住宅設備機器の修理補修をする個人事業者は労働組合法の労働者か?
昨日のヤマハ英語教室の英語講師は,
労働組合法3条の「労働者」にあたるのか
というブログ記事に関連して,本日は,
労働組合法3条の「労働者」にあたるのかが争われた
INAXメンテナンス事件を紹介します
(最高裁平成23年4月12日判決・労働判例1026号27頁)。
INAXの子会社であるINAXメンテナンスは,
住宅設備機器の修理補修などの会社であり,
INAX製品の消費者からの依頼で
修理業務に応じる個人事業者である
カスタマーエンジニア(CEといいます)
との間で業務委託契約を締結していました。
CEは,受付センターから顧客からの修理依頼の連絡を受け,
直接,修理依頼をしてきた顧客と連絡,打ち合わせをして
修理業務を行い,その報酬は,顧客の代金に,
ランクごとに異なる比率で定められた基準に従って支払われており,
源泉徴収や社会保険料の控除は行われずに,
個人事業の収入として扱われていました。
CEらが加入する労働組合が,会社に対して,
組合員の契約内容の変更や解除を一方的に行わないこと,
組合員の年収を保障すること(最低年収550万円),
CE全員を労災保険に加入させることを要望し,
団体交渉を申し入れました。
しかし,会社は,CEは独立した個人事業者であることから,
労働組合法の労働者に当たらないので,
団体交渉に応じる義務はないとして,
団体交渉に応じませんでした。
そこで,労働組合は,労働委員会に対して,
会社が正当な理由なく団体交渉を拒否しているとして,
不当労働行為の救済を求めたところ,
労働委員会は,会社が団体交渉に応じなかったことは
不当労働行為に該当し,団体交渉に応じることと
謝罪文の交付を会社に対して命令しました。
これに対して,会社が,労働委員会の救済命令の
取消を求めて裁判を起こしました。
このように,労働組合に対する不当労働行為の事件は,
地方労働委員会→中央労働委員会→
地方裁判所→高等裁判所→最高裁判所という,
事実上5審制になっており,
解決までに長い年月がかかってしまいます。
さて,最高裁は,昨日ブログで紹介した,
労働組合法上の労働者性の判断基準である
基本的判断要素,補充的判断要素,消極的判断要素
について,次のようにあてはめて判断しました。
①事業組織への組み入れについて,
INAXメンテナンスは,約590人いるCEを
ライセンス制度などの下で管理し,
全国の担当地域に配置を割り振って
日常的な修理補修の業務に対応させていたので,
CEは,会社の業務遂行に不可欠な労働力として,
その恒常的な確保のため,組織に組み込まれていたと判断されました。
②契約内容の一方的・定型的決定について,
本件業務委託契約は,「業務委託に関する覚書」によって規律されており,
個別の修理補修の依頼内容をCEが変更する余地がなかったため,
会社が業務委託契約の内容を一方的に決定していたと判断されました。
③報酬の労務対価性について,
CEの報酬は,商品や修理内容にしたがって
予め決定した顧客に対する請求金額に,
会社が決定した級ごとに定められた一定率をかけて,
これに時間外手当に相当する金額
が加算される方法で支払われていたので,
労務提供の対価としての性質を有すると判断されました。
④業務の依頼に応ずべき関係について,
CEが仕事の依頼を拒否する割合は1%弱であり,
業務委託契約の契約期間は1年であり,
会社が異議を出せば更新されないことになっていたため,
CEは,会社からの個別の修理補修の依頼に
応ずべき関係にあったと判断されました。
⑤広い意味での指揮監督下の労務提供,
一定の時間的場所的拘束について,
CEは,原則として午前8時30分から午後7時まで
発注連絡を受けること,会社の制服を着用して作業をし,
会社に報告書を提出していたことから,これも認められました。
以上より,CEは,労働組合法3条の労働者と判断され,
会社の団体交渉の拒否は不当労働行為に該当するとされました。
形式的に業務委託契約を締結して個人事業者と扱われていても,
上記の判断要素にあてはめていけば,
実質的に労働組合法上の労働者といえるケースはたくさんあると思います。
そのような場合,労働組合を結成して,
会社と交渉することで,組合員の労働条件を
向上させることができるかもしれません。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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