ヤマハの英語講師は労働組合法上の労働者なのか?
朝日新聞の報道によれば,
ヤマハミュージックジャパンが運営する
英語教室で働く女性講師14人が労働組合を結成し,
会社に対して,待遇改善を求める団体交渉を申し入れたようです。
https://www.asahi.com/articles/ASM1N56MDM1NPTIL00G.html
ヤマハの英語講師は,ヤマハと労働契約ではなく
委任契約を締結しており,形式上は個人事業主となっているようで,
社会保険が適用されておらず,
残業代の支払いがなく,有給休暇もないようです。
このように,実態は労働者なのですが,
会社は,労働者であると認めれば,労働基準法に従い,
残業代を支払い,有給休暇を取得させなければならず,
社会保険料も負担しなければならないので,
これらの負担を免れるために,形式的に
委任契約や代理店契約,業務委託契約を締結していることがあります。
このような事件では,形式的に委任契約等を締結している者が
「労働者」といえるかどうかが争点となります。
そして,「労働者」には,
労働基準法9条に定められている「労働者」と,
労働組合法3条に定められている「労働者」があります。
ヤマハの英語講師の問題は,
労働組合法3条の「労働者」に該当するかという問題であり,
労働組合法3条の「労働者」に該当すれば,会社は,
労働組合との間で誠実に団体交渉を行う義務を負うことになります。
では,労働組合法3条の「労働者」といえるためには,
どのような要素を満たす必要があるのでしょうか。
労働組合法3条には,「労働者」とは,
「賃金,給料その他これに準ずる収入によって生活する者」
と定義されており,会社から使用されていることが
要件となっていないため,失業者も含まれる点において,
労働基準法9条の「労働者」よりも広い概念なのです。
そして,労働組合法3条の「労働者」は,
自分の労働力を提供して対価を得て生活しているため,
会社との個別の交渉において交渉力に格差が生じていることから,
労働組合を結成し,集団的な交渉による保護が図られるべき者が
幅広く含まれる必要があります。
そこで,以下の要素をふまえて総合的に判断されます。
1 基本的判断要素
①事業組織への組み入れ
(業務遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されており,
労働力の利用をめぐり団体交渉によって問題を解決すべき関係があること)
②契約内容の一方的・定型的決定
(労務提供者側に団体交渉による保護を保障すべき交渉力格差があること)
③報酬の労務対価性
2 補充的判断要素
④業務の依頼に応ずべき関係
(労働力の処分権を契約の相手方に委ねているかどうか)
⑤広い意味での指揮監督下の労務提供,一定の時間的・場所的拘束
(人的従属性を推認させ,労働者性を肯定する方向に働く)
3 消極的な判断要素
⑥顕著な事業者性
(事業組織からの独立性や契約内容等の交渉可能性等を推認させる事情)
以上の要素をヤマハ英語教室にあてはめてみます。
まず,①英語教室では英語講師がいないと授業ができませんので,
ヤマハの英語講師は,ヤマハ英語教室の業務遂行に
不可欠な労働力として組織に組み入れられているといえます。
次に,②ヤマハと英語講師の委任契約の内容はわかりませんが,
おそらく定型的な契約様式が使用されており,
ヤマハが一方的に契約内容を決定していることが予想されます。
③英語講師は,レッスンの回数などに応じて
報酬が決められていると思われ,
報酬はレッスンの対価といえそうです。
④英語講師は,ヤマハからレッスンの依頼を断れば,
自分の報酬が減り,生活が苦しくなるので,
ヤマハからの仕事の依頼を拒否することはないと考えられます。
⑤英語講師は,ヤマハの指定する教室で,
ヤマハの教材を使うように指示されており,
ヤマハの指揮監督下にあるといえそうです。
⑥英語講師は,他人の労働力を利用できず,
自分の才覚で利得する機会があるといえず,
個人事業主とは評価できないと考えられます。
以上より,ヤマハの英語講師は,
労働組合法3条の「労働者」に該当すると考えられます。
ヤマハが英語講師の組合との団体交渉に誠実に対応し,
英語講師の待遇改善がなされることを期待したいです。
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