残業代が時間外労働の対価であれば,
時間外労働が増えれば,それに比例して割増賃金も増加するという,
労働時間との比例という要素が考えられるのですが,
運行時間外手当は,労働時間と比例しない形で決定されており,
時間外労働の対価で支払われていることに疑問はあります。
しかし,被告会社では,就業規則や賃金規定において,
運行時間外手当を残業代として支給し,
労働基準法所定の計算方法により算定した残業代と差額が生じれば,
その差額支給すると規定されていて,実際に,給料明細書には,
運行時間外手当の金額と残業時間数をもとに算定した
時間外手当の金額が記載されており,
差額が生じれば差額が支給されていました。
さらに,原告らが加入する労働組合との間で,
運行時間外手当が割増賃金として支給されることを
確認する労働協約が締結されており,被告会社が,
基本給などを当初から意図的に低く設定したり,
基本給を減額して運行時間外手当に
振り替えたりしたこともありませんでした。
以上の事情を考慮して,運行時間外手当は,
時間外労働の対価として支払われていると判断されて,
固定残業代として有効であり,
労働者の未払い残業代請求は認められませんでした。
このように,固定残業代としての手当が,
時間外労働の対価といえるかについては,
就業規則や賃金規定の定め方,
労働基準法所定の計算方法により算出された残業代との差額の支払,
労働組合との協議の経過,固定残業代と基本給との比較
などの事情を考慮して判断されます。
専門的に分析する必要がありますので,
固定残業代を争う場合には,弁護士に相談することをおすすめします。
本日もお読みいただきありがとうございます。