解雇を仮処分で解決するのはどういう場合か
会社から解雇されてしまった労働者は,
収入を確保する道を絶たれてしまい,生活が苦しくなります。
一刻も早く,解雇の問題を解決して,
収入を確保したいと考えるのが通常です。
そのようなときに考えられるのが,仮処分という裁判手続です。
解雇を裁判手続で解決する場合,大きく分けて3つの手続があります。
①通常の裁判,②労働審判,③仮処分の3つです。
本日は,このうちの③仮処分について説明します。
解雇を通常の裁判で解決しようとすると,
第一審の判決がでるまでに約1年くらいかかります。
判決がでるまで約1年も待っていたのでは,労働者の生活が困窮します。
そこで,第一審の判決がでるまで,会社に対して,
仮に賃金を支払えということを強制させる
賃金仮払の仮処分を申し立てることがあります。
賃金の仮払が認められれば,会社は,解雇した労働者に対して,
毎月一定額の賃金を支払わなければならなくなります。
この仮処分の手続は,申立から2~3カ月から6カ月程度で
結論を得られることが多く,通常の裁判に比べて手続が早く進みます。
また,仮処分手続の中で和解が成立することも多く,
仮の手続とはいえ,最終的な紛争解決も可能です。
もっとも,この仮処分では,通常の裁判と同じように,
解雇が無効であることのほかに,
保全の必要性という別のハードルを超えなければなりません。
保全の必要性とは,賃金が仮に支払われなければ,
労働者の生活が困窮する事情のことです。
通常,労働者は,賃金の仮払いを受ければ,
生活費につかってしまうので,最終的に,会社が裁判で勝っても,
仮払いした賃金が返還されることは困難になります。
そのため,賃金仮払の仮処分では,
この保全の必要性は厳格に審査されます。
保全の必要性については,
解雇された労働者が資産を保有しているか,
副業などの他の収入源があるか,
解雇後に他の会社に再就職したか,
配偶者が働いているか,
同居の親の年金収入はいくらか
などの事情が考慮されます。
預貯金が十分あったり,
解雇後に他の会社に就職していたり,
配偶者が働いていて十分な収入がある場合には,
保全の必要性がないと判断される可能性があります。
また,賃金の仮払いが認められたとしても,
解雇前の賃金全額が認められるとは限りません。
認められる仮払いの賃金の金額は,
標準生計費の範囲内に抑えられる傾向にあります。
ちなみに,人事院が発表した平成29年4月の
世帯人員4人の全国標準生計費は,21万9620円でした。
なお,仮処分には,賃金仮払以外にも,
労働契約上の地位を有することを仮に定める地位保全の仮処分
という手段もありますが,賃金の仮払いが認められれば,
それで足りるとして,なかなか認められないのが現状です。
このように,仮処分の場合,
保全の必要性というハードルがあり,解雇された労働者は,
別の会社に再就職することが多く,私は,
あまりこの手続を利用したことがありません。
よほど,緊急に賃金の仮払いをさせる必要がある場合や
迅速に解雇された会社に復帰したい場合
には仮処分を検討しますが,そうでないなら,
通常の裁判か労働審判を選ぶことが多いです。
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