ヤマハの英語講師は労働組合法上の労働者なのか?

朝日新聞の報道によれば,

ヤマハミュージックジャパンが運営する

英語教室で働く女性講師14人が労働組合を結成し,

会社に対して,待遇改善を求める団体交渉を申し入れたようです。

 

https://www.asahi.com/articles/ASM1N56MDM1NPTIL00G.html

 

 

ヤマハの英語講師は,ヤマハと労働契約ではなく

委任契約を締結しており,形式上は個人事業主となっているようで,

社会保険が適用されておらず,

残業代の支払いがなく,有給休暇もないようです。

 

 

このように,実態は労働者なのですが,

会社は,労働者であると認めれば,労働基準法に従い,

残業代を支払い,有給休暇を取得させなければならず,

社会保険料も負担しなければならないので,

これらの負担を免れるために,形式的に

委任契約や代理店契約,業務委託契約を締結していることがあります。

 

 

このような事件では,形式的に委任契約等を締結している者が

「労働者」といえるかどうかが争点となります。

 

 

 

そして,「労働者」には,

労働基準法9条に定められている「労働者」と,

労働組合法3条に定められている「労働者」があります。

 

 

ヤマハの英語講師の問題は,

労働組合法3条の「労働者」に該当するかという問題であり,

労働組合法3条の「労働者」に該当すれば,会社は,

労働組合との間で誠実に団体交渉を行う義務を負うことになります。

 

 

では,労働組合法3条の「労働者」といえるためには,

どのような要素を満たす必要があるのでしょうか。

 

 

労働組合法3条には,「労働者」とは,

「賃金,給料その他これに準ずる収入によって生活する者」

と定義されており,会社から使用されていることが

要件となっていないため,失業者も含まれる点において,

労働基準法9条の「労働者」よりも広い概念なのです。

 

 

そして,労働組合法3条の「労働者」は,

自分の労働力を提供して対価を得て生活しているため,

会社との個別の交渉において交渉力に格差が生じていることから,

労働組合を結成し,集団的な交渉による保護が図られるべき者が

幅広く含まれる必要があります。

 

 

そこで,以下の要素をふまえて総合的に判断されます。

 

 

1 基本的判断要素

 

 

①事業組織への組み入れ

(業務遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されており,

労働力の利用をめぐり団体交渉によって問題を解決すべき関係があること)

 

 

②契約内容の一方的・定型的決定

(労務提供者側に団体交渉による保護を保障すべき交渉力格差があること)

 

 

③報酬の労務対価性

 

 

2 補充的判断要素

 

 

④業務の依頼に応ずべき関係

(労働力の処分権を契約の相手方に委ねているかどうか)

 

 

⑤広い意味での指揮監督下の労務提供,一定の時間的・場所的拘束

(人的従属性を推認させ,労働者性を肯定する方向に働く)

 

 

3 消極的な判断要素

 

 

⑥顕著な事業者性

(事業組織からの独立性や契約内容等の交渉可能性等を推認させる事情)

 

 

以上の要素をヤマハ英語教室にあてはめてみます。

 

 

 

まず,①英語教室では英語講師がいないと授業ができませんので,

ヤマハの英語講師は,ヤマハ英語教室の業務遂行に

不可欠な労働力として組織に組み入れられているといえます。

 

 

次に,②ヤマハと英語講師の委任契約の内容はわかりませんが,

おそらく定型的な契約様式が使用されており,

ヤマハが一方的に契約内容を決定していることが予想されます。

 

 

③英語講師は,レッスンの回数などに応じて

報酬が決められていると思われ,

報酬はレッスンの対価といえそうです。

 

 

④英語講師は,ヤマハからレッスンの依頼を断れば,

自分の報酬が減り,生活が苦しくなるので,

ヤマハからの仕事の依頼を拒否することはないと考えられます。

 

 

⑤英語講師は,ヤマハの指定する教室で,

ヤマハの教材を使うように指示されており,

ヤマハの指揮監督下にあるといえそうです。

 

 

⑥英語講師は,他人の労働力を利用できず,

自分の才覚で利得する機会があるといえず,

個人事業主とは評価できないと考えられます。

 

 

以上より,ヤマハの英語講師は,

労働組合法3条の「労働者」に該当すると考えられます。

 

 

 

 

ヤマハが英語講師の組合との団体交渉に誠実に対応し,

英語講師の待遇改善がなされることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

試用期間の途中の解雇の有効性

労働者が会社に就職する場合,

試用期間が設定されることがあります。

 

 

会社としては,長期的な雇用関係を前提とする

正社員を採用する際には,入社後の一定期間を試用期間として,

その間に実際に労働させる中で適性を評価して

本採用するかどうかを決定することが多いです。

 

 

 

 

通常,試用期間中の労働契約については,

試用期間の労働者の適性をみたうえで本採用をするか否かの

決定権が会社に認められていることから,

会社に労働契約を解約する権利が留保されている労働契約とされます。

 

 

試用期間とはいえ,労働契約が成立しているので,

試用期間の途中での労働契約の解約は解雇となります。

 

 

それでは,どのような場合に,

試用期間の途中での解雇が認められるのでしょうか。

 

 

試用期間の途中の解雇も,解雇であることには変わりませんので,

試用期間の途中での解雇が有効になるためには,

労働契約法16条に規定されているように,

客観的合理的理由が認められ,

社会通念上相当といえなければなりません。

 

 

 

 

試用期間においては,労働者の適性を見極めた上で

会社に本採用をするか否かの解約権が留保されているので,

試用期間の途中の解雇は,本採用後の解雇と比べて

認められやすいと一般的には解されています。

 

 

しかし,6ヶ月の試用期間の途中の3ヶ月での解雇について,

ニュース証券事件(東京高裁平成21年9月15日判決・

労働判例991号153頁)の裁判例では,

6ヶ月の試用期間の経過を待たずに解雇する場合には,

より一層高度の合理性と相当性が求められると判断しました。

 

 

そして,試用期間の途中で解雇することは,

試用期間を定めた合意に反して,

会社の側で試用期間を労働者の同意なく短縮するに等しく,

労働者が業務上横領などの犯罪を行ったり,

就業規則に違反する行為を重ねながら反省しないなど,

試用期間の満了を待つまでもなく,

労働者の資質や能力を把握できて,

労働者が従業員としての適性に著しく欠けると

判断できる場合でなければ,試用期間の途中の解雇は

認められないと判断しました。

 

 

すなわち,試用期間の途中での解雇は,

試用期間中に労働者によほどのミスや不手際が

なければできないということになるのです。

 

 

試用期間の途中で解雇されて,納得できない場合には,

弁護士に相談してみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

一流の人はなぜ風邪をひかないのか?

インフルエンザ警報が発令され,

体調を崩す人が多くなる時期になりました。

 

 

仕事を一生懸命にがんばるビジネスマンとしては,

風邪やインフルエンザで体調を崩しているわけにはいきません。

 

 

 

 

風邪をひくたびに,風邪をひかないためには

どうすればいいのかと考えるのですが,

風邪が治ると,風邪のことを忘れてしまいます。

 

 

そこで,風邪をひかないために,

一度,風邪をひかない方策について勉強してみようと思い,

裴英洙氏の「一流の人はなぜ風邪をひかないのか?

という本を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

 

まず,一流の人は,風邪をひいても重症化させずに

即回復する方法を身につけているのです。

 

 

どんな人でも風邪をひくのですが,

一流の人は,自分の身体の異変に素早く気づき,

生活の全てを風邪モードに切り替えて,

即時対応することで,すぐに風邪の症状を回復させていくのです。

 

 

こうなるためには,風邪の症状が出る前の

ちょっとした違和感である「超初期症状」をとらえたら,

その時点で手をうち,風邪をひきそうでひかない状態で

踏みとどめるのです。

 

 

この「超初期症状」である違和感は,例えば,

いつもより集中力が続かない,

エアコンの温度を変えていないのに寒く感じる,

唇がやたら荒れて,つい舐めてしまう,

朝の目覚めが悪くなる,

などといったものです。

 

 

自分が風邪をひく直前の違和感は,

自分にしかわからないので,

自分が風邪をひく前にどのような行動をしたのかを振り返ることで,

発見することができます。

 

 

風邪をひく前の1週間を振り返り,

①どこで,何をしたのか,

②どんなリスクがあったのか,

③どんな症状があったのか

という風邪ログを検討していくことで,

自分にとっての超初期症状を把握できるのです。

 

 

超初期症状が出てきたら,仕事を無理することなく,

セーブして休むことで,風邪を予防することができるというわけです。

 

 

次に,風邪を予防するためには,

ウイルスがたくさんいるところへいくときにはマスクを着用する,

トイレで用を足したらうがいをする,

1時間に1回の頻度で手を洗う,

鼻で呼吸する,

出張先のホテルで加湿器を借りて室内の湿度を上げる

といいようです。

 

 

 

 

風邪予防として,当たり前のことかもしれませんが,

普段忙しく過ごしていると,意識していないとできないものです。

 

 

うがいをする際には,まず口の中をゆすいで,

その後にガラガラうがいをすれば,

ウイルスがのどの奥に押し込まれないので,効果的です。

 

 

口から呼吸すると,冷たく乾燥した空気が

喉の奥に入って気管を痛める原因になるのですが,

鼻で呼吸するすると,のどに流れていく過程で

加温,加湿されるので風邪予防につながるのです。

 

 

普段から,自分の状態を観察し,

自分にとっての超初期症状を把握しておき,

超初期症状が出てきたら,

無理をすることなく,

なるべく身体を横にして休むことで

風邪をひく前に回復できるわけです。

 

 

自己洞察力を鍛えていくことが

風邪を予防することにつながると言えそうです。

 

 

風邪をひけないビジネスマンにおすすめの

一冊として紹介させていただきます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

家族の病気や介護を理由に配転命令を拒否できるのか?

本日も昨日に引き続き,家庭生活上の不利益を理由に

配転命令を拒否できるかという論点に関連して,

ネスレジャパンホールディングス事件を紹介します

(神戸地裁姫路支部平成17年5月9日判決・労働判例895号5頁)。

 

 

姫路工場のギフトボックス係が廃止されることになり,

そこで働いていた労働者は,霞ヶ浦工場へ転勤するか,

やむを得ない事由で応じられない場合には

退職してもらうことになりました。

 

 

 

 

会社は,時として,労働者に対して,

非情な決断を迫ってくることがあるのです。

 

 

原告の1人の労働者は,妻が非定型精神病に罹患しており,

妻が援助を必要していることを理由に配転命令を拒否しました。

 

 

もう1人の原告の労働者は,単身赴任になれば,

母親の介護ができなくなり,妻の負担が大きくなること

を理由に配転命令を拒否しました。

 

 

 

 

配転命令が権利の濫用にあたれば,

労働者は,配転命令を拒否できます。

 

 

配転命令が権利の濫用にあたるかは,

①配転をする業務上の必要性があるか,

②不当な動機・目的があるか,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という3つの要件にあてはめて決定されます。

 

 

まずは,会社がその生産,販売体制を

より効率的なものに変更することは,

会社の経営権の範囲であり,会社の一部署を廃止し,

その部署の労働者を配置転換することには,

①業務上の必要性があると判断されました。

 

 

次に,私企業が利潤追求の観点から労働者の配置転換をすることは,

②不当な動機・目的があることにはならないと判断されました。

 

 

そして,1人の原告の労働者については,

妻が非定型精神病に罹患して,

単身で生活することが困難で,

治療や生活のために,

原告労働者の肉体的精神的援助が必要となり,

原告労働者が単身赴任すれば,

妻の病状が悪化する可能性があると判断されました。

 

 

もう1人の原告の労働者については,

妻と共に母の介護を担当しなければならず,

原告労働者が単身赴任となれば,

妻1人では母の介護が困難になり,

母の症状が悪化する可能性があると判断されました。

 

 

その結果,③労働者が配転によって受ける不利益が

通常甘受すべき程度を超えていると判断されて,

本件の配転命令は権利の濫用にあたり,無効とされました。

 

 

この裁判例で注目すべきなのは,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか

の要件を検討するに際して,

育児介護休業法26条の配慮義務について,

次のように判断した点です。

 

 

すなわち,配転によって子の養育または

家族の介護が困難な労働者に対しては,

配転を避けることができるのであれば避け,

避けられない場合には,

より負担が軽減される措置をするようにしなければならず,

その会社の配慮の有無や程度が,

配転命令が権利の濫用になるかの判断に影響を与えるということです。

 

 

家族に病気があったり,介護が必要な場合には,おそらく,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある

と判断される可能性は高いといえそうです。

 

 

 

 

他方,家族に病気がなく,介護も必要ない場合,

すなわち,共働き世帯で子供が小さいという理由で

配転命令を拒否できるかは,正直なところ,不透明です。

 

 

育児介護休業法26条の労働者に対する配慮義務と,

労働契約法3条3項の仕事と生活の調和の配慮義務,

さらに,昨今の働き方改革と女性の社会進出などから,

今後は,共働き世帯で子供が小さいという理由で

配転命令を拒否できる可能性がでてくるかもしれません。

 

 

今後の裁判例の動向を注目していきたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」から配転命令の要件を考える

私は,仕事柄,出張が多いので,

各地のご当地グルメが紹介される

「秘密のケンミンSHOW」が好きです。

 

 

秘密のケンミンSHOWで紹介される

ご当地グルメをメモしておき,出張のときに,

そのご当地グルメを堪能するのが,出張の楽しみになります。

 

 

この秘密のケンミンSHOWでは,

連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」というコーナーがあり,

東京一郎というサラリーマンが毎回,

不条理にも全国各地へ転勤させられるというドラマです。

 

 

ドラマなので,毎回全国各地へ転勤させられても

笑って見ていられますが,あのような転勤が本当に行われたら,

労働者が退職していくか,裁判を起こされるか,どちらかとなるでしょう。

 

 

仮に,東京一郎が連続転勤を不服として裁判を起こせば,

あれだけ頻繁に全国転勤をさせる業務上の必要性がないとして,

連続転勤は権利の濫用として無効と

判断される可能性があると考えられます。

 

 

では,労働者はどのような場合に転勤

(労働法の世界では,配転と言われます)を断れるのでしょうか。

 

 

まずは,就業規則に配転の条項がなかったり,

労働契約において勤務地を限定する特約があれば,

労働者は,配転を拒否できる可能性があります

 

 

次に,配転命令が権利の濫用となれば,

労働者は,配転を拒否できます。

 

 

配転命令が権利の濫用の濫用となるかは,

①配転の業務上の必要性があるか,

②不当な動機や目的があるか,

③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という3つの要件を検討して決められます。

 

 

通常の配転命令では,

①業務上の必要性があることが多く,

②不当な動機や目的がないことが多く,

③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という要件が実質的な争点となります。

 

 

特に,共働き世帯が増えてきたことで,

配偶者も働いており,子供がまだ小さいことを理由に,

配転命令を拒否できるかが争われやすいです。

 

 

この点について争われたのが明治図書出版事件です

(東京地裁平成14年12月27日決定・労働判例861号69頁)。

 

 

この事件で東京支社から大阪支社へ転勤を命じられた労働者には,

3歳の長男と6ヶ月の長女がおり,

2人の子供がアトピー性皮膚炎にかかっていました。

 

 

特に,6ヶ月の長女のアトピー性皮膚炎が重症で,

顔をはじめ身体全体に出ており,かゆくてかいては出血し,

リンパ液が出てかさぶたになり,またかいての繰り返しが続いており,

長女がかかないように親が注意している必要がありました。

 

 

また,労働者の妻は,正社員で,

外国人顧客の旅行のコーディネートの業務をしており,

1ヶ月に1~2度は泊まりの出張がありました。

 

 

このような育児負担の重い労働者の状況からすると,

労働者かその妻の一方が仕事を辞めることでしか

回避できない不利益は通常の不利益ではないと判断されました。

 

 

また,育児介護休業法26条において,

会社は,子供の養育状況に配慮しなければならない

と規定されており,労働者が配転を拒否しているときは,

真摯に対応しなければならず,

既に配転命令を所与のものとして労働者に

押しつけるような態度を一貫してとる場合は,

配転命令が権利の濫用として無効になると判断されました。

 

 

 

 

結果として,東京支社から大阪支社への転勤は,

権利の濫用として無効となったのです。

 

 

この事件では,子供が重度のアトピー性皮膚炎に

かかっていたことが決定打になったと考えられます。

 

 

共働き世帯の育児負担に配慮した判決内容となっていますが,

子供に病気がなく,共働き世帯で子供がまだ小さいということだけで,

転勤を拒否できるのかは,それを否定した裁判例もあるので,

今後の裁判例の動向をチェックしていく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

アイドルの労働問題

NGT48のメンバー山口真帆さんに対する

暴行の被疑事実で2人の男が逮捕された事件をめぐり,

被害者である山口さんが謝罪することになったことについて,

運営会社であるAKSの対応に批判が強まっているようです。

 

 

犯罪被害者が謝罪することになったのはおかしなことですが,

所属する芸能事務所の意向には逆らえなかったのだろうと予測できます。

 

 

アイドルは,所属する芸能事務所との間で

専属マネジメント契約という業務委託契約を締結しているのですが,

この専属マネジメント契約の内容がアイドルにとって

非常に不利益に規定されていることが多いです。

 

 

例えば,報酬の額は芸能事務所が

裁量で決めることができるとなっていたり,

芸能事務所が更新を希望した場合には

必然的に契約が更新できるようになっていたり,

芸能事務所が取り決めたアーティスト活動に従事しなければならず,

違反した場合には損害賠償義務を負うなどです。

 

 

アイドルは,10代か20代の若い女性が多いので,

社会人経験がほとんどなく,また,

憧れのアイドルになりたい一心で,芸能事務所との間で,

自分にとって不利益な契約を締結してしまうのだと考えられます。

 

 

 

 

本日は,アイドルの労働問題について,

アイドルと芸能事務所との専属マネジメント契約の

解除が争われた東京地裁平成28年1月18日判決を紹介します

(判例タイムズ1438号231頁)。

 

 

この事件では,アイドルがファンと交際し,性的な関係をもち,

グループを辞めることを芸能事務所に伝えたのですが,

芸能事務所からは,契約は解除されておらず,

専属マネジメント契約にはファンと性的な関係をもった場合には

損害賠償請求できるという条項があることから,

841万円の損害賠償請求をされたのです。

 

 

専属マネジメント契約が労働契約に該当し,

民法628条により,「やむを得ない事由」があれば,

契約を解除できます。

 

 

そして,本件事件では,芸能事務所の具体的な指揮命令下において

アイドルは仕事に従事していたとして,

労働契約類似の契約であったと評価されました。

 

 

そして,この事件のアイドルは,

生活するのに十分な報酬ももらえないまま,

芸能事務所の指示に従ってアイドル活動を続けることを強いられ,

従わなければ損害賠償の制裁を受けることになるので,

この契約に拘束することを強制するべきでないとして,

「やむを得ない事由」があるとして,

専属マネジメント契約の解除が認められました。

 

 

また,ファンと性的な関係をもったことを理由とする

損害賠償請求については,異性と性的な関係を持つことは,

自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために

大切な自己決定権であり,

幸福を追求する自由の一内容をなすものであり,

これを損害賠償という制裁で禁止することは

認められないと判断されました。

 

 

 

 

その結果,芸能事務所の損害賠償請求は認められませんでした。

 

 

アイドルの専属マネジメント契約は

形式的には労働契約ではないのですが,

アイドルは,芸能事務所を通じてのみ芸能活動をすることができ,

その活動は芸能事務所の指揮命令下で行うものであり,

時間的に一定の拘束を受けながら,

歌唱や演奏の労働を提供するので,

労働契約と認定される可能性があります。

 

 

労働契約であれば,労働者は,労働基準法で守られ,

労働者の意思で自由に退職できますし,

長時間労働をさせられるのであれば残業代を請求できますし,

最低賃金が保障されます。

 

 

アイドルであっても,労働者として保護される可能性が

十分ありますので,芸能事務所の対応に疑問をもった場合には,

弁護士に相談してもらいたいです。

 

 

本当は,アイドルになる前に,

ワークルールを学ぶ機会があるといいのですが・・・。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

和解や調停の解決金から源泉徴収されてしまうのか?

労働者が解雇されたものの,

解雇に納得がいかない場合,

解雇が無効であるとして,

労働者としての権利を有することの確認と,

未払賃金の請求をすることが多いです。

 

 

 

 

このように争うとき,形式的には

会社に復職することを主張するのですが,

労働者としては,自分を解雇するような

会社に戻りたいとは通常考えないため,

労働審判手続などでは,会社から

いくらかの金銭の支払いを受けて,

労働契約を合意で解約するという

解決がされることが多いです。

 

 

このように,労働契約を合意解約した上で,

会社からいくらかの金銭の支払いを受ける

という調停や和解が成立する場合,会社は,

労働者に対して,解決金という名目で

金銭を支払うことが多いです。

 

 

これは,解雇した日ではなく,

和解や調停が成立した日に労働契約を合意で解約するので,

解雇日から和解や調停が成立した日までの未払賃金とすると,

失業給付の返還や,社会保険をさかのぼって適用するのか

というややこしい問題が生じるので,

和解や調停が成立した日に労働契約を解約して,

会社が労働者に対して,未払賃金ではなく

解決金を支払うことにしているのです。

 

 

 

 

また,解決金には,不当解雇に対する

慰謝料の趣旨も含まれると解することもできます。

 

 

このような性質の解決金について,

会社は,和解や調停で決まった金額を

そのまま支払ってくることがほとんどです。

 

 

しかし,会社が,和解や調停で決まった解決金は

退職所得であるとして,所得税を源泉徴収してきた場合,

労働者は,どのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

ややマニアックな論点ですが,

長崎地裁平成30年6月8日判決は,

解決金は退職所得ではないと判断しました。

 

 

和解や調停の条項に解決金と記載された場合の金員については,

当事者には,和解や調停によって裁判手続を終了させるための

支払であるということ以上に,

その金員の性質について認識の一致がなく,

裁判所を含めて,和解や調停の成立のための金員という以上に

その法的性質を判別することはできません。

 

 

解決金は,裁判手続を終了させるために支払われる金員

という以上にその法的性質を確定することは

事実上極めて困難であるため,

退職所得の性質を有するとは認められませんでした。

 

 

この裁判例からは,会社が解決金を源泉徴収義務のある

給与所得や退職所得などと考えたとしても,

労働者がそれを争う限り,会社は,

解決金の中から源泉徴収することはできず,

労働者に対して,解決金の全額を

支払わなければならないことが導かれます。

 

 

 

 

もし,会社が解決金から源泉徴収をして,

解決金全額を支払わなかった場合,

和解や調停が成立しているので,

労働者は,会社が源泉徴収した部分について,

会社が保有する財産を差押えて,

強制的に支払いを求めることができるのです。

 

 

ややマニアックな論点ですが,

解雇の事件が終了するときに問題となることがありますので,

紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

配転命令に対する対処の仕方(労働審判前の措置の申立)

会社に対して,未払残業代を請求したところ,

社長が激怒し,遠くの勤務地へ配転させられてしまいました。

 

 

 

 

労働者としては,このような報復人事には当然納得できません。

 

 

とはいえ,会社の配転命令は業務命令ですので,

配転命令に従わなければ,業務命令違反として,

懲戒処分をされてしまうリスクがあります。

 

 

このように,納得のいかない配転命令を受けた場合に,

労働者は,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

本日は,配転命令に対する対処の仕方について説明します。

 

 

まずは,就業規則に配転命令の根拠規定があるかをチェックします。

 

 

 

 

就業規則に「会社は業務上の必要がある場合,

配置転換を命じることができる」などの

配転命令の根拠規定がなければ,それだけで,

配転命令が無効になる可能性があります。

 

 

次に,労働契約において勤務地限定特約があるかをチェックします。

 

 

労働契約において,例えば,

勤務地が石川県に限定されているのであれば,

会社の配転命令は石川県に限定されるので,

石川県以外の都道府県への配転命令は無効になります。

 

 

そして,配転命令が権利の濫用にあたるかをチェックします。

 

 

具体的には,①人員配置の変更を行う業務上の必要性があるのか,

②不当な動機や目的があるのか,

③労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じるか否か,

という要件を検討します。

 

 

以上をチェックして,配転命令が無効になる可能性があれば,

会社に対して,配転命令を出さないことや撤回を求めます。

 

 

それでも,会社が配転命令を強行してきそうな場合,

労働審判を申し立てた上で,労働審判法29条,民事調停法12条

に基づき,審判前の措置を求める方法があります。

 

 

 

 

労働審判前の措置を求める申立とは,

労働審判のために特に必要であると認めるときに,

当事者の申立てにより,労働審判前の措置として,

「現状の変更の排除を命じることができる」との措置のことです。

 

 

例えば,営業部から総務部への配転を争う場合,

裁判所は,「相手方は,労働審判事件の終了に至るまで,

申立人を相手方の営業部に配属する旨の配転命令を留保し,

従前通り申立人を総務部で勤務させなければならない。」

という措置命令を出してくれることがあります。

 

 

会社がこの措置命令に従わない場合,

10万円以下の過料の制裁があります(労働審判法32条)。

 

 

裁判所の命令に従わない会社はほとんどないので,

このような措置命令が出れば,配転命令が留保されて,

労働者は,労働審判手続の間は,

以前の職場で働き続けることができ,

労働審判手続で配転命令の有効性について争うことができるのです。

 

 

労働審判前の措置という手段は,

配転命令を争う方法としては,

有効性の高い手段といえそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者の個人情報保護

懲戒処分を受けたので,前の職場を退職して,

次の就職先を探して,ようやく内定をもらいました。

 

 

ところが,内定先の企業が前の職場に問い合わせたところ,

前の職場が懲戒処分したことを回答してしまいました。

 

 

その結果,内定先の企業から内定を取り消されてしまいました。

 

 

このように,内定先の企業が就職希望者の

経歴を調査することは許されるのでしょうか,また,

前の職場が懲戒処分の情報を回答しても許されるのでしょうか。

 

 

今日は,労働者の個人情報について解説します。

 

 

まず,会社が労働者を採用するにあたり,

就職希望者の前の職場における経歴を

調査することが許されるのかについて検討します。

 

 

 

 

この論点について,三菱樹脂事件の

最高裁昭和48年12月12日判決は,

会社に対して,採用の自由を認めました。

 

 

すなわち,会社が労働者の採否決定にあたり,

労働者の思想,信条を調査することは,

採用の自由の一環として,

直ちに違法になるわけではないと判断されたのです。

 

 

この最高裁の立場を前提にすれば,

会社が労働者を採用するにあたり,

就職希望者の前の職場における経歴を

調査することは違法ではないことになります。

 

 

もっとも,この最高裁判決は昭和48年のもので古く,

その後,個人情報保護法が成立し,

個人の思想や信条という配慮が必要な情報については,

本人の同意がなければ取得できなくなりましたので,

会社の採用の自由に制限がかけられています。

 

 

 

 

そのため,会社が労働者を採用するにあたり,

労働者に関わるあらゆる事項の

調査・質問が認められるわけではなく,

労働者の職業能力・適格性に関連する事項

に限定されると考えられます。

 

 

就職希望者が懲戒処分を受けたという情報は,

労働者の職業能力・適格性に関連する事項に

該当すると考えられますので,会社が,

就職希望者の前の職場に対して,

懲戒処分について問い合わせることは

違法とはならない可能性があります。

 

 

次に,前の職場が懲戒処分の情報を

回答することが許されるのかについて検討します。

 

 

前の職場において懲戒処分を受けたという事実は,

それによって特定の個人を識別できる情報ですので,

個人情報保護法2条1項の「個人情報」に該当します。

 

 

 

 

そのため,個人情報保護法23条1項により,

前の職場は,あらかじめ本人の同意を得ない限り,

第三者に懲戒処分を受けたという

情報を提供してはならないのです。

 

 

また,懲戒処分を受けた事実は,

労働者の名誉や信用を著しく低下させる可能性のある事実であり,

労働者としてはみだりに第三者に提供されたくない

プライバシー情報ですので,より慎重な取り扱いが必要となります。

 

 

そのため,前の職場としては,再就職先の会社に対して,

その労働者が照会に回答することに同意している

ことを示す書面を提出するように求めて,

その書面によって本人の同意の存在を確認した上で,

必要な範囲で回答すべきなのです。

 

 

前の職場が労働者の同意なく,

勝手に懲戒処分の情報を再就職先の会社に回答した場合,

労働者は,前の職場に対し,

個人情報保護法違反やプライバシー侵害で

損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

会社は,労働者の個人情報を安易に公開するべきではないのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

休職期間中のテスト出勤のときに賃金を請求できるのか?

うつ病などの精神疾患が発症して,

治療のために一定の期間,

休職していた労働者が職場復帰するために,

テスト出勤をすることがあります。

 

 

一般的に試し出勤,リハビリ出勤などと言われており,

心の健康の問題やメンタルヘルス不調により,

治療のため長期間職場を離れている職員が,

職場復帰前に,職場復帰の可否の判断などを目的として,

本来の職場などに一定期間継続して試験的に出勤することです。

 

 

 

 

テスト出勤を利用し,その期間中の休職者の作業状況を

踏まえて休職理由が消滅したか否かを判断することによって,

休職者の現状や職場の実態に即した

合理的な判断が可能になるのです。

 

 

会社にとっては,休職者の回復状況が

より具体的に把握しやすいというメリットがあり,

休職者にとってもリハビリ効果があり,

職場復帰がしやすくなるというメリットがあります。

 

 

それでは,このテスト出勤を無給で行わせることは

違法にならないのでしょうか。

 

 

会社としては,本来の勤務ではないので,

なるべく多くの給料を支払いたくないと考えますし,

休職者としては,自分なりに働いているので,

給料を請求したいものです。

 

 

本日は,テスト出勤中の給料請求について判断された

NHK名古屋放送局事件を紹介します

(名古屋高裁平成30年6月26日判決・労働判例1189号51頁)。

 

 

この事件のテスト出勤は,

原則24週(6ヶ月)のプログラムで,

前半の12週間でフルタイムの出勤ができるまで

徐々に勤務時間を増やしていき,

後半の12週間はフルタイムの出勤となり,

最後の6週間は職場の実態に合わせて

通常業務を想定した作業を行うことになっていました。

 

 

 

 

このテスト出勤の期間中,

交通費相当額が支給されていましたが,

無給とされていました。

 

 

この事件のテスト出勤は,

休職者のリハビリ目的もありますが,

職場復帰の可否の判断の目的もあり,

休職者はテスト出勤を命じられた場合に

それを拒否することが困難な状況にあり,

会社は,休職者の作業の成果を受け取っていることから,

本来の作業に比べて経緯な作業だからといって,

賃金請求権が発生しないことにはならないと判断されました。

 

 

とはいえ,原告の休職者は,

相応に高度な作業を遂行することを要求されていたものの,

テスト出勤の期間は,軽作業を中心に行ってきたので,

もともと受け取っていた賃金に相当する

対価に見合う労働を提供していたわけではありません。

 

 

そこで,原告の休職者は,休職前の水準の賃金は請求できないものの,

最低賃金で計算された賃金を請求できると判断されました。

 

 

最低賃金法4条によれば,

最低賃金に達しない賃金は無効となり,

無効となった部分については,

最低賃金と同じ定めをしたことになります。

 

 

 

 

まとめますと,無給の合意がされている

テスト出勤の期間中に行われた作業であっても,

会社の指揮監督下においてその作業が行われている場合には,

最低賃金法が適用されて,

最低賃金相当額の賃金を請求できる可能性があるのです。

 

 

休職期間中にテスト出勤する場合には,

最低賃金相当額の賃金が支払われているのかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。