証券会社の外務員に対する損害賠償請求が否定された事例
会社を退職したにもかかわらず,
在職中の仕事のミスを理由に,
会社から損害賠償請求をされたという法律相談を受けました。
くら寿司,セブンイレブン,大戸屋などで
アルバイトが不適切動画を投稿したバイトテロなどを契機に,
会社が労働者に対して,損害賠償請求をする風潮があるのかもしれません。
労働者側の弁護士としては,労働者が会社から
損害賠償請求をされた場合に,
どのような対応ができるかを検討する必要がありますので,
裁判例を調べていたところ,
労働者にとって有利な裁判例を見つけましたので紹介します。
つばさ証券事件の東京高裁平成14年5月23日判決です
(労働判例834号56頁)。
この事件は,証券会社の外務員が,顧客に対して,
ワラント(新株引受権の授権証券)取引について,
説明義務,補足説明義務を怠ったとして,
顧客が証券会社に損害賠償請求訴訟を起こし,
裁判で顧客の損害賠償請求が認められたので,
証券会社が,説明義務,補足説明義務を怠った外務員に対して,
損害賠償請求をしたというものです。
ここで,ワラントとは,その価格が
株価変動率を超えて上下する特徴があり,
また新株引受の権利行使期間満了前に価格が下落し,
期間経過後は無価値になることから,
ハイリスクハイリターンな商品とされています。
この証券会社の就業規則には,
「職員は,故意または重大な過失によって会社に損害を与えたときは,
会社はこれを弁償させる」と規定されており,
証券会社は,この就業規則の規定に基づいて,
外務員に損害賠償請求をしているので,
外務員に「重大な過失」があったかが争点となりました。
まず,外務員の説明義務違反について,
別件の顧客と証券会社の訴訟において,
これが認められていることもあり,
外務員には,顧客に対して,
リスクを説明すべき義務を怠ったことが認められました。
もっとも,証券会社は,外務員に対して,
ワラント取引を行うに当たり,
顧客に対して行うべき説明について
研修や指導を格別していませんでした。
また,顧客に損害が発生したのは,
株価の暴落とその後の下落傾向によるものであり,
外務員には予測し得なかったものでした。
これらの事情から,外務員には説明義務違反が認められるものの,
会社に対する重大な過失はないと判断されました。
次に,補足説明義務違反について,外務員には,
顧客に対して,ワラントの商品特性について説明して,
ワラントの処理をどうするかについての
判断材料を提供すべき補足説明義務違反が認められました。
もっとも,当時は株式相場を予測することは困難な状況にあり,
ワラントの売付時期の判断が難しく,実際,証券会社は,
外務員に対して,相場の回復が見込めないことから,
ワラントの売付をするように指示や示唆をしていませんでした。
これらの事情から,外務員には,
補足説明義務違反が認められるものの,
会社に対する重大な過失はないと判断されました。
歩合給が大きく独立性が高い証券会社の外務員であっても,
会社に労働力を提供しても,全収益を取得できるわけでもない以上,
損害賠償責任の負担においては,その義務を軽減すべきです。
加えて,株式市場の予測は困難なことから,
証券会社に発生した損害の全てを外務員に被らせるのも酷なことです。
そのため,重大な過失という要件に該当するかについて,
外務員に有利な事情を考慮した東京高裁の裁判例は妥当だと思います。
労働者は,会社から損害賠償請求されても,
場合によっては請求を免れたり,
減額できる余地がありますので,
早急に弁護士に相談するようにしてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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