ハイヤー会社の1ヶ月単位の変形労働時間制が無効となり未払残業代約1454万円の支払いが命じられた判決

1 変形労働時間制とは

 

 

未払残業代請求の事件を担当していると,会社側から,

よくでてくる反論が変形労働時間制についての主張です。

 

 

変形労働時間制とは,一定の期間につき,

1週間当たりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で,

1週または1日の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

 

 

所定労働時間とは,労働契約で定められた労働時間のことで,

例えば,午前9時に出社し,午前12時から午後1時までが昼休憩,

午後6時に退社することが会社から決められている労働時間をいいます。

 

 

 

法定労働時間とは,労働基準法32条に定められている

労働時間のことで,1日8時間,1週間40時間を超えて

労働させてはならないとされています。

 

 

例えば,1ヶ月単位の変形労働時間制では,

30日の月の場合,総所定労働時間が

40時間×30日÷7日≒171時間25分

の範囲内に収まっている必要がありますが,

その範囲内に収まっていれば,

ある日の所定労働時間を8時間ではなくて,

10時間としても許されることになるのです。

 

 

通常であれば,8時間を超えて10時間働かされたら,

労働者は,2時間分の残業代を請求できるのですが,

1ヶ月単位の変形労働時間制が適法に運用されていれば,

ある日に10時間労働しても,

2時間分の残業代を請求できなくなるのです。

 

 

そのため,変形労働時間制が適法に運用されていれば,

労働者に認められる残業代は少なくなるのです。

 

 

とはいえ,変形労働時間制が有効になるためには,

労働基準法に定められている要件を全て満たす必要があり,

この要件を満たしていない会社は,けっこう多いです。

 

 

特に,変形労働時間制では,変形期間とその起算日,

期間中の全日について,労働日と所定労働時間を

特定する必要があるのですが,

この特定ができていない会社が多いです。

 

 

2 イースタンエアポートモータース事件の東京地裁令和2年6月25日判決

 

 

例えば,つい最近でたイースタンエアポートモータース事件の

東京地裁令和2年6月25日判決では,

1ヶ月単位の変形労働時間制が労働基準法32条の2の要件を

満たしていないとして無効とされ,会社に対して,

総額1453万8323円の未払残業代を支払うよう命じました。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/4f7b61ee17d5eeb822eff76c8f1e6c034699b530

 

 

この事件は,ハイヤー会社の配車業務を担当していた労働者が,

会社に対して,未払残業代を請求した事件で,

就業規則に1ヶ月単位の変形労働時間制の記載があり,

勤務割表で労働時間が決められていました。

 

 

判決では,「月ごとに勤務割表を作成する必要がある場合には,

労働者に対し,労働契約に基づく労働日,

労働時間数及び時間帯を予測可能なものとするべく,

就業規則において,少なくとも,

各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間,

各直勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続及び周知の方法を記載する必要がある

と判断されました。

 

 

 

そして,この事件では,就業規則に,

「配車職員の労働時間は毎月16日を起算日とする

1ヶ月単位の変形労働時間制による。」とだけ記載されているだけで,

各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間,

各直勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続及び周知き方法の記載がないため,

労働基準法32条の2の要件を満たさず,

1ヶ月単位の変形労働時間制は無効とされました。

 

 

その結果,1日8時間を超える労働時間について,

残業代が支払われていないとして,

1.25倍の未払残業代請求が認められたのです。

 

 

タクシーやトラックの運転手,

医療機関や介護施設でシフトで働く労働者は,

変形労働時間制が適用されていることが多いのですが,

変形労働時間制が無効とされることも多く,

残業代請求が認められることも多いのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

電話番号076-221-4111
お問合せはこちら
0 返信

返信を残す

Want to join the discussion?
Feel free to contribute!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。