就業規則の周知を争うには
労働事件の法律相談を受ける際に,弁護士は,
相談者に対して,就業規則の内容はどうなっていますか,
と尋ねることが多いです。
就業規則とは,おおざっぱにいえば,
会社の労働条件やルールを定めた規定集のことです。
解雇事件であれば,就業規則に記載されている
どのような解雇理由で解雇されているのかを
検討するために就業規則をチェックします。
未払残業代請求事件であれば,就業規則に記載されている
労働時間をもとに,残業代の計算をします。
このように,労働事件において
就業規則の内容を検討することは,
必須の作業だと思います。
しかし,多くの労働事件の法律相談において,
相談者に就業規則のことを尋ねると,
就業規則を見たことがないのでわかりません,
という回答がかえってくることが多いです。
そう,多くの労働者が,就業規則を見ていないのです。
そもそも,多くの労働者は,
就業規則が会社のどこにあるのか知らないことが多いです。
なぜならば,会社が,労働者に対して,
就業規則を見せることがあまりなく,
就業規則がどこに保管されているのかについて
説明していないことがほとんどだからです。
ところが,就業規則に記載されている内容が
労働契約における労働条件になるためには,
その就業規則を労働者に周知していなければなりません
(労働契約法7条)。
ここでいう周知とは,
労働者が知ろうと思えば知ることができる状態
に置かれたことをいいます。
労働者が就業規則の内容を実際に知る必要はないものの,
労働者が就業規則を見たいときには,
見れる状態にしておかなければならないのです。
就業規則を周知していなかった場合,就業規則の内容は,
労働契約の労働条件とはならず,会社は,
就業規則を作成していても,無意味になります。
この就業規則の周知について,
興味深い裁判例がありますので,紹介します。
平成29年3月14日甲府地方裁判所判決です。
この事件では,被告会社に就業規則がなかった時期に,
グループ会社の就業規則を流用していたという特殊事情があり,
就業規則の周知が争点となりました。
この事件では,被告の代表者が,労働契約の締結の際に
就業規則が備え付けられている場所を伝えたという証言を
裏付ける客観的証拠がないこと,労働条件通知書の
「具体的に適用される就業規則名」の欄が空欄になっていること,
グループ会社の就業規則が被告会社の就業規則として
適用されるという説明がされていなかったことが認定されました。
そして,これらの事情から,グループ会社の就業規則が
被告会社の従業員控室の棚に備え付けられていたとしても,
原告労働者が,グループ会社の就業規則が
被告会社の就業規則として用いられていたと認識できないので,
就業規則の周知があったとはいえないと判断されました。
グループ会社の就業規則を流用していた点で,
アクセスの客体である就業規則の情報の適切性に疑問があり,
労働者に対して就業規則の内容の理解できるような
会社の説明の努力がなかったことが,
就業規則の周知があったとはいえないという
判断に結びついたのだと思います。
就業規則を見たことがなく,どこにあるのかも知らず,
会社から就業規則の説明が全くない場合には,
就業規則の周知を争う余地がでてきます。
本日もお読みいただきありがとうございます。