妻の病気を理由に人事異動を拒否できるのか
ある日突然,会社から県外の別会社への
出向を命じれられてしまいました。
共働きの妻がいて,小さい子供もいます。
また,両親と同居していて,両親の介護もしないといけない。
家族のことを考えると県外への転勤は
とても受け入れがたいけれども,
会社の業務命令に逆らうとどうなるのか,とても不安です。
さて,このような場合,労働者はどうすればいいのでしょうか。
このような人事異動のトラブルについて,
労働者に有利な判決がだされたので紹介します。
妻の病気を理由に人事異動を拒否した
労働者に対する懲戒解雇が無効とされた
大阪地裁平成30年3月7日判決です。
(国立研究開発法人国立循環器研究センター事件
・労働判例1177号5頁)
原告の労働者は,被告である国立循環器研究センター
に勤務していたところ,独立行政法人国立病院機構
の傘下にある病院へ異動するように命令されました。
原告の妻は,強迫性障害,パニック障害,うつ状態であり,
原告の支援がなければ,抑うつ状態が悪化して,
自殺にいたる危険がありました。
そこで,原告は,この人事異動命令を拒否したところ,
業務命令違反として懲戒解雇されました。
原告は,この懲戒解雇が無効であるとして,裁判を起こしました。
裁判では,国立病院機構への異動が
転籍出向であると判断されました。
出向には,在籍出向と転籍出向があります。
在籍出向は,もとの雇用先の会社の従業員
としての地位を残したまま,別会社で長期間働きますが,
出向期間が経過すれば,もとの雇用先の会社に
戻ってくることができる人事異動です
(一般的な出向のことです)。
他方,転籍出向は,もとの雇用先の会社との
労働契約を終了させて,別会社との間で新たに
労働契約を結ぶ人事異動で,もとの雇用先の会社に
戻ってくることができません
(一般的な転籍のことです)。
本件の人事異動は,被告である国立循環器研究センター
との労働契約を解消して,国立病院機構と新たに労
働契約を締結することになっているので,
転籍出向であると判断されたのです。
転籍出向が有効になるためには,
労働者の個別の同意が必要になります。
転籍出向は,もとの雇用先の会社との労働契約上
の権利を放棄するという重大な効果を伴うものであり,
会社が一方的に行うべきではなく,
労働者自身の意思が尊重される必要があるからです。
そして,本件では,原告の個別の同意がないため,
転籍出向を命じる人事異動は無効となります。
さらに,原告の妻の病状が相当深刻であり,
原告の妻は,本件人事異動を聞いてパニックになり,
自殺未遂を起こしており,原告の不利益が大きすぎるため,
転籍出向を命じる人事異動は
権限を濫用したものであると判断されました。
人事異動が無効になり,その結果,懲戒解雇も無効になりました。
会社には,人事について広い裁量が認められていますが,
人事異動は,労働者の生活を大幅に変えるものであり,
労働者の子育てや介護の必要性も考慮されなければなりません。
1億総活躍社会ということで,
様々な立場の人達が働くのであれば,
労働者の子育てや介護の観点から,
人事異動の効力を見直す必要がでてくると考えられます。
半沢直樹のように,人事異動を恐れることなく
自分を貫き通すことは難しいかもしれませんが,
子育てや介護の観点から,人事異動に納得いかないときには,
専門家へご相談することをおすすめします。
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