労災隠しは許されません
昨日に引き続き,高齢者の労災問題について記載します。
現行の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)8条で,
60歳を下回る定年を定めることが禁止されています。
そして,高年法9条では,企業に対して,
65歳までの雇用確保措置として,
①定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③定年制の廃止
のいずれかを講ずることを義務付けています。
多くの企業では,60歳で一旦定年を迎えて,
その後は再雇用として,60歳から65歳まで
有期労働契約を締結するなど,
②継続雇用制度の導入をしているようです。
おそらく,60歳から1年ごとに,有期労働契約を更新して,
65歳まで働くのだと思います。
年金の受給開始年齢が基本的に65歳であり,また,
子供がまだ独り立ちしていない場合には,
子供のために働かなければならず,
1年ごとに有期労働契約を更新して,
働き続ける必要があります。
そのため,労災に遭ったとしても,
労災申請をすると,会社から煙たがられて,
次の有期労働契約を更新されないことを恐れてしまい,
労災申請を控えてしまうようです。
「無事故連続○日」という張り紙が職場に貼ってあり,
数千日の数字が記載されていると,
労働者に無言のプレッシャーとなり,
労災に遭って負傷しても,労災保険を利用せず
(労災保険を利用すれば,治療費を自分で負担する必要はありません),
健康保険で自己負担で治療を済ませてしまうことがあるようです。
このように,高齢の労働者は,有期労働契約なので
労災申請を控えてしまう傾向があることの他に,
会社が意図的に労災を隠すこともあります。
労災が発生して労働者が休業した場合,会社は,遅滞なく,
労働者死傷病報告という文書を労働基準監督署へ提出して,
労災が発生したことを報告する義務を負っています
(労働安全衛生規則97条)。
会社が,この報告義務を怠ると,
50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
会社が,労災が発生しても,労働基準監督署に
労災の報告をしないことを労災隠しといいます。
実際に,石川県内においても,建物の解体現場において,
60代の男性労働者が転落し,
骨折して4日以上休業したにもかかわらず,
労働者死傷病報告が提出されておらず,
穴水労働基準監督署は,石川県内の企業を
金沢地方検察庁へ書類送検しました。
https://www.rodo.co.jp/column/38259/
労災隠しをすると,罰金50万円が科される
リスクがあるにもかかわらず,
会社がなぜ労災隠しをするのかといいますと,
会社が労働基準監督署へ労災の報告をすると,
労働基準監督署が会社に対し,
事故原因や法令違反がなかったかを調査をして,
必要に応じて行政指導や刑事告発をする可能性があるので,
会社は,それを避けたいからなのです。
しかし,労災に遭ったにもかかわらず,
労災保険の適用を受けないと,
被災した労働者にとっては,
治療費の負担,休業補償,後遺障害が残った場合の補償,
死亡時の遺族補償などについて,様々なデメリットが発生します。
そこで,会社から労災保険を利用することを控えるように言われても,
ためらうことなく労災申請すべきなのです。
また,高齢の労働者が労災に巻き込まれないための対策として,
高齢の労働者が転倒しないように,
仕事場の明るさの調整,
スピーカーの音量や音質を聞き取りやすくする,
段差をなくす,滑りにくい靴をはくなどが考えられます。
高齢の労働者が今後も増えていきますので,
企業には,高齢の労働者が労災に巻き込まれないように
予防策を講じていくことが求められます。
本日もお読みいただきありがとうございます。