変形労働時間制を争う方法3
昨日に引き続き,変形労働時間制を争う方法について解説します。
昨日紹介した岩手第一事件の
仙台高裁平成13年8月29日判決では(労働判例810号11頁),
変形期間中の労働日とその所定労働時間の特定という争点に関連して,
変形労働時間制において,会社が任意で労働時間を
変更することができるか,という争点についても判断されています。
どういうことかといいますと,岩手第一事件で
問題となった就業規則の変形労働時間制の条項の中に,
次のことが記載されていました。
「第20条(勤務時間等の変更) 前条の始業・終業の時刻
および休憩の時間は,季節,または業務の都合により変更し,
一定期間内の特定の日あるいは特定の週について労働時間を延長し,
もしくは短縮することがある。」
すなわち,変形労働時間制において,会社が,
季節または業務の都合で一方的に労働時間を
変更することができるようになっていたのです。
裁判所は,このように会社が恣意的に労働時間を変更できることを
認める規定では,変形労働時間制は違法無効となると判断しました。
変形労働時間制は,過密な労働により,
労働者の生活に与える影響が大きいことから,
就業規則などにおいて,変形期間内におけるどの日又は週が
法定労働時間を超えるのかについて,
できる限り具体的に特定する必要があるので,
会社が恣意的に労働時間を変更できるようでは,
特定としては不十分となるのです。
そのため,就業規則の中の変形労働時間制の条項の中に,
会社が業務の都合で任意に労働時間を変更できるような規定があれば,
その変形労働時間制は無効となるので,労働者は,
就業規則の内容をよくチェックしてください。
また,就業規則に変形労働時間制についてのシフト表の
勤務パターンが記載されていても,実際に運用されているシフト表が
就業規則に記載されている勤務パターンとずれている場合にも,
変形労働時間制は無効となります。
日本総業事件の東京地裁平成28年9月16日判決は
(労働判例1168号99頁),就業規則で定められた始業終業時刻は,
シフト表の24時間勤務のみであって,
他にシフト表に規定されている日勤や夜勤の始業終業時刻が
就業規則で定められていないケースにおいて,
被告会社のシフト表で定める勤務割は,
就業規則に定められた各勤務の始業終業時刻,
各勤務の組合せの考え方,勤務割表の作成手続及び周知方法等に
従って作成された各日の勤務割には当たらないから,
変形労働時間制の要件を満たさず,無効と判断しました。
ようするに,就業規則に定められた各勤務の始業終業時刻や
各勤務の組合せの考え方に従って,実際のシフト表が
作成されていないのであれば,変形労働時間制は無効になるのです。
そのため,労働者は,就業規則をチェックして,就業規則の定めと
実際のシフト表が一致しているのかを確認するようにしてください。
このように,変形労働時間制は,法律で定められている要件が
厳しいので,労働者は,会社から,変形労働時間制の主張をされても,
臆することなく,残業代を請求するべきと考えます。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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