店員の笑顔はセクハラの同意ではありません
セクハラの裁判では,セクハラ行為について
同意があったか否かが争われることが多いです。
被害者がセクハラ行為について,抵抗していなかった場合,
加害者から,嫌がっていなかったので,
同意があったなどの主張がなされます。
しかし,セクハラは,上司から部下,顧客から店員というように,
上下関係や強い立場を利用して行われることが多く,
被害者は,セクハラを受けて,内心では嫌だと思っていても,
部下や店員という立場上,上司や顧客に対して,
明確に拒否反応を示すのが難しいのです。
このような被害者の心理状態をふまえて,
セクハラの懲戒処分が検討された
最高裁平成30年11月6日判決を紹介します。
この事件では,加古川市環境部でゴミの運搬の仕事をしていた
50代の男性公務員が,勤務時間中に,コンビニを訪れて,
女性店員に対して,わいせつ行為をしたとして,
停職6ヶ月の懲戒処分を受けました。
懲戒処分の対象となった,わいせつ行為とは,
女性従業員の手を握って店内を歩き,
女性従業員の手を男性公務員の股間の上に
軽く触れさせたというものです(行為1)。
最高裁判決からは,明らかにされていませんが,
弁護士ドットコムニュースの記事によれば,
男性公務員は,コンビニの女性従業員に対して,
手を握る,胸を触る,男性の裸の写真を見せる,
胸元をのぞき込むといった行動をしたり,
「乳硬いのう」,「乳小さいのう」,
「制服の下,何つけとん」,「胸が揺れとる。何カップや」
などと発言するなど,そこで働く従業員らを
不快に思わせる不適切な言動を行ったようです(行為2)。
加古川市は,行為1を懲戒該当事由とし,
行為2は,行為1の悪質性を裏付ける事情とした上で,
男性公務員を停職6ヶ月の懲戒処分としたところ,
男性公務員は,懲戒処分が重すぎるとして,
懲戒処分の取消を求めて裁判を起こしました。
原審の大阪高裁は,次の理由から,
停職6ヶ月の懲戒処分を取り消すと判断しました。
①女性従業員が,男性公務員から手や腕を絡められるという
身体的接触について渋々ながらも同意していたこと
②女性従業員やコンビニのオーナーが
男性公務員の処罰を望んでいないこと
③男性公務員が常習として行為1と
同様の行為をしていたとは認められないこと
④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと
これに対して,最高裁は,次の理由から,
停職6ヶ月の懲戒処分は相当であると判断しました。
①女性従業員が終始笑顔で行動し,男性公務員による
身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,
客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,
身体的接触の同意があったとは評価できないこと
②女性従業員が処罰を求めていないことは,
事情聴取の負担やコンビニの営業への悪影響を
懸念したことと考えられること
③男性公務員が以前から,行為2のような,
従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,
これを理由の一つとして退職した女性従業員がいたこと
④行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものであり,
複数の新聞で報道され,記者会見まで行われたので,
公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれ,
社会に与えた影響は決して小さいものではないこと
大阪高裁と最高裁で,結論が全く異なっていることから,
セクハラ行為に対する懲戒処分については,
どの程度の重さの処分が妥当なのかの見通しがたてにくいです。
特に,本件事件では,男性公務員が重要な役職に就いていなかったこと,
過去に懲戒処分を受けたことがないことなどの事情を考慮すると,
停職6ヶ月は重すぎると判断される余地は十分あったと思います
(停職1ヶ月程度であれば,ここまでもめなかったのではないでしょうか)。
それでも,最高裁は,停職6ヶ月を相当と判断したので,
セクハラについては,厳しく判断するということなのかもしれません。
海遊館事件の最高裁平成27年2月26日判決からも,
最高裁が,セクハラについて厳しく判断する流れにあるといえそうです
(下記のブログをご参照ください)。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201809056472.html
このように,セクハラ行為に対して,
重い懲戒処分が課せられる危険がありますので,
男性労働者は,被害者が抵抗していないから
同意があるなどと勘違いしてはならず,
セクハラ行為を絶対にしないようにしてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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