勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除は労働時間になるのか?~駅務員の未払賃金請求事件~
会社において,始業時刻前に準備体操や朝礼が行われたり,
終業時刻後に掃除をすることがあります。
このような勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除の時間は,
労働時間にあたるのでしょうか。
本日は,労働時間とはどのような時間かについて説明します。
三菱重工業長崎造船所事件の最高裁平成12年3月9日判決では,
労働時間とは,「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間」
をいうとされました。
その上で,「労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を
事業場内において行うことを使用者から義務付けられ,
又はこれを余儀なくされたときは,
当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,
当該行為は,特段の事情のない限り,
使用者の指揮監督下に置かれたものと評価することができ,
当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものに限り,
労基法上の労働時間に該当する」という判断基準を定立しました。
ようするに,仕事の準備行為を会社内で行うことを
義務付けられていれば,労働時間にあたることになります。
ここで,もう一つ,東京急行電鉄事件の
東京地裁平成14年2月28日判決を紹介します
(労働判例824号5頁)。
この事件では,駅務員の始業前点呼,点呼後の勤務場所までの移動,
退社前の点呼の時間が労働時間にあたるかが争われました。
この事件の駅務員は,始業の5分前くらいに駅内の所定の場所へ行き,
監督者の前で,本人の担当当番,始業時刻,励行事項,
心身状態,待遇行動目標やスローガンを申告し,
監督者から注意事項の伝達を受けて,
15~100メートル離れた担当業務場所に
始業時刻までに移動していました。
また,駅務員は,勤務時間終了後に,
監督者の前で当日の状況,翌日の担当交番,
始業開始時刻を申告して退社していました。
このような点呼は,駅務員と監督者とが当日の勤務内容,
心身の異常の有無を確認し,勤務につく心構えを整えるために行われ,
また,交替勤務の導入により,
駅務員の勤務時間がまちまちとなったことに伴い,
勤務の交代に確実を期すために行われるようになったことから,
就業を命じられた業務の遂行に必要な準備行為であると判断されました。
そして,会社から駅長に対して,
駅務員の点呼を実施するように指示があり,
点呼の方法は,監督者に配布された鉄道駅務掛作業基準や
接遇向上マニュアルに記載されて,指導教育が行われており,
点呼を行わなかった労働者は不昇格とされていました。
そのため,駅務員の点呼は,就業を命じられた業務の準備行為であり,
これを事業所内で行うことを会社から義務付けられた行為であり,
点呼及び点呼場所から勤務場所までの移動は,
使用者の指揮命令下に置かれたものといえ,
労働時間と判断されました。
会社から明示的または黙示的に指示命令があったり,
会社の規則やマニュアルがあって,そのとおりに実施されていたり,
労働者が従わなかったときにペナルティがある場合には,
会社の指揮命令下に置かれていたといえます。
勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除については,
会社からの指示があったり,
会社の規則やマニュアルで定められていて,
参加や実施が義務付けられていれば労働時間となります。
労働時間となれば,その時間に働いた分の賃金を請求でき,
1日8時間を超えていれば残業代を請求できます。
他方,勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除について,
労働者が自発的,任意的に行っている場合には,
労働時間といえなくなります。
勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除については,
労働時間になる可能性がありますので,
疑問に思った場合には,弁護士に相談するようにしてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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