就業規則の周知とは?
昨日に引き続き,PMKメディカルラボ事件から
(東京地裁平成30年4月18日判決・労働判例1190号39頁),
就業規則の周知について解説していきます。
まず,労働契約法7条により,合理的な労働条件が定められている
就業規則が労働契約締結時点ですでに存在し,
会社がそれを労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容は,
その就業規則で定める労働条件によることになります。
労働条件通知書や労働契約書がなくても,
就業規則によって,労働契約の内容が決められるのです。
就業規則に記載されている労働条件が,
労働契約の内容になるためには,
就業規則が労働者に周知されていなければなりません。
ここでいう周知とは,実質的に見て事業場の労働者集団に対して
当該就業規則の内容を知りうる状態に置いていたことをいい,
実際に,労働者が就業規則を見る必要はないのです。
それでは,会社が,どのようなことをしていれば,
就業規則を実質的に周知したといえるのでしょうか。
PMKメディカルラボ事件では,会社は,毎年1回,
労働者1名に就業規則を閲覧してもらい,
承諾書に署名押印してもらっていました。
その承諾書には,「私は貴社の従業員として勤務するにあたり,
就業規則や賃金規定が所定の場所(本社)にあり,
いつでも本社内で閲覧ができ,要請があれば
各店舗に郵送できる状態にあることを確認しました。」
と記載されていました。
しかし,承諾書に署名押印する労働者を
どのように選任したのか不明であり,
承諾書に署名押印した労働者が,
各店舗の店長や労働者に対して,
どのように周知するのかが不明でした。
PMKメディカルラボ事件では,
本店の総務部に就業規則は備え置かれていましたが,
各店舗には備え置かれておらず,各店舗の店長に申し出れば,
いつでも就業規則を閲覧することができる取扱になっていたようですが,
原告は,店長からこの取扱について説明を受けておらす,
就業規則の存在も知らない上に,実際にこの取扱のとおりに,
就業規則を各店舗に郵送して閲覧された実績がないことから,
この取扱によって就業規則の周知があったとはいえませんでした。
その結果,就業規則に記載された労働条件は,
労働契約の内容にならないため,
会社が主張する固定残業代は認められず,
労働者の未払残業代請求が認められたのです。
会社が就業規則をどのように周知させていたかについては,
労働者が把握しにくいところです。
労働者が就業規則を見たことがなかったとしても,
会社から,実はここにいつでも閲覧できるようにしてありましたよ
と言われれば,労働者としては,過去にその場所を探したけれども
就業規則はなかったことを証明するのは難しいと考えます。
このように,就業規則が周知されていたかが争われるのが珍しい中,
PMKメディカルラボ事件では,
各店舗に就業規則が備え置かれていないことに争いがなく,
上記の取扱についての説明がなく,実績がなかったことから,
就業規則の周知が否定された貴重な裁判例です。
労働基準法施行規則52条の2によれば,
就業規則の周知方法の1つとして,
「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること」
と記載されています。
そこで,本店には就業規則が備え置かれているけど,
支店には就業規則が備え置かれていない場合には,
就業規則の周知がされていないとして,
争うことが十分に可能なのだと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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