労災隠しは許されません

昨日に引き続き,高齢者の労災問題について記載します。

 

 

現行の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)8条で,

60歳を下回る定年を定めることが禁止されています。

 

 

そして,高年法9条では,企業に対して,

65歳までの雇用確保措置として,

①定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③定年制の廃止

のいずれかを講ずることを義務付けています。

 

 

多くの企業では,60歳で一旦定年を迎えて,

その後は再雇用として,60歳から65歳まで

有期労働契約を締結するなど,

②継続雇用制度の導入をしているようです。

 

 

おそらく,60歳から1年ごとに,有期労働契約を更新して,

65歳まで働くのだと思います。

 

 

 

年金の受給開始年齢が基本的に65歳であり,また,

子供がまだ独り立ちしていない場合には,

子供のために働かなければならず,

1年ごとに有期労働契約を更新して,

働き続ける必要があります。

 

 

そのため,労災に遭ったとしても,

労災申請をすると,会社から煙たがられて,

次の有期労働契約を更新されないことを恐れてしまい,

労災申請を控えてしまうようです。

 

 

「無事故連続○日」という張り紙が職場に貼ってあり,

数千日の数字が記載されていると,

労働者に無言のプレッシャーとなり,

労災に遭って負傷しても,労災保険を利用せず

(労災保険を利用すれば,治療費を自分で負担する必要はありません),

健康保険で自己負担で治療を済ませてしまうことがあるようです。

 

 

このように,高齢の労働者は,有期労働契約なので

労災申請を控えてしまう傾向があることの他に,

会社が意図的に労災を隠すこともあります。

 

 

労災が発生して労働者が休業した場合,会社は,遅滞なく,

労働者死傷病報告という文書を労働基準監督署へ提出して,

労災が発生したことを報告する義務を負っています

(労働安全衛生規則97条)。

 

 

会社が,この報告義務を怠ると,

50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

 

 

 

 

会社が,労災が発生しても,労働基準監督署に

労災の報告をしないことを労災隠しといいます。

 

 

実際に,石川県内においても,建物の解体現場において,

60代の男性労働者が転落し,

骨折して4日以上休業したにもかかわらず,

労働者死傷病報告が提出されておらず,

穴水労働基準監督署は,石川県内の企業を

金沢地方検察庁へ書類送検しました。

 

 

https://www.rodo.co.jp/column/38259/

 

 

労災隠しをすると,罰金50万円が科される

リスクがあるにもかかわらず,

会社がなぜ労災隠しをするのかといいますと,

会社が労働基準監督署へ労災の報告をすると,

労働基準監督署が会社に対し,

事故原因や法令違反がなかったかを調査をして,

必要に応じて行政指導や刑事告発をする可能性があるので,

会社は,それを避けたいからなのです。

 

 

しかし,労災に遭ったにもかかわらず,

労災保険の適用を受けないと,

被災した労働者にとっては,

治療費の負担,休業補償,後遺障害が残った場合の補償,

死亡時の遺族補償などについて,様々なデメリットが発生します。

 

 

 

そこで,会社から労災保険を利用することを控えるように言われても,

ためらうことなく労災申請すべきなのです。

 

 

また,高齢の労働者が労災に巻き込まれないための対策として,

高齢の労働者が転倒しないように,

仕事場の明るさの調整,

スピーカーの音量や音質を聞き取りやすくする,

段差をなくす,滑りにくい靴をはくなどが考えられます。

 

 

高齢の労働者が今後も増えていきますので,

企業には,高齢の労働者が労災に巻き込まれないように

予防策を講じていくことが求められます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高齢者の労災が増えています

先日のブログに記載しましたが,政府は,未来投資会議において,

希望する人が70歳まで働き続けられるように,企業に対して,

高齢者の雇用機会をつくるよう努力義務を課す方針を明らかにしました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201905238076.html

 

 

人生100年時代に突入し,

70歳まで働くのが当たり前の世の中になっていきます。

 

 

働く高齢者が増えていく一方で,実は,大きな問題が発生しています。

 

 

それは,高齢者の労災が増加しているという問題です。

 

 

 

朝日新聞の報道によりますと,2018年度に

60歳以上の労働者が労災に遭った件数は,3万3246件であり,

前年に比べて10.7%も増加し,

労災に遭った全年齢の労働者のうちの26.1%に達したようです。

 

 

10年前は,18%だったようですので,

働く高齢者が増えるに従って,

働く高齢者の労災が増えていっています。

 

 

労災全体の約4分の1の被災者が

60歳以上の労働者ということになり,

高齢の労働者が労災に巻き込まれる

リスクが高まっているといえます。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM5K3V90M5KULFA00T.html

 

 

それでは,高齢者の労災が増えている原因は何なのでしょうか。

 

 

2019年5月24日号の週刊朝日で

「シニアを使い捨て 急増するブラック労災」

という特集があり,そこで次のような原因の分析がされています。

 

 

 

加齢によって,筋力や視力,バランス保持能力といった

身体機能が低下し,転倒や転落といった事故につながるようです。

 

 

また,身体面だけでなく,脳の情報処理能力も衰えるので,

危険を察知して回避するといった複雑な情報処理に関して,

反応時間が長くなってしまい,突発的な事故に対処できず,

ケガを負ってしまうようです。

 

 

さらに,運動による発汗量は加齢によって低下するらしく,

高齢者は体熱を発散しにくくなっており,

持病で服用している薬によっては,発汗抑制作用があったり,

脱水を引き起こしやすい成分が含まれたりして,

熱中症のリスクも高いようです。

 

 

そして,身体機能の衰えという要因以外にも,

働き方の変化という側面もあるようです。

 

 

すなわち,今は人手不足なので,高齢者であっても,

現役世代と同じ内容の仕事を負担しているという実態があるようです。

 

 

昔であれば,高齢者であれば,現役世代よりも

負担の軽い仕事を任されていたのが当たり前でしたが,

今は,そうではなく,現役世代と同じ負担の仕事を任されるので,

身体機能が衰える高齢者にとっては,

過酷な労働環境となっているようです。

 

 

政府は,多くの人に70歳まで働いてもらいたいのであれば,

高齢者の労災を減らすための取り組みを同時に実施して,

高齢者であっても,安心して働ける環境を整備していくべきだと考えます。

 

 

 

高齢者の労災を防止する取り組みを実践して,

成果をあげている企業に対して,

補助金を支給するなどの取り組みが考えられます。

 

 

人生100年時代に突入しているので,

高齢者が安心して働き続けられる社会にしていきたいものですね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社を辞めるのは簡単です~退職代行サービスについての私の見解~

先日,外部の法律相談で,労働問題についての相談を受けていた時に,

相談者の方が,「退職代行サービスってどうですかね?」

というご質問をされました。

 

 

石川県でも,退職代行サービスの利用を

検討している人がいることを知り,

時代は変わったものだなぁと思いました。

 

 

この相談者の方のご質問に対する私の回答は,

退職は自分で簡単にできるので,ご自身でやった方がいいですよ。

退職代行サービスの業者に費用を支払うのはもったいないですよ

というものでした。

 

 

はい,会社を辞めるのは簡単です。

 

 

 

 

正社員であれば,会社を辞めますと伝えてから,

2週間が経過すれば,自由に会社を辞めることができます(民法627条)。

 

 

土日が休みの週休二日制の会社であれば,

2週間のうちの平日10日について,

有給休暇を取得すれば,会社に出社することなく,

会社を辞めれます。

 

 

会社を辞めるのに理由は必要なく,

会社から辞める理由を聞かれても,回答する義務はなく,

ただ単に辞めますと会社に伝えればいいのです。

 

 

労働者には,退職の自由が認められていることを

ぜひ知ってもらいたいです。

 

 

とはいえ,自分の口から,上司に「会社を辞めます」

とは言いづらいと思いまし,上司からあれやこれやと理由をつけられて,

退職をおもいとどまらせようとしてくることも予想されます。

 

 

そんなときは,退職届を会社に特定記録郵便で郵送すればいいのです。

 

 

 

 

むしろ,口頭で会社を辞めますと伝えたら,会社から,

「いや,そんなことは聞いていない」と主張されることがあり,

言った言わないという問題となり,

会社を辞めさせてもらえない可能性もでてきます。

 

 

そこで,会社を辞めるためには,

会社を辞めますという意思表示を会社に通知すればいいので,

一身上の都合により退職します」とだけ記載して,

日付と自分の名前を署名して,押印した退職届を,

特定記録郵便で会社に郵送すれば,それだけでいいのです。

 

 

特定記録郵便を利用すれば,インターネットで,

いつ郵便が届いたのかを調べることができ,

確実に相手方に届いたことを証明できるので便利です。

 

 

https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/tokutei_kiroku/

 

 

 

このように,退職届を特定記録郵便で会社に郵送すれば,

簡単に会社を退職できるのですか,

退職代行サービスが拡大しているようです。

 

 

 

 

先日の朝日新聞の報道によれば,2017年ころから,

退職代行サービス業者がサービスを始めたようで,

人手不足に悩む企業が,労働者の退職を

引き留めようとしていることが背景にあるようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14021567.html

 

 

もっとも,退職代行サービス業者は,

弁護士法72条が禁止する非弁行為

該当する可能性があると思います。

 

 

弁護士法72条は,弁護士でない者が,

報酬を得る目的で,法律事務を行うことを禁止しています。

 

 

これは,弁護士資格をもっていない者が,

法律事務を行うと,適切なトラブル解決ができず,

弁護士でない者にトラブルの解決を依頼した者の利益を

害してしまうおそれがあることから,

このような非弁行為を禁止しているのです。

 

 

朝日新聞の報道によれば,退職代行サービス業者は,

あくまで,連絡の仲介をするだけで,

会社と交渉をしていないので,

非弁行為ではないと主張しているようです。

 

 

しかし,労働者が退職をする際には,

離職票の発行を求めたり,

有給休暇分の賃金を請求したり,

退職金の請求をしたりと,

会社と交渉をすることがほとんどです。

 

 

このような交渉を退職代行サービス業者が行えば,

非弁行為の禁止に該当すると考えます。

 

 

仮にこのような交渉をしないで,

単なる連絡の仲介だけで正社員だと退職代行サービスに

5万円の費用がかかるのには,違和感をおぼえます。

 

 

退職代行サービス業者は,

非弁行為の禁止に違反している可能性があるので,

利用はおすすめできません。

 

 

そもそも,退職代行サービス業者に

お金を払うのはもったいないので,

単に会社を辞めるだけであれば,

自分で退職届を書いて特定記録郵便で郵送すればよく,

有給休暇分の賃金を請求するなど会社との交渉を

第三者に依頼したいのであれば,

弁護士に依頼するのがいいと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

上原浩治投手の引退から70歳までの雇用を考える

5月20日,日米で通算134勝をあげた

巨人の上原浩治投手が,シーズン途中での引退を表明しました。

 

 

 

報道によりますと,上原投手は,

高校までは控えの投手だったものの,雑草魂を胸に成長し,

やがては大リーグのレッドソックスの抑え投手として

ワールドシリーズ優勝に貢献したようです。

 

 

プロの世界で44歳まで活躍されたことは,

本当に素晴らしいことだと思います。

 

 

さて,プロの選手が引退するニュースが流れる一方,

労働者の定年を延長するニュースが流れています。

 

 

5月15日,政府は,未来投資会議において,

希望する人が70歳まで働き続けられるように,企業に対して,

高齢者の雇用機会をつくるよう努力義務を課す方針を明らかにしました。

 

https://mainichi.jp/articles/20190516/ddm/001/020/155000c

 

 

人生100年時代に突入したので,

労働者が65歳で引退するのはまだ速く,

働けるのであれば,70歳まで働きましょうということです。

 

 

本日は,70歳までの雇用確保について説明します。

 

 

まず,現行の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)8条で,

60歳を下回る定年を定めることが禁止されています。

 

 

高年法9条では,企業に対して,65歳までの雇用確保措置として,

①定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③定年制の廃止

のいずれかを講ずることを義務付けています。

 

 

今回,政府は,65歳までの①~③の雇用確保措置を講ずることの

義務を維持したまま,65歳を過ぎて70歳まで働きたい人のために,

①~③に加えて,次の新たな④~⑦の4つの案を示しました。

 

 

 

④他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現

 ⑤個人とのフリーランス契約への資金提供

 ⑥個人の起業支援

 ⑦個人の社会貢献活動参加への資金提供

 

 

65歳から70歳まで働くにあたり,労働者は,

①~⑦の選択肢の中からどれを選ぶかを会社と協議して決めます。

 

 

2020年の通常国会で高年法を改正して,

65歳から70歳の雇用確保措置を講ずることを

企業の努力義務とする方向のようです。

 

 

人生100年時代に突入しているので,

まだまだ自分の能力を発揮して自己成長していきたいと

願う労働者にとっては朗報といえるでしょう。

 

 

また,企業にとっても,高齢の人材を活用することで

人手不足を解消できる可能性がありますし,

都会の大企業で働いていた高齢の労働者が,

地方の中小企業で再び活躍できれば,

地方に人材を呼び寄せることができるかもしれません。

 

 

他方,低賃金で70歳まで働かされる懸念があります。

 

 

日本の企業は,年功序列の賃金体系がまだ多く,

高い賃金のまま長く雇用すれば,

人件費が増加してしまいます。

 

 

また,高齢の労働者が企業に残っていれば,若者の昇進が遅れ,

若者のモチベーションが低下するおそれもあります。

 

 

そのため,現段階で,多くの企業は,①~③のうちの

②契約社員などで再雇用する継続雇用制度で対応しています。

 

 

契約社員として,再雇用で働くと,低賃金となり,

低賃金で70歳まで働かないといけなくなる可能性があります。

 

 

低賃金であっても,仕事の量や質が下がっていれば,

労働者としてはあまり文句はないでしょうが,

仕事の量や質が同じままで,賃金だけが下がるのでは,

労働者としては,納得できないでしょう。

 

 

そのため,②継続雇用制度においては,賃金を下げるのであれば,

同時に仕事の負担も軽減することが重要になると思います。

 

 

 

また,新しく加わった④~⑦ですが,

企業がどれだけの金銭的負担を負ってくれるかによって,

労働者がとるべき対応が変わってくると思います。

 

 

企業が高齢者の起業支援に多額のお金を出してくれるのであれば,

労働者が④~⑦の選択肢を選ぶかもしれませんが,現実的に,

企業がそれほど多額のお金を会社を引退する労働者に

出してくれるとは思えないので,

②継続雇用制度を70歳まで延期することが

多くなることが予想されます。

 

 

もっとも,労働者には,選択肢が増えましたので,

これを前向きにとらえて,定年後にどのように働くかを意識して,

現役時代からスキルを高め,人脈を構築しておくべきだと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

立花Beブログ塾レベル1第3講での気付き

先日,立花Beブログ塾レベル1の第3講を受講しまして,

そこでの気付きをアウトプットしたいと思います。

 

 

 

 

立花岳志先生(たちさん)から,

フロー状態に入ることの重要性を教わりました。

 

 

フロー状態とは,ウィキペディアによりますと

人間がそのときしていることに、完全に浸り、

精力的に集中している感覚に特徴づけられ、

完全にのめり込んでいて、

その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、

精神的な状態」のことです。

 

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AD%E3%83%BC_(%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6)

 

 

スポーツ選手とかがよく,

「ゾーンに入った」というように,

高度に集中している状態のことです。

 

 

フロー状態に入れば,普段よりも高いパフォーマンスが発揮でき,

五感が研ぎ澄まされて,様々な情報が目に飛び込んできます。

 

 

なぜ,フロー状態に入っていることが重要かといいますと,

フロー状態であれば,高度に集中して,

五感が研ぎ澄まされているので,

インプットとアウトプットの効率が増して,

自己成長の速度が劇的に速くなるからなのです。

 

 

それでは,どうすればフロー状態に入れるのでしょうか。

 

 

それは,難しすぎず簡単すぎない目標が設定されていて,

その目標に向かって,楽に楽しく本気で取り組んでいるときです。

 

 

 

難しすぎる目標ですと,これは達成できないと思って諦めてしまいます。

 

 

簡単すぎる目標ですと,だれてしまいます。

 

 

難しすぎず簡単すぎない目標,すなわち,

自分にとって最適な負荷がかかっている状態において,

高度な集中力が発揮されるのです。

 

 

これをブログに応用すると,毎日ブログを更新することで,

自分にとって最適な負荷がかかり,ネタが勝手に飛び込んできたり,

文章が上達して,自己成長していくということになります。

 

 

まずは,内容や量を気にせず,毎日更新することを目標とし,

毎日更新することが苦でなくなったらば,ブログの質や量を増やして,

段階的に今の自分に最適な負荷を設定していくのです。

 

 

24時間常に高度なフロー状態に入っているわけではなく,

普段は緩やかなフロー状態を維持し,

ブログを書いたり,仕事をするときに高度なフロー状態に入り,

集中して仕事を終わらせるというイメージなのだと理解しました。

 

 

きっと,1日でもブログを書かなかったりしたら,

フロー状態から抜け出てしまい,

再びフロー状態に入るのに時間がかかり,

そのうち,フロー状態に入るのがめんどくさくなり,

ブログを書かなくなってしまうのだと思います。

 

 

そのため,普段から緩やかなフロー状態に入っているためには,

やはり毎日ブログを更新することが必須なのだと考えます。

 

 

また,自分の好きや強みを自己分析するワークをした後に,

それを受講者同士がシェアする時間があり,私は,

仕事以外の自分の好きな趣味のことをブログに記載する

バランスのことで悩んでいることを打ち明けました。

 

 

すると,受講者の方々から,そんなの特に気にする必要はなく,

読者が勝手に自分が読みたいブログ記事を決めるので,

自分が好きなことや楽しいことをどんどん発信したらいいんじゃないの,

というアドバイスをいただきました。

 

 

なるほど,ブログ記事は,読者が読む読まないを

自分で判断しているので,

ブログ執筆者がこれを読んでもらいたいと考えても,

あまり意味はないわけです。

 

 

何がおもしろいブログかは読者に決めてもらえばいいのです。

 

 

そう気付いたら,自分の好きなことを

ブログに書けばいいと思い,心が楽になりました。

 

 

 

弁護士の仕事のことばかり書いていると

つまらなくなるかもしれないので,

いろいろなジャンルのことを書いてみようと思いました。

 

 

それに,クライアントは,人生の一大事について

依頼する弁護士がどのような人柄で,

どのような背景をもった人物なのかを知りたいと思うはずですので,

自分自身に関することを情報発信していった方がいいと理解できました。

 

 

同じ目標に向かって切磋琢磨しているブログ仲間からの

フィードバックは本当に貴重なものですね。

 

 

というわけで,今後は,私の趣味なども

ブログで情報発信していこうと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

ハラスメントの境界線3~様々なハラスメント対策~

昨日に引き続き,白河桃子先生の

ハラスメントの境界線~セクハラ・パワハラに戸惑う男たち~

についてのアウトプットを行います。

 

 

 

本日は,この本に記載されていたハラスメントの

防止策について紹介していきます。

 

 

企業がハラスメントを防止するための枠組みとして,

①ポリシーの表明,②窓口の設置,

③調査体制の整備,④是正措置・再発防止策

の4つが挙げられています。

 

 

白河桃子先生は,①ポリシーの表明として,

経営者が「ハラスメントを許さない」,

「ハラスメントにはこうした懲戒処分をする」

と明言することを提案されています。

 

 

厚生労働省が作成した「パワーハラスメント対策導入マニュアル」にも,

企業として,「職場のパワハラはなくすべきものである」という方針を,

トップのメッセージとして明確に打ち出すことが推奨されています。

 

 

ポリシーが表明されることで,職場において,

相手の人格を認め,尊重しあいながら仕事を進める意識が育まれ,

ハラスメントの被害者や周囲の労働者が,問題点の指摘や解消に関して

発言がしやすくなることが期待されます。

 

 

 

②窓口の設置については,昨日のブログに記載したとおり,

相談者が安心して相談できるように,

「独立性」,「非公開」,「匿名」が守られることが重要となります。

 

 

会社内における電話やメールなどの

「通報ホットライン」だけですと,

相談しにくいことも考えられますので,

第三者機関などに委託して外部窓口を設置するなど,

複数の窓口を整備すると,相談しやすい環境を

作れるようになるようです。

 

 

③調査体制の整備については,

中立的な立場で事実を確認し,

報復を禁止させる仕組みが必要になると思います。

 

 

④是正措置・再発防止策については,

管理職向けや一般従業員向けのハラスメント研修や,

パワハラは許されないことであることを

会社内で周知することが重要になってきそうです。

 

 

次に,最新のハラスメント対策を実施している企業が紹介されており,

その中の一つに,ビザ・ワールドワイド・ジャパンの

ハラスメントを目撃した人に通報義務があるというものがありました。

 

 

 

 

ビザ・ワールドワイド・ジャパンでは,

報復禁止方針を徹底した上で,

ハラスメントを目撃した社員は,

人事部に通報しなければならないようです。

 

 

安心して通報できる環境が整い,かつ,

企業が通報を義務化していることで,

ハラスメントを撲滅できるのかもしれません。

 

 

https://www.sbbit.jp/article/cont1/34691

 

 

また,通報窓口に相談することに躊躇する場合,

国内最大級のハラスメント改善プラットフォーム

ソレハラ」というサイトがあります。

 

 

https://sorehara.com/

 

 

匿名で誰かの行為がハラスメントにあたるのかを,

ほかのユーザーに投票してもらう

「匿名ネコ裁判」というものがあります。

 

 

これってハラスメントかも?と思ったら,いきなり,

会社の窓口に相談するのはハードルが高いと感じたなら,

まずは,このサイトにゆるく問いかけてみるのもいいかもしれません。

 

 

そして,究極のセクハラ対策は,

管理職の多様性を進めていくことだと

白河桃子先生は提言しています。

 

 

 

日本の組織内で重要な意思決定をしている層は,

年齢や学歴,社歴などが同質な男性で構成されています。

 

 

同質性の高い組織では,「これくらいなら許される」という「本音」が,

「それは許されないことである」という建前とずれてしまい,

かつては通用した組織内の「本音」がすでに

社会で許されなくなってしまい,不祥事につながるというわけです。

 

 

財務省セクハラ事件を例にすれば,

「優秀な成績をあげていれば,多少セクハラは多目にみてもらえる」

という本音と,「セクハラをする人物は,

成績が優秀であっても組織にリスクをもたらす」

という建前がずれていたために問題が大きくなったと考えられます。

 

 

男性だけの同質な組織に,女性が進出すれば,

女性からの異なる意見がでることで,

本音と建前のずれに気付くことができます。

 

 

多様性のある職場では,

ハラスメントや不祥事が減る可能性がありそうです。

 

 

このように,様々なハラスメント対策が記載されていますので,

ハラスメントについて勉強するためには,

まず最初に読んでおいたほうがよい一冊だと思いました。

 

 

ハラスメントのある職場は,安心して働くことができない職場ですので,

多くの企業にハラスメント対策に取り組んでもらいたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ハラスメントの境界線2~企業の懲戒処分の決め方とハラスメント通報窓口~

昨日に引き続き,

ハラスメントの境界線~セクハラ・パワハラに戸惑う男たち~

という新書のアウトプットを行います。

 

 

 

この新書の中で,著者の白河桃子先生と

弁護士の五味祐子先生の対談において,

企業は,パワハラやセクハラに対して,

どのようにして懲戒処分をくだすのか,

パワハラやセクハラの通報窓口はどうあるべきかなどについて,

説明がされています。

 

 

私は,労働者側で労働事件を担当していますので,

企業内部の懲戒処分の決め方や通報窓口について,

詳しく知らなかったので,とても勉強になりました。

 

 

まず,ハラスメントに該当するかについては,

どのような行為だったのかという客観面と,

被害者がどのように受け止めたか,

周囲で見聞きしている人がどのように受け止めたかという主観面を加えて,

多方面から検討することになります。

 

 

 

 

もう少し具体的にすると,

加害者と被害者の関係性,

ハラスメント行為に至る経緯,

ハラスメント行為の期間・回数・表現,

指導目的との関連性,

ハラスメント行為の具体的状況

といった客観的事実が重視されます。

 

 

そのため,被害者がハラスメント行為を

どのように感じたかも重要ですが,むしろ,

客観的な事実からハラスメント行為に該当するのかを検討するので,

被害者の感じ方次第で決まるものではないのです。

 

 

次に,企業は,懲戒処分を次のような流れで決めていきます。

 

 

どのようなハラスメント行為があったのか調査を行い,

懲戒処分の対象となる事実を確定し,

懲戒処分案を検討します。

 

 

懲戒審査委員会が設置されている企業では,

懲戒審査委員会で処分案を審議し,

最終的に代表取締役が懲戒処分を決定します。

 

 

この過程において,懲戒処分の対象となっている者に

弁明の機会を与えます。

 

 

ハラスメント行為に対する懲戒処分の場合,

内容にもよりますが,通常は,

いきなり懲戒処分をくだすのではなく,

1回目は注意,2回目は厳重注意,3回目は懲戒処分

という段階をふんで,懲戒処分へつなげていきます。

 

 

 

 

企業がハラスメント被害を察知するルートの一つに,

ハラスメント通報窓口があります。

 

 

セクハラについては,男女雇用機会均等法11条において,

企業は,労働者からの相談に応じ,

適切に対応するために必要な体制の整備や

必要な措置を講じなければならないと規定されています。

 

 

パワハラについては,現時点では,

セクハラのように企業の措置義務を定めた法律はなく,

今年の通常国会で,企業にパワハラについての措置義務を課す

法律が成立する予定です。

 

 

これを受けて,企業には,ハラスメントの通報窓口

を設置しているところがあります。

 

 

しかし,このハラスメントの通報窓口が

十分に機能しているのかといいますと,

どうやらそうではないようです。

 

 

被害者がハラスメントの被害を報告しないのは,

①報告をしても被害者が損をするのが予想できる

(例えば,相談員から,「君にも落ち度があったのではないか」

などと言われる二次被害を受けたり,

被害者が会社の調和を乱すとして人事異動で不利益な取扱を受けるなど),

②そもそも窓口自体が有効ではない

(あるかどうかも分からない,あっても相談しにくい)

といったことが原因のようです。

 

 

そのため,被害者が安心して相談できるためにも,

ハラスメント通報窓口は,企業からの独立性や,

被害者の秘密を守ることを徹底しなければなりません。

 

 

 

そして,企業は,第一に被害者を守り,

被害者が報復されないように,

報復禁止措置を徹底する必要があるのです。

 

 

とりあえず,形だけハラスメント通報窓口を作ったのでは,

「仏作って魂入れず」と同じでだめなのです。

 

 

信頼できるハラスメント通報窓口があってはじめて,

被害者は相談してみようと思うものであり,

被害者が安心して相談できないと,

ハラスメントによる退職者が増えたり,

思わぬところから情報が流れて,

ハラスメントが発生しているブラック企業である

という風評がたってしまうリスクがあります。

 

 

企業は,安心して相談できるハラスメント通報窓口を

設置することが重要になると思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ハラスメントの境界線

昨日,パワハラ研修をさせていただき,その際に,

パワーポイントのスライドを作成する際に

参考になった文献を紹介します。

 

 

白河桃子先生の

ハラスメントの境界線~セクハラ・パワハラに戸惑う男たち~

という新書です。

 

 

 

この本には,ハラスメントに関する鋭い分析が

多く記載されていますので,

そのいくつかを紹介させていただきます。

 

 

白河先生は,日本のハラスメント問題の

ターニングポイントになったのは,

2018年4月に発生した財務省セクハラ事件だと分析しています。

 

 

財務省セクハラ事件とは,週刊新潮において,

財務省の福田淳一事務次官が,テレビ朝日の女性記者に対して,

ひどいセクハラ発言をしたことが告発され,

福田事務次官は辞職し,

6ヶ月2割の減給の懲戒処分を受けたという事件です。

 

 

週刊新潮によると,福田事務次官は,

テレビ朝日の女性記者に対して,

「抱きしめていい?」,「浮気しようね」,

「胸触っていい?」,「手しばっていい?」

などと発言したようです。

 

 

 

テレビ朝日の女性記者が福田事務次官とのやりとりを録音していたので,

生々しいセクハラ発言の証拠が保全された結果,

福田事務次官としては,言い逃れができなかったものと考えられます。

 

 

この財務省セクハラ事件の顛末をみて,白河先生は,

非常に有能な人材が組織にもたらす利益よりも,

有害な人材がもたらす人材デメリットの方が大きいと分析しています。

 

 

昔であれば,仕事ができて優秀な成績をあげる人であれば,

ハラスメントをしても多目にみてもらえていました。

 

 

福田氏は,霞ヶ関の官庁の中で最強官庁と言われる財務省の,

事務方のトップである事務次官にのぼりつめた人物であり,

当然に優秀な官僚だったのだと思います。

 

 

 

そのため,麻生財務大臣も,当初は,

福田事務次官をかばおうと必死でした。

 

 

しかし,「セクハラ罪という罪はない」などの麻生財務大臣の言動や,

被害者は名乗り出てほしいという調査手法をとった財務省の対処に,

世間の人々は怒りや疑問の声を投げかけ,

結局,福田事務次官は辞任したのです。

 

 

この一連の報道をみて,多くの国民は,

財務省の信頼は地に落ちたと感じたと思います。

 

 

このように,現在では,どれだけ優秀で仕事ができる人であっても,

ハラスメントをしたことが告発されれば,

経営者であっても,国会議員であっても,首長であっても,

辞任に追い込まれてしまうのです。

 

 

今では,ハラスメントをする優秀な人は,

組織にリスクをもたらす危険な人になっているのです。

 

 

そう,時代が変わったのです。

 

 

昭和でも平成でもない,令和の時代になったのです。

 

 

 

 

ハラスメントに対する考え方を変えないと,

組織も人も生き残れないのです。

 

 

時代が変わったからこそ,白河先生は,

ハラスメントについてアンラーニングする必要があると説いています。

 

 

アンラーニングとは,

いったん学んだ知識や既存の価値観を棄て去り,

新たに学び直すことです。

 

 

昭和の後半から平成の前半のバブル時代を

バリバリ働いてきた世代の男性にとっては,

あれもこれもハラスメントと言われるのがめんどうだ

と思うかもしれません。

 

 

しかし,今まで無自覚にしていたことを,

めんどうだと思うというのは,それだけ自分の行動や言葉に

気を使うようになったということですので,

めんどうだと思っても,プラスに捉えて,

ハラスメントについてアンラーニングをしてもらいたいです。

 

 

何がハラスメントに該当するのかを知ることが,

ハラスメントを防止するための第一歩だと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

初めてのパワハラ研修をしました!

私のマインドマップの師匠である

株式会社できるの杉本嵩龍さんのご紹介で,

金沢市高畠にあるノムラ合成株式会社様において,

「パワハラをなくそう」という演題で,

本日,研修をさせていただきました。

 

 

株式会社できるのホームページ https://www.dekiru-jp.com/

 

 

ノムラ合成株式会社のホームページ https://www.n-gosei.jp/

 

 

企業において,パワハラの研修をするのは,

初めての経験だったのですが,受講された方々は,

真剣に聞いていただけましたので,とても嬉しかったです。

 

 

 

 

そもそも,なぜ,企業でパワハラの研修をする必要があるのでしょうか。

 

 

それは,労働者一人一人が互いに尊重しあい,

パワハラを起こさせない,よりよい・働きやすい職場をつくるためです。

 

 

人間とは,一人で生きていくことができず,

他者とのかかわり合いの中で生きていく社会的な存在です。

 

 

そのような人間にとって,職場とは,

1日の大半を過ごす場所であり,

他者とのかかわり合いがもてる重要な場であります。

 

 

そのような職場においてパワハラが発生すれば,

パワハラの被害者はもちろんのこと,

パワハラを見た周囲の人たちも,

非常に嫌な思いをして,

働くことが嫌になります。

 

 

そうなると,職場の雰囲気が悪化し,

労働者の働く意欲が低下し,

職場全体の労働生産性が悪化していきます。

 

 

さらには,パワハラが生じる職場には,

人が集まらず,人がどんどん退職していきます。

 

 

パワハラによって,心の健康を害したとして,

裁判が起こされれば,ブラック企業という

マイナスのイメージが定着してしまいます。

 

 

 

これらのパワハラのリスクを考えれば,

企業にとって,パワハラをなくすことは

待ったなしの喫緊の課題なのです。

 

 

では,どうやってパワハラを予防するのか。

 

 

この答えの一つとして,どのような行為がパワハラに該当するのか

を知ってもらうことがあります。

 

 

そもそも,何がパワハラに該当するのか知らなければ,

パワハラをしている人は,自分の行為がパワハラであることを

知らないまま,パワハラを継続させてしまうので,

まずは,知ってもらって,自分の行動や言葉に

気をつけてもらう必要があると考えます。

 

 

 

というわけで,本日の研修では,

実際の裁判でパワハラと認定された言動を紹介しました。

 

 

まずは,ファーストリテイリング事件の

名古屋高裁平成20年1月29日判決です(労働判例967号62頁)。

 

 

この事件では,ユニクロの店長が,従業員に対して,

胸ぐらをつかみ,顔面を頭突きし,

管理部長が従業員に対して,「いいかげんにせいよ,お前。

おー,何考えてるんかこりゃ。ぶち殺そうかお前」と言い,

慰謝料500万円が認められました。

 

 

次は,サントリーホールディングス事件の

東京高裁平成27年1月28日判決です。

 

 

この事件では,上司が部下に対して,

「新入社員以下だ。もう任せられない」,

「何で分からない。おまえは馬鹿」と言い,

慰謝料150万円が認められました。

 

 

最後は,上司のパワハラによってうつ病を発症して

自殺したことが労災と認定された国・静岡労基署長事件の

東京地裁平成19年10月15日判決です(労働判例950号5頁)。

 

 

この事件では,上司の部下に対する

「存在が目障りだ,いるだけでみんなが迷惑している。

おまえのカミさんの気がしれん,お願いだから,消えてくれ」,

「お前は会社を食いものにしている,給料泥棒」という発言が,

精神障害を発症させる程度の心理的負荷に該当すると判断されました。

 

 

業務上必要な指導とパワハラの線引が難しいこともありますが,

「馬鹿」や「給料泥棒」など相手の人格を否定する言動がある場合には,

裁判で違法なパワハラと認定されることが多いのです。

 

 

自分の言動が職場の誰かの人格を傷つけていないかという

イマジネーションを働かせるためにも,

どのような言動がパワハラになるのかを

知ってもらうのが重要だと考えます。

 

 

 

今回の研修のパワーポイントのスライドを作成するにあたり,

厚生労働省の「明るい職場応援団」のサイトを

参考にさせていただきました。

 

 

このサイトには,どのような言動がパワハラに該当すのかが

動画で解説されていたり,パワハラ研修に必要なコンテンツが

アップロードされていますので,大変参考になります。

 

 

https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/

 

 

次回のパワハラ研修は,私のコーチングの師匠である

株式会社シェヘラザードの坂本祐央子さんと一緒に,

6月26日水曜日14時から石川県地場産業振興センター本館第2会議室

で実施しますので,企業の管理職でパワハラ防止に関心のある方は,

ぜひご参加ください。

 

 

株式会社シェヘラザードのホームページ https://www.sahrzad.jp/

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇なのか合意解約なのか

2日前のブログで,解雇なのか自己都合退職なのかが

争われる事件について紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201905158032.html

 

 

これに関連して,本日は,解雇なのか合意解約なのかが

争われるケースについて解説します。

 

 

解雇とは,使用者による一方的な労働契約の解約のことです。

 

 

 

解雇には,よほどのことがない限りできない

という厳しい規制があります。

 

 

他方,労働者からの一方的な労働契約の解約の意思表示を辞職といい,

労働者の都合で退職することを自己都合退職といいます。

 

 

自己都合退職については,退職することを会社に伝えてから

2週間が経過すれば,原則自由に退職できます。

 

 

もう一つ,労働契約の合意解約があります。

 

 

例えば,会社から退職を勧奨されて,

労働者がこれに応じて退職した場合,

会社の辞めてほしいという意思表示と,

労働者の辞めますという意思表示が合致して,

労働契約が会社と労働者の合意によって解約されるのです。

 

 

労働者が解雇が無効であると争った場合,会社は,

解雇はしておらず,退職勧奨をしたら,労働者が勝手に辞めたので,

合意解約が成立すると反論してくることがあります。

 

 

 

この場合,2日前のブログで記載しましたが,

使用者の解雇したという言動や,

労働者の退職したという言動の有無についての

事実認定が問題になります。

 

 

そして,使用者や労働者の言動が認定された場合でも,

使用者の言動がそもそも解雇の意思表示にあたるのか,

労働者の言動が退職の申込みにあたるのか,

という当該言動の評価の問題がでてきます。

 

 

この解雇や退職についての言動の評価について,

乙山法律事務所経営者事件の裁判例は

(東京地裁平成27年3月11日・判例時報2274号73頁),

次のように判断基準を提示しました。

 

 

長いのですが,重要ですので引用します。

 

 

「労働者にとって雇用契約は、

生活の糧を稼ぐために締結する契約であり、かつ、

社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる

契約関係であることからすれば、

かかる雇用契約を解消するというのは、

労働者にとって極めて重要な意思表示となる。

 

 

したがって、かかる雇用契約の重要性に照らせば、

単に口頭で合意解約の意思表示がなされたとしても、

それだけで直ちに合意解約の意思表示がなされたと

評価することには慎重にならざるを得ない。

 

 

特に労働者が書面による合意解約の意思表示を明示していない場合には、

外形的にみて労働者が合意解約を前提とするかのような

行動を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らざるを得ない

特段の事情があれば、合意解約の意思表示と評価することはできない

ものと解するのが相当である。」

 

 

労働者から,退職届のような文書が提出されていない場合には,

労働契約の合意解約は慎重に判断されるのです。

 

 

 

この事件では,雇用主からもう来なくて良いと言われ,

言い分が聞き入れてもらえなかったので,

原告は事務所を立ち去るしかなかったので,

原告が「こんなとこ働けんわ」と言って事務所を立ち去っているのですが,

労働契約の合意解約があったとは認められず,

解雇であったと判断されました。

 

 

また,同じく,解雇か合意解約かが争われたゴールドルチル事件でも,

合意解約ではなく,解雇と判断されました

(名古屋高裁平成29年1月11日決定・労働判例1156号18頁)。

 

 

すなわち,この事件では,労働者が

「やはり首ですよね?はっきりしないと仕事を探すにも探せません」,

「首ですね?」,「会社を辞めないといけませんけど」

と伝えたところ,会社は「仕事探してみてはいかがですか」,

「雇用保険受付してもいいですよ」と回答したという事実関係において,

労働者が当面の生活費に困っている中で

金銭給付を受けるためにされたものであるとして,

労働者は労働契約の合意解約の意思表示をしていないと判断されました。

 

 

裁判では,解雇か,自己都合退職か,

労働契約の合意解約かが争われた場合,

使用者側の言動,労働者の離職の経緯,

労働者が自分の意思で退職する動機の有無,

離職後の労働者の態度,使用者が労働者の労務提供の受け取りを

拒否する意思の表れとみられる事情の有無などをもとに

事実認定されます。

 

 

傾向として,やや労働者に有利に判断されると感じますので,

会社から,勝手に辞めただろうと反論されても,

丁寧に事実を主張立証していけば,

解雇と認定される可能性がでてきますので,

労働者は,不当解雇に泣き寝入りしないでもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。