客室乗務員の配転命令事件
フィンランド航空は,名古屋ベースを廃止することから,
名古屋ベースで勤務している客室乗務員に対して,
成田ベースへ配転する命令をしました。
名古屋ベースで勤務している客室乗務員は,東海地方において,
自宅で育児や介護をしている関係で,
成田に単身赴任をするのが困難であり,
片道約4時間かけて成田に通勤することを余儀なくされました。
この名古屋から成田への配転命令が違法無効であるとして,
客室乗務員が裁判を起こしたのです。
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このように,遠い勤務地への配転は,
育児や介護を抱える労働者にとって,過酷となります。
それでは,育児や介護を根拠に,配転命令が
違法無効となるのはどのような場合なのでしょうか。
本日は,会社の配転命令が違法となり,
慰謝料請求が認められたNTT西日本(大阪・名古屋配転)事件
を紹介します(大阪高裁平成21年1月15日判決・
労働判例977号5頁)。
この事件は,大阪支店から名古屋支店への配転命令が争われ,
配転命令に関して,様々な争点について,検討されていますが,
労働者の生活上の不利益の部分について,みていきます。
配転命令は,配転命令を受けた労働者に,
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる場合には,
権利の濫用として無効と判断されます。
そして,育児介護休業法26条では,会社が労働者に対して,
配転命令をする場合,子供の養育,家族の介護の状況に
配慮しなければならないと定められているので,
労働者の育児や介護の状況が,
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益
を検討する際に考慮されるのです。
NTT西日本の事件では,複数の労働者について,
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が認められました。
具体的には,①実父が介護を必要とする状況にあり,
実母についても頻繁に世話をすることが必要な状況にあったが,
家族の中には,原告労働者以外に介護を行う余力がある者が
いなかったこと,②肺がん手術後で,再発の可能性のある妻を抱えており,
新幹線通勤が認められても,妻の見舞いに大きな制約があったこと,
③妻の両親の介護について,妻を補助し,
自らも介護を手伝う必要があったこと,
などの事情が考慮されて,慰謝料請求が認められました。
このように,裁判所は,家族が病気を抱えていたり,
要介護度が重い家族の介護をしている場合に,
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益
を認めてくれる傾向にあります。
もっとも,共働き世帯で,健康な子供の面倒をみているという
事情だけで,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を
認めてくれるのかは,今のところ,よくわかりません。
ただ,子供をもって思うのは,育児とは
本当に大変であるということです。
小さい子供は,大人の言うことを聞かずに,
好きなことをするので,目がはなせず,
子供といるときは,何もできません。
実家の親が遠くに住んでいて,夫婦だけで
子供を育てなければならない共働き世帯では,
片方の親が遠くに配転されると,育児が大変になります。
そうなると,片方の親が一旦仕事を辞めるや,
子供を生むのをあきらめるなどの悪循環に陥ります。
そのため,仕事と家庭を両立するために,
育児介護休業法26条の趣旨から,
育児の困難さを考慮して,
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益について,
検討してもらいたいものです。
フィンランド航空の配転命令事件の裁判において,
育児や介護の困難な状況が考慮されて,
労働者に有利な判断がされることを願っています。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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