「好き」と「ネット」を接続すると,あなたに「お金」が降ってくる

プロフェッショナルブロガーである立花岳志先生の著書

「好き」と「ネット」を接続すると,あなたに「お金」が降ってくる

を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

 

精神科医の樺沢紫苑先生のメルマガでこの本が紹介されていたので,

買ってみたものの,積読状態だったのですが,

最近,私の周りで立花先生の講演を聞いて,すごかったよ

という声を聞くようになったので,ようやく読みました。

 

 

私にとって素晴らしい一冊でした。

 

 

情報発信をしている人にとって,バイブルとなる本です。

 

 

情報発信についてのテクニックだけではなく,

人生観や価値観といった人間の根本的なところが

プラス方向に好転するきっかけを与えてくれる,

すごい本なのです。

 

 

著者の立花先生は,もともと,ごくごく普通の

サラリーマンだったのですが,38歳からブログによる

情報発信を継続したところ,人生が劇的に変化し,

41歳でプロフェッショナルブロガーとして独立し,

出版やコンサルティングなど幅広い分野で

ご活躍されるようになったようです。

 

 

著者自身の情報発信で成功するまでの道のりが

ありのままに記載されているので,圧倒的に説得力があり,

かつ,再現性があります。

 

 

また,立花先生は,長年,ブログを書き続けている

からだと思いますが,文章が大変読みやすく,

著者の言いたいことが読者の頭の中にダイレクトに伝わってきます。

 

 

さて,立花先生が,この本で推奨していることは,

いたってシンプルです。

 

 

自分の好きなことについて情報発信しましょう」,ということです。

 

 

 

 

情報には価値があり,情報発信とは,

自分が持っている価値を他人に提供することなのです。

 

 

自分の好きなことについて情報発信をすると,

どのようなことが起こるのか?

 

 

それは,人とお金が集まり,好きなことをやればやるほど

皆に感謝されて,好きなことだけをして生きていけるようになれるのです。

 

 

情報発信をしていない人が読むと,

本当かなぁと思うかもしれませんが,

10ヶ月毎日ブログを書き続けた私には分かります。

 

 

立花先生のおっしゃっていることは本当であると。

 

 

毎日ブログを更新して,まだ10ヶ月なので,

私のところに,人とお金は,まだ集まってきてはいませんが,

私のブログを見て,法律相談にこられた方がいらっしゃったので,

毎日ブログで情報発信をし続けると,今後,

法律相談が増えていくのではないかという,

なんとなくの実感があります。

 

 

立花先生は,ブログには「とにかく好きなことを書きましょう

とおっしゃっています。

 

 

好き,楽しい,ワクワクすることであれば,

潜在意識が働いて,ブログを継続しやすくなります。

 

 

 

 

私の場合,弁護士が扱う分野の中でも労働事件が好きなので,

労働事件に関する情報を発信しています。

 

 

すると,私の発信する情報が役に立ったという

読者の声をいただくようになり,自分の発信する情報が

人の役に立っているという実感をえることができ,

さらにモチベーションがあがり,継続することができるのです。

 

 

そして,労働事件について情報発信をするためには,

ニュースからネタを仕入れたり,裁判例や文献を調査して,

アウトプットを意識しながら,インプットをしていくので,

専門的な知識が脳に蓄積されていきます。

 

 

自分の脳に蓄積された専門的な知識を,

法律相談や裁判の現場で活用することができるのです。

 

 

すると,的確なアドバイスができたり,

裁判でクライアントに満足していただける結果を

残すことができるようになるのです。

 

 

すなわち,「好き」をどんどん続けていくと,

「好き」が「得意」になり,「得意」なことを尖らせていくことで,

「強み」になるのです。

 

 

私は,10ヶ月ブログを毎日書き続けて,

立花先生がおっしゃるブログ筋が徐々についてきて,

毎日,ブログを書き終わった後の達成感を

味わえるようになってきました。

 

 

まだ,書きたいことがあるので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職強要の対処法2

昨日のブログに引き続き,退職強要の対処法

について解説していきます。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903037645.html

 

 

昨日のブログにも記載しましたが,

退職勧奨の手段・方法が社会通念上相当性を欠く場合に,

退職強要として違法になります。

 

 

 

そこで,録音や日記・メモ,精神科医のカルテの記載などから,

当該労働者が,会社側から,どのような退職強要をされたのかを特定して,

それが社会通念上相当か否かを検討します。

 

 

例えば,エターナルキャスト事件では,

次のような退職強要が問題となりました

(東京地裁平成29年3月13日判決・労働判例1189号129頁)。

 

 

経理の仕事をしていた原告の労働者が,代表取締役から,

「経理の仕事はない。自分で何ができるか考えろ」などと言われ,

労働局のあっせんの申立てをしたり,弁護士に交渉を依頼しました。

 

 

すると,代表取締役は,原告の労働者に対して,

次のことを言いました。

 

 

「弁護士通じて言いやがってよ。何でてめえの口で言わないんだよ。」

「俺はあんたを許さない。別に経理の仕事をしたいならすればいい。

絶対にミスるな失敗したら損害請求する。」

「みんなおまえを最悪って言ってたぞ。みんなを敵に回したんだぞ。

ばかなことをしたな。それで人生駄目にするんだ。」

「こんなレベルでは,小学生の方がまし。」

 

 

代表取締役は,このような暴言を浴びせながら,

壁に向かってペットボトルを投げつけたりして,

今後仕事で重大なミスをしたときは責任をとって

退職するという承諾書を作成するように強要しました。

 

 

 

 

また,会社側は,原告の労働者に対して,

労働条件を正社員からパート社員に変更した上で,

経理担当から清掃スタッフとして勤務するように,

言葉巧みに迫り,これに同意できない場合には

辞職するほかないように仕向けてきました。

 

 

労働局のあっせんや弁護士への依頼など,

労働者が法律で認められた当然の権利を行使したら,

このようなひどい仕返しをしてきたのです。

 

 

原告の労働者は,仕事のミスが多かったり,

仕事のおぼえが悪かった点があるのですが,

だからといって,上記の被告の会社の対応は,

「それをやったらだめだよね」というレベルのものであり,

裁判所は,上記の一連の会社側の退職強要は違法と判断しました。

 

 

そして,被告会社と代表取締役に対して,

30万円の慰謝料の損害賠償請求が認められました。

 

 

これだけひどいことをされたのに,

認められた慰謝料の金額は30万円だったのです。

 

 

残念ながら,パワハラや退職強要の裁判で

慰謝料の損害賠償請求をしても,

それほど高額な慰謝料が認められないのが,

今の日本の裁判の現状なのです。

 

 

そのため,録音などの手堅い証拠があったとしても,

最終的に認められる損害賠償の金額が,

それほど大きくならない可能性もありますので,

裁判を起こすか否かについては,

慎重に判断をすることになります。

 

 

なお,この事件では,会社側からの退職強要によって,

原告の労働者のうつ病が悪化し,

働くことができなくなったことから,

労働基準法19条の「業務上の負傷」に該当することから,

休職期間満了による当然退職扱いは許されないと判断されました。

 

 

 

 

このように,退職強要事件では,

会社側の言動を録音などで記録した上で,

会社側の言動が社会通念上相当か否かを検討し,

損害賠償の金額がいくらくらいになるかの見通しをつけて,

裁判を起こすかを慎重に判断していくことになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職強要の対処法

会社から辞めてくれないかと言われることを退職勧奨といいます。

 

 

こちらのブログ記事に記載していますが,労働者は,

退職勧奨に応じる必要はなく,会社を辞めたくないのであれば,

はっきりと断ればいいのです。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201812107196.html

 

 

ところが,労働者が退職勧奨を受けても,退職に応じない場合,

会社は,あの手この手で労働者を退職に追い込んでくることがあります。

 

 

 

 

 

例えば,数人で当該労働者を取り囲んで,

退職届を書くまではその場を離れることができないような状況で

退職届を書かせたり,当該労働者の人格を否定する暴言をはいたり,

当該労働者を無視して,職場に居づらくして退職に追い込む

といった手口があります。

 

 

このように,労働者が退職を拒否しているのに,

むりやり辞めさせようとすることを退職強要といいます。

 

 

退職強要とは,手段・方法が社会通念上相当ではない

違法な退職勧奨のことなのです。

 

 

それでは,労働者は,会社から退職強要をされた場合,

どのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

まずは,会社からされたことを正確に記録しましょう。

 

 

会社からどのようなことをされたのかがわからなければ,

手段・方法が社会通念上相当か否かについて判断ができないからです。

 

 

記録をする方法で最も効果的なのが録音です。

 

 

 

 

退職強要の場合,たいてい,雇用主や上司が当該労働者に対して,

人格を否定するようなひどいことを発言しています。

 

 

そのひどい発言が録音されていれば,

こんなこと言ったらだめだよね,というように,

社会通念上相当か否かを判断しやすくなり,

会社に対して慰謝料の損害賠償請求をするかについて,

決断しやすくなります。

 

 

逆に,録音がなかった場合,労働者が,

人格を否定するような発言をされたと主張したとしても,

会社側は,そんなことは言っていませんとしらを切る

ことが往々にしてあります。

 

 

そうなると,言った言わないという状況となり,

労働者が圧倒的に不利になります。

 

 

なぜかといいますと,労働者が退職強要を受けたことを理由に,

会社に対して損害賠償請求をする場合,

人格を否定するような発言をされたことについて,

労働者が証明しなければならないからです。

 

 

どういうことかといいますと,民事裁判では,当事者が,

自分に有利な主張をして,その主張を裏付ける証拠を提出し,

裁判所は,当事者の主張と証拠を検討して,

どのような事実があったのかを認定して,判決をくだします。

 

 

当事者から,主張と証拠が出されたけれども,

裁判所としては,原告と被告の主張を聞いても,

どのような事実があったのか判断できないことがあります。

 

 

例えば,原告の労働者は,上司から人格を否定する暴言をはかれた

と主張し,被告の会社は,上司は人格を否定する暴言をはいていない

と主張し,証人尋問でも,そのような証言がされて,

録音などの記録がない場合,裁判所は,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたか否かとについて判断ができません。

 

 

 

 

このような状況を,真偽不明といいます。

 

 

とはいっても,裁判で,どちらかわかりませんという判決を書いても,

トラブルは解決しないので,裁判所は,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたのか,はいていないのかについて,

判断しなければなりません。

 

 

このときの判断が,裁判官の個人的な価値基準に基づいて

決められたのでは,裁判の公平さが保てないことになるので,

統一的な判断基準が確立されています。

 

 

この判断基準が立証責任(証明責任ともいいます)というもので,

裁判所は,立証責任を負っている当事者の主張を

認めないという判断をするのです。

 

 

立証責任は,その事実が認められると,

自分に有利な効果が発生する側が負うことになります。

 

 

先の例でいうと,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたという事実が認められると,

原告の労働者は,慰謝料の損害賠償請求が認めれられるという

有利な効果が発生するので,原告の労働者に立証責任があるのです。

 

 

そのため,録音などの記録がなく,真偽不明となれば,

立証責任を負っている原告の労働者が敗訴することになるので,

録音などの記録を証拠として,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をしたという事実を証明する必要があるのです。

 

 

このように,立証責任という観点から,

録音などの記録が重要になるのです。

 

 

裁判は,証拠が全てと言っても過言ではないと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

変形労働時間制を争う方法3

昨日に引き続き,変形労働時間制を争う方法について解説します。

 

 

 

昨日紹介した岩手第一事件の

仙台高裁平成13年8月29日判決では(労働判例810号11頁),

変形期間中の労働日とその所定労働時間の特定という争点に関連して,

変形労働時間制において,会社が任意で労働時間を

変更することができるか,という争点についても判断されています。

 

 

どういうことかといいますと,岩手第一事件で

問題となった就業規則の変形労働時間制の条項の中に,

次のことが記載されていました。

 

 

「第20条(勤務時間等の変更) 前条の始業・終業の時刻

および休憩の時間は,季節,または業務の都合により変更し,

一定期間内の特定の日あるいは特定の週について労働時間を延長し,

もしくは短縮することがある。」

 

 

すなわち,変形労働時間制において,会社が,

季節または業務の都合で一方的に労働時間を

変更することができるようになっていたのです。

 

 

 

 

裁判所は,このように会社が恣意的に労働時間を変更できることを

認める規定では,変形労働時間制は違法無効となると判断しました。

 

 

変形労働時間制は,過密な労働により,

労働者の生活に与える影響が大きいことから,

就業規則などにおいて,変形期間内におけるどの日又は週が

法定労働時間を超えるのかについて,

できる限り具体的に特定する必要があるので,

会社が恣意的に労働時間を変更できるようでは,

特定としては不十分となるのです。

 

 

そのため,就業規則の中の変形労働時間制の条項の中に,

会社が業務の都合で任意に労働時間を変更できるような規定があれば,

その変形労働時間制は無効となるので,労働者は,

就業規則の内容をよくチェックしてください。

 

 

また,就業規則に変形労働時間制についてのシフト表の

勤務パターンが記載されていても,実際に運用されているシフト表が

就業規則に記載されている勤務パターンとずれている場合にも,

変形労働時間制は無効となります。

 

 

日本総業事件の東京地裁平成28年9月16日判決は

(労働判例1168号99頁),就業規則で定められた始業終業時刻は,

シフト表の24時間勤務のみであって,

他にシフト表に規定されている日勤や夜勤の始業終業時刻が

就業規則で定められていないケースにおいて,

被告会社のシフト表で定める勤務割は,

就業規則に定められた各勤務の始業終業時刻,

各勤務の組合せの考え方,勤務割表の作成手続及び周知方法等に

従って作成された各日の勤務割には当たらないから,

変形労働時間制の要件を満たさず,無効と判断しました。

 

 

 

 

ようするに,就業規則に定められた各勤務の始業終業時刻や

各勤務の組合せの考え方に従って,実際のシフト表が

作成されていないのであれば,変形労働時間制は無効になるのです。

 

 

そのため,労働者は,就業規則をチェックして,就業規則の定めと

実際のシフト表が一致しているのかを確認するようにしてください。

 

 

このように,変形労働時間制は,法律で定められている要件が

厳しいので,労働者は,会社から,変形労働時間制の主張をされても,

臆することなく,残業代を請求するべきと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

変形労働時間制を争う方法2

最近,私が担当している未払い残業代請求事件において,

相手方から,変形労働時間制についての反論がされることが多いので,

労働者側に有利な裁判例を調査しています。

 

 

就業規則に変形労働時間制の記載が少しでもあったり,

シフト表で勤務割が決っている場合には,会社側から,

変形労働時間制の主張をしてくることが多いです。

 

 

 

 

変形労働時間制とは,一定の期間につき,

1週間当たりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない範囲で,

1週または1日の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

 

 

例えば,1ヶ月単位の変形労働時間制の場合,

1ヶ月の期間を平均して,1週間あたりの所定労働時間が

40時間以内に定められていれば,予め所定労働として

特定された日や週の特定された時間の範囲で1日8時間,

1週40時間を超えて労働しても,残業代が支払われなくなります。

 

 

1週間のうち,ある日は9時間働いたけれども,

別の日は7時間働き,その他の日は8時間働き,

2日休日だったとします。

 

 

1日の労働時間が8時間を超えると残業代が発生するので,

9時間働ければ,1時間分の残業代を請求できるのですが,

変形労働時間制が適用されると,1週間の労働時間が

40時間を超えていないので,9時間働いた日の

1時間分の残業代を請求できなくなります。

 

 

このように,変形労働時間制が適法に運用されれば,

残業代は少なくなるので,会社側は,

変形労働時間制の主張をしてくるのです。

 

 

しかし,変形労働時間制は,導入手続,

日々の労務管理が煩雑であり,厳しい要件を満たす必要があるので,

地方の中小企業では,適法な変形労働時間制を導入しているところは,

少ないという印象です。

 

 

本日は,変形労働時間制について,

労働者に有利な判断をした岩手第一事件を紹介します

(仙台高裁平成13年8月29日判決・労働判例810号11頁)。

 

 

変形労働時間制では,各週,各日の所定労働時間を就業規則などで

特定する必要があります。

 

 

 

 

また,シフト表を作成している場合,就業規則において,

各勤務の始業・終業時刻及び各勤務の組合せの考え方,

シフト表の作成手続や周知方法を定め,

各日のシフト表は,それに従って,変形期間開始前までに

具体的に特定しておく必要があります。

 

 

岩手第一事件では,就業規則に職種ごと,

先番,後番ごとの始業・終業時刻及び休憩の時間を定めた上で,

具体的な労働日,労働時間については

勤務割表で事前に特定されていました。

 

 

しかし,裁判所は,変形労働時間制は,過密な労働により,

労働者の生活に与える影響が大きいため,就業規則などにおいて,

単位期間内におけるどの日又は週が法定労働時間を超えるのか

について,できる限り具体的に特定させ,それが困難であっても,

労働者がその日又は週における労働時間をある程度

予測できるような規定を設けておくことが要求されているので,

会社が就業規則の各規定に従って勤務割表を作成し,

これを事前に労働者に周知させただけでは,

労働基準法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」

の要件を満たさないと判断しました。

 

 

このように,裁判所は,変形期間中の労働日と所定労働時間の特定を

かなり厳格に要求しており,単にシフト表を作成して労働者に対して,

提示しているだけでは,変形労働時間制は無効となるのです。

 

 

長くなりましたので,続きはまた明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

配転命令でキャリア形成が阻害される場合の対処法

昨日は,労働者の著しい生活上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることを説明しました。

 

 

 

 

本日は,労働者の著しい職業上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることについて解説します。

 

 

専門的な知識を身に着けた労働者を,

その専門的な知識を全く活かせない部署に配転した場合に,

労働者のキャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

に該当するかが問題となるのです。

 

 

 

 

労働者が専門職としてキャリアを形成していくことが,

配転によって阻害されると,労働者は,専門知識を磨いて

キャリアをアップすることができないという

不利益を被ってしまいますので,問題となります。

 

 

この点について判断がされたエルメスジャポン事件を紹介します

(東京地裁平成22年2月8日判決・労働判例1003号84頁)。

 

 

この事件では,被告会社の本社の情報システム部で働いていた労働者が,

銀座店の倉庫係に配転されたことが問題となりました。

 

 

この事件の原告労働者は,8年間,ITプロジェクトに

システムエンジニアまたはプロジェクトリーダーとして

携わってきたという経歴を有し,被告会社には,

情報技術に関する経歴と能力が見込まれて,

情報システム専門職に就くべき者として中途採用され,

実際に,約5年半の間,情報システム部に所属し,

情報システム関連の仕事をしていました。

 

 

 

 

これらの事実から,原告労働者が,被告会社において

情報システム専門職としてのキャリアを

形成していくことができるという期待は,合理的で,

法的保護に値するものであり,原告労働者の

このような期待に対して相応の配慮が求められると判断されました。

 

 

他方,原告労働者が配転された先の銀座店の倉庫係の仕事は,

在庫管理がメインであり,原告労働者が有している

情報技術や経験を活かすことができるものではなく,

むしろ労務的な側面をかなり有するものでした。

 

 

そのため,裁判所は,本件配転命令は,

業務上の必要性が高くないにもかかわらず,

情報システム専門職としてのキャリアを形成していくという

原告労働者の期待に配慮せず,原告労働者の理解を求めるなどの

実質的な手続を行わないまま,漫然と,

原告労働者の技術と経験をおよそ活かすことのできない

倉庫係に配転したものであり,権利の濫用として,

無効であると判断されました。

 

 

専門的な仕事の場合,労働契約に,

職種を限定する合意があることがあれば,

限定された職種以外に配転されることはありません。

 

 

もっとも,職種を限定する合意があったとは

認定されない場合があり,そのようなときには,

ある程度職種を特定して採用されたなど,

労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があれば,

キャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

と認められて,配転命令が無効になる可能性があります。

 

 

 

 

そのため,専門的な仕事をしている労働者が,

別の仕事に配転する命令を受けたものの,

今の専門的な仕事を継続したい場合,

労働契約に職種を限定する合意があるか,または,

会社が労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があるかを検討するべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

客室乗務員の配転命令事件

フィンランド航空は,名古屋ベースを廃止することから,

名古屋ベースで勤務している客室乗務員に対して,

成田ベースへ配転する命令をしました。

 

 

 

 

名古屋ベースで勤務している客室乗務員は,東海地方において,

自宅で育児や介護をしている関係で,

成田に単身赴任をするのが困難であり,

片道約4時間かけて成田に通勤することを余儀なくされました。

 

 

この名古屋から成田への配転命令が違法無効であるとして,

客室乗務員が裁判を起こしたのです。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_9274/

 

 

このように,遠い勤務地への配転は,

育児や介護を抱える労働者にとって,過酷となります。

 

 

それでは,育児や介護を根拠に,配転命令が

違法無効となるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

本日は,会社の配転命令が違法となり,

慰謝料請求が認められたNTT西日本(大阪・名古屋配転)事件

を紹介します(大阪高裁平成21年1月15日判決・

労働判例977号5頁)。

 

 

この事件は,大阪支店から名古屋支店への配転命令が争われ,

配転命令に関して,様々な争点について,検討されていますが,

労働者の生活上の不利益の部分について,みていきます。

 

 

配転命令は,配転命令を受けた労働者に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる場合には,

権利の濫用として無効と判断されます。

 

 

そして,育児介護休業法26条では,会社が労働者に対して,

配転命令をする場合,子供の養育,家族の介護の状況に

配慮しなければならないと定められているので,

労働者の育児や介護の状況が,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を検討する際に考慮されるのです。

 

 

NTT西日本の事件では,複数の労働者について,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が認められました。

 

 

具体的には,①実父が介護を必要とする状況にあり,

実母についても頻繁に世話をすることが必要な状況にあったが,

家族の中には,原告労働者以外に介護を行う余力がある者が

いなかったこと,②肺がん手術後で,再発の可能性のある妻を抱えており,

新幹線通勤が認められても,妻の見舞いに大きな制約があったこと,

③妻の両親の介護について,妻を補助し,

自らも介護を手伝う必要があったこと,

などの事情が考慮されて,慰謝料請求が認められました。

 

 

 

 

このように,裁判所は,家族が病気を抱えていたり,

要介護度が重い家族の介護をしている場合に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を認めてくれる傾向にあります。

 

 

もっとも,共働き世帯で,健康な子供の面倒をみているという

事情だけで,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を

認めてくれるのかは,今のところ,よくわかりません。

 

 

ただ,子供をもって思うのは,育児とは

本当に大変であるということです。

 

 

小さい子供は,大人の言うことを聞かずに,

好きなことをするので,目がはなせず,

子供といるときは,何もできません。

 

 

実家の親が遠くに住んでいて,夫婦だけで

子供を育てなければならない共働き世帯では,

片方の親が遠くに配転されると,育児が大変になります。

 

 

 

 

そうなると,片方の親が一旦仕事を辞めるや,

子供を生むのをあきらめるなどの悪循環に陥ります。

 

 

そのため,仕事と家庭を両立するために,

育児介護休業法26条の趣旨から,

育児の困難さを考慮して,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益について,

検討してもらいたいものです。

 

 

フィンランド航空の配転命令事件の裁判において,

育児や介護の困難な状況が考慮されて,

労働者に有利な判断がされることを願っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

店員の笑顔はセクハラの同意ではありません

セクハラの裁判では,セクハラ行為について

同意があったか否かが争われることが多いです。

 

 

被害者がセクハラ行為について,抵抗していなかった場合,

加害者から,嫌がっていなかったので,

同意があったなどの主張がなされます。

 

 

 

しかし,セクハラは,上司から部下,顧客から店員というように,

上下関係や強い立場を利用して行われることが多く,

被害者は,セクハラを受けて,内心では嫌だと思っていても,

部下や店員という立場上,上司や顧客に対して,

明確に拒否反応を示すのが難しいのです。

 

 

このような被害者の心理状態をふまえて,

セクハラの懲戒処分が検討された

最高裁平成30年11月6日判決を紹介します。

 

 

この事件では,加古川市環境部でゴミの運搬の仕事をしていた

50代の男性公務員が,勤務時間中に,コンビニを訪れて,

女性店員に対して,わいせつ行為をしたとして,

停職6ヶ月の懲戒処分を受けました。

 

 

懲戒処分の対象となった,わいせつ行為とは,

女性従業員の手を握って店内を歩き,

女性従業員の手を男性公務員の股間の上に

軽く触れさせたというものです(行為1)。

 

 

最高裁判決からは,明らかにされていませんが,

弁護士ドットコムニュースの記事によれば,

男性公務員は,コンビニの女性従業員に対して,

手を握る,胸を触る,男性の裸の写真を見せる,

胸元をのぞき込むといった行動をしたり,

「乳硬いのう」,「乳小さいのう」,

「制服の下,何つけとん」,「胸が揺れとる。何カップや」

などと発言するなど,そこで働く従業員らを

不快に思わせる不適切な言動を行ったようです(行為2)。

 

 

 

 

加古川市は,行為1を懲戒該当事由とし,

行為2は,行為1の悪質性を裏付ける事情とした上で,

男性公務員を停職6ヶ月の懲戒処分としたところ,

男性公務員は,懲戒処分が重すぎるとして,

懲戒処分の取消を求めて裁判を起こしました。

 

 

原審の大阪高裁は,次の理由から,

停職6ヶ月の懲戒処分を取り消すと判断しました。

 

 

①女性従業員が,男性公務員から手や腕を絡められるという

身体的接触について渋々ながらも同意していたこと

 

 

②女性従業員やコンビニのオーナーが

男性公務員の処罰を望んでいないこと

 

 

③男性公務員が常習として行為1と

同様の行為をしていたとは認められないこと

 

 

④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと

 

 

これに対して,最高裁は,次の理由から,

停職6ヶ月の懲戒処分は相当であると判断しました。

 

 

①女性従業員が終始笑顔で行動し,男性公務員による

身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,

客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,

身体的接触の同意があったとは評価できないこと

 

 

 

 

②女性従業員が処罰を求めていないことは,

事情聴取の負担やコンビニの営業への悪影響を

懸念したことと考えられること

 

 

③男性公務員が以前から,行為2のような,

従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,

これを理由の一つとして退職した女性従業員がいたこと

 

 

④行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものであり,

複数の新聞で報道され,記者会見まで行われたので,

公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれ,

社会に与えた影響は決して小さいものではないこと

 

 

大阪高裁と最高裁で,結論が全く異なっていることから,

セクハラ行為に対する懲戒処分については,

どの程度の重さの処分が妥当なのかの見通しがたてにくいです。

 

 

特に,本件事件では,男性公務員が重要な役職に就いていなかったこと,

過去に懲戒処分を受けたことがないことなどの事情を考慮すると,

停職6ヶ月は重すぎると判断される余地は十分あったと思います

(停職1ヶ月程度であれば,ここまでもめなかったのではないでしょうか)。

 

 

それでも,最高裁は,停職6ヶ月を相当と判断したので,

セクハラについては,厳しく判断するということなのかもしれません。

 

 

海遊館事件の最高裁平成27年2月26日判決からも,

最高裁が,セクハラについて厳しく判断する流れにあるといえそうです

(下記のブログをご参照ください)。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201809056472.html

 

 

このように,セクハラ行為に対して,

重い懲戒処分が課せられる危険がありますので,

男性労働者は,被害者が抵抗していないから

同意があるなどと勘違いしてはならず,

セクハラ行為を絶対にしないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

2022ーこれから10年,活躍できる人の条件

神田昌典先生の「2022ーこれから10年,活躍できる人の条件

という本を読みましたので,アウトプットをします。

 

 

 

先週,福井で開催された2022全国縦断ツアーに参加してきました。

 

 

私は,2016年から毎年参加しているので,

今年で3回目の参加になります。

 

 

 

 

年初に,神田先生から,最新のビジネスの潮流を学び,

そこに集うやる気に満ちあふれた方々と交流することで,

いつも大きな刺激を受けています。

 

 

今年の2022講演で一番印象に残ったのは,

コマーシャルインサイトという言葉です。

 

 

これは,顧客に自社以外の選択肢を忘れさせるほど

購買プロセスに決定的影響力ある視点のことをいいます。

 

 

私の理解では,批判の声に耳を傾け,自分の鏡に映し出すことで,

気づいた自分の価値や強みをもとに,顧客の異なるニーズに対して,

視点を変えて商品を提供するということです。

 

 

さて,毎年新しい気づきをえられる2022講演ですが,

この講演の原点になっているのが,この本です。

 

 

歴史は70年周期で回っており,2012年から2022年の間に,

大きな歴史の転換期がくることが予想されるので,

引き継ぐべき価値観と捨てるべき価値観を見極めた上で,

日本人として,個人がどのような選択をしていくのかについて,

わかりやすく記載されています。

 

 

私が,この本の中で一番学んだことは,

神田先生が息子に伝えた3つのやるべきことです。

 

 

1つ目は,海外留学をし,英語と中国語を学ぶことです。

 

 

外国語を集中して学べるのは,20代までであり,

英語と中国語に抵抗をなくしておくために,若いうちに,

海外で生活する経験を積ませることが重要なのだと思います。

 

 

2つ目は,ボランティア体験です。

 

 

日常が大きく欠落したとき,はじめて自分を見つめ直すことができ,

欠落の中で,自分が世界で埋められるものは何かに気付かされるのです。

 

 

私は,最近,災害ボランティアにいけていないのですが,

学生の頃は,災害ボランティアをして,自分は,この世の中に対して,

何ができるのかを自問自答したことを思い出しました。

 

 

3つ目は,優秀な人材が集まる場所の空気を吸うことです。

 

 

優秀な人材が集まる場所の空気を吸うことで,

自分のセルフイメージを大きく引き上げることができ,

そのセルフイメージが未来の自分を作るのです。

 

 

朱に交われば赤くなるというように,私も,

自分よりも優秀な方々と交流していくことで,

自分が成長していったことを実感しています。

 

 

今年,私は,2児の父親になったので,

この3つについては,子供が大きくなったら,

伝授していきたいと思います。

 

 

そして,私は,この本から,人生の節目を

考えることの大切さを学びました。

 

 

人間は,7年ほどの節目で,必要な体験を

積むことを心がけるといいようです。

 

 

現在,私は,35歳で,29~35歳の時期は,探求者の時期です。

 

 

探求者とは,自分自身の強みを見出したり,

自分の専門分野を深めていく時期です。

 

 

私にあてはめてみると,弁護士の扱う分野の中でも,

労働事件を専門として深めてきました。

 

 

次の36~42歳の時期は,破壊者の時期です。

 

 

 

探求者の時期に創った自分を壊して,新しく成長していくのです。

 

 

今までの自分に固執するのではなく,

改めて自分自身のビジョンを描き直すタイミングなのです。

 

 

私は,これから破壊者の時期に突入していきますので,

これまでの自分をどう壊して,新しい自分として成長していくのかを,

模索していきたいと思います。

 

 

自己成長したいビジネスマンにとって,

大変学びになる本ですので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

1ヶ月80時間の時間外労働の固定残業代は無効です

未払残業代請求事件では,固定残業代が争点になることが多いです。

 

 

固定残業代は,大きく分けて,

残業代の支払いに代えて一定額の手当を支給する場合(手当型)や,

基本給の中に残業代を組み込んで支給する場合(組込型)があります。

 

 

 

 

おそらく,会社が,毎月,労働者の残業代を

計算するのが大変なので,定額で残業代を支払うほうが楽である

ということで,固定残業代が広がっていったのではないかと思います。

 

 

なぜ固定残業代が争点になるかといいますと,

会社の固定残業代の主張が認められるか否かで,

請求できる残業代の金額が大きく変わるからです。

 

 

すなわち,会社の固定残業代の主張が認められれば,

固定残業代は残業代の基礎賃金から外れて,

残業代は支払い済みとなり,残業代は少なくなるのに対し,

会社の固定残業代の主張が認められないと,

固定残業代が残業代の基礎賃金に組み込まれて,

基礎賃金の単価がはねあがり,残業代は未払いとなり,

残業代は多くなるのです。

 

 

さて,この固定残業代について,

労働者に有利な判決がなされたので紹介します。

 

 

イクヌーザ事件の東京高裁平成30年10月4日判決です

(労働判例1190号5頁)。

 

 

この事件では,雇用契約書には,基本給23万円のうち,

8万80000円は月間80時間の時間外労働に対する残業代

と記載されており,通常賃金部分と残業代部分とが判別されていました。

 

 

そして,原告の実際の労働時間は,

1ヶ月の時間外労働が80時間を超えることが多く,

80時間を超える時間外労働に対しては,

基本給以外に別途残業代が支払われていました。

 

 

 

 

この1ヶ月の時間外労働80時間分に相当に対する残業代を,

固定残業代として基本給に組み込んで支払うことが,

民法90条の公序良俗に違反するかが争われたのです。

 

 

公序良俗とは,公の秩序と善良な風俗のことで,

ものすごくおおざっぱに説明すると,

それをやったらだめでしょうというレベルの

社会ルールに違反することです。

 

 

公序良俗に違反すれば,無効となります。

 

 

本件事件で問題となった公序良俗とは,

1ヶ月80時間の時間外労働という過労死ラインです。

 

 

過労死の認定基準では,脳心臓疾患が発症する前2~6ヶ月間

にわたって,1ヶ月あたりおおむね80時間を超える

時間外労働が認められる場合,過労死と認定される可能性が高くなります。

 

 

 

 

そうなりますと,基本給のうちの一定額を

月間80時間分相当の時間外労働に対する

残業代とする固定残業代は,労働者に対して,

少なくとも月間80時間に近い時間外労働を

恒常的に行わせることを予定したものであり,

労働者の健康を損なう危険のあるものとして,

公序良俗に違反して無効と判断されました。

 

 

このように,固定残業代が過労死ラインの時間外労働に

対応するように設定されていた場合,

公序良俗に違反して無効になる可能性があるのです。

 

 

そのため,労働者は,会社から残業代が定額で支払われていた場合,

何時間分の時間外労働に対応するのかをチェックして,

固定残業代が1月80時間の時間外労働に対する

残業代に設定されていれば,固定残業代は無効となる可能性があり,

残業代を請求できることがあるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。