変更後の就業規則から退職金の計算方法がわからなかったら・・・

就業規則が変更されて,退職金の支給方法が変更されました。

 

 

しかし,新しい就業規則には,

退職金の計算方法についての規定はありませんでした。

 

 

このように,新しい就業規則が事業場内に掲示されていても,

退職金の計算方法が記載されていない場合,

退職金の基準について実質的に周知

がされていたのかが問題となります。

 

 

 

 

本日は,この点が争われた中部カラー事件を紹介します

(東京高裁平成19年10月30日判決・労働判例964号72頁)。

 

 

この事件では,退職金準備制度を適格退職年金制度から

中小企業退職金共済制度及び第一生命保険会社の

養老保険に移行するように就業規則が変更されました。

 

 

新しい就業規則には,「中小企業退職金共済と

第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,

その支払い金額とする。」と定められているだけであり,

中小企業退職金共済から支給される退職金の金額,

第一生命の養老保険の解約返戻金の金額

の計算を可能とする資料は添付されていませんでした。

 

 

そこで,新しい就業規則によって,

退職金の基準について実質的に周知が

されたのかが争点となりました。

 

 

そもそも,就業規則は,労働者に周知されなければ

効力を生じないのです(労働基準法106条,労働契約法10条)。

 

 

 

 

ここでいう「周知」とは,事業場の労働者集団に対し

変更内容を知りうる状態においておけばよく,実際に,

労働者が就業規則の変更内容を知っている必要はないのです。

 

 

もっとも,「周知」は,就業規則が定める労働条件が

労働契約の内容となる前提要件ですので,

周知される情報の適切性,的確性が要請されます。

 

 

まず,本件事件では,中途退職した場合には,

以前の就業規則に比較して退職者が不利になることが

説明されたかが争点となりました。

 

 

社長は,全体朝礼において,

退職金の制度説明を行いましたが,

新しい退職金制度の従業員にとってのメリット・デメリットが

記載された説明文書は一切配布されておらず,

一般の従業員が,新しい退職金の制度を

直ちに理解することは困難であったとして,

全体朝礼での説明では,実質的な周知はなかったと判断されました。

 

 

 

 

次に,新しい就業規則が従業員の休憩室の壁に

就業規則がかけられていたとしても,

新しい就業規則には,退職金の金額がいくらになるのかの

計算を可能とする資料は添付されていなかったので,

退職金の計算について実質的な周知はなかったと判断されました。

 

 

退職金の決定や計算に関する事項の規定を含まない就業規則では,

退職金の基準について実質的な周知があったとはいえず,

新しい就業規則は無効となりました。

 

 

その結果,古い就業規則の退職金の計算が適用されて,

退職金の差額701万円の請求が認められたのです。

 

 

 

 

このように,退職金のような重要な労働条件の変更がされる場合,

退職金の計算方法などが就業規則から明らかでなければ,

就業規則が実質的に周知されていないとして

無効になる可能性があります。

 

 

就業規則が変更される場合には,労働者は,

変更後の就業規則がしっかりと周知されているのか,

その内容が明確なものとなっているのかを

チェックするようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労使協定の内容を社内報に記載することが就業規則の変更になるのか?

一部の労働者が加入する労働組合が会社との間で,

労働者の賃金を14%減額する労使協定を締結し,

社会報で案内されました。

 

 

就業規則が変更されたわけではありません。

 

 

労働組合に加入していない労働者としては,

賃金が14%も減額されることに納得いきません。

 

 

このような場合,労働者の賃金は

14%減額されてしまうのでしょうか。

 

 

本日は,社内報による周知が就業規則の変更といえるのか,

労働組合から脱退した組合員に対して,

14%賃金を減額する労使協定が労働協約として効力が生じるのか

が争われた長尾運送事件を紹介します

(大阪高裁平成28年10月26日判決・労働判例1188号77頁)。

 

 

まず,この事件では,14%賃金を減額する

労使協定が締結されたものの,就業規則の変更は行われず,

社内報で案内がされただけでしたので,

社内報に14%賃金を減額する労使協定の

内容が記載されることによって,

就業規則が変更されたといえるかが争われました。

 

 

就業規則とは,会社が定める,

事業場の労働者集団に対して適用される

労働条件や職場規律に関する規則類をいいます。

 

 

 

 

ようするに,会社のルールを定めた規則集のことです。

 

 

就業規則は,会社のルールを定める重要な規則なのですが,

大量の労働者の労働条件を画一的・効率的に定める必要があることから,

会社が一方的に決定することができるのです。

 

 

とはいえ,就業規則で,労働者に

不利益な労働条件に変更するためには,

厳しい要件を満たす必要があるのです。

 

 

このように就業規則は,労働者にとって

非常に重要なものであることから,

ある文書が就業規則としての効力をもつためには,

少なくとも,会社が職場や労働条件に関する規律を定めた文書として

作成した形式を有していることが必要になります。

 

 

そのため,社内報は,就業規則としての体裁が整っていないので,

当然に就業規則にはなりません。

 

 

https://wis-works.jp/labo/hakusho2018/より抜粋)

 

また,労働者と使用者が作成した労使協定書も

就業規則には該当しません。

 

 

すなわち,労使協定の内容を社内報に記載したところで,

就業規則を変更したことにはならないのです。

 

 

次に,労働組合を脱退した組合員に対して,

14%賃金を減額する労使協定が労働協約として

効力が生じるのかが争われました。

 

 

労働協約とは,会社と労働組合との間の

労働条件その他に関する協定であって,

書面に作成され,両当事者が署名または記名押印したものです。

 

 

 

 

労働組合と会社が労働条件について自主的に交渉した結果,

合意にいたり,その内容を明らかにした書面が取り交わされた場合,

その労働組合に所属する労働組合員の労働条件は,

労働協約で定められた内容となります(労働組合法16条)。

 

 

労働協約が適用されるのは,労働協約を締結した

労働組合に所属する労働組合員だけなのですが,

労働協約を締結した労働組合が

労働者の4分の3以上で組織されていた場合,

その労働協約は,労働組合に加入していない

労働者にも効力が生じるのです(労働組合法17条)。

 

 

本件事件では,14%賃金を減額する

労使協定を締結した労働組合は,

労働者の4分の3以上で組織されていませんでした。

 

 

そのため,労働組合から脱退した労働者に対しては,

労働協約の効力は及ばず,労働者が労働組合から脱退後も

労働協約の労働条件を存続させる意思を有している

例外的な場合に限り,労働組合から脱退した労働者にも,

労働協約の効力が及ぶことになるのです。

 

 

以上より,14%賃金を減額する労使協定は,

労働組合を脱退した労働者に適用されず,

14%減額される前の賃金を請求できることになりました。

 

 

会社は,労働者の知らないところで,

労働条件を引き下げようとしてくるかもしれませんので,

受け入れられない労働条件の引き下げにはノーと言いましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

日本通運の非正規雇用労働者の賃金格差の是正

マスコミ報道によりますと,

物流大手の日本通運が今年の4月1日から,

非正規雇用労働者の賃金を引き上げて,

同じ労働条件で働く正社員の水準に

わせる方針を明らかにしたようです。

 

 

 

 

日本通運の社員は,大きく分けて,

全国転勤のある正社員,

全国転勤のない正社員(エリア職というようです),

期間の定めのある労働契約を締結している非正規雇用労働者

の3種類にわかれているようです。

 

 

エリア職と非正規雇用労働者との間には,

仕事内容にそれほど差がないにもかかわらず,

エリア職の方が,非正規雇用労働者よりも賃金が高く,

賃金格差があったのでしょう。

 

 

 

 

日本通運は,エリア職と非正規雇用労働者の

賃金格差を是正するために,非正規雇用労働者の賃金を

エリア職と同じ水準まで引き上げることにしたのです。

 

 

これは,2020年4月から施行される,

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」

(短時間パート法といいます)で求められる

「同一労働同一賃金」を前倒しで導入したことになります。

 

 

「同一労働同一賃金」とは,同じ仕事をしている労働者には,

同じだけの賃金が支払われるべきという考え方です。

 

 

短時間パート法の8条において,

正社員と非正規雇用労働者の不合理な待遇が禁止され,

「同一労働同一賃金」が導入されるようになります。

 

 

では,どのような場合に,正社員と非正規雇用労働者との

賃金格差などが不合理な待遇になるのでしょうか。

 

 

これについては,厚生労働省が

短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する

不合理な待遇の禁止等に関する指針案

というもので,具体的なケースを解説しています。

 

 

例えば,基本給について,

労働者の業績又は成果に応じて支給するものがある場合,

正社員は,生産効率及び品質の目標値を達成しなければ,

減給されるなどの不利益を課されるにもかかわらず,

非正規雇用労働者は,目標値を達成していなくても

減給されるなどの不利益を課されないのであれば,

正社員の基本給を非正規雇用労働者の基本給よりも

高く設定しても問題はありません。

 

 

他方,このような事情がないのに,

基本給の一部について,

業績や成果に応じて支給している会社において,

正社員が目標値を達成した場合に支給し,

非正規雇用労働者が目標値を達成しても支給しないのであれば,

不合理な待遇となります。

 

 

また,賞与について,

正社員と非正規雇用労働者が同じように

会社の業績に貢献しているにもかかわらず,

正社員にだけ賞与を支給し,

非正規雇用労働者には賞与を支給しないことは,

不合理な待遇となります。

 

 

 

 

今後,基本給,賞与,手当などについて,

仕事の内容や責任の程度,

仕事の内容と配置の変更の範囲,

その他の事情が考慮されて,

不合理な待遇か否かが具体的に検討されるようになります。

 

 

非正規雇用労働者は,正社員との賃金格差に疑問を感じたら,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

日本通運は,非正規雇用労働者の賃金を引き上げて,

エリア職との賃金格差を是正するという,

厚生労働省の指針案の内容に沿った王道の対応をしました。

 

 

他の企業も,日本通運を見習って,

正社員と非正規雇用労働者の賃金格差を是正する

取り組みをしていってもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ブログを8ヶ月書き続けて得た気づき

2019年1月12日に,私が所属している

金沢市北倫理法人会において,

会員スピーチをする機会をいただきました。

 

 

会員スピーチとは,倫理法人会に所属している会員が

日々取り組んでいる実践とその結果どうなったのかを

5分程度で発表するというものです。

 

 

 

 

そこで,明日,毎日ブログを書き続けて,

自分がどうなったのかを発表しようと考え,

昨年5月からブログを初めて約8ヶ月が経ちましたので,

8ヶ月間のブログ生活を振り返りたいと思います。

 

 

まず,8ヶ月経って思うのは,

圧倒的に自己成長できたと感じることです。

 

 

私の場合,自分の専門分野である労働事件について,

毎日,インプットとアウトプットを繰り返しているので,

労働事件に関する専門知識が自分の血肉となり,

労働事件の法律相談で的確なアドバイスが

今まで以上にできるようになりました。

 

 

毎日ブログを書き続けるためには,

ネタを入手しなければならないのですが,

毎日ブログを書き続けていると,

不思議とネタが集まってきます。

 

 

おそらく,自分が必要としている情報に反応するように,

情報をキャッチするアンテナの感度がよくなり,

知らず知らずのうちに,

必要な情報に気づくようになったのだと思います。

 

 

自分に必要な情報がネタとして入ってくるので,

あとは,そのネタに関する法律的な問題を文献で調べて,

読者に伝わるように文章にしていきます。

 

 

 

このアウトプットの過程で,

難しい法律問題を一般の読者に伝えるためには,

どうすればいいかを考えますので,

専門知識をわかりやすく伝える表現力が鍛えられます

 

 

さらに,アウトプットすると,脳は,

その情報を重要な情報であると判断して長期記憶に保存するので,

圧倒的に記憶に残ります

 

 

知識が記憶として残るので,

知識を活用することができるのです。

 

 

次に,毎日ブログを更新していると自信がつきます

 

 

毎日ブログを更新すると自分に約束し,

1日1日,その約束を守っていくことで,

自分で決めた約束事を守っている自分はすごいと

自分で感じることができるのです。

 

 

自分の中にはもう一人の怠け者の自分がいます。

 

 

この怠け者の自分が,「たまにはブログを休んだらどうだ」

と悪魔のささやきをしてきます。

 

 

 

たいていは,この悪魔のささやきに応じてしまい,

三日坊主で終わることがほとんどです。

 

 

人間の習性として,これはしかたのないことです。

 

 

この怠け者のもう一人の自分にうちかつことで,

自分で決めたことをしっかり守る自分を認めて,

自信がついていくのだと思います。

 

 

最後に,自分のブログが人の役に立つことの喜びです。

 

 

ありがたいことに,読者の方から,

ブログの内容が役に立ちましたという

お言葉をいただくことがあります。

 

 

このお言葉が何よりも嬉しいのです。

 

 

 

私がブログで発信していることは,

「労働時間を記録しよう」,

「パワハラの発言は録音しよう」,

「1日8時間超えて働いたら残業代を請求できます」,

「働きすぎると体を壊すので,長時間労働には気をつけましょう」など,

弁護士であれば当たり前のことばかりですが,

意外と知られていなかったりします。

 

 

私が労働者に役立つ情報を発信することで,

労働者が正当に権利を主張することができて,

労働者が幸せな生活をおくれるようになってもらいたいのです。

 

 

弁護士にとって当たり前の知識が,

人の役に立ち,そして喜んでもらえる。

 

 

この喜びに,最近気づくようになりました。

 

 

忙しい弁護士業務をしながら,

毎日ブログを書き続けるのは,

本当に大変なのですが,

8ヶ月を振り返ると,やはり,

毎日ブログを書き続けることが重要であると再確認できました。

 

 

今後とも,働く人にとって役に立つ情報を発信していきますので,

どうかよろしくお願い致します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

海上自衛隊のパワハラ・いじめ問題

昨年9月,海上自衛隊横須賀基地の

補給艦ときわの艦内において,

男性3等海尉が自殺した事件がありました。

 

 

上官から自殺した3等海尉に対して

パワハラがあったという乗員の証言があり,

海上自衛隊が調査したところ,

艦長から「休むな」という指示があったり,

上官が「死ね」,「消えろ」などと発言し,

ダーを投げつけたなどのパワハラがあったようです。

 

 

 

 

①優越的な関係に基づく,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により,

③労働者の就業環境を害すること

(身体若しくは精神的な苦痛を与えること)

というパワハラの3つの要素にあてはめると,

上記の艦長や上官の言動は,パワハラに該当します。

 

 

今後,事故調査委員会がパワハラの有無や

自殺との因果関係を調査していくので,

どのような調査結果になるのかに注目したいです。

 

 

さて,海上自衛隊における隊員の自殺ですが,

実は過去にも同じような事件があったのです。

 

 

それが,海上自衛隊護衛艦さわぎり事件です

(福岡高裁平成20年8月25日判決・判例時報2032号52頁)。

 

 

 

 

この事件は,海上自衛隊の三等海曹が

護衛艦さわぎりに乗艦中に首吊り自殺したという事件です。

 

 

遺書はなかったものの,自衛隊内のいじめが疑われ,

艦内において飲酒がされていた等の規律違反や,

隊員を丸刈りにしたという指導方法が取り上げられて,

自殺との関連が問題となりましたが,事故調査委員会は,

いじめの事実は認められないという調査結果を公表しました。

 

 

この調査結果に納得できない遺族が,

国を相手に損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

 

裁判では,ある上官から

「お前は三曹だろ。三曹らしい仕事をしろよ。」,

「お前は覚えが悪いな。」,「バカかお前は。三曹失格だ。」

などと誹謗されていたことが認定されました。

 

 

そして,閉鎖的な艦内で直属の上司から

継続的に上記のような侮辱的な言動がされることは,

自殺した三等海曹の心理的負荷を過度に蓄積させるものであり,

指導の域を超えるものであると判断されました。

 

 

この侮辱的な言動によって,三等海曹は,

うつ病を発症し,自殺したと認定されて,

慰謝料合計350万円の請求が認容されました。

 

 

他方で,もう一人の上官の「ゲジ2」,「百年の孤独要員」,

「お前はとろくて仕事ができない。自分の顔に泥を塗るな。」

という言動については,自殺した三等海曹との

関係が良好であったことから,

軽口として許容できるものであるとして,

違法な言動とは認定されませんでした。

 

 

海上自衛隊は,航海中,閉鎖された艦内で

仕事と日常生活をしていくので,

人間関係が一度こじれると,逃げ場がなく,

非常につらい状況に追い込まれてしまうことが予想されます。

 

 

 

 

閉鎖された組織ではパワハラやいじめが

生じる温床となりやすいので,

今回の補給艦ときわの事故調査で,

自衛隊のパワハラやいじめの原因が究明されて,

再発防止策が講じられることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

昼休みがとれないときの対処法

弁護士ドットコムニュースに,

昼休みをとれない保育士のことが掲載されていました。

 

 

保育園では,子供達が昼寝をしている際も,

呼吸やうつぶせ寝のチェックのために休むことができず,

早く起きてしまう子供がいるため,

保育士は,別の部屋にいくことができず,

子供達が寝ている部屋で食事をとっているようです。

 

 

 

 

元気に動き回る子供達が相手ですので,

保育士がきちんと昼休みを取得するのは難しいことが予想されます。

 

 

保育士の仕事は過酷です。

 

 

とはいえ,休憩時間を取得させないことは

労働基準法違反になります。

 

 

本日は,休憩時間について説明します。

 

 

そもそも,休憩時間とは,労働者が権利として

労働から離れることが保障されている時間,

労働時間の途中において完全に仕事から離れることを

保障されている時間をいいます。

 

 

 

 

労働基準法34条において,会社は,

1日の労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分,

8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を

労働時間の途中に与えなければならないと規定されています。

 

 

労働時間が6時間未満の場合であれば,

休憩時間を与えなくても,労働基準法違反にはなりません。

 

 

また,電車や飛行機の乗務員,郵便事業の乗務員については,

休憩時間を与えないことができると規定されています。

 

 

休憩時間は,労働時間の途中に与える必要がありますので,

仕事が始まる前や仕事が終わった後に

休憩時間を与えることはできません。

 

 

休憩時間を分割して与えることも可能ですが,

5分や10分の休憩時間ですと,

トイレにいくだけで終わってしまうので,

労働からの解放が保障されているとはいえず,

休憩時間とみなされない可能性があります。

 

 

休憩時間は,労働者に一斉に与えなければならないのですが,

労使協定を締結することで,

休憩時間を一斉に与えなくてもよくなります。

 

 

会社は,労働者に,休憩時間を

自由に利用させなければなりません。

 

 

 

 

とはいえ,休憩時間後の労働に支障が生じてはいけませんので,

飲酒を禁止したり,

会社内の危険な設備の近くでのスポーツを禁止したり,

他の労働者の休憩を妨害することを禁止したりすることは,

休憩時間の自由利用の原則に違反しないと考えられます。

 

 

会社が労働者に対して,休憩時間を与えていなかった場合,

休憩時間も労働契約の内容になっていることから,

会社は,労働契約に違反したことになります。

 

 

そして,休憩時間を与えられないことで,

労働者の身体・自由といった法律上の利益が侵害されているとして,

慰謝料の支払が認められることがあります。

 

 

もっとも,慰謝料の金額はそれほど大きくはなりません。

 

 

その他にも,休憩時間が与えられないことによって,

1日の労働時間が8時間を超えれば,

残業代を請求することができます。

 

 

会社が休憩時間を与えない場合,労働基準法違反として,

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則がありますので,

労働者としては,労働基準監督署に違反の事実を申告し,

是正を求めることも可能です。

 

 

このように,休憩時間を与えない場合,

労働者としては,とりうる手段がいろいろあります。

 

 

冒頭の保育士の場合,何人かの保育士が

交代で休憩時間をとれるように,経営者には,

労働環境を改善していってもらいたいですね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

地域防災訓練に参加する途中の負傷は労災か?

2018年は災害の多い年でした。

 

 

2018年2月には北陸地方で大雪,

6月には大阪北部地震,

7月には中国地方で豪雨災害,

夏から秋にかけて台風の被害,

9月には北海道胆振東部地震など,

全国各地で被害が発生しました。

 

 

 

 

このように,災害が多発していることから,

災害から自分の身を守るために,

地域では防災訓練が行われています。

 

 

さて,地域防災訓練に参加するための途中にけがをした場合,

労災が適用されるのでしょうか。

 

 

本日は,地域防災訓練に参加する途中でけがをした

市立小学校の教師が,公務災害に該当するかについて

争った地公災基金山梨県支部長事件を紹介します

(東京高裁平成30年2月28日判決・労働判例1188号33頁)。

 

 

この事件では,市立小学校の教師が,

日曜日に実施された地域防災訓練に参加するため,

その会場に向かう途中,その経路の途中にある

自らが担任する学級所属の児童の住居を訪問した際,

その住居で飼育されている犬にかまれて傷害を負いました。

 

 

 

 

この傷害について,原告の教師は,

公務災害の申請をしましたが,

公務災害とは認められなかったため,

裁判を提起しました。

 

 

本件のようなケースで,公務災害と認定されるためには,

公務上の災害の認定基準について」という文書の1キ(キ)の

「地方公務員法第24条第5項の規定に基づく条例に

規定する勤務を要しない日及びこれに相当する日に

特に勤務することを命ぜられた場合の出勤又は退勤の途上」であって,

「合理的な経路若しくは方法によらない場合又は

遅刻若しくは早退の状態にある場合」ではない

という要件を満たす必要があります。

 

 

ようするに,休みの日に出勤することを命じられた場合の

通勤経路の途中の事故であって,

通勤経路が合理的な経路や方法から

逸脱していないことが必要になるのです。

 

 

本件事件では,まず,日曜日に地域防災訓練に参加することが

特に勤務することを命ぜられた場合」に該当するかが争われました。

 

 

なぜならば,校長は,教師に対して,

地域防災訓練への参加を明確に命令していなかったからです。

 

 

とはいえ,職務命令には,明示的なものの他に,

黙示的なものも含まれます

 

 

本件事件では,防災訓練にできるだけ参加するように

具体的な指導があったこと,防災訓練が学校をあげて

取り組むべき行事として位置づけられていたこと,

代休取得の措置がとられていたことなどから,

教師が防災訓練に不参加を申し出ることが

事実上困難であったことから,

黙示的な職務命令があったと認定されました。

 

 

その結果,本件事件で防災訓練に参加することは,

「特に勤務することを命ぜられた場合」

に該当すると判断されたのです。

 

 

次に,防災訓練へ向かう途中で児童の自宅を訪問したことが,

合理的な経路から逸脱したかが争われました。

 

 

 

 

本件事件では,原告の教師は,忘れ物を届けるついでに

児童に防災訓練への参加を呼びかける目的で,

勤経路沿いにある児童の自宅を訪問し,

その訪問時間も数分程度くらいであったことから,

防災訓練への参加と無関係な目的で訪問したわけではないので,

合理的な経路から逸脱していないと認定されました。

 

 

その結果,原告の負傷は,公務災害と認められました。

 

 

今後,災害が増えていく中で,

防災訓練へ参加することがなかば

強制されていく可能性があります。

 

 

防災訓練へ参加する途中や参加中にケガをした場合に,

労災になるかについて,本件事件は参考になると思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

裁量労働制の違法適用の社名公表制度

朝日新聞の報道によりますと,厚生労働省は,

裁量労働制を労働者に違法に適用した企業の社名を

公表する制度を新設する方針を固めたようです。

 

https://www.asahi.com/articles/ASLDZ059VLDYULFA009.html

 

 

なぜかといいますと,裁量労働制については

違法に適用されていることが多く,

長時間労働を助長しているという批判が多いため,

厚生労働省は,社名公表制度を新設することで,

企業の裁量労働制の違法適用を抑止しようとしているからです。

 

 

厚生労働省が,裁量労働制を違法適用している

企業の名前を公表し,マスコミで大々的に報道されれば,

あの会社は,長時間労働をさせられても,

残業代が支払われないブラック企業であるという

レッテルをはられてしまいます。

 

 

 

そうなれば,労働者を大切にしない企業であるとの

イメージが定着してしまい,若者が就職しなくなり,

人手不足に陥り,経営が悪化するリスクが高まります。

 

 

そのため,裁量労働制を違法適用している企業があれば,

厚生労働省は,しっかりと調査した上で,

注意喚起を含めて,どんどん公表するべきだと思います。

 

 

では,裁量労働制が違法に適用されるとは,

どのような場合なのでしょうか。

 

 

そもそも,裁量労働制とは,業務の性質上その遂行方法を

大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものについて,

実労働時間とは関係なく,労使協定や労使委員会の決議

で定めた時間を労働時間としてみなす制度のことです。

 

 

 

 

ようするに,どれだけ働いても,事前に定められた時間しか

働いていないことになり,残業代が支払われないか,若しくは,

少ない金額の残業代に抑えられてしまう制度なのです。

 

 

このように,裁量労働制は,労働者にとって

不利益な制度であることから,労働基準法で

適用要件が厳格に定められているのです。

 

 

例えば,裁量労働制の対象となる業務は,

客観的にみて労働者の裁量性が認められる業務である

必要があるにもかかわらず,仕事の段取りや時間配分について,

会社からの指示が多く,労働者に裁量性がないのに,

裁量労働制が違法に適用されている場合があります。

 

 

その他にも,裁量労働制は労使協定を締結する

必要があるのですが,その労使協定の有効期限が切れていたり

労使協定を締結した労働者が,

労働者の過半数代表者ではなかったために,

労使協定が無効である場合もあります。

 

 

このように,裁量労働制は,要件が厳しいので,

違法に適用されていることが多いと思います。

 

 

裁量労働制が違法に適用されていたのであれば,労働者は,

労働基準法で計算した残業代を請求することができます。

 

 

今回の,厚生労働省の社名公表の新制度ですが,

複数の事業場を持つ大企業が対象であり,

次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

①裁量労働制を適用する労働者のおおむね3分の2以上が,

制度を適用できない仕事をしていた

 

 

②違法適用した労働者のおおむね半数以上が,

違法な時間外労働をしていた

 

 

③そのうち1人以上が一ヶ月100時間以上の残業をしていた

 

 

社名公表のハードルがとても高く,

ほとんどの違法適用の会社は公表されない可能性が高いです。

 

 

裁量労働制の違法適用を抑止するためにも,

厚生労働省は,社名公表の要件を緩和し,

労働者に注意喚起するために,

積極的に社名を公表していってもらいたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

妻のトリセツ4~妻との会話の黄金ルール~

今回の年末年始は,仕事にいかず,自宅で過ごしています。

 

 

妻からは,1歳11ヶ月の子供と遊ぶように厳命されています。

 

 

 

 

子供と遊ぶのは楽しいのですが,自分のことが何もできません。

 

 

子供といると,本を読めませんし,パソコンもできません。

 

 

ただただ時間が過ぎていく。

 

 

自分のことがなにもできず,少し虚しくなることもあります。

 

 

普段,妻が子育てをしている苦労がよくわかりました。

 

 

さて,妻と過ごす時間が長いので,

「妻のトリセツ」に記載されていることを意識しています。

 

 

 

 

まずは,「言ってくれればやったのに」

というセリフを言わないです。

 

 

黒川先生曰く,このセリフは,妻をひどく傷つけるようです。

 

 

女性脳は,大切な対象に意識を集中し,

ちょっとの変化も見逃さず,

相手が何も言わなくても,

何を求めているのか,

どうすれば相手が嬉しいか,

その意図を察して生きています。

 

 

そのため,「言ってくれればやったのに」というセリフは,

察することを放棄した言葉であり,

「僕はあなたになんの関心もない」,

「あなたを大切に思っていない」と同義語となるのです。

 

 

私を含め,世の夫は,察することが苦手です。

 

 

とはいえ,「言ってくれればやったのに」ではなく,

「気がつかなくてごめん。僕がやるべきだったね」と言えば,

察することはできなかったけれど,

察したい気持ちはあることを妻に伝えることができて,

妻が傷つくことを回避できるのです。

 

 

次に,心の通信線を開通させるです。

 

 

 

女性は,心の通信線と事実の通信線を使って会話しますが,

男性は,事実の通信線のみで会話するので,

会話がかみあわないことがあります。

 

 

妻に関する事実を肯定するにしても,否定するにしても,

まずは妻の心を肯定することが,妻との会話の黄金ルールなのです。

 

 

女性は,共感のために会話するので,

心を否定されたら,会話が成り立たなくなります。

 

 

妻の心を肯定しておけば,事実は肯定でも否定でも問題なく,

無責任に「そうそう,そうだよな」と言っておけばいいのです。

 

 

妻の気持ちは本当にわからなくてもいいので,

「君の気持ちはわかる」という言葉を使って,

妻に共感するのです。

 

 

妻の心を肯定しておけば,いらぬ地雷をふまずに,

妻に自分の意見をとおすことが容易になるのです。

 

 

妻に対して,具体的にどのような言葉を用いればいいのかまで,

論理的に説明がされていますので,とても納得できます。

 

 

これまでは,妻に対するネガティブトリガーについて,

アウトプットしましたが,次からは,

妻に対するポジティブトリガーについて,

アウトプットしていきたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

人生うまくいく人の感情リセット術

樺沢紫苑先生の最新刊「人生うまくいく人の感情リセット術

を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

 

私は,樺沢紫苑先生の熱狂的なファンであります。

 

 

なぜかといいますと,樺沢紫苑先生のご意見は,

脳科学や心理学の裏付けがあり,再現性が高いので,

実践していくと,自分が成長していることを

実感できるようになるからです。

 

 

本書において,樺沢紫苑先生は,この1冊で

世の中の9割の悩みは解決すると言い切っています。

 

 

こう言い切れるのがすごいことです。

 

 

世の中の9割の悩みは,

ネガティブな感情を取り除きたいというものであり,

ネガティブな感情をリセットできれば,

その世の中の9割の悩みは解決するわけです。

 

 

さて,本書を読んで,私が気付いたことを

3点紹介したいと思います。

 

 

まず1点目は,目標をたてるだけで,

幸福物資であるドーパミンという脳内物質が

分泌されるという点です。

 

 

 

ドーパミンを出すには,次のようにすると効果的です。

 

 

①目標を設定する

 ②目標を達成した自分をイメージする

 ③目標を繰り返し確認する

 ④楽しみながら実行する

 ⑤達成するプロセスを変える

 ⑥自分流の工夫をする

 

 

目標を細かく区切って達成していくことで,

自分でイニシアチブをもった自発的な仕事ができるようになります。

 

 

私は,年間の売上目標など長期的な目標はたてていたのですが,

日々の仕事を細かく区切って,小さい目標にして,

それを達成していくことでモチベーションをあげていくという方法

を実践していませんでした。

 

 

今後は,日々の仕事を細かく区切って,

小さな目標を少しづつ達成していくことで

モチベーションをあげていきます。

 

 

2点目は笑顔であいさつすることです。

 

 

 

あいさつは当たり前のようにしていますが,

これにどのような意味があるのかを考えたことはありますか。

 

 

あいさつとは,心理学的には

私はあなたに対して心を開いていますよ

というサインを意味するようです。

 

 

あいさつは人間関係の第一歩ですので,

人と親しくなるためには,

きちんとあいさつをする必要があります。

 

 

さらに,笑顔であいさつするのがポイントです。

 

 

笑顔であいさつすることで,

自分に楽しいという感情が生じますし,

相手に対して好印象を与えられます。

 

 

今後は,あいさつするときには,

笑顔ですることを意識していきます。

 

 

3点目は,3行ポジティブ日記を書くことです。

 

 

一日の終わりに,今日あったよかったことを

3つ3行で文章にするのです。

 

 

3行ポジティブ日記には,次のメリットがあります。

 

 

①ポジティブ思考が強化される

 ②自己洞察力,内省力が高まる

 ③表現による癒やしの効果で,ストレスが発散される

 ④楽しい,幸せを発見する能力が高まる

 ⑤人生が楽しく,毎日が幸せになる

 

 

毎日3行日記を書くだけで,

これだけの効果があるのですから,驚きです。

 

 

忙しい時には,すぐ寝てしまい,

日記を書くことを忘れることがあるのですが,

これだけの効果があるので,

3行日記を忘れずに習慣にしていきます。

 

 

以上,3つの気付きを紹介しましたが,

他にも多くの気付きを得られる素晴らしい本ですので,

ぜひ一読することをすすめます。

 

 

本当に,人生の9割の悩みが解決してしまう名著です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。