専門業務型裁量労働制における定額働かせ放題の危険性
昨日の続きで,本日は,専門業務型裁量労働制について解説します。
専門業務型裁量労働制とは,
労働基準法38条の3に基づく制度であり,
業務の性質上,業務遂行の方法,時間配分等を大幅に
労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として,
法令等により定められた19業務の中から,
対象となる業務を労使協定で定めて,
労働者を実際にその業務に就かせた場合,
労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。
具体例で説明しますと,専門業務型裁量労働制が適用されると,
労使協定でみなし時間が8時間に設定されていれば,
実際に1日11時間労働したとしても,
8時間だけ労働したものとみなされて,
8時間を超える3時間分の残業代を
請求することができなくなるのです。
昨日紹介した朝日新聞の記事に掲載されていた,
建築設計事務所で働いていた女性労働者も,
一定額の時間外手当が支給されているだけで,
定額で働かされ放題にされてしまったようです。
しかし,専門業務型裁量労働制を適用するためには,
法律で定められている厳格な要件を満たす必要があるのですが,
この女性労働者が勤務していた建築設計事務所は,
専門業務型裁量労働制の要件を満たしていませんでした。
まず,専門業務型裁量労働制が適用される労働者は,
法令で定められた19の対象業務に限定されます。
この女性労働者の場合,
「建築士(一級建築士,二級建築士及び木造建築士)の業務」
に該当するとして,専門業務型裁量労働制が適用されていましたが,
「建築士の業務」とは資格を持った建築士に適用されるものであり,
建築士の指示に基づいて専ら製図を行うなど
補助的業務を行う者は含まれませんので,
建築士の資格がないこの女性労働者には,
専門業務型裁量労働制を適用できないのです。
次に,労働基準法38条の3第1項1号に
「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する
労働者の裁量にゆだねる必要があるため,
当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し
使用者が具体的な指示をすることが困難なもの」
が対象業務になると規定されているのですが,
この女性労働者は新入社員であり,
上司との打ち合わせや意見をもとに動くしかないので,
裁量が認められておらず,この要件を満たさないことになります。
結果として,この女性労働者は,裁量労働制ユニオンに加入し,
会社と団体交渉を行い,未払残業代の支払いをしてもらったようです。
http://bku.jp/sairyo/(裁量労働制ユニオンのホームページ)
このように,専門業務型裁量労働制は,
定額働かせ放題になる危険をはらんだ制度なのです。
そのような危険な制度であるがゆえに,
専門業務型裁量労働制を適用するためには,
労働基準法で定められた厳格な要件を全て満たす必要があるのですが,
大企業であっても,要件を満たさずに,
専門業務型裁量労働制を適用していることがあります。
もし,専門業務型裁量労働制が適用されている場合,
労働基準法の要件を全て満たしているのかをよくチェックして,
不当に残業代が支払われていない状態になっていないか
について検討することをおすすめします。
専門業務型裁量労働制が労働基準法の要件を満たしていない場合,
専門業務型裁量労働制は無効となり,
労働基準法で計算した未払残業代を請求することができます。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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