タイムカードがなくても未払残業代請求をあきらめない
未払残業代の法律相談を受けていると,
タイムカードなどで労働時間の把握をしていない中小企業があり,
労働者も自分で労働時間の記録をつけておらず,
労働時間をどうやって証明するべきかについて悩む場面が多々あります。
厚生労働省は,
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
を定めており,会社は,労働時間を適正に管理するため,
労働者の労働日ごとの始業時刻・終業時刻を確認し,
これを記録することが義務付けられています。
しかし,この労働時間把握義務が守られていないのが現状です。
また,自分の労働時間を,残業代計算アプリなどを利用して,
自分自身で記録している労働者も少ないのが現状です。
他方で,裁判では労働時間を証明する責任は労働者にあるので,
労働者は,労働日ごとに,何時から何時まで働いたのかを
特定して主張しなければならないので,
労働時間を証明するための証拠がない場合には,
どう対応すべきか頭を悩ませます。
この労働時間の証明において,
労働者に有利な判断をした裁判例を見つけたので,
紹介させていただきます。
その裁判例とは,大阪高裁平成17年12月1日判決・
ゴムノイナキ事件・労働判例933号69頁です。
この事件では,被告会社では,タイムカードなどを
用いた出退勤管理は行われていませんでした。
原告の妻は,原告の帰宅が遅いことから,
その体調を心配して,7ヶ月間ほど,
原告の帰宅時間を30分単位でノートに記載していました。
原告が退社後に飲み会に参加するなどの寄り道をした可能性があり,
また,原告が帰宅したときに妻が寝ていたときには,翌朝,
原告が妻に帰宅時間を伝えたのですが,それでは正確な記録とはいえず,
妻のノートの帰宅時間だけでは,
退社時刻を確定することはできませんでした。
ようするに,妻のノートは,
証拠としての価値は低いと判断されたのです。
自宅と会社の距離が近く,
退社時刻と帰宅時間との時間差が短いのであれば,
帰宅時間で退社時刻を確定することも可能だったのかもしれません。
しかし,裁判所は,タイムカードなどによる
出退勤管理をしていなかったのは被告会社の責任によるものであり,
これを原告に不利益に扱うべきではないと判断しました。
また,被告会社は,休日出勤や残業の許可願を提出せずに
残業している従業員がいたことをわかっていながら,
これを放置していました。
そのため,裁判所は,原告の具体的な終業時刻や
残業時間に行った仕事内容が明らかではないことをもって,
時間外労働の証明が全くされていないとして扱うべきではなく,
全ての証拠を総合考慮して,ある程度概括的に時間外労働を推認し,
原告は,平均して午後9時まで残業していたと判断して,
原告の未払残業代請求を認めたのです。
このように,タイムカードなどの労働時間を客観的に
記録した証拠がなかったとしても,
手持ちの証拠を総合考慮することで,
平均的な残業時間を計算すれば,
未払残業代請求が認められる可能性があります。
未払残業代請求事件では,諦めずに,知恵を絞って,
証拠をなんとか探し出して,
せめて平均的な残業時間を計算できるところまでもっていけば,
道が開けるかもしれません。
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