最低賃金の業種別の全国一律化の議論
今年の4月から,外国人労働者の受け入れが拡大されます。
外国人労働者は,賃金の高い都市部にいくことが考えれますが,
そうなると,地方の人手不足を解消することができません。
人材確保の一環として,外国人労働者の受け入れが
拡大されたにもかかわらず,都市部に外国人労働者が流入し,
外国人労働者が地方に定着しないことが懸念されているようです。
そこで,厚生労働省は,建設や介護など,
外国人労働者を拡大する14業種を対象に,
業種別の全国一律の最低賃金を導入することを
検討することになりました。
しかし,人件費がふくらむことをおそれた
経済界が難色を示したところ,厚生労働省は,
この検討をすることを停止したようです。
厚生労働省は,統計不正問題で大変な中で,さらに,
最低賃金の問題が加わることをおそれたのかもしれません。
本日は,この問題を理解するために最低賃金制度について解説します。
最低賃金制度とは,国が,労働契約における賃金の最低額を定めて,
会社に対して,それを守ることを強制する制度です。
最低賃金制度が設けられた趣旨は,市場経済体制のもとでは,
経済情勢や労働市場の状況によっては,
著しく低額な賃金の労働関係が出現して,
労働者の生活を困難にするおそれがあることから,
国が労働市場のセーフティネットとして,
賃金額の最低限度を定めて,
これを会社に強制することにしたのです。
会社は,労働者に対して,最低賃金以上の
賃金を支払う義務を負うので,労働者は,
最低賃金以下の賃金しか受け取っていない場合,
会社に対して,最低賃金と実際の賃金との差額を請求できます。
最低賃金には,地域別最低賃金と特定最低賃金の2つがあります。
地域別最低賃金は,地域における労働者の生計費及び賃金
並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して,
都道府県ごとに定められる最低賃金です。
各地域の産業・賃金・生計費の実際的な違いを考慮して
全国一律の最低賃金ではなく,地域別の最低賃金を設定して,
賃金の低廉な労働者のための最低賃金を整備しているのです。
地域別最低賃金は,中央最低賃金審議会又は
地方最低賃金審議会の調査審議を経て,決定されます。
平成30年10月1日発行の地域別最低賃金は,
最も高いのが東京都の985円,
最も低いのが鹿児島県の761円で,
224円の差があります。
ちなみに,石川県の地域別最低賃金は806円で,
全国平均874円よりも低いです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
会社が,地域別最低賃金以下の賃金を支払っていた場合,
50万円以下の罰金に処せられます(最低賃金法40条)。
もう一つの,特定最低賃金は,一定の事業または職業について,
地域別最低賃金を上回る最低賃金を設定することをいいます。
労働者または使用者の全部または一部を代表する者が,
厚生労働大臣または都道府県労働局長に対して申し出て,
最低賃金審議会の意見を聞いて,
厚生労働大臣または都道府県労働局長が決定します。
特定最低賃金については,罰則はありません。
現在の最低賃金制度では,地域別最低賃金がほとんどで,
特定最低賃金はそれほど利用されていません。
今回の,外国人労働者の受け入れ拡大に伴う
最低賃金の業種別一律化は,外国人労働者の受け入れを拡大する
14業種について,特定最低賃金を設定しようとするものでした。
しかし,14業種について,最も高い東京都の水準に
あわせようとすれば,労働者は嬉しいですが,経営側は,
人件費の高騰を理由に猛反発しますし,
最も低い鹿児島県の水準にあわせようとすれば,
経営側は喜びますが,労働者は,給料が減額されるので猛反発します。
基本的には,外国人労働者を地方に定着させるために,
地域別最低賃金よりも高い特定最低賃金を設定しようとすると,
東京都の水準にあわせることになると思いますが,そうなると,
地方の中小企業が人件費の高騰に耐えられるのかという問題が生じます。
そのため,この議論は,早々に幕を引きました。
とはいえ,外国人労働者の地方への定着をどうするのか
という問題は残ったままですので,
地方の最低賃金があがる方向になるのか注目していきたいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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