変更後の就業規則から退職金の計算方法がわからなかったら・・・
就業規則が変更されて,退職金の支給方法が変更されました。
しかし,新しい就業規則には,
退職金の計算方法についての規定はありませんでした。
このように,新しい就業規則が事業場内に掲示されていても,
退職金の計算方法が記載されていない場合,
退職金の基準について実質的に周知
がされていたのかが問題となります。
本日は,この点が争われた中部カラー事件を紹介します
(東京高裁平成19年10月30日判決・労働判例964号72頁)。
この事件では,退職金準備制度を適格退職年金制度から
中小企業退職金共済制度及び第一生命保険会社の
養老保険に移行するように就業規則が変更されました。
新しい就業規則には,「中小企業退職金共済と
第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,
その支払い金額とする。」と定められているだけであり,
中小企業退職金共済から支給される退職金の金額,
第一生命の養老保険の解約返戻金の金額
の計算を可能とする資料は添付されていませんでした。
そこで,新しい就業規則によって,
退職金の基準について実質的に周知が
されたのかが争点となりました。
そもそも,就業規則は,労働者に周知されなければ
効力を生じないのです(労働基準法106条,労働契約法10条)。
ここでいう「周知」とは,事業場の労働者集団に対し
変更内容を知りうる状態においておけばよく,実際に,
労働者が就業規則の変更内容を知っている必要はないのです。
もっとも,「周知」は,就業規則が定める労働条件が
労働契約の内容となる前提要件ですので,
周知される情報の適切性,的確性が要請されます。
まず,本件事件では,中途退職した場合には,
以前の就業規則に比較して退職者が不利になることが
説明されたかが争点となりました。
社長は,全体朝礼において,
退職金の制度説明を行いましたが,
新しい退職金制度の従業員にとってのメリット・デメリットが
記載された説明文書は一切配布されておらず,
一般の従業員が,新しい退職金の制度を
直ちに理解することは困難であったとして,
全体朝礼での説明では,実質的な周知はなかったと判断されました。
次に,新しい就業規則が従業員の休憩室の壁に
就業規則がかけられていたとしても,
新しい就業規則には,退職金の金額がいくらになるのかの
計算を可能とする資料は添付されていなかったので,
退職金の計算について実質的な周知はなかったと判断されました。
退職金の決定や計算に関する事項の規定を含まない就業規則では,
退職金の基準について実質的な周知があったとはいえず,
新しい就業規則は無効となりました。
その結果,古い就業規則の退職金の計算が適用されて,
退職金の差額701万円の請求が認められたのです。
このように,退職金のような重要な労働条件の変更がされる場合,
退職金の計算方法などが就業規則から明らかでなければ,
就業規則が実質的に周知されていないとして
無効になる可能性があります。
就業規則が変更される場合には,労働者は,
変更後の就業規則がしっかりと周知されているのか,
その内容が明確なものとなっているのかを
チェックするようにしましょう。
本日もお読みいただきありがとうございます。