労災はどのような労働者を基準に判断されるのか?

長時間労働や上司からのパワハラなどで,

精神疾患を発症したり,最悪自殺に至った場合,

精神障害の労災認定基準をもとに,労災申請をすることがあります。

 

 

その際,労働者が体験した具体的な出来事ごとに

心理的負荷を検討し,その心理的負荷が「強」と判断されれば,

労災と認定されます。

 

 

 

それでは,この心理的負荷の強度を,

どのような労働者を基準に判断するのでしょうか。

 

 

仮に,精神疾患を発症した当該労働者が,

もともと何か病気をかかえていて,

心理的負荷を強く感じる方の場合,

他の労働者にとっては,心理的負荷を

それほど感じない場合であっても,

当該労働者を基準とすると,心理的負荷を

強く感じることがあります。

 

 

そこで,精神疾患を発症した当該労働者を基準とするのか,

一般的な労働者を基準とするのかが問題となるのです。

 

 

この問題について判断した国・厚木労基署長(ソニー)事件

を紹介します(東京高裁平成30年2月22日判決・

労働判例1193号40頁)。

 

 

この事件では,脳原性上肢障害で身体障害者等級6級の認定を受け,

頭痛,左手の麻痺,眼及び顔面に若干の障害を有していた

労働者が上司から厳しい言葉で注意を受け,その後,自殺しました。

 

 

 

 

遺族は,身体障害者であることを考慮して,

労災認定すべきと主張しましたが,労災とは認められず,

労災の不支給決定の取消を求めて裁判を起こしました。

 

 

裁判所は,どのような労働者を基準に心理的負荷の強度を

検討するかについて,「被災労働者と同種の平均的労働者,すなわち,

何らかの個体側の惰弱性を有しながらも,

当該労働者と職種,職場における立場,経験等の

社会通念上合理的な属性と認められる諸要素の点で同種の者であって,

特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者

を基準とすると判断しました。

 

 

そして,労災保険給付は,客観的に業務に内在する

危険性が実現したことに対する給付であり,

労働者の障害という事実を業務自体に内在する危険とは

みることができず,心理的負荷の強度を検討するにあたり,

障害の事実を考慮に入れるとする見解を採用しませんでした。

 

 

障害を持つ者が障害によって業務が軽減されているときは,

その軽減された業務に内在する危険が実現したと

認められるかが評価され,軽減されていないときには,

軽減されていない業務に内在する危険が実現したと

認められるか否かが評価されるので,

障害による業務の軽減の有無によって心理的負荷の判断は

異なるものではない,というのがその理由のようです。

 

 

そのため,身体障害者である被災労働者を基準とすることなく,

平均的な労働者を基準として心理的負荷の強度を判断することとなり,

結果として,遺族の請求は認められませんでした。

 

 

しかし,労働者は,もともと多種多様であり,

ストレス耐性にも個人差があるので,

当該業務が当該労働者にどのような心理的負荷を

与えていたのかを個別に検討すべきと考えます。

 

 

 

障害を持っている労働者とそうではない労働者とでは,

仕事から受ける心理的負荷の強度に違いはでるはずですので,

その点を考慮することが公平なのだと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラが発生した場合に会社がしなければならないこと

現在,通常国会でパワハラを規制する法改正が議論されており,

立憲民主党が労働安全衛生法の一部を改正する

パワハラ規制法案を提出したようです。

 

 

https://cdp-japan.jp/news/20190410_1540

 

 

パワハラによって労働者の職場環境が害されないように,

必要な措置を講ずることが会社に義務付けられるという内容です。

 

 

特に,取引先からのハラスメントや,

消費者からのハラスメントについても,

労働者の職場環境が害されないように,

必要な措置を講ずることが会社に義務付けられるという点で,

労働者の保護の範囲を拡大していることが注目されます。

 

 

 

 

パワハラの問題が拡大していく中,会社は,

パワハラにどう対応していけばいいのでしょうか。

 

 

本日は,会社のパワハラ対応について,

興味深い判断がされたいなげや事件を紹介します

(東京地裁平成29年11月30日・労働判例1192号67頁)。

 

 

この事件では,原告である知的障害者の労働者に対する,

パートタイム労働者の言動が問題となりました。

 

 

原告は,そのパートタイム労働者から様々なパワハラを受けた

と主張しましたが,客観的な証拠は乏しく,

原告が提出した証拠は,原告の母が原告から聞いたことを

記載したメモなどの伝聞の証拠であったことから,

「幼稚園児以下」,「バカでもできる」という発言以外は,

証拠がないとして認められませんでした。

 

 

「あの人がこう言っていました」というように,

人から聞いたことを証言しても,

自分が直接体験したことを証言することに比べて,

聞き間違い,記憶違い,言い間違いが入り込むリスクがあり,

証言の信用は低くなるのです。

 

 

このように,伝聞の証拠は信用されにくいのです。

 

 

 

 

暴言によるパワハラの場合,言った言わないという

水掛け論となりやすく,パワハラ発言を

証明できるかをまず検討することになります。

 

 

暴言によるパワハラを証明するためには,

録音をするのが最も効果的です。

 

 

この事件では,「幼稚園児以下」,「バカでもできる」

という発言が認定されて,パートタイム労働者に対して,

不法行為が認められ,会社に対しても,

民法715条の使用者責任が認められました。

 

 

使用者責任とは,労働者が仕事に関連して,

不法行為をして,他人に損害を与えた場合には,

会社も不法行為責任を負うというものです。

 

 

他方,原告は,会社に対して,安全配慮義務違反の主張もしていました。

 

 

裁判所は,労働者が職場において他の労働者から

暴行・暴言を受けている疑いのある状況が存在する場合,

会社は,事実関係を調査し適正に対処する義務を負い,

どのように事実関係を調査し,そのように対処すべきかは,

会社の置かれている人的物的設備の現状により異なることから,

各会社において判断すべきとしました。

 

 

 

 

会社には,労働者に対して,安全配慮義務として,

合理的な範囲で,事実関係の調査と適正な対処をする義務があるわけです。

 

 

本件事件では,店長が,事実関係を調査し,

パートタイム労働者に対して,原告を他人と比べるような

発言をしないように注意した上で,

配置転換や職務の切り分けなどを検討していました。

 

 

被告は,配置転換や職務の切り分けを検討したのですが,

実際にそれは困難となったものの,知的障害者である原告に対して,

困っているときには気付いた従業員が声をかけたり,

連絡ノートを使って家族と情報交換をしたり,

休暇や勤務日の変更に柔軟に応じていたなどの配慮をしていました。

 

 

そのため,被告には,事後対応義務違反はなく,

合理的配慮が足りなかったとはいえず,

安全配慮義務違反は認められませんでした。

 

 

結果として,安全配慮義務違反は否定されたものの,

使用者責任が認められ,慰謝料20万円が認められたのです。

 

 

会社は,パワハラを認めた場合,合理的な範囲において,

事実関係の調査をし,適正な調査をする義務を負っており,

それを怠った場合には,損害賠償をしなければならないリスクが生じます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

協同組合の常務理事は労働者として保護されるのか?

日本の会社では,サラリーマンから

出世して取締役になることがあります。

 

 

 

 

取締役の場合,株主総会の普通決議で選任され,

会社と委任契約を締結し,委任契約期間が満了したり,

株主総会で解任されると,取締役としての地位を失います。

 

 

他方,労働者の場合,よほどのことがない限り解雇されず,

賃金は労働基準法24条1項により,全額払の原則で保護されています。

 

 

ようするに,取締役よりも労働者の方が保護が手厚いのです。

 

 

それでは,サラリーマンが取締役になった場合,

労働者としての保護は一切受けられなくなるのでしょうか。

 

 

労働者兼役員の者は,労働基準法上の「労働者」

といえるかという問題点について,説明します。

 

 

 

 

この問題点が争われた佐世保配車センター協同組合事件を紹介します

(福岡高裁平成30年8月9日判決・労働判例1192号17頁)。

 

 

この事件では,協同組合の労働者であった原告が

常務理事に就任したものの,ある労働者の横領事件を

代表理事に報告しなかったことを問題視されて,

理事職解任と離職が通知されたのですが,原告は,

労働契約法や労働基準法が適用される労働者であるとして,

解雇は無効であることから未払賃金の請求と退職金の請求をしました。

 

 

原告が理事に就任した後も,

理事就任前と同じ業務を行い,理事会や総会の議事録を

作成するなどしており,常務理事への就任も,

対外的な交渉をする際の肩書をつけるためになされたものに過ぎず,

常務理事就任後の報酬は,理事就任前と同額の賃金を

年間報酬額として12ヶ月均等割にしただけでした。

 

 

そのため,原告が,理事や常務理事に就任したことをもって,

直ちに被告協同組合との使用従属関係が消滅することにはならず,

原告は,被告の他の理事の指揮監督のもとで労務を提供していた

といえるので,理事や常務理事に就任した後にも引き続き,

労働者たる地位を継続的に有していたと判断されました。

 

 

原告に,労働者たる地位が認められるので,

解雇は無効となり,未払賃金と退職金の請求が認められたのです。

 

 

このように,労働者兼役員の労働者性が争われる場合,

次の事情が総合考慮されます。

 

 

①法令・定款上の業務権限の有無

②役員としての業務執行の状況

③代表者である役員からの指揮監督の有無

④拘束性の有無

⑤提供した労務の内容

⑥役員に就任した経緯

⑦報酬の性質や額

⑧社会保険上の取扱

⑨当事者の認識

 

 

そして,役員就任にあたって労働者としての

退職手続きがとられておらず,

仕事内容に大きな変化がないのであれば,

労働者性が否定されることはほとんどありません。

 

 

 

 

肩書だけ役員になって,実質的に役員にふさわしい

待遇を受けていないのであれば,労働者といえる

可能性がでてきますので,労働者兼役員の場合には,

労働者として保護されているのかを

一度検討してみるといいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

アルバイトの労働条件を確かめよう!キャンペーン

4月は入学式のシーズンです。

 

 

 

フェイスブックのタイムラインを見ていると,

多くの方々がお子様の入学式や入園式の写真をアップしており,

とても微笑ましく,お子様のますますの成長が楽しみになりますね。

 

 

高校生から大学生になると,

アルバイトを始める学生が多いと思います。

 

 

ただ,最近は,学生が学生らしい生活を送れなくなるくらい,

正社員並に働かされて,かつ,労働基準法を守っていない

ブラックバイトが横行しているので,

この4月からアルバイトを始める学生は,

ブラックバイトをしないように気をつけてもらいたいです。

 

 

ブラックバイトの被害を防止しようとして,

厚生労働省が4月1日から7月31日まで

アルバイトの労働条件を確かめよう!

キャンペーンを開始しましたので,本日は,

このキャンペーンを多くの人に知ってもらいたく,

アルバイトの労働問題について解説します。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04047.html

 

 

こちらのチラシには,アルバイトのトラブルの

典型事例が記載されています。

 

 

 

 

まずは,「学校のテストがある日もシフトを入れられてしまいます」

というトラブルです。

 

 

学生は学業が本業なのですが,使用者が勝手にシフト表を作成して,

正社員と同じくらい出勤しなければならなくなり,

大学の試験があるのに,アルバイトに行かなければならず,

試験を受けられずに単位がとれないという問題が生じます。

 

 

しかし,アルバイトの同意なく,使用者がシフト表を

勝手に作成することは,労働契約法に違反しています。

 

 

勤務日や休日,始業時刻や終業時刻といった労働条件を決めるには,

労働者と使用者が「対等の立場」で合意する必要があり

(労働契約法3条1項),労働条件を変更するには,

労働者と使用者の合意が必要になります(労働契約法8条)。

 

 

そのため,使用者は,一方的にシフトを決めることができず,

一方的にシフトを変更することもできないのです。

 

 

使用者には,学生のアルバイトのシフト表を作成する際に,

大学での勉強や試験に支障がないように配慮してもらいたいものです。

 

 

次に,「売れ残った商品を買い取れって言われます」というトラブルです。

 

 

コンビニなどでは,2月の恵方巻きや12月のクリスマスケーキを

自腹で買い取るように押し付けてくることがあるようです。

 

 

しかし,アルバイトには,売れ残った商品を買い取る義務はないので,

買いたくなかったら,きっぱりと断るようにしてください。

 

 

売買契約は,売りますと買いますという意思表示が合致しない限り,

成立しないので,買い手が買うと言わなければ,

売買契約は成立しないのです。

 

 

売れ残った商品を買わないといけない雰囲気があるかもしれませんが,

このような自腹買取をしたくないのであれば,

明確にNOと言うしかないのです。

 

 

 

 

また,アルバイトが売れ残った商品を買ったとしても,

その代金を給料から天引きすることは,

労働基準法24条1項の賃金全額払の原則に違反して,無効となります。

 

 

このようなアルバイトのトラブルから自分の身を守るために,

厚生労働省は,7つのポイントをまとめています。

 

 

 

 

①アルバイトを始める前に,労働条件を確認しましょう

 

②バイト代は,毎月,決められた日に,全額払いが原則

 

③アルバイトでも,残業手当があります

 

④アルバイトでも,条件を満たせば,有給休暇が取れます

 

⑤アルバイトでも,仕事中のけがは労災保険が使えます

 

⑥アルバイトでも,会社都合の自由な解雇はできません

 

⑦困ったときは,総合労働相談コーナーに相談を

 

 

この4月からアルバイトを始める学生に知っておいてほしいことが

端的にまとまっていますので,紹介させていただきました。

 

 

学生が労働法を学んで,ブラックバイトの被害が

撲滅されることを願っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

海外で労災事故に巻き込まれた場合に日本の労災保険法が適用されるのか?

昨日に引き続き,海外における労災事故について解説します。

 

 

昨日のブログに記載しましたが,海外での仕事が,

「海外出張」に該当すれば,日本の労災保険法が適用されるのですが,

「海外派遣」に該当すれば,日本の労災保険法は適用されないものの,

海外派遣者の特別加入の申請手続きをとり,承認が得られれば,

日本の労災保険法の補償が受けられるのです。

 

 

 

 

さて,海外に長期滞在する場合,

海外派遣者の特別加入制度を利用すれば問題ないのですが,

当初は,すぐに日本に帰国する予定であったものの,

予期せず海外滞在が長くなり,その後,

労災事故に巻き込まれてしまい,労災事故の時点において,

海外派遣者の特別加入制度の申請手続きをとっていなかった場合に,

日本の労災保険法が適用されるのかということが問題となります。

 

 

この問題について判断した裁判例として,

国・中央労働基準監督署長(日本運輸社)事件があります

(東京高裁平成28年4月27日判決・労働判例1146号46頁)。

 

 

この事件では,中国の現地法人で総経理の仕事をしていた

労働者が急性心筋梗塞を発症して死亡した事件で,

遺族は,労働基準監督署に対して,

遺族補償給付と葬祭料の支給を求めましたが,

労働基準監督署は,死亡した労働者は,

海外派遣者であり,特別加入の承認を受けていなかったとして,

日本の労災保険法の補償は受けられないと判断しました。

 

 

そこで,遺族が,この労働基準監督署の判断を不服として,

労災保険の不支給処分を取り消すための訴訟を提起しました。

 

 

争点は,死亡した労働者が,海外出張者か海外派遣者かというもので,

海外出張者に該当すれば,遺族が救済されることになります。

 

 

東京高裁は,海外出張か海外派遣かの判断基準について,

次のように判示しました。

 

 

 

 

単に労働の提供の場が海外にあるだけで,

国内の事業場に所属して当該事業場の使用者の

指揮に従って勤務しているのか,それとも,

海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の

指揮に従って勤務しているのかという観点から,

当該労働者の従事する労働の内容やこれについての

指揮命令関係等の当該労働者の国内での勤務実態を踏まえ,

どのような労働関係にあるのかによって,

総合的に判断されるべきものである

 

 

具体的には,被災した労働者の所属,地位,権限,

赴任時における日本の会社の内部処理,賃金支払,

労務管理,労災保険料の納付状況等が総合考慮されます。

 

 

本件事件では,被災した労働者には,

受注の可否の決定や値段や納期など契約内容の決定を行う権限も,

顧客に発注する見積書の内容を決定する権限も,

日本の会社から与えられておらず,

日本の会社の担当者がこれらの決定していました。

 

 

また,日本の会社では,被災した労働者を長期出張として

内部処理して労災保険料の納付を継続しており,

被災した労働者の給料は,日本の会社から

中国の現地法人を介して支払われており,

被災した労働者は,出席簿を日本の会社に提出していました。

 

 

これらの事実から,被災した労働者は,

単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず,

国内の事業場に所属して,国内の事業場の使用者の

指揮命令に従って勤務する労働者であり,

海外出張者に該当するので,特別加入手続きがとられていなくても,

日本の労災保険法の補償を受けられると判断されました。

 

 

 

 

このように,海外出張者か海外派遣者かについては,

被災した労働者の労働実態を入念に検討していく必要があります。

 

 

とはいえ,場合よっては海外派遣者と

判断される可能性もありますので,

長期間海外で働く場合には,事前に

海外派遣者の特別加入制度の承認手続きを

しておくようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

海外の労災事故に日本の労災保険が適用されるのか?

ラオスで水力発電所の建設工事に従事していた

大林組の男性社員がくも膜下出血で死亡したのは,

長時間労働が原因であるとして,

三田労働基準監督署が労災認定しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM3W56NCM3WULFA02D.html

 

 

過労死した男性は,メコン川支流の川に建設するダムや

水力発電所の工事の管理者をつとめていたようで,

死亡する1ヶ月前の時間外労働は約187時間,

最長で1ヶ月239時間の時間外労働をし,

50日連続勤務のときもあったようです。

 

 

 

海外で働くと,言葉が通じないうえに,文化が異なることで

ストレスがかかりますし,体調を崩した時に,

適切な医療を受けられるのか不安なことが多いです。

 

 

それでは,海外勤務で労働災害に巻き込まれた場合,

労働者には日本の労災保険が適用されるのでしょうか。

 

 

この点,海外での労働が,「海外出張」か「海外派遣」かによって,

日本の労災保険法が適用されるのかが分かれます。

 

 

海外出張とは,単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず,

国内の事業場に所属し,その事業場の使用者の

指揮に従って勤務することをいいます。

 

 

具体的には,海外における,①商談,

②技術・仕様などの打ち合わせ,

③市場調査・会議・視察・見学,

④アフターサービス,

⑤現地での突発的なトラブルの対処,

⑥技術習得などのために海外に赴く場合

などが海外出張となります。

 

 

 

 

海外出張の場合,出張中に発生した労働災害には

国内と同様に労災保険法が適用されます。

 

 

そのため,海外で発生した労働災害について,

業務遂行性(労働者が労働契約に基づいて会社の支配下にある状態)と

業務起因性(仕事が原因で負傷したこと)が認められれば,

業務上の労働災害として,労災保険の給付が受けられます。

 

 

他方,海外派遣とは,海外の事業場に所属して,

その事業場の使用者の指揮に従って勤務することをいいます。

 

 

具体的には,①海外関連会社(現地法人,合弁会社,提携先企業)

へ出向する場合,②海外支店,営業所へ転勤する場合,

③海外で行う据付工事・建設工事に従事する場合

(統括責任者,工事監督者,一般作業員などとして派遣される場合)

などは海外派遣となります。

 

 

海外派遣の場合,日本の労災保険法は適用されず,

海外派遣先の国の災害補償制度が適用されます。

 

 

しかし,海外には災害補償制度が確立していない国があったり,

災害補償制度が確立していても,補償水準は国によって差があります。

 

 

そのため,海外派遣の労働者の保護を図るために,

労災保険法には,海外派遣者の特別加入制度があります。

 

 

 

 

海外で仕事を開始する2週間ほど前に,

申請書を労働基準監督署を経由して労働局へ提出し,

労働局長が承認をすれば,海外派遣の労働者に,

日本の労災保険が適用されます。

 

 

また,すでに赴任している海外派遣の労働者に対しても,

特別加入制度を利用できますが,

日本の労災保険が適用されるのは,

労働局長の承認があった日以降となります。

 

 

海外に転勤になった場合には,

もしものことに備えて,

海外派遣者の特別加入制度に加入申請することを

忘れないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

勤務間インターバル制度の努力義務が始まります

先日,東京で高校時代の同級生と同窓会を開催しました。

 

 

皆さん,それぞれの職場で活躍しているようで,

大変よい刺激を受けました。

 

 

この同窓会で,働き方改革が話題になりました。

 

 

働き方改革関連法には,高度プロフェッショナル制度

という悪法も含まれてはいるものの,

働き方改革」というキーワードが世の中に浸透し,

自分の働き方を見直し,よりよい生活を実現していこう

と考える人が増えていくことは良いことだなぁと感じました。

 

 

 

 

他方,残念なニュースもあります。

 

 

JAXA筑波宇宙センターで人工衛星の管制業務をしていた男性が,

約16時間連続勤務を含む深夜労働が常態化していた等として,

過労自殺が労災認定されました。

 

 

また,東京都福生市の男性消防士が過重労働が原因で自殺したとして,

地方公務員災害補償基金の公務災害とは認定しなかった

行政処分が取り消された判決が出たり,

北海道の民間シンクタンクの男性研究員が過重労働でうつ病を

発症したとして,損害賠償請求が認められる判決が出されています。

 

 

働き方改革が叫ばれている現状においても,過重労働によって,

過労死や過労自殺に追い込まれる労働者があとを絶ちません。

 

 

 

 

このような過労死や過労自殺対策の切り札

と言われているのが,勤務間インターバル制度です。

 

 

勤務間インターバル制度とは,勤務終了後,

一定時間以上の休息時間を設けて,

労働者の生活時間や睡眠時間を確保するという制度です。

 

 

勤務と勤務の間に十分な休息時間がなければ,

適切な睡眠時間が確保できずに疲労が蓄積したり,

家族との団らんの時間がとれなくなって人生の質がおちる

などの弊害が生じます。

 

 

一定の休息時間を確保することで,労働者が

十分な生活時間や睡眠時間を確保できて,

ワークライフバランスを保ちながら働き続けることができるのです。

 

 

例えば,所定労働時間の始業時刻が8時30分で

終業時刻が17時30分の会社で働く労働者が,

残業によって終業時刻が22時となった場合で考えてみます。

 

 

通常であれば,前日の終業時刻が何時であっても,

翌日は決められた所定労働時間の始業時刻である

8時30分に出勤しなければならないのですが,

11時間の勤務間インターバル制度が導入されれば,

翌日の始業時刻は9時からとなります。

 

 

今回の働き方改革関連法の中では,

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が改正されて,事業主は,

健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定

を講じるように努めなければならないと規定されました。

 

 

 

 

これは,努力義務というもので,事業主は,

勤務間インターバル制度を導入しなくても

法律違反に問われることはなく,あくまでも,

勤務間インターバル制度を導入するように

努力していきましょうというものです。

 

 

この他にも,事業主は,他の事業主との取引を行う場合において,

著しく短い期限の設定及び発注の内容の頻繁な変更を行わない

ように必要な配慮をするように努めなければならないとされました。

 

 

取引先の労働時間の改善に協力して,

社会全体で働き方を見直していこうというものです。

 

 

もっとも,勤務間インターバル制度の導入は,

努力義務とされているので,厚生労働省の

平成29年就労条件総合調査では,

勤務間インターバル制度を導入していると回答した

企業の割合は1.4%と,まだまだ低調です。

 

 

勤務間インターバル制度の努力義務は,

2019年4月1日から施行されましたので,

過労死や過労自殺を防止し,

ワークライフバランスを実現していくためにも,

勤務間インターバル制度は効果的ですので,

導入する企業が増えていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

小さな習慣2

立花Be塾の課題図書「小さな習慣

のアウトプットの続きをします。

 

 

 

小さすぎて失敗するはずがない行動を毎日繰り返す。

 

 

これが小さな習慣の真髄です。

 

 

毎日小さな習慣を100%達成することで,

達成感を得られ,達成感が高い自己肯定感を導きます。

 

 

毎日,小さな習慣を達成するという成功を体験していくので,

成功が情熱を生み,行動の原動力になります。

 

 

成功が成功を生む」という好循環を作り出せるわけです。

 

 

 

 

逆に,最初から大きな課題を設定すると,

たいていは挫折してしまいます。

 

 

人間の脳は,素早い変化に適応できないようになっているので,

大きすぎる課題を自分に課すと脳が抵抗して,

三日坊主で終わってしまうのです。

 

 

この脳の特性を逆に利用すればいいのです。

 

 

変化を急ぐことなく,少しずつ少しずつ

小さな習慣を積み重ねることで,自分の脳を

変化になじませていけばいいのです。

 

 

もう一つ,面白い気づきがありました。

 

 

それは,自分の脳にご褒美を与えるということです。

 

 

 

新しく行動を開始した後に,

自分に何かしらの報酬を与えるわけです。

 

 

自分に報酬を与えることで,自分の意志の力を

回復させることができて,小さな習慣を継続することに役立つのです。

 

 

私は,毎日ブログを更新していますが,

ブログを投稿し終わった後に,

今日も1日ブログを更新できたという安堵感と共に,

1つのブログを書き上げた自分に対して,「今日もがんばったな」と

自分で褒めていることに気づきました。

 

 

だから,今日まで毎日ブログを更新することが

できたのだと納得できました。

 

 

毎日,がんばっている自分自身を自分で褒めることは,

小さな習慣を続けていくためには重要なことだと認識できました。

 

 

私は,これまで,毎日ブログを更新してきましたが,

仕事が忙しかったり,家族の時間を優先しなければいけないときには,

なかなか筆が進みませんでした。

 

 

しかし,「小さな習慣」の本を読んで,ブログの内容の出来や

長さはどうであれ,とりあえず毎日ブログを更新すればよく,

自分に対して,よいブログを書かなければならないという

プレッシャーを与えない方がいいことに気づきました。

 

 

ブログの質や量にこだわると,疲労が溜まっていたり,

気分がのらないときに,ブログを更新することができなくなる

リスクがあることから,小さな習慣を継続するためにも,

自分に課すハードルを下げてもいいことに気づき,

なぜだかホッとしました。

 

 

人間の脳の特性を理解して,それを習慣化するために,

どう活用するかが分かりやすく学べる名著ですので,

何かを継続していきたい人にぜひ読んでもらいたい一冊です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

小さな習慣

立花Be塾の課題図書「小さな習慣」(スティーヴン・ガイズ著)

を読んだので,アウトプットします。

 

 

 

早寝早起き,読書,運動など,毎日これらを実践していけば,

圧倒的に自己成長できるはずです。

 

 

しかし,毎日これらのことを実践するのは,

難しいのが現実で,たいていは三日坊主で終わります。

 

 

私も,ご多分に漏れず,樺沢紫苑先生が推奨している

3行ポジティブ日記を毎日,夜寝る前に書いていたのですが,

2人目の子供が生まれてからは,仕事と子育てで疲れて,

3行の日記を書くことができなくなってしまいました。

 

 

このように,毎日継続していくことは,なかなか大変なことです。

 

 

しかし,この本を読むと,小さな習慣を積み重ねていくことで,

大きな目標を達成できることが,よくわかります。

 

 

小さな習慣とは,毎日これだけはやると決めて必ず実行する,

本当にちょっとしたポジティブな行動です。

 

 

 

 

「こんなに簡単でいいの?」と思えるくらいの課題を自分に与えて,

それをほんのわずかな意志の力を使って実行していくというものです。

 

 

この本の著者は,腕立て伏せを1日1回実施することを

小さな習慣として実践しました。

 

 

腕立て伏せを毎日50回という実践だと,

普段筋トレをしていない人はすぐに挫折するでしょうが,

1日1回の腕立て伏せであれば,なんとか毎日継続できそうです。

 

 

というわけで,腕立て伏せを1回すると,もう1回できるな,

となっておまけで何回も腕立て伏せをしてしまいます。

 

 

1日1回というハードルの低さから,毎日続けることができ,

結果として1日1回以上の腕立て伏せをしてしまうので,

腕の筋肉が鍛えられていくわけです。

 

 

習慣になれば,自動的によい行動(腕立て伏せなどの筋トレ)

をするので,健康的になり,自己成長できるわけです。

 

 

私達の普段の行動の約45%は習慣で成り立っているので,

自分にとってよりよい習慣を取り入れていくことが,

自分が成長するための鍵になりそうです。

 

 

小さな習慣を導入するためには,

脳の2つの部分が重要な役割を担います。

 

 

それは,大脳基底核と前頭前野です。

 

 

大脳基底核は,特定のパターンを認識し,

それを繰り返す機能をもっています。

 

 

前頭前野は,何かをしたときの結果や

長期的な利益を理解できる脳の司令塔です。

 

 

前頭前野は,潜在意識の自動的な繰り返しの機能を管理し,

もっとよい方法があるとわかったときには,

自動化された動きを止めて,別の行動をとらせます。

 

 

そのため,前頭前野に,運動や読書が自分にとって

大変価値のあるものであると理解させれば,

適切に大脳基底核をコントロールして,

よい習慣を実践できます。

 

 

しかし,前頭前野は,簡単にエネルギーを使い果たす

という弱みがあり,疲れていると,

大脳基底核をコントロールできなくなります。

 

 

 

 

大脳基底核は,同じことを自動的に繰り返し,

エネルギーを効率的に使うのが得意なので,

前頭前野が大脳基底核をコントロールできなくても,

大脳基底核に自動的に好ましい行動をとるように教え込めば,

勝手に自己成長できます。

 

 

小さな習慣であれば,わずかな意志の力でできるので,

エネルギーを消費せずに,前頭前野に好ましい行動をとるように

司令を出させて,あとは,大脳基底核に好ましい行動をとるように

教え込んで,小さな習慣を自動的に継続できるというわけです。

 

 

小さな習慣という最初の一歩を踏み出せば,

あとは自然に動き出していき,

徐々にコンフォートゾーンを抜けていくわけです。

 

 

イチロー選手が語った

小さいことを積み重ねることがとんでもないところにいくただ一つの道

という言葉の意味が科学的に理解できました。

 

 

この本を読み,滞っていた3行ポジティブ日記を再開してみます。

 

 

夜だと,日記を書けないので,朝,

3行ポジティブ日記を書くように,

ハードルを下げて実践してみます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働条件を変更するための合意とは3~契約期間の変更~

会社から詳しい説明がないまま,

会社から提示された書面にサインしないと,

解雇されると思い,サインしたところ,

正社員から契約期間の区切られた

非正規雇用労働者に変更させられてしまいました。

 

 

 

このようなケースの場合,労働者は,

正社員である無期労働契約から,

非正規雇用労働者である有期労働契約へ

変更することについて,合意があったと

認められるのでしょうか。

 

 

本日は,無期労働契約から有期労働契約に

労働条件を不利益に変更されたことについての

労働者の合意について判断された

社会福祉法人佳徳会事件を紹介します

(熊本地裁平成30年2月20日判決・

労働判例1193号52頁)。

 

 

この事件では,争点がたくさんあるのですが,

労働条件の変更の合意について解説します。

 

 

労働契約法8条により,労働者の合意があれば,

労働条件を変更することができます。

 

 

しかし,労働者は,会社の指揮命令に服する立場にあるので,

会社から労働条件の変更の提案を受けても拒否しにくいのです。

 

 

また,会社から労働条件を変更する理由の説明を受けても,

会社が情報を一方的ににぎっていることが多く,労働者は,

自分の力で情報収集するのにも限界があり,

適切な判断をしにくい状況にあります。

 

 

そのため,労働者が形式的に労働条件の変更に合意していても,

労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には,

労働者の合意は慎重に判断されます。

 

 

山梨県民信用組合事件の平成28年2月19日判決は,

当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者により当該行為がされるに至った経緯及び態様,

当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,

当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点からも,判断されるべき」としました。

 

 

 

 

そして,期間の定めのない無期労働契約であれば,

労働者は解雇されない限り,雇用が維持されるのに対し,

期間の定めのある有期労働契約であれば,

原則として期間満了で労働契約が終了し,

例外的に労働契約法19条の要件を満たす場合に,

契約が更新される可能性があるという相違があり,

契約の安定性に大きな相違があります。

 

 

そのため,無期労働契約から有期労働契約へ

労働条件を変更する場合にも,

山梨県民信用組合事件の最高裁判決が示した

上記の基準に従って判断することになります。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,期間の定めのある

労働条件通知書にサインをしていましたが,

個別面談における説明が極めて短時間であり,

不利益の内容についての説明が十分に行われていないこと,

原告の労働者がサインしなければ解雇されると思ったので,

サインしたと認められることから,自由な意思に基づいて

されたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない

として,無期労働契約から有期労働契約へ労働条件を

変更することについて原告の合意はなかったと認定されました。

 

 

その結果,原告は,正社員のままとなり,

原告に対する解雇は無効となりました。

 

 

さらに,本件事件では,原告が体調不良で自宅で休んでいたときに,

被告の代表者が自宅を訪問して,解雇を通告し,

原告は保育士であったのですが,園児や保護者の

目に触れる場所である保育園の玄関に貼ってる

職員一覧に原告が解雇されたと記載していたことから,

解雇の態様が悪質であると判断されました。

 

 

 

 

原告は,被告の行為により,本件保育園で保育士として

勤務する希望を絶たれ,長期間不安定な地位に置かれていたことから,

慰謝料30万円が認められました。

 

 

解雇が無効となり,未払賃金が支払われることになれば,

解雇を理由とする慰謝料請求は認められない傾向にあるのですが,

解雇の態様が悪質な場合には,慰謝料請求も認められる余地があるのです。

 

 

労働契約の期間を無期から有期に変更する場合の

労働者の合意を慎重に判断することは,

労働者にとって有利な判断ですので,紹介しました。

 

 

労働条件の変更に納得がいない場合には,

弁護士に早目に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。