未払残業代請求の消滅時効を中断するには

未払残業代請求の相談を受けた場合,

弁護士がまず検討すべきは,

消滅時効を中断することです。

 

 

2019年2月13日時点では,労働基準法115条により,

未払残業代請求権の消滅時効は2年となっております

(将来,労働基準法の改正によって

未払残業代請求権の消滅時効が5年になる可能性があります)。

 

 

 

 

未払残業代は,何もしないで放って置くと2年で消えてしまうのです。

 

 

例えば,給料が20日締めの当月末日払いの場合,

本日2019年2月13日時点であれば,

2017年2月分から2019年2月分までの

2年間分の未払残業代を請求できます。

 

 

しかし,2019年2月28日の給料支払日を経過して,

2019年3月1日以降になってしまえば,

2017年2月分の未払残業代請求権は消滅時効にかかり,

請求できなくなり,2017年3月分以降の

未払残業代しか請求できないのです。

 

 

そこで,消滅時効を止める必要があるのです。

 

 

消滅時効を止めることを,時効を中断するといいます

(民法改正により,時効の完成の猶予となります)。

 

 

未払残業代請求で,時効を中断するには,

労働者は,会社に対して,未払残業代を請求するように催告をして,

6ヶ月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起をすればいいのです。

 

 

消滅時効を中断するための催告については,

未払残業代を請求する意思表示を明確に会社に知らせるために,

配達証明付内容証明郵便で通知するのが一般的です。

 

 

 

もっとも,内容証明郵便では,相手方が受け取らなかったり,

時間的な猶予がない場合には,特定記録郵便か,

送信リポート付きでファックス送信することもあります。

 

 

では,消滅時効を中断するための催告には,

どのようなことを書く必要があるのでしょうか。

 

 

昨日のブログで紹介したPMKメディカルラボ事件においては,

会社が,原告の通知には,請求金額やその内訳,

未払賃金の期間などが記載されていないとして,

消滅時効を中断するための催告にはあたらないと主張していました。

 

 

PMKメディカルラボ事件の東京地裁平成30年4月18日判決では,

催告とは,「債務者に対し履行を求める,債権者の意思の通知であり,

当該債権を特定して行うことが必要である」と定義し,

「債権の内容を詳細に述べて請求する必要はなく,

債務者においてどの債権を請求する趣旨か分かる程度に

特定されていれば足りる」と判断されました。

 

 

そして,原告の通知には,「賃金の未払いについて

(1)早出,休憩未取得,残業,休日出勤等に対して,

未払いである賃金を支払うこと。」という記載があり,

「資料提出について (2)過去2年間分の労働時間記録,

給料明細書のコピーを書面にて提出すること」と記載されていることから,

原告が会社に対して,原告の在籍期間のうち,

通知からさかのぼって2年間の時間外労働に対する

未払残業代の請求をしていると認められるとして,

催告にあたり,消滅時効の中断が認められました。

 

 

また,日本セキュリティシステム事件の

長野地裁佐久支部平成11年7月14日判決では

(労働判例770号98頁),

未払残業代を計算するのに必要な賃金台帳やタイムカードは

会社が所持しており,労働者が容易に計算できないことから,

消滅時効の中断の催告としては,

具体的な金額及びその内訳について明示することまで

要求するのは酷に過ぎ,請求者を明示し,

債権の種類と支払期を特定して請求すれば,

時効中断のための催告としては十分である」と判断されました。

 

 

よって,消滅時効を中断するための催告としては,

「~年~月から~年~月までの残業代を含む全ての

未払い賃金を請求します。」と記載して,

会社に通知すればいいのです。

 

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業代計算の基礎賃金に含まれる賃金とは?

労働者が未払残業代を請求する場合,

残業代を計算しなければなりません。

 

 

残業代の計算方法は,次のとおりです。

 

 

 

 

残業代=時間単価×残業した時間×割増率

 

 

このうち,時間単価は次のようにして計算します。

 

 

時間単価=月によって定められた賃金÷月平均所定労働時間

 

 

賃金にはどこまでが含まれるのか,

月平均所定労働時間をどうやって計算するのか,

残業した時間をどうやって特定するか,

割増率が時間外労働,深夜労働,休日労働で異なっていることから,

はっきり言って,残業代の計算は面倒です。

 

 

残業代の計算は面倒なのですが,

会社に対して残業代を請求するには,

これらのことに対応していかなければなりません。

 

 

本日は,残業代請求における時間単価を計算するための

基礎となる賃金にはどこまでが含まれるのかについて解説します。

 

 

これは,給料明細に記載されている賃金の各項目のうち,

どこまでが基礎賃金に含まれて,

どれが除外されるのかという問題です。

 

 

 

まず,労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条において,

基礎賃金から除外されるものが記載されています。

 

 

①家族手当

 ②通勤手当

 ③別居手当

 ④子女教育手当

 ⑤住宅手当

 ⑥臨時に支払われた賃金(結婚手当など)

 ⑦一ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 

 

個人的事情に応じて支払われ,

労働の内容や量との関連性が弱い賃金,

または,計算技術上算定が困難である賃金について,

基礎賃金から除外することにしているのです。

 

 

この7つの除外賃金に該当するか否かは,

その名称によらずに,実質的に判断されます。

 

 

例えば,⑤住宅手当ですが,基礎賃金から除外されるのは,

住宅に要する費用に応じて算定される手当のことです。

 

 

 

 

名称は住宅手当であっても,実際には,

住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの,

住宅以外の要素に応じて定率または定額で支給するとされているもの,

全員に一律に定額で支給されているものは除外されません。

 

 

昨日のブログで紹介したPMKメディカルラボ事件では,

住宅手当が除外賃金にあたるかも争われたのですが,

この事件の住宅手当は,労働者が親族から家賃補助を受けておらず,

自分名義で契約したアパートに居住している場合に,

労働者の住宅が存在する地域や最寄り駅からの距離に応じて

支給されていることから,住宅手当は除外賃金にあたるとされました。

 

 

また,PMKメディカルラボ事件では,業績給が

⑥臨時に支払われた賃金にあたるかについても争われました。

 

 

⑥臨時に支払われた賃金とは,

支給条件が確定されているのですが,

支給事由の発生が労働と直接関係のない個人的な事情により

まれに生ずる賃金をいいます。

 

 

PMKメディカルラボ事件の業績給は,

店舗ごとの売上目標を達成するという条件が成就した場合に

支給されていたので,支給事由の発生が不確実なものといえ,

⑥臨時に支払われた賃金といえ,除外賃金にあたるとされました。

 

 

PMKメディカルラボ事件では,住宅手当と業績給は

除外賃金にあたるとされましたが,手当の名称にとらわれずに,

手当の支給実績などを検討すると,実質的には除外賃金にあたらず,

基礎賃金にふくめられるときもあります。

 

 

そのため,労働者は,未払残業代を計算するときには,

給料明細に記載されている各手当がどのような支給基準に基づいて,

実際に支給されているのかをチェックするべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

就業規則の周知とは?

昨日に引き続き,PMKメディカルラボ事件から

(東京地裁平成30年4月18日判決・労働判例1190号39頁),

就業規則の周知について解説していきます。

 

 

まず,労働契約法7条により,合理的な労働条件が定められている

就業規則が労働契約締結時点ですでに存在し,

会社がそれを労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容は,

その就業規則で定める労働条件によることになります。

 

 

 

 

労働条件通知書や労働契約書がなくても,

就業規則によって,労働契約の内容が決められるのです。

 

 

就業規則に記載されている労働条件が,

労働契約の内容になるためには,

就業規則が労働者に周知されていなければなりません。

 

 

ここでいう周知とは,実質的に見て事業場の労働者集団に対して

当該就業規則の内容を知りうる状態に置いていたことをいい,

実際に,労働者が就業規則を見る必要はないのです。

 

 

それでは,会社が,どのようなことをしていれば,

就業規則を実質的に周知したといえるのでしょうか。

 

 

 

PMKメディカルラボ事件では,会社は,毎年1回,

労働者1名に就業規則を閲覧してもらい,

承諾書に署名押印してもらっていました。

 

 

その承諾書には,「私は貴社の従業員として勤務するにあたり,

就業規則や賃金規定が所定の場所(本社)にあり,

いつでも本社内で閲覧ができ,要請があれば

各店舗に郵送できる状態にあることを確認しました。」

と記載されていました。

 

 

しかし,承諾書に署名押印する労働者を

どのように選任したのか不明であり,

承諾書に署名押印した労働者が,

各店舗の店長や労働者に対して,

どのように周知するのかが不明でした。

 

 

PMKメディカルラボ事件では,

本店の総務部に就業規則は備え置かれていましたが,

各店舗には備え置かれておらず,各店舗の店長に申し出れば,

いつでも就業規則を閲覧することができる取扱になっていたようですが,

原告は,店長からこの取扱について説明を受けておらす,

就業規則の存在も知らない上に,実際にこの取扱のとおりに,

就業規則を各店舗に郵送して閲覧された実績がないことから,

この取扱によって就業規則の周知があったとはいえませんでした。

 

 

その結果,就業規則に記載された労働条件は,

労働契約の内容にならないため,

会社が主張する固定残業代は認められず,

労働者の未払残業代請求が認められたのです。

 

 

会社が就業規則をどのように周知させていたかについては,

労働者が把握しにくいところです。

 

 

 

 

労働者が就業規則を見たことがなかったとしても,

会社から,実はここにいつでも閲覧できるようにしてありましたよ

と言われれば,労働者としては,過去にその場所を探したけれども

就業規則はなかったことを証明するのは難しいと考えます。

 

 

このように,就業規則が周知されていたかが争われるのが珍しい中,

PMKメディカルラボ事件では,

各店舗に就業規則が備え置かれていないことに争いがなく,

上記の取扱についての説明がなく,実績がなかったことから,

就業規則の周知が否定された貴重な裁判例です。

 

 

労働基準法施行規則52条の2によれば,

就業規則の周知方法の1つとして,

常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること

と記載されています。

 

 

そこで,本店には就業規則が備え置かれているけど,

支店には就業規則が備え置かれていない場合には,

就業規則の周知がされていないとして,

争うことが十分に可能なのだと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働契約の内容はどうやって決まるのか

長時間労働をしているにもかかわらず,

残業代が支払われないことから,労働者が,

会社に対して,未払残業代を請求しました。

 

 

すると,会社からは,会社説明会や入社説明会で,

うちは固定残業代を採用しているという説明をしているし,

就業規則や賃金規定にも固定残業代のことが規定されているから,

残業代は支払わなくていいのだという説明をされたとします。

 

 

固定残業代とは,残業代が,すでに給料の中に組み込まれていたり,

別の手当として支給されているものであり,これが適法に認められると,

残業代はすでに支払い済みとなってしまいます。

 

 

 

 

労働者は,入社する前に固定残業代のことを聞いた覚えもなく,

就業規則を見たことがなく,納得できません。

 

 

ここでは,入社のときに,どの程度の説明があれば,

労働契約の内容となるのか,

就業規則が周知されていたのかが問題となります。

 

 

本日は,これらの問題点が争われた

PMKメディカルラボ事件を紹介します

(東京地裁平成30年4月18日判決・労働判例1190号39頁)。

 

 

この事件では,エステティシャンの原告が

会社に未払残業代を請求したところ,会社は,

会社説明会や入社説明会で固定残業代について説明しており,

固定残業代は労働契約の内容になっていたと主張してきました。

 

 

 

 

しかし,原告が,会社説明会での会社からの説明をメモしており,

そのメモには,固定残業代についての記載がなく,

原告が保管していた入社説明会で配布された資料にも

固定残業代についての説明が記載されていませんでした。

 

 

さらに,会社は,労働条件通知書や労働契約書を作成しておらず,

原告が退職するころに,ホームページの採用情報に

固定残業代の説明を掲載しました。

 

 

これらの事実関係から,原告が入社するときに,

固定残業代の説明がされておらず,

固定残業代が契約の内容になっていないと判断されました。

 

 

労働基準法15条1項において,会社は,

労働契約を締結する際に,労働者に対して,

労働条件を明示しなければならず,通常は,

労働条件通知書や労働契約書に記載されている内容が,

労働契約の内容になることがほとんどです。

 

 

ところが,労働条件通知書や労働契約書が作成されておらず,

どのような労働契約の内容だったのかが争点になることがあり,

その際には,会社説明会や入社説明会における説明内容や資料が

重要な証拠になります。

 

 

また,求人票も,労働契約の内容を見極める上で,

貴重な証拠となります。

 

 

 

 

労働者は,入社したときに,労働条件通知書や労働契約書を

もらえなかった場合,後日のトラブルに備えて,

会社説明会や入社説明会の資料やメモ,求人票

などの証拠を確保しておくといいでしょう。

 

 

長くなりましたので,就業規則の周知については,明日以降記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

企画業務型裁量労働制の争い方3~労働者の同意を活用する~

昨日のブログでは,企画業務型裁量労働制の

手続的要件を争うポイントとして,

労使委員会の設置や決議について解説しました。

 

 

本日は,昨日に引き続き,企画業務型裁量労働制の争い方のうち,

手続的要件を争う方法の続きについて説明します。

 

 

 

 

昨日も述べましたが,労使委員会は,

次の7つの項目について決議します。

 

 

①対象業務

 ②対象労働者の範囲

 ③1日のみなし労働時間

 ④健康及び福祉確保措置

 ⑤苦情処理措置

 ⑥労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止

 ⑦決議有効期間,記録保存期間

 

 

このうち,特に重要なのが,③1日のみなし労働時間です。

 

 

例えば,毎日11時間ほど残業しているにもかかわらず,

1日のみなし労働時間が8時間とされてしまえば,

企画業務型裁量労働制が導入されていないのであれば,

8時間を超える3時間分の残業代を請求できるのですが,

この3時間分の残業代を請求できなくなってしまいます。

 

 

そのため,労働者が長時間労働をしているのに,

みなし労働時間が実態の労働時間よりも短く設定されてしまうと,

労働者は,残業代を減額されてしまうのです。

 

 

労使委員会では,対象業務の内容を十分検討するとともに,

対象労働者に適用される評価制度及び賃金制度について,

会社から十分な説明を受け,みなし労働時間が,

実態に見合った水準になるように決議する必要があります。

 

 

裁量労働制は,実際の労働時間のいかんにかかわらず,

一定の時間労働したものとみなされるので,

会社が残業代削減,残業隠しのために濫用する危険があります。

 

 

労働者が過大な目標を背負わされてしまい,

目標を達成するために,長時間労働を強いられてしまい,

肉体的・精神的ストレスによる身体の不調が生じ,

最悪の場合には,過労死や過労自殺に追い込まれる危険があります。

 

 

 

 

会社には,裁量労働制のもとでも,

労働者に対する安全配慮義務を負っていることから,

タイムカードなどによって実際の労働時間を把握し,

業務の目標などの基本的事項を適切に設定することが求められます。

 

 

次に,⑥労働者の同意を要すること,

不同意労働者への不利益取扱の禁止について,説明します。

 

 

労働者の同意は,労働者にとって強力な武器です。

 

 

労働者は,企画業務型裁量労働制の適用について,

個別具体的な同意をしなければ,

企画業務型裁量労働制を適用されないのです。

 

 

すなわち,労働者は,企画業務型裁量労働制の適用に対して,

自由に諾否を選択・決定できるのです。

 

 

この同意は,就業規則や入社時の労働契約書の条項などの

事前の包括的な同意ではだめで,

企画業務型裁量労働制を適用するタイミングで,

労働者から個別に取得する必要があります。

 

 

労働者が,企画業務型裁量労働制の適用に同意しなかったとしても,

会社は,そのことを理由に,同意をしなかった労働者に対して,

解雇・配転・降格などの不利益な取扱をすることが禁止されています。

 

 

さらに,労働者が,一度,企画業務型裁量労働制の適用に

同意しても,後から撤回することができます。

 

 

 

 

そのため,労働者としては,残業代が少なくなる上に,

長時間労働をさせられるのは嫌だと思えば,

企画業務型裁量労働制の適用に同意しなければよく,

一度,同意しても,後から同意を撤回すれば,

企画業務型裁量労働制が適用されない,

普通の働き方に戻ることができるのです。

 

 

以上,3回にわたって企画業務型裁量労働制について

解説してきましたが,企画業務型裁量労働制は,

労働基準法において要件が厳格に制限されていて,

大企業でも違法に適用していることもあるので,

労働者は,企画業務型裁量労働制が労働基準法の

要件をちゃんと満たしているのかをチェックし,また,

企画業務型裁量労働制の適用について,同意しなかったり,

同意を撤回することで,適用を免れることができます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

企画業務型裁量労働制の争い方2~労使委員会~

昨日のブログでは,企画業務型裁量労働制の争い方として,

対象業務や対象労働者の要件が厳格に規定されているので,

対象業務や対象労働者に該当するかを

しっかりとチェックしましょうと記載しました。

 

 

 

 

本日は,昨日に引き続き,企画業務型裁量労働制の争い方のうち,

手続的要件を争う方法について解説します。

 

 

企画業務型裁量労働制を導入するためには,会社に,

労使委員会を設置して,法律で定められた7つの項目について,

労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決で決議し,

かつ,そのその決議内容を労働基準監督署へ届け出る必要があります

(労働基準法38条の4)。

 

 

労使委員会とは,賃金,労働時間その他の当該事業場における

労働条件に関する事項を調査審議し,事業主に対し

当該事項について意見を述べることを目的とする機関です。

 

 

労使委員会は,労働者側の委員と会社側の委員で

構成されているのですが,労働者側の委員は,

労働組合か労働者代表者から任期を定めて指名を受けた者

である必要があり,労使委員会の委員の半数以上を占める必要があります。

 

 

労使委員会の労働者側の委員が適正に選出されていなければ,

労使委員会の決議が無効となり,

企画業務型裁量労働制が無効になる可能性があるのです。

 

 

 

 

労使委員会の開催の都度,議事録が作成されなければならず,

議事録は3年間保存されなければならず,

その議事録は,労働者に周知されなければなりません。

 

 

議事録の労働者に対する周知がされていなければ,

労使委員会の決議が無効になる可能性があります。

 

 

そして,企画業務型裁量労働制の対象労働者に不利益にならないように,

労使委員会において決議を適切に行うためには,

労働者側委員に対して,その判断の基礎となる

十分な情報提供がされなければなりません。

 

 

そのため,会社は,労働者側委員に対し,

対象労働者に適用される評価制度及び賃金制度の内容を十分に説明し,

対象業務の具体的内容,実施状況に関する情報として

対象労働者の勤務状況,健康福祉確保措置の実施状況,

対象労働者からの苦情の内容及び処理状況など,

労働基準監督署への報告の内容を開示すべきなのです。

 

 

 

 

その上で,労使委員会は,次の7つの項目について決議します。

 

 

①対象業務

②対象労働者の範囲

③1日のみなし労働時間

④健康及び福祉確保措置

⑤苦情処理措置

⑥労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止

⑦決議有効期間,記録保存期間

 

 

そもそも,労働者には,労使委員会の設置に

応じなければならない義務はありませんので,

企画業務型裁量労働制の導入に反対する場合には,

労使委員会の設置に応じなければよいのです。

 

 

また,労使委員会が設置されたとしても,

労使委員会の委員の5分の4の多数による議決が必要なので,

労働者側の委員は,会社からの説明を聞いて,

労働者にとってデメリットが大きいと判断すれば,

遠慮なく,ノーと言えばいいのです。

 

 

 

 

そうすれば,労使委員会の委員の5分の4以上の議決は得られず,

企画業務型裁量労働制の導入を阻止することができるのです。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制は,

労働者がはっきりとノーと言えば,

導入を防止することが十分可能な制度なのです。

 

 

長くなりましたので,続きは,また明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

企画業務型裁量労働制の争い方

企画の仕事をしている労働者が裁量労働制を適用されていて,

業務量が多く,毎日遅くまで残業をさせられていたとします。

 

 

 

 

そのうえ,休日もとれず,労働者としては,

裁量が与えられているとはとても思えず,

裁量労働制が適法に運用されているのか疑問に思えます。

 

 

裁量労働制を適用された労働者は,

このような疑問を抱くことが多いと思います。

 

 

そこで,本日は,企画業務型裁量労働制の

争い方について解説します。

 

 

労働基準法38条の4で定められている企画業務型裁量労働制とは,

事業運営上の重要な決定が行われる企業の

本社・本店等の中枢部門における,

企画,立案,調査及び分析の業務を行う事務系労働者であって,

業務の遂行手段や時間配分などを自らの裁量で決定し,

会社から具体的な指示を受けない者を対象とした裁量労働制です。

 

 

企画業務型裁量労働制が適法に適用されれば,

労働者が実際にどれだけ働いても,

労使協定で定められたみなし時間しか働いていないことになります。

 

 

例えば,労使協定で定められたみなし時間が8時間の場合,

実際には11時間働いたとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

法定労働時間である8時間を超える

3時間分の残業代は支払われないことになるのです。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制は,どれだけ働いても,

労使協定で定められたみなし時間しか働いていないことになり,

労働者の残業代請求が制限され,

長時間労働を招くリスクがあることから,

要件が厳格に定められています。

 

 

企画業務型裁量労働制の対象業務は,

次の3つの要件を備える必要があります。

 

 

まずは,①事業の運営に関する事項についての

企画,立案,調査及び分析の業務という要件です。

 

 

 

 

これは,企業経営の動向や業績に

大きな影響を及ぼす事項に限定され,

実態の把握,問題点の発見,課題の設定,

情報・資料の収集・分析,解決のための

企画,解決案の策定などを一体・一連の

ものとして行う業務のことです。

 

 

ようするに,社長室など社長や役員直属の

中枢的な企画セクションなどに限られ,

「企画」や「調査」という名称がついた

部署の業務のすべてが該当するわけではなく,

補助的・定型的な業務や単なる書類作成業務は

対象業務に含まれません。

 

 

次に,②当該業務の性質上これを適切に遂行するには

その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に

ゆだねる必要がある業務という要件です。

 

 

これは,業務の客観的性質として,

当該労働者にあれこれ指示を出すことがかえってマイナスであり,

本人の自律性や創意工夫に任せた方が良いことが

常識的に見て誰にも明らかな業務のことです。

 

 

最後に,③当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定などに関し

会社が具体的な指示をしないこととする業務という要件です。

 

 

いつ,どのように行うかなどについての

広い裁量が労働者に認められている業務のことです。

 

 

時間配分の決定について,労働者が裁量を有し,

現にこれを発揮できる業務でなければならないので,

業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には,

時間配分の決定に関する労働者の裁量が事実上失われることになるので,

この要件を満たさないことになります。

 

 

 

 

また,対象業務を行う労働者は,

対象業務を適切に遂行するための知識,

経験などを有する労働者であり,

対象業務に常態として従事している者でなければなりません。

 

 

そのため,大学の学部を卒業した労働者であって

全く職務経験がない者は,対象労働者とはいえず,

少なくとも3年ないし5年程度の

職務経験を得た者である必要があります。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制の対象業務と対象労働者については,

厳格な要件が定められているので,自分の行っている仕事が本当に,

これらの要件を全て満たしているのかをチェックしてみてください。

 

 

おそらく,これらの要件のうちのどこかに

ひっかかることが多いのではないかと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

変形労働時間制を争う方法

労働者が会社に対して,未払残業代を請求すると,

会社から,うちは変形労働時間制を採用しているので,

労働者の残業代の計算方法は誤っている

という反論をしてくることがあります。

 

 

会社から,変形労働時間制の反論をされた場合,

労働者は,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

変形労働時間制とは,一定の期間(1ヶ月以内,1年以内または1週間)

につき,1週間当たりの平均所定労働時間が

法定労働時間を超えない範囲内で,

1週または1日の法定労働時間を超えて

労働させることを可能とする制度です。

 

 

 

 

所定労働時間とは,労働契約で決められた勤務時間のことで,

法定労働時間とは,労働基準法で定められた1日8時間,

1週間40時間の労働時間のことで,

法定労働時間を超えると残業代が発生します。

 

 

変形労働時間制であれば,1週間あたりの所定労働時間が

40時間以内に定められていれば,

予め所定労働として特定された日や週の

特定された時間の範囲で1日8時間,1週間40時間

を超えた労働について,会社は残業代を支払わなくてよくなります。

 

 

例えば,1週間のうち1日は9時間働き,

別の1日は7時間働き,1週間で40時間の範囲内に収まっていれば,

1日9時間働いたうちの1時間分の残業について,

会社は残業代を支払わなくてよくなるのです。

 

 

なぜ,変形労働時間制ができたのかといいますと,

労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し,

業務の繁閑に応じた労働時間の配分を行うことによって

労働時間を短縮するためです。

 

 

 

 

変形労働時間制は,あくまで,労働時間を短縮することを

目的としているのであり,決して,法定労働時間を超えて

労働させることや残業代を支払わないための

手段としてはいけないのです。

 

 

労働基準法32条の2において,

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するには,

労使協定や就業規則などで,次の事項を定めて,

労働者に周知しなければなりません。

 

 

①変形期間(1ヶ月以内の一定期間)及びその起算日

 ②変形期間における各日,各週の労働時間と各日の始業及び終業時刻

 

 

会社が,この要件を満たしていなければ,

変形労働時間制は無効になるので,労働者は,

会社から労使協定や就業規則を開示してもらい,

特に②変形期間の労働日と労働時間が

特定されているのをチェックします。

 

 

大星ビル管理事件の最高裁平成14年2月28日判決では,

就業規則などにおいて,変形労働期間の各日,

各週の所定労働期間を具体的に特定する必要があると判断されました。

 

 

そのため,就業規則に「勤務時間については変形労働時間制とし,

個別に定める」と規定されているだけでは,

変形労働期間の各日,各週の所定労働期間が

具体的に特定されておらず,変形労働時間制は無効となります。

 

 

勤務割表で所定労働期間を特定する場合には,

就業規則において各勤務の始業・終業時刻及び

各勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続きや周知方法を定めて,

各日の勤務割は,それに従って,

変形期間開始までに具体的に特定しておけば足りることになります。

 

 

私の経験上,地方の中小企業において,

変形労働時間制の労働時間の特定を適法に定めているところは少なく,

変形労働時間制が無効になる可能性が多いと感じています。

 

 

そのため,労働者は,会社から,

うちは変形労働時間制を採用しているので,

そんなに多くの残業代を支払わなくてもいいのだと主張されたとしても,

労使協定や就業規則を見た上で,

各日,各週の労働時間が具体的に特定されているのかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職金制度の廃止

以前は,退職金規定があり,実際に退職した労働者に対して,

退職金が支払われていたので,自分も退職金が支払われると

考えていたところ,労働者の知らない間に,

退職金規定が廃止されていたため,会社から,

退職金規定が廃止されるまでの退職金は支払うが,

退職金規定が廃止されてからの退職金は支払わない

と言われてしまいました。

 

 

退職金を老後の資金と考えていた労働者は,とても困ります。

 

 

 

 

このように,退職金規定を廃止することは認められるのでしょうか。

 

 

退職金規定は,通常,就業規則の一部と捉えられており,

退職金規定を廃止することは,退職金の支給がなくなることを意味し,

労働者にとって不利益ですので,就業規則の変更によって

労働条件を不利益に変更することになります。

 

 

就業規則を変更して労働条件を不利益に変更するためには,

変更後の就業規則を労働者に周知させて,かつ,

就業規則の変更が合理的なものであることが必要です。

 

 

就業規則の変更が合理的なものといえるかについては,

①労働者の受ける不利益の程度,

②労働条件の変更の必要性,

③変更後の就業規則の内容の相当性,

④労働組合との交渉の状況

などを考慮して決められます。

 

 

 

退職金規定が廃止される場合,

①労働者は,退職金規定が廃止されてしまえば,

それ以降,退職金が支給されなくなってしまい,

老後の資金を確保できず,不利益が大きいといえます。

 

 

②労働条件の変更の必要性については,経営悪化などから,

人件費削減が必要だったのかが検討されますが,

賃金や退職金など労働者にとって

重要な労働条件を不利益に変更するには,

そのような不利益を労働者に法的に受任させることを

許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである

ことが求められます。

 

 

そのため,退職金規定を廃止する場合,

単に経営が悪化したという理由だけではだめで,

経営改善のためにどのようなことがされたかが

検討される必要があります。

 

 

③変更後の就業規則の内容の相当性については,

不利益を被る労働者に対して,

代償措置がとられたかが重要となります。

 

 

退職金規定を廃止する場合には,

退職金に変わる給付金を労働者に支給するか,

現在働いている労働者の退職金だけは保証するなどの

代償措置が考えられます。

 

 

退職金規定の廃止について,代償となる労働条件を

何も提供していないとして,退職金規定の廃止を認めなかった

御國ハイヤー事件の最高裁昭和58年7月15日判決があります。

 

 

④労働組合との交渉の状況については,労働組合に,

変更によって不利益を被る労働者が含まれており,

その労働者を含む総意として労働組合が会社との間で交渉をした場合

初めて,労使間の利益調整の結果が尊重されることになります。

 

 

まとめますと,退職金規定を廃止するには,

労働者の被る不利益が大きいので,高度な必要性が求められ,

何も代償措置がない場合には,退職金規定の廃止は認められず,

労働者は,廃止前の退職金規定に基づいて,

退職金を請求することができるのです。

 

 

 

 

退職金規定が廃止された場合には,

退職金規定の廃止についてどのような必要性があったのか,

代償措置として何があったのか,

労働組合や労働者に対してどのような説明があったのか

を検討するようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

降格の対処法2

昨日に引き続き,降格された場合の

労働者の対処法について説明します。

 

 

 

会社の人事権の行使としてなされる降格は,

①職位・役職を引き下げる場合,

②職能資格等級を引き下げる場合,

③職務等級を引き下げる場合

の3つに分かれます。

 

 

①職位・役職を引き下げる場合については,

昨日のブログで説明しましたので,本日は,

②職能資格等級を引き下げる場合,

③職務等級を引き下げる場合の2つについて説明します。

 

 

まず,②職能資格を引き下げる場合です。

 

 

職能資格制度とは,会社における職務遂行能力を

職掌として大くくりに分類したうえ,

各職掌における職務遂行能力を資格とその中での

ランク(級)に序列化したものをいいます。

 

 

勤続年数が長くなれば,それだけ職務を遂行する能力が

高いとされているため,年功序列や終身雇用を前提にした等級制度です。

 

 

 

職能資格制度でいう職務遂行能力は,

勤続によって蓄積されていくことが暗黙の前提とされているため,

いったん蓄積された能力が下がることは想定されておらず,

資格等級の引下げは基本給の低下をもたらすことから,

労働者の同意があるか,もしくは就業規則上,

会社に資格等級の引下げの権限が明確に

与えられている場合に限り可能となります。

 

 

就業規則の規定に基づかずに,会社の裁量権を理由にして

一方的に資格等級を引下げて降格,減給をすることはできないのです。

 

 

また,就業規則に降格の根拠規定があっても,

降格が権利の濫用にあたれば,降格は無効となります。

 

 

権利の濫用の判断においては,降格による減給の金額や

労働者の勤務態度などが検討されます。

 

 

次に,③職務等級を引き下げる場合です。

 

 

職務等級制度とは,労働者の職務遂行能力

(勤務年数によって蓄積された能力)ではなく

職務内容に着目する制度であり,会社内の職務を

職責の内容・重さに応じて等級(グレード)に分類・序列化し,

等級ごとに賃金額の最高値・中間値・最低値による

給与範囲(レンジ)を設定するものです。

 

 

仕事のみで賃金や働きぶりを評価するもので,

資格や熟練度などの項目で審査・評価し

賃金や報酬を支給する制度です。

 

 

成果主義型に近い賃金制度です。

 

 

 

 

職務等級制度では,もともと職務等級の変更が予定されていることから,

職務等級の引下げも,当該制度の枠組みのなかでの

人事評価の手続と決定権に基づき行われるかぎり,

原則として会社の裁量に委ねられ,

権利の濫用となる場合に,違法となるのです。

 

 

職務等級を引き下げる場合においても,

就業規則における明示的な根拠規定が必要であり,

労働契約上,職務が特定されている場合には,

降格させることはできません。

 

 

また,降格を行うべき業務上の必要性,

賃金減額の幅や程度など労働者の不利益の程度をふまえて,

人事評価制度自体の合理性・相当性・公平性などを検討して,

権利の濫用となるかを判断します。

 

 

さて,降格には様々な種類があるのですが,

労働者としては,降格が何を根拠にしているのかをチェックし,

降格による賃金の減額がいくらくらいになるのか,

降格をされたことについて自分に責任があるのかなどを検討します。

 

 

その上で,降格に納得できない場合には,

弁護士に早めに相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。