会社から未払残業代を回収できない場合には社長等の役員に対して損害賠償請求することを検討する
1 会社から未払残業代を回収できないことがあります
未払残業代請求事件では、裁判をして、
会社に対していくらかの残業代を支払えという、
勝訴判決をもらっても、会社が任意に残業代を支払わないことがあります。
会社が任意に残業代を支払わない場合、
会社の財産を調査して、預金などの財産がみつかれば、
預金を差し押さえたりして、未払残業代を回収します。
もっとも、会社の預金の差し押さえをしても、
会社に預金がなければ、差し押さえは空振りに終わってしまい、
未払残業代を回収できません。
また、悪質な会社であれば、財産を隠してしまい、
財産を調査しても、差し押さえるべき財産がみつからないこともあります。
そうなると、せっかく裁判で勝訴しても、
未払残業代を回収できなくなるという残念な結果になってしまいます。
2 役員等の第三者に対する損害賠償責任
このように、会社から未払残業代を回収できないときには、
会社の代表取締役などの役員に対して、損害賠償請求をして、
実質的に未払残業代を回収する方法を検討します。
会社が未払残業代を支払わないなら、
代表取締役などの役員に代わりに未払残業代を支払ってもらうわけです。
このときに利用するのが、会社法429条1項の
役員等の第三者に対する損害賠償責任という法律構成です。
役員等の第三者に対する損害賠償責任の趣旨は、
株式会社が経済社会において重要な地位を占めており、
株式会社の活動は、役員等の職務執行に依存していることから、
役員等に法律で定めた特別の責任を課して、
第三者の保護を図ることにあります。
この第三者には、会社の労働者も含まれます。
役員等の第三者に対する損害賠償責任が認められるためには、
①役員等が会社に対する任務を懈怠したこと、
②当該任務懈怠について、役員等に悪意または重過失があること、
③第三者に損害が生じたこと、
④損害と任務懈怠との間に相当因果関係があること、
という要件を満たす必要があります。
3 任務懈怠とは
①の任務懈怠とは、役員等が会社の管理・運営を適正に行うことを
確保するために課せられている善管注意義務
(会社法330条、民法644条)や
法令遵守義務(会社法355条)に違反することです。
善管注意義務とは、役員等は、会社との間で委任関係に立つので、
善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務のことを言います。
ここで、会社が労働者に対して未払残業代を支払わないことが、
役員等の会社に対する任務懈怠に該当するかが問題となります。
まず、時間外労働に対して残業代を支払うことは、
労働基準法37条で定められた、
会社の労働者に対する基本的な法的義務であり、
会社がこれに違反した場合には、会社は、
6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられます
(労働基準法119条1号)。
そのため、会社の役員等は、会社に対する善管注意義務として、
会社に労働基準法37条を遵守させて、
労働者に対して残業代を支払わせる義務を負っているのです。
そして、会社が労働者に対して意図的に残業代を支払わない
という事態は、既にそれ自体として、善管注意義務に違反しており、
任務懈怠となります。
この点については、昭和観光(代表取締役ら割増賃金支払義務)事件の
大阪地裁平成21年1月15日判決(労働判例979号16頁)と、
ブライダル関連会社元経営者ら事件の鳥取地裁平成28年2月19日判決
(労働判例1147号83頁)の裁判例が参考になります。
次に、②役員等は、残業代を未払であることを認識しているので、
悪意または重過失が認められ、
③労働者に未払残業代が支払われていないという損害が発生しており、
④役員等の任務懈怠と損害の発生との間に
相当因果関係があることになります。
その結果、労働者は、役員等に対して、
未払残業代相当の損害賠償請求ができることになります。
会社に財産がなくても、代表取締役などの役員等が財産を持っていれば、
役員等の財産から未払残業代を回収することができるのです。
回収の場面では、あらゆる方法を考えて実践することが重要になります。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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