ジャパンディスプレイの希望退職の募集から整理解雇を考える

経営再建中の液晶パネル大手の株式会社ジャパンディスプレイは,

6月12日,国内の従業員の約25%にあたる

1200人の希望退職を募ることを発表し,

石川県にある白山工場を7月から9月まで停止するようです。

 

 

以前,金沢から福井方面へ北陸自動車道を走行していると,

強大な工場を建設している風景が見え,

気づけば,工場が完成して,2016年12月から,

ジャパンディスプレイの白山工場として稼働していました。

 

 

 

石川県民としては,地元に強大な工場が完成して,

雇用が創出されると喜んでいただけに,

わずか約2年半で工場の稼働がストップすることに

ショックを受けました。

 

 

さて,会社が希望退職を募集したときに,

労働者はどのように対処したらいいのでしょうか。

 

 

まず,当事者が契約を締結するためには,

契約をしたい人が契約の申込をして,

その相手方が承諾をすることが必要になります。

 

 

例えば,売買の場合,

売り主が「これ買いませんか?」と申込をして,

買い主が「では買いましょう」と承諾をすることで,

売買契約が成立するのです。

 

 

会社の希望退職の募集は,法律的には,

労働契約を合意解約するための申込の誘引となります。

 

 

この会社からの申込の誘引に対して,

労働者が申込を行い,会社が承諾をすることで,

労働者と会社との間で締結されていた労働契約が

合意解約されるのです。

 

 

そのため,会社が希望退職の募集をしても,

労働者がそのまま会社で働きたいのであれば,

希望退職に応募せず,そのままにしておけば,

会社で働くことができます。

 

 

それでは,会社は,なぜ希望退職を募集するのでしょうか。

 

 

理由の1つ目は,人員を削減して,利益を出したいからです。

 

 

 

 

会社が労働者をたくさん雇用すると,

労働者に支払う給料が多くなり,人件費が高くなり,

売上があがっても,会社に利益が残らなくなります。

 

 

会社の経費のうち人件費が占める割合が多いと,

人件費を削減しないと,会社が黒字にならない可能性があります。

 

 

とはいえ,解雇はそんなに簡単にできないので,

会社は,業績が悪化してきたら,退職金を割増するなどして,

今退職すれば有利ですよと労働者に伝えて,

労働者から退職してもらい,人件費を削減するのです。

 

 

理由の2つ目は,会社が整理解雇を実施するための準備です。

 

 

整理解雇とは,会社側の経営事情により生じた

人員削減の必要性に基づき労働者を解雇することで,

いわゆるリストラのことです。

 

 

 

この整理解雇が認められるためには,

①人員削減の必要性,

②解雇回避努力が尽くされたこと,

③人選基準とその適用が合理的であること,

④労働組合若しくは被解雇者と十分協議したこと,

という4つの要素を総合考慮する必要があります。

 

 

このうち,希望退職の募集は,

②解雇回避努力の一手段として実施されます。

 

 

整理解雇は,労働者に落ち度がないにもかかわらず,

会社の事情で解雇されるのだから,会社は,

解雇を回避するために,努力しなければならず,

その一環として,整理解雇の前に希望退職の募集をするのです。

 

 

希望退職の募集は,判例上,労働者の意思を尊重しつつ

人員整理を図るうえで極めて有効な手段と評価されており,

希望退職の募集をせずに,いきなり整理解雇した場合には,

解雇回避努力を尽くしてないとして,無効になる可能性が高いです。

 

 

そのため,希望退職の募集が実施され,

ある程度の労働者が応募して退職したとしても,

会社の業績が回復しない場合には,次は,

整理解雇が実施されるリスクがあるということです。

 

 

労働者としては,会社が希望退職を募集してきた場合,

この会社に未来がないと思えば,

退職金の割増など優遇措置が受けられるうちに,

退職して新しい職場で活躍した方がいいのかもしれません。

 

 

他方,次の就職先がみつかるか不安で,

今の会社にいたいのであれば,希望退職に応募せず,

そのまま働けばいいのですが,

場合によってはリストラされるリスクがあります。

 

 

そう考えると,労働者は,いつでも次の仕事がみつけられるように,

自分の能力を磨き続ける必要があるのでしょうね。

 

 

石川県民としては,ジャパンディスプレイの業績が回復して,

白山工場が再稼働することを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高血圧や高脂血症の基礎疾患を有する労働者の脳梗塞発症の因果関係~自動車販売店の店長の労災事件~

平成26年に過労死防止対策推進法が成立してから,

約5年が経過するのですが,過労死はなくなっていません。

 

 

最近では,長崎で,過重労働によって医師が過労死したことについて,

病院に対する損害賠償請求が認められ,

大阪では,フランス料理店の調理師が過重労働で過労死したことについて,

労災が認定されました。

 

 

 

 

これらの過労死に関連して,本日は,

過重労働によって脳梗塞を発症して,

体に麻痺が残る後遺障害の認定を受けた労働者が,

会社に対して,安全配慮義務違反の損害賠償請求をした

フルカワほか事件を紹介します

(福岡地裁平成30年11月30日判決・労働判例1196号5頁)。

 

 

この事件では,中古車販売店で働いていた労働者が,

1ヶ月平均174時間もの時間外労働をして,脳梗塞を発症しました。

 

 

本件の労働者は,もともと,

高血圧及び高脂血症の診断を受けており,

体重92kgの肥満体でした。

 

 

本件の労働者の脳梗塞は,アテローム血栓性脳梗塞というもので,

動脈硬化により狭くなった脳の太い血管に血栓ができることで,

血管がつまって起こるもので,動脈硬化を発症させる

高血圧及び高脂血症が主な原因と言われています。

 

 

 

 

そのため,本件の労働者の脳梗塞が,

過重労働が原因で発症したのか,

基礎疾患である高血圧及び高脂血症が原因で発症したのか,

という因果関係が争点となりました。

 

 

この点,裁判所は,本件の労働者の生活習慣や基礎疾患が

脳梗塞の発症に一定程度影響したといえるものの,

本件の労働者の年齢が38歳とまだ若かったこともあり,

基礎疾患が他の原因なくして自然に増悪したとはいえず,

過重労働による負荷が原因で脳梗塞を発症したと判断しました。

 

 

また,本件事件では,長時間労働以外に,

仕事内容が相応の精神的緊張を伴う業務であったことも,

因果関係を肯定する要因とされました。

 

 

本件の労働者は,店舗の店長であったのですが,

店長には,行動目標が設定されており,

目標を達成できなかったときには,

対策を会議で問われるなど,

精神的緊張を伴う業務をしていました。

 

 

精神的緊張と脳血管疾患の発症との関連性については,

医学的に十分解明されていないものの,

精神的緊張によるストレスは,

脳梗塞の発症の要因となりえると判断されました。

 

 

 

そして,会社には,本件の労働者の健康状態及び労働時間

その他の勤務条件を的確に把握した上で,

本件の労働者に過度な負担が生じないように,

本件の労働者の業務の量または内容を調整する措置を講ずるべき

注意義務を負っていたにもかかわらず,これに違反したとして,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

さらに,本件事件では,会社の代表取締役に対する

損害賠償請求も認められたのが特徴的です。

 

 

会社法429条1項により,取締役の任務懈怠によって

株式会社が第三者に損害を与えた場合,

その第三者を保護するために,

取締役が損害賠償義務を負うことになります。

 

 

そして,労使関係は企業経営について不可欠なものであり,

株式会社の取締役は,会社が安全配慮義務違反を遵守する

体制を整備するべき義務を負っていると認められました。

 

 

その上で,本件事件の代表取締役は,

従業員の過重労働を防止するための

適切な労務管理ができる体制を何ら整備していなかったとして,

代表取締役に対する損害賠償請求が認められたのです。

 

 

労働者に,高血圧や高脂血症という基礎疾患があっても,

過重労働と脳血管疾患の発症との因果関係が

認められる可能性があるわけです。

 

 

なお,2019年6月15日土曜日10時~15時まで,

全国一斉の「過労死・パワハラ・働き方改革110番

の電話相談が金沢で実施されます。

 

 

当事務所が当日の連絡先になりますので,

過労死・過労自殺・パワハラ・働き方改革に関して相談したいときには,

2019年6月15日土曜日10時~15時の間に,

076-221-4111へお電話ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

証券会社の外務員に対する損害賠償請求が否定された事例

会社を退職したにもかかわらず,

在職中の仕事のミスを理由に,

会社から損害賠償請求をされたという法律相談を受けました。

 

 

くら寿司,セブンイレブン,大戸屋などで

アルバイトが不適切動画を投稿したバイトテロなどを契機に,

会社が労働者に対して,損害賠償請求をする風潮があるのかもしれません。

 

 

 

労働者側の弁護士としては,労働者が会社から

損害賠償請求をされた場合に,

どのような対応ができるかを検討する必要がありますので,

裁判例を調べていたところ,

労働者にとって有利な裁判例を見つけましたので紹介します。

 

 

つばさ証券事件の東京高裁平成14年5月23日判決です

(労働判例834号56頁)。

 

 

この事件は,証券会社の外務員が,顧客に対して,

ワラント(新株引受権の授権証券)取引について,

説明義務,補足説明義務を怠ったとして,

顧客が証券会社に損害賠償請求訴訟を起こし,

裁判で顧客の損害賠償請求が認められたので,

証券会社が,説明義務,補足説明義務を怠った外務員に対して,

損害賠償請求をしたというものです。

 

 

ここで,ワラントとは,その価格が

株価変動率を超えて上下する特徴があり,

また新株引受の権利行使期間満了前に価格が下落し,

期間経過後は無価値になることから,

ハイリスクハイリターンな商品とされています。

 

 

この証券会社の就業規則には,

「職員は,故意または重大な過失によって会社に損害を与えたときは,

会社はこれを弁償させる」と規定されており,

証券会社は,この就業規則の規定に基づいて,

外務員に損害賠償請求をしているので,

外務員に「重大な過失」があったかが争点となりました。

 

 

まず,外務員の説明義務違反について,

別件の顧客と証券会社の訴訟において,

これが認められていることもあり,

外務員には,顧客に対して,

リスクを説明すべき義務を怠ったことが認められました。

 

 

 

もっとも,証券会社は,外務員に対して,

ワラント取引を行うに当たり,

顧客に対して行うべき説明について

研修や指導を格別していませんでした。

 

 

また,顧客に損害が発生したのは,

株価の暴落とその後の下落傾向によるものであり,

外務員には予測し得なかったものでした。

 

 

これらの事情から,外務員には説明義務違反が認められるものの,

会社に対する重大な過失はないと判断されました。

 

 

次に,補足説明義務違反について,外務員には,

顧客に対して,ワラントの商品特性について説明して,

ワラントの処理をどうするかについての

判断材料を提供すべき補足説明義務違反が認められました。

 

 

もっとも,当時は株式相場を予測することは困難な状況にあり,

ワラントの売付時期の判断が難しく,実際,証券会社は,

外務員に対して,相場の回復が見込めないことから,

ワラントの売付をするように指示や示唆をしていませんでした。

 

 

 

 

これらの事情から,外務員には,

補足説明義務違反が認められるものの,

会社に対する重大な過失はないと判断されました。

 

 

歩合給が大きく独立性が高い証券会社の外務員であっても,

会社に労働力を提供しても,全収益を取得できるわけでもない以上,

損害賠償責任の負担においては,その義務を軽減すべきです。

 

 

加えて,株式市場の予測は困難なことから,

証券会社に発生した損害の全てを外務員に被らせるのも酷なことです。

 

 

そのため,重大な過失という要件に該当するかについて,

外務員に有利な事情を考慮した東京高裁の裁判例は妥当だと思います。

 

 

労働者は,会社から損害賠償請求されても,

場合によっては請求を免れたり,

減額できる余地がありますので,

早急に弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除は労働時間になるのか?~駅務員の未払賃金請求事件~

会社において,始業時刻前に準備体操や朝礼が行われたり,

終業時刻後に掃除をすることがあります。

 

 

このような勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除の時間は,

労働時間にあたるのでしょうか。

 

 

 

本日は,労働時間とはどのような時間かについて説明します。

 

 

三菱重工業長崎造船所事件の最高裁平成12年3月9日判決では,

労働時間とは,「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間

をいうとされました。

 

 

その上で,「働者が就業を命じられた業務の準備行為等を

事業場内において行うことを使用者から義務付けられ,

又はこれを余儀なくされたときは,

当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,

当該行為は,特段の事情のない限り,

使用者の指揮監督下に置かれたものと評価することができ,

当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものに限り,

労基法上の労働時間に該当する」という判断基準を定立しました。

 

 

ようするに,仕事の準備行為を会社内で行うことを

義務付けられていれば,労働時間にあたることになります。

 

 

ここで,もう一つ,東京急行電鉄事件の

東京地裁平成14年2月28日判決を紹介します

(労働判例824号5頁)。

 

 

この事件では,駅務員の始業前点呼,点呼後の勤務場所までの移動,

退社前の点呼の時間が労働時間にあたるかが争われました。

 

 

この事件の駅務員は,始業の5分前くらいに駅内の所定の場所へ行き,

監督者の前で,本人の担当当番,始業時刻,励行事項,

心身状態,待遇行動目標やスローガンを申告し,

監督者から注意事項の伝達を受けて,

15~100メートル離れた担当業務場所に

始業時刻までに移動していました。

 

 

 

また,駅務員は,勤務時間終了後に,

監督者の前で当日の状況,翌日の担当交番,

始業開始時刻を申告して退社していました。

 

 

このような点呼は,駅務員と監督者とが当日の勤務内容,

心身の異常の有無を確認し,勤務につく心構えを整えるために行われ,

また,交替勤務の導入により,

駅務員の勤務時間がまちまちとなったことに伴い,

勤務の交代に確実を期すために行われるようになったことから,

就業を命じられた業務の遂行に必要な準備行為であると判断されました。

 

 

そして,会社から駅長に対して,

駅務員の点呼を実施するように指示があり,

点呼の方法は,監督者に配布された鉄道駅務掛作業基準や

接遇向上マニュアルに記載されて,指導教育が行われており,

点呼を行わなかった労働者は不昇格とされていました。

 

 

そのため,駅務員の点呼は,就業を命じられた業務の準備行為であり,

これを事業所内で行うことを会社から義務付けられた行為であり,

点呼及び点呼場所から勤務場所までの移動は,

使用者の指揮命令下に置かれたものといえ,

労働時間と判断されました。

 

 

会社から明示的または黙示的に指示命令があったり,

会社の規則やマニュアルがあって,そのとおりに実施されていたり,

労働者が従わなかったときにペナルティがある場合には,

会社の指揮命令下に置かれていたといえます。

 

 

勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除については,

会社からの指示があったり,

会社の規則やマニュアルで定められていて,

参加や実施が義務付けられていれば労働時間となります。

 

 

 

 

労働時間となれば,その時間に働いた分の賃金を請求でき,

1日8時間を超えていれば残業代を請求できます。

 

 

他方,勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除について,

労働者が自発的,任意的に行っている場合には,

労働時間といえなくなります。

 

 

勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除については,

労働時間になる可能性がありますので,

疑問に思った場合には,弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

募集や採用における男女差別

ある酒屋さんに,「男子学生のバイト募集」という

バイト募集の張り紙が貼ってありました。

 

 

 

 

酒屋さんですと,ビール瓶や日本酒瓶を運ぶのに,

力がいりますので,男子学生を募集したいのでしょう。

 

 

しかし,このようなバイトの募集に問題はないのでしょうか。

 

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

(以下,「男女雇用機会均等法」といいます)第5条において,

事業主は,労働者の募集及び採用について,

その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない

と規定されています。

 

 

上記のアルバイト募集のように,男性だけを対象として,

女性を排除するような募集の場合,

男女雇用機会均等法5条に違反すると考えられます。

 

 

それでは,男女雇用機会均等法5条に違反しないで,

性別を限定して,募集できる場合はあるのでしょうか。

 

 

「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定

に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」

(平成18年厚生労働省告示第614号,以下「指針」といいます)

の第2の14(2)に具体例が記載されています。

 

 

イ 次に掲げる職種に従事する労働者

① 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から

男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務

② 守衛,警備等のうち防犯上の要請から

男性に従事させることが必要である職務

③ ①及び②に掲げるもののほか,宗教上,風紀上,

スポーツにおける競技の性質上その他の業務の性質上

男女のいずれかのみに従事させることについて

これらと同程度の必要性があると認められる職務

 

 

ロ 労働基準法第61条1項,第64条の2若しくは

第64条の3の規定により女性を就業させることができず,

又は保健師助産師看護師法第3条の規定により

男性を就業させることができないことから,

通常の業務を遂行するために,

労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与え

又は均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合

 

 

ハ 風俗,風習等の相違により男女のいずれかが能力を発揮し難い

海外での勤務が必要な場合その他特別の事情により

労働者の性別にかかわりなく,

均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが

困難であると認められる場合

 

 

上記の指針の記載だけですと,まだ分かりにくいのですが,

例えば,警備会社が男性警備員を募集したいときに,男

性限定で募集しても,上記の指針のイ②に該当するので,

問題ないことになります。

 

 

 

 

また,助産師については,法律で女性に限定されているので,

女性限定で募集しても,上記の指針ロに該当するので,

問題ないことになります。

 

 

この他に,女性が男性と比較して相当少ない職種を

募集または採用する際に,男性よりも女性を有利に取り扱っても,

問題ないことになります。

 

 

これをポジティブアクションといいます。

 

 

それでは,「男子学生募集」では,

男女雇用機会均等法5条に違反するので,

冒頭の酒屋さんが,性別に中立的なように

「力持ち募集」とすることは問題ないのでしょうか。

 

 

「力持ち募集」とした場合,男女雇用機会均等法7条の

間接差別に該当する可能性があります。

 

 

間接差別とは,一見性別が関係ないように見える取扱いであっても,

運用した結果どちらかの性別が不利益になってしまうことをいいます。

 

 

男女雇用機会均等法施行規則2条1号において,

労働者の体力を要件とする募集は,

間接差別になるおそれがあると定められています。

 

 

力持ちは,体力を要件とする募集に該当して,

間接差別になるおそれがあります。

 

 

そのため,酒屋さんとしては,

「アルバイト募集」に張り紙を変更して,

女性が応募してきても,

「うちは力仕事がありますが,大丈夫ですか」と確認して,

女性がそれでも大丈夫ですと答えたのであれば,

女性であることを理由に採用を拒否してはいけないのです。

 

 

 

 

ようするに,募集や採用について,

男女差別があってはいけないのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自分を仕事にする生き方2~自信と成長~

昨日に引き続き,はあちゅう氏の「自分を仕事にする生き方

という本のアウトプットを行います。

 

 

 

はあちゅう氏は,この本の中で,

自信について,次のように記載しています。

 

 

「自信があればあるで,なければないで叩かれる世の中。・・・

大事なのは完全無欠の自分になることではなくて,

不完全な自分のまま理想に向かって努力すること」

 

 

仕事も家庭生活も全てがうまくいっている人は,

なかなかいないと思います。

 

 

そういう世の中において,不完全な自分を受け入れ,

理想の自分に近づくために努力することが

自信につながるのだと思います。

 

 

 

不完全さは伸びしろなわけです。

 

 

はあちゅう氏は,自信をつけるための

3つの方法を提唱しています。

 

 

1つ目は,よく寝て食べること。

 

 

人間は,健康でないと,何をするにしても

悲観的になってしまうので,まずは,よく寝て食べて,

自分のコンディションを整えるのが重要になります。

 

 

2つ目は,自信のある人を周りに置くこと。

 

 

朱に交われば赤くなるように,

自信のある人と交流していると,

自分に根拠のない自信が生まれてくるわけです。

 

 

自分が成長していくためには,

どのような環境に身を置き,

どのような人と交流していくのかを考えることが重要ですね。

 

 

 3つ目は,常に新しいことに挑戦すること。

 

 

自信は,今までできなかったことが

自然にできたときに湧いてくるので,

いろいろなことに挑戦している人は,

自信がついていくのです。

 

 

 

次に,はあちゅう氏は,いろいろな自分を使い分ける

ことについて説いています。

 

 

仕事における自分と家族の一員としての自分は,

役割が異なっていることもあり,別の自分であります。

 

 

でも,それは普通のことであり,

誰の前でも同じ自分であれば,

相手に不快感を与えることがあると思います。

 

 

「自分は常に更新され,新しい仕事や新しい人間関係の中では

新しい自分に出会うことになる」

 

 

そう考えると,自分とは何かについて深く悩む必要はなく,

理想の自分」を意識して立ち振る舞えばいいのです。

 

 

そして,はあちゅう氏は,自分のレベルを上げるためには,

物事を深く考える以外に方法はないと説いています。

 

 

物事を深く考えるためには,「考えるきっかけ

にたくさん出会うことが大切です。

 

 

「考えるきっかけ」をくれるのは,本や人など,

これまでに触れたことがないものです。

 

 

 

本を読むと,著者の考えを必死に理解しようとして考えます。

 

 

人と会うと,会話をするので,

どのような話をすれば,相手が喜んだり,

自分が欲しい情報を教えてくれるのかと,考えます。

 

 

人との出会いや本との出会いが,

人を成長させるのだと思います。

 

 

多数の執筆活動から生まれてきたのであろう,

はあちゅう氏の言葉の結晶は,

読者の心に深く染み込んでいきます。

 

 

私がこれまで読んできたジャンルとは,

異なるジャンルの本であり,

課題図書に指定されていなかったら,

出会っていなかった本だと思います。

 

 

素敵な本を課題図書に指定してくれた,

立花Beブログ塾の主催者の立花岳志先生に感謝です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自分を仕事にする生き方

立花Beブログ塾の課題図書である,

はあちゅう氏の「自分を仕事にする生き方

という本を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

 

「自分を仕事にする」というタイトルに惹かれて,

いったいどういうことなのだろうと思いながら,読み進めました。

 

 

はあちゅう氏は,読者に対して,

これまでの人生でつくり上げてきた『自分』という武器があります

と説いています。

 

 

「自分という最大の資産をもっと有効活用して,

より楽しく,より豊かに生きていく」

 

 

これが「自分を仕事にする生き方」だというのです。

 

 

自分とは何か,自分の強みは何かを分析し,

自分の強みを掛け合わせて,世の中に役立てて収入を得て,

自分の好きなことをして豊かに生きていく,

という意味だと私は解釈しました。

 

 

「出来ることと好きなことをうまく掛け合わせて,

誰かに感謝してもらえることになれば,

それをお金にする手段というのは必ず誰か,

それが得意な人が考えて準備してくれます。

そのために必要なのは,

自分の出来ることと好きなことを正しく理解し,

発信する力なのです。」と,はあちゅう氏は説いています。

 

 

 

なるほど,自分が好きなことや得意なことを発信していると,

誰かが自分のことをみつけてくれて,評価してくれて,

そこから新しい仕事が生まれていくわけです。

 

 

私は,1年間,ブログで,自分の得意分野である労働事件について

情報発信していたところ,最近,

専門誌で事件の執筆の依頼を受けたり,

セミナー講師の依頼を受けたり,

ネット記事の原稿の依頼を受けたりと,

新しい仕事が飛び込んでくるようになりました。

 

 

だから,はあちゅう氏がおっしゃることがよくわかります。

 

 

自分の得意なことを毎日ブログで情報発信しているだけなのに,

世の中が自分のことを評価してくれて,

新しい仕事が舞い込んでくるのです。

 

 

不思議なことなのですが,現実として起きているのです。

 

 

そして,私が,ここでポイントだと思ったのは,

「自分のどんな要素がどう人の役に立つかは,誰かが決めてくれる」

ということです。

 

 

自分が当たり前にできていることは,案外,

他の人にとってすごいことだというのはよくあります。

 

 

しかし,自分にとって当たり前すぎるので,

自分では自分のすごさに気づけないものです。

 

 

自分の「人と違う部分」

他人に指摘されないと気づけないわけです。

 

 

そのため,自分の好きなこと,得意なことを発信していれば,

誰かが勝手に自分を見つけてくれて,自分を評価して,

仕事を依頼してくれるのです。

 

 

 

そして,自分の好きや得意をお金に換えるためには,

お金に換えてくれる人とつながるために,

自分を人前にさらすことが重要になります。

 

 

勇気をもって,自分の好きや得意を情報発信して,

自分を人前にさらすのです。

 

 

私も,2年前に初めてブログを開設したとき,

弁護士がブログ書いて,クレームが来たらどうしようと,

心配していたことがありましたが,

それは単なる自意識過剰で,最初は,誰も見てくれません。

 

 

毎日ブログを更新するようになって,

自分のブログが人の役に立っていると分かってから,

自分を人前にさらけ出すことが怖くなくなりました。

 

 

何かをするとき誰もが不安になるのですが,

最初の一歩を踏み出すと,

意外となんてことはないことが多いのだと思います。

 

 

ブログを毎日更新できている今読むと,

この本に書いてあることにすごく共感できます。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

日本相撲協会の危機管理政策顧問・常任特別顧問は労働者か?

2019年の大相撲の夏場所において,

富山県出身の朝乃山関が優勝しました。

 

 

北陸出身の力士が本場所で優勝したニュースに,

同じ北陸出身の者として勇気をもらいました。

 

 

さて,私の手元に届く判例集を見ていると,日本相撲協会との間で,

労働契約が成立していたかが争われた事件の裁判例が掲載されていたので,

紹介したいと思います

(東京地裁平成30年8月28日判決・判例時報2393・2394合併号)

 

 

 

この事件では,日本相撲協会との間で,

事務局全般の助言と指導,理事長の特命業務,

危機管理に関する業務を委託する業務委託契約を

締結した会社の代表者が(原告),

危機管理政策顧問や常任特別顧問という役職で活動していましたが,

日本相撲協会に雇用されていたのに解雇されたとして,

労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めました。

 

 

労働契約上の権利を有する地位が認められるためには,

ある団体とある人物との間で,

労働契約が成立していることが必要になります。

 

 

労働契約の成立について,労働契約法6条では,

「労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,

使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,

労働者及び使用者が合意することによって成立する」

と規定されています。

 

 

そのため,就労時間やそれに対する賃金額及びその支払方法などの

具体的な労働条件が労働契約の内容として,

労働者と使用者が合意することで,

労働契約が成立するのです。

 

 

本件事件では,日本相撲協会と原告との間で,

労働条件を記載した労働契約書は取り交わされておらず,

賃金や所定労働時間などの労働条件が特定されておらず,

就業規則で定められた職員採用の手続きもとられていないことから,

明示的に具体的な労働条件を定めた労働契約は

締結されていないと判断されました。

 

 

賃金や労働時間といった重要な労働条件が何も決まっていないと,

労働契約とは認められないということです。

 

 

また,前述した労働契約法6条の条文の規定から,

労働者といえるためには,

①使用者の指揮監督下において労務の提供をし,

②労務提供に対する対償を支払われる者という

「使用従属性の要件」を満たす必要があります。

 

 

原告は,①日本相撲協会の意向に沿わない活動をしたりしていたので,

日本相撲協会の指揮監督の下に置かれておらず,

②報酬が月額144万円と日本相撲協会の理事長と

同じ金額を受け取っているものの,

労務提供に対する対償として高額であることから,

日本相撲協会の指揮命令下において仕事をしているものではなく,

労働者と認められませんでした。

 

 

自分の好き勝手に働いていたのでは,

使用者の指揮監督に応じていない,

独立した個人事業主といえますし,

報酬が通常の労働者と比較して高額すぎると,

個人事業主と判断されやすくなります。

 

 

労働契約が成立する際の考慮要素や,

労働者と認められるための基本的な要素について,

学べる事案だと思い,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

プログラマーに専門業務型裁量労働制が適用されるのか?

昨日,建築士の資格を持たずに,

建築士の仕事の補助をしている労働者には,

専門業務型裁量労働制が適用されないことの解説をしました。

 

 

本日は,プログラマーに専門業務型裁量労働制が

適用されるのかが争われたエーディーディー事件を紹介します

(京都地裁平成23年10月31日判決・労働判例1041号49頁)。

 

 

この事件は,2019年6月4日のブログで紹介した,

会社の労働者に対する損害賠償請求が否定された事件と同じです。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201906048131.html

 

 

専門業務型裁量労働制の対象業務は,

労働基準法38条の3第1項1号で,

「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する

労働者の裁量にゆだねる必要があるため,

当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し

使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして

厚生労働省令で定める業務」と規定されています。

 

 

 

 

そして,この「厚生労働省令で定める業務」が

労働基準法施行規則24条の2の2の第2項で規定されています。

 

 

労働基準法施行規則24条の2の2の第2項には,

専門業務型裁量労働制の対象業務が記載されており,

その2号において,「情報システム

(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として

複数の要素が組み合わされた体系であって

プログラムの設計の基本となるものをいう。)

の分析又は設計の業務」が挙げられています。

 

 

ただ,この条文を読んだだけでは,

情報システムの分析又は設計の業務」とは,

具体的にどのような業務なのかがよくわかりません。

 

 

東京労働局が作成した「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために

というパンフレットに,「情報システムの分析又は設計の業務」

の具体的な内容が記載されています。

 

 

 

 

まず,「情報システム」とは,

「情報の整理,加工,蓄積,検索等の処理を目的として,

コンピュータのハードウェア,ソフトウェア,

通信ネットワーク,データを処理するプログラム等が

構成要素として組み合わされた体系をいうものであること」,

と記載されています。

 

 

次に,「情報処理システムの分析又は設計の業務」は,

「①ニーズの把握,ユーザーの業務分析等に基づいた

最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定,

②入出力設計,処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計,

機械構成の細部の決定,ソフトウェアの決定等,

③システム稼働後のシステムの評価,問題点の発見,

その解決のための改善等の業務をいうものであること」,

と記載されています。

 

 

そして,「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは

含まれないものであること」と記載されています。

 

 

正直,この定義を読んだだけでは,どのような業務が

「情報処理システムの分析又は設計の業務」

に該当するのかよくわかりませんが,単なるプログラマーには,

専門業務型裁量労働制が適用されないことだけはわかります。

 

 

 

 

さて,この事件の判決では,「情報処理システムの分析又は設計の業務」

が専門業務型裁量労働制の対象業務となっている趣旨として,

システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,

どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき

裁量性が認められるからであることを挙げています。

 

 

ところが,この事件の労働者は,

下請会社でシステム設計の一部を担当し,

かなりタイトな納期を設定されていたことから,

専門業務型裁量労働制が適用されるべき

業務遂行の裁量性がかなりなくなっていたとして,

この事件の労働者の業務は,

「情報処理システムの分析又は設計の業務」とはいえず,

専門業務型裁量労働制の要件を満たしていないと判断されて,

約567万円もの未払残業代の請求が認められたのです。

 

 

そもそも,プログラミングについては,

その性質上,裁量性の高い業務ではないので,

専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解されています。

 

 

このように,専門業務型裁量労働制の対象業務ではない

業務に従事しているにもかかわらず,

違法に専門業務型裁量労働制が適用されているケースがありますので,

専門業務型裁量労働制が適用されている場合には,

自分の業務が本当に対象業務なのかを

チェックすることが重要だと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

専門業務型裁量労働制における定額働かせ放題の危険性

昨日の続きで,本日は,専門業務型裁量労働制について解説します。

 

 

専門業務型裁量労働制とは,

労働基準法38条の3に基づく制度であり,

業務の性質上,業務遂行の方法,時間配分等を大幅に

労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として,

法令等により定められた19業務の中から,

対象となる業務を労使協定で定めて,

労働者を実際にその業務に就かせた場合,

労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

 

 

 

 

具体例で説明しますと,専門業務型裁量労働制が適用されると,

労使協定でみなし時間が8時間に設定されていれば,

実際に1日11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

8時間を超える3時間分の残業代を

請求することができなくなるのです。

 

 

昨日紹介した朝日新聞の記事に掲載されていた,

建築設計事務所で働いていた女性労働者も,

一定額の時間外手当が支給されているだけで,

定額で働かされ放題にされてしまったようです。

 

 

しかし,専門業務型裁量労働制を適用するためには,

法律で定められている厳格な要件を満たす必要があるのですが,

この女性労働者が勤務していた建築設計事務所は,

専門業務型裁量労働制の要件を満たしていませんでした。

 

 

まず,専門業務型裁量労働制が適用される労働者は,

法令で定められた19の対象業務に限定されます。

 

 

この女性労働者の場合,

建築士(一級建築士,二級建築士及び木造建築士)の業務

に該当するとして,専門業務型裁量労働制が適用されていましたが,

「建築士の業務」とは資格を持った建築士に適用されるものであり,

建築士の指示に基づいて専ら製図を行うなど

補助的業務を行う者は含まれませんので,

建築士の資格がないこの女性労働者には,

専門業務型裁量労働制を適用できないのです。

 

 

 

 

次に,労働基準法38条の3第1項1号に

業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する

労働者の裁量にゆだねる必要があるため,

当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し

使用者が具体的な指示をすることが困難なもの

が対象業務になると規定されているのですが,

この女性労働者は新入社員であり,

上司との打ち合わせや意見をもとに動くしかないので,

裁量が認められておらず,この要件を満たさないことになります。

 

 

結果として,この女性労働者は,裁量労働制ユニオンに加入し,

会社と団体交渉を行い,未払残業代の支払いをしてもらったようです。

 

 

http://bku.jp/sairyo/(裁量労働制ユニオンのホームページ)

 

 

 

このように,専門業務型裁量労働制は,

定額働かせ放題になる危険をはらんだ制度なのです。

 

 

そのような危険な制度であるがゆえに,

専門業務型裁量労働制を適用するためには,

労働基準法で定められた厳格な要件を全て満たす必要があるのですが,

大企業であっても,要件を満たさずに,

専門業務型裁量労働制を適用していることがあります。

 

 

もし,専門業務型裁量労働制が適用されている場合,

労働基準法の要件を全て満たしているのかをよくチェックして,

不当に残業代が支払われていない状態になっていないか

について検討することをおすすめします。

 

 

専門業務型裁量労働制が労働基準法の要件を満たしていない場合,

専門業務型裁量労働制は無効となり,

労働基準法で計算した未払残業代を請求することができます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。