連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」から配転命令の要件を考える
私は,仕事柄,出張が多いので,
各地のご当地グルメが紹介される
「秘密のケンミンSHOW」が好きです。
秘密のケンミンSHOWで紹介される
ご当地グルメをメモしておき,出張のときに,
そのご当地グルメを堪能するのが,出張の楽しみになります。
この秘密のケンミンSHOWでは,
連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」というコーナーがあり,
東京一郎というサラリーマンが毎回,
不条理にも全国各地へ転勤させられるというドラマです。
ドラマなので,毎回全国各地へ転勤させられても
笑って見ていられますが,あのような転勤が本当に行われたら,
労働者が退職していくか,裁判を起こされるか,どちらかとなるでしょう。
仮に,東京一郎が連続転勤を不服として裁判を起こせば,
あれだけ頻繁に全国転勤をさせる業務上の必要性がないとして,
連続転勤は権利の濫用として無効と
判断される可能性があると考えられます。
では,労働者はどのような場合に転勤
(労働法の世界では,配転と言われます)を断れるのでしょうか。
まずは,就業規則に配転の条項がなかったり,
労働契約において勤務地を限定する特約があれば,
労働者は,配転を拒否できる可能性があります。
次に,配転命令が権利の濫用となれば,
労働者は,配転を拒否できます。
配転命令が権利の濫用の濫用となるかは,
①配転の業務上の必要性があるか,
②不当な動機や目的があるか,
③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,
という3つの要件を検討して決められます。
通常の配転命令では,
①業務上の必要性があることが多く,
②不当な動機や目的がないことが多く,
③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,
という要件が実質的な争点となります。
特に,共働き世帯が増えてきたことで,
配偶者も働いており,子供がまだ小さいことを理由に,
配転命令を拒否できるかが争われやすいです。
この点について争われたのが明治図書出版事件です
(東京地裁平成14年12月27日決定・労働判例861号69頁)。
この事件で東京支社から大阪支社へ転勤を命じられた労働者には,
3歳の長男と6ヶ月の長女がおり,
2人の子供がアトピー性皮膚炎にかかっていました。
特に,6ヶ月の長女のアトピー性皮膚炎が重症で,
顔をはじめ身体全体に出ており,かゆくてかいては出血し,
リンパ液が出てかさぶたになり,またかいての繰り返しが続いており,
長女がかかないように親が注意している必要がありました。
また,労働者の妻は,正社員で,
外国人顧客の旅行のコーディネートの業務をしており,
1ヶ月に1~2度は泊まりの出張がありました。
このような育児負担の重い労働者の状況からすると,
労働者かその妻の一方が仕事を辞めることでしか
回避できない不利益は通常の不利益ではないと判断されました。
また,育児介護休業法26条において,
会社は,子供の養育状況に配慮しなければならない
と規定されており,労働者が配転を拒否しているときは,
真摯に対応しなければならず,
既に配転命令を所与のものとして労働者に
押しつけるような態度を一貫してとる場合は,
配転命令が権利の濫用として無効になると判断されました。
結果として,東京支社から大阪支社への転勤は,
権利の濫用として無効となったのです。
この事件では,子供が重度のアトピー性皮膚炎に
かかっていたことが決定打になったと考えられます。
共働き世帯の育児負担に配慮した判決内容となっていますが,
子供に病気がなく,共働き世帯で子供がまだ小さいということだけで,
転勤を拒否できるのかは,それを否定した裁判例もあるので,
今後の裁判例の動向をチェックしていく必要があります。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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