労働契約書や労働条件通知書がなくても残業代請求をあきらめない!

労働契約書や労働条件通知書がない場合,

残業代の基礎となる賃金をいくらにして

計算すればいいのでしょうか。

 

 

 

労働者としては,何時から何時までが勤務時間で,

会社から支払われる賃金がいくらなのかが分からなければ,

安心して働くことができないので,労働基準法では,

労働者に労働条件通知書を交付することを会社に義務付けています。

 

 

しかし,地方の中小企業では,労働基準法を守らずに,

労働契約書を締結していなかったり,

労働条件通知書を交付していないところもあります。

 

 

このような場合に,労働者は,残業代を請求するために,

どうやって残業代を計算すればいいのか困ります。

 

 

本日は,この点について,労働者に有利な判断をした

東京港運送事件を紹介します。

(東京地裁平成29年5月19日判決・労働判例1184号37頁)

 

 

トラック運転手が,会社に対して未払残業代を請求した事件です。

 

 

 

 

この事件では,原告のトラック運転手と被告会社との間に

労働契約が成立していますが,賃金の金額や計算方法を証明する

労働契約書や労働条件通知書は作成されていませんでした。

 

 

被告会社は,「月給28万円以上可!」という求人広告を出しており,

原告のトラック運転手は,求人広告を見て,被告会社に応募しました。

 

 

採用面接の際に,被告会社からは求人広告とは異なる

労働条件の説明はありませんでした。

 

 

原告のトラック運転手の給料は,

基本給,皆勤手当,愛車手当,稼働手当,

臨時手当,第二稼働手当,職務手当で構成されており,

賃金規定には,臨時手当,第二稼働手当,職務手当は

割増賃金の支給であると定められていました。

 

 

トラック運転手の給料は,基本給を少なくして,

その他の手当を多くして,残業代を支払わないように

していることが多いです。

 

 

まず,労働契約書や労働条件通知書が存在しない場合,

次のことを考慮して,賃金や労働条件を確定するべきと判断されました。

 

 

①求人広告の内容

②労働者が採用される経緯

③労働者と使用者との間の会話内容

④予定されていた就労内容

⑤職種

⑥就労及び賃金支払の実績

⑦労働者の属性

⑧社会一般の健全な労使慣行

 

 

本件では,①求人広告について,

会社が求人広告とは異なる労働条件を説明せずに,

労働者を採用した場合,求人広告の内容で

労働契約が成立すると判断されました。

 

 

また,⑥就労及び賃金支払の実績について,

被告会社は,臨時手当,第二稼働手当,稼働手当は

割増賃金であると賃金規定で定めていますが,

この3つの手当を除いて,時給を計算すると最低賃金を下回ります。

 

 

さらに,3つの手当に対応する時間外労働の

時間数が示されていないこと,

第二稼働手当や職務手当は定額で算定さており,

時間外労働の有無や程度で増減していないことから,

3つの手当は,割増賃金とはいえず,

残業代を計算するための基礎賃金に含まれることになりました。

 

 

賃金規定で「~手当」は割増賃金であるという規定があったとしても,

最低賃金を下回っていたり,時間外労働との関係が不明な場合には,

「~手当」が割増賃金としては認められず,

残業代が1円も支払われていなかったこととなり,

さらに,「~手当」が残業代計算の基礎賃金となるので,

残業代の単価が高くなるのです。

 

 

その結果,労働者の未払残業代が高額になります。

 

 

労働契約書や労働条件通知書がなくても,

求人広告などをもとに残業代を計算することができますので,

あきらめずに,なにか資料がないか検討することが重要になります。

 

 

求人広告が後々重要な証拠になる可能性がありますので,

労働者は,求人広告を大切に保管しておくといいでしょう。

 

 

他方,会社は,労働基準法を守らずに,

ずさんな労務管理をしていると,

多額の未払残業代を支払わなければならなくなり,

痛い思いをすることになることをよく理解しておくべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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