アイドルの労働問題

NGT48のメンバー山口真帆さんに対する

暴行の被疑事実で2人の男が逮捕された事件をめぐり,

被害者である山口さんが謝罪することになったことについて,

運営会社であるAKSの対応に批判が強まっているようです。

 

 

犯罪被害者が謝罪することになったのはおかしなことですが,

所属する芸能事務所の意向には逆らえなかったのだろうと予測できます。

 

 

アイドルは,所属する芸能事務所との間で

専属マネジメント契約という業務委託契約を締結しているのですが,

この専属マネジメント契約の内容がアイドルにとって

非常に不利益に規定されていることが多いです。

 

 

例えば,報酬の額は芸能事務所が

裁量で決めることができるとなっていたり,

芸能事務所が更新を希望した場合には

必然的に契約が更新できるようになっていたり,

芸能事務所が取り決めたアーティスト活動に従事しなければならず,

違反した場合には損害賠償義務を負うなどです。

 

 

アイドルは,10代か20代の若い女性が多いので,

社会人経験がほとんどなく,また,

憧れのアイドルになりたい一心で,芸能事務所との間で,

自分にとって不利益な契約を締結してしまうのだと考えられます。

 

 

 

 

本日は,アイドルの労働問題について,

アイドルと芸能事務所との専属マネジメント契約の

解除が争われた東京地裁平成28年1月18日判決を紹介します

(判例タイムズ1438号231頁)。

 

 

この事件では,アイドルがファンと交際し,性的な関係をもち,

グループを辞めることを芸能事務所に伝えたのですが,

芸能事務所からは,契約は解除されておらず,

専属マネジメント契約にはファンと性的な関係をもった場合には

損害賠償請求できるという条項があることから,

841万円の損害賠償請求をされたのです。

 

 

専属マネジメント契約が労働契約に該当し,

民法628条により,「やむを得ない事由」があれば,

契約を解除できます。

 

 

そして,本件事件では,芸能事務所の具体的な指揮命令下において

アイドルは仕事に従事していたとして,

労働契約類似の契約であったと評価されました。

 

 

そして,この事件のアイドルは,

生活するのに十分な報酬ももらえないまま,

芸能事務所の指示に従ってアイドル活動を続けることを強いられ,

従わなければ損害賠償の制裁を受けることになるので,

この契約に拘束することを強制するべきでないとして,

「やむを得ない事由」があるとして,

専属マネジメント契約の解除が認められました。

 

 

また,ファンと性的な関係をもったことを理由とする

損害賠償請求については,異性と性的な関係を持つことは,

自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために

大切な自己決定権であり,

幸福を追求する自由の一内容をなすものであり,

これを損害賠償という制裁で禁止することは

認められないと判断されました。

 

 

 

 

その結果,芸能事務所の損害賠償請求は認められませんでした。

 

 

アイドルの専属マネジメント契約は

形式的には労働契約ではないのですが,

アイドルは,芸能事務所を通じてのみ芸能活動をすることができ,

その活動は芸能事務所の指揮命令下で行うものであり,

時間的に一定の拘束を受けながら,

歌唱や演奏の労働を提供するので,

労働契約と認定される可能性があります。

 

 

労働契約であれば,労働者は,労働基準法で守られ,

労働者の意思で自由に退職できますし,

長時間労働をさせられるのであれば残業代を請求できますし,

最低賃金が保障されます。

 

 

アイドルであっても,労働者として保護される可能性が

十分ありますので,芸能事務所の対応に疑問をもった場合には,

弁護士に相談してもらいたいです。

 

 

本当は,アイドルになる前に,

ワークルールを学ぶ機会があるといいのですが・・・。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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