請求書を出し忘れたことで会社から損害賠償請求されたときの対処法

先日,次のような労働相談を受けました。

 

 

顧客に請求書を送らないといけなかったものの,

仕事が忙しくて,請求書を送り忘れてしまい,

売上を回収するのが困難となってしまいました。

 

 

上司に相談したところ,自分が対応すると言ってくれたので,

上司に対応を任せていたところ,上司が放置してしまい,

結局,売上の回収が困難なままとなりました。

 

 

 

そして,相談者が会社を自己都合退職したところ,

売上の回収が未了の分について,会社から損害賠償請求されました。

 

 

このような場合,労働者は,会社からの損害賠償請求に

応じなければならないのでしょうか。

 

 

この相談と似たケースについての裁判例として,

N興業事件を紹介します

(東京地裁平成15年10月29日判決・労働判例867号46頁)。

 

 

この事件では,原告労働者が顧客へ請求書を提出していなかったことで,

813万円の債権が回収不能となったとして,

会社から損害賠償請求されたのです。

 

 

もっとも,原告労働者には,次のような事情がありました。

 

 

仕事量が多く,午後11時ころまで残業や休日出勤をし,

上司に仕事量が多いことを相談しても,何も対応してくれず,

そのような状況の中で,顧客に対する請求書提出のタイミングを逸したり,

失念したりしました。

 

 

 

 

その後,原告労働者は,仕事上のストレスで狭心症を発症して入院し,

退院したところ,上司から過重な業務命令があったり,

退職金で債権回収不能額を相殺することを迫られて,

自己都合退職しました。

 

 

以上の事情をもとに,裁判所は,

①請求書が未提出になったのは過重な労働環境にも一因があったこと,

②債権回収不能については,会社が値引きした事情があること,

③被告会社では以前にも同じような事件が起きているのに,

再発防止策がとられていないこと,

④原告労働者だけが原因ではなく,上司の監督責任もあること,

⑤上司は請求書の未提出を知ってから

すぐに調査をせずに損害が拡大したこと

を根拠として,会社に発生した損害の4分の1の限度で,

原告労働者に対して,賠償を認めました。

 

 

茨城石炭商事事件の最高裁昭和51年7月8日判決では

使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,

被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,

加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度

その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から

信義則上相当と認められる限度において,

被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる」

と判断されており,N興業事件では,この規範にあてはめて,

会社の労働者に対する損害賠償請求を4分の1に制限したのです。

 

 

すなわち,会社は,労働者から労務の提供を受けることで

利益を得ているので,労働者のミスによる損害も負担すべきであり,

会社からの莫大な損害賠償請求が認められては,

資力に乏しい労働者にとって酷な結果となることから,

会社の労働者に対する損害賠償請求は制限されることが多いです。

 

 

 

さらには,労働者の些細な不注意で損害が発生した場合には,

会社の労働者に対する損害賠償請求が否定されることもあります。

 

 

相談者のケースの場合,毎日夜遅くまで残業していて

仕事が忙しくて請求書を出し忘れたこと,上司に相談したものの,

上司が放置したことという事情がありますので,

会社からの損害賠償請求は制限されるべきですし,場合によっては,

損害賠償請求が否定されるべきと考えます。

 

 

そのため,会社から損害賠償請求されても,

そのまますぐに応じるのではなく,弁護士に相談して,

支払わなくてもいい方法はないか,

損害賠償請求を減額できないかについて

アドバイスをもらうようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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