協同組合の常務理事は労働者として保護されるのか?
日本の会社では,サラリーマンから
出世して取締役になることがあります。
取締役の場合,株主総会の普通決議で選任され,
会社と委任契約を締結し,委任契約期間が満了したり,
株主総会で解任されると,取締役としての地位を失います。
他方,労働者の場合,よほどのことがない限り解雇されず,
賃金は労働基準法24条1項により,全額払の原則で保護されています。
ようするに,取締役よりも労働者の方が保護が手厚いのです。
それでは,サラリーマンが取締役になった場合,
労働者としての保護は一切受けられなくなるのでしょうか。
労働者兼役員の者は,労働基準法上の「労働者」
といえるかという問題点について,説明します。
この問題点が争われた佐世保配車センター協同組合事件を紹介します
(福岡高裁平成30年8月9日判決・労働判例1192号17頁)。
この事件では,協同組合の労働者であった原告が
常務理事に就任したものの,ある労働者の横領事件を
代表理事に報告しなかったことを問題視されて,
理事職解任と離職が通知されたのですが,原告は,
労働契約法や労働基準法が適用される労働者であるとして,
解雇は無効であることから未払賃金の請求と退職金の請求をしました。
原告が理事に就任した後も,
理事就任前と同じ業務を行い,理事会や総会の議事録を
作成するなどしており,常務理事への就任も,
対外的な交渉をする際の肩書をつけるためになされたものに過ぎず,
常務理事就任後の報酬は,理事就任前と同額の賃金を
年間報酬額として12ヶ月均等割にしただけでした。
そのため,原告が,理事や常務理事に就任したことをもって,
直ちに被告協同組合との使用従属関係が消滅することにはならず,
原告は,被告の他の理事の指揮監督のもとで労務を提供していた
といえるので,理事や常務理事に就任した後にも引き続き,
労働者たる地位を継続的に有していたと判断されました。
原告に,労働者たる地位が認められるので,
解雇は無効となり,未払賃金と退職金の請求が認められたのです。
このように,労働者兼役員の労働者性が争われる場合,
次の事情が総合考慮されます。
①法令・定款上の業務権限の有無
②役員としての業務執行の状況
③代表者である役員からの指揮監督の有無
④拘束性の有無
⑤提供した労務の内容
⑥役員に就任した経緯
⑦報酬の性質や額
⑧社会保険上の取扱
⑨当事者の認識
そして,役員就任にあたって労働者としての
退職手続きがとられておらず,
仕事内容に大きな変化がないのであれば,
労働者性が否定されることはほとんどありません。
肩書だけ役員になって,実質的に役員にふさわしい
待遇を受けていないのであれば,労働者といえる
可能性がでてきますので,労働者兼役員の場合には,
労働者として保護されているのかを
一度検討してみるといいと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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