マスク不着用で会議に出席したら懲戒処分をされてしまうのか
1 マスク不着用で会議に出席したら4日間の出勤停止
報道によりますと,マスクを着用せずに校内の会議に出席したことを
主たる理由として,大阪電子専門学校の嘱託職員が,
専門学校を運営する学校法人から,
4日間の出勤停止の懲戒処分を受けたようです。
https://www.asahi.com/articles/ASN585DSGN58PTIL00C.html
この嘱託職員は,4月7日にマスクを着用せずに会議に出席し,
会議終了後に学校法人の理事長からマスクの未着用を
とがめられたようです。
もっとも,会議のあった日は,休校中で,
学生は,専門学校にほとんどきていなかったようです。
専門学校側は,懲戒処分の理由として,
「学生の健康と安全を守る立場の教職員として,
感染リスクを軽視している」ことを挙げているようです。
新型コロナウイルスに関連する労働問題は色々ありますが,
マスクを着用せずに会議に参加したことを理由とする懲戒処分は,
珍しく,さすがに行き過ぎです。
本日は,懲戒処分について解説します。
2 懲戒該当事由があるか
まず,懲戒処分について,労働契約法15条には,
「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,
客観的に合理的な理由を欠き,
社会通念上相当であると認められない場合は」,
懲戒処分は無効となると規定されています。
第1の要件は,労働者の問題行為が就業規則所定の
懲戒事由に該当し,懲戒処分に「客観的に合理的な理由」
があることが認められることです。
懲戒該当事由があるかという問題です。
通常,就業規則には,どのような問題行為があれば,
どのような懲戒処分がされることが記載されており,
就業規則に記載されている懲戒事由に該当しなければ,
会社は,労働者に対して,懲戒処分をできません。
また,形式的には,就業規則の懲戒事由に該当する行為が
あったとしても,実質的に秩序を乱すおそれのないような行為であれば,
そもそも懲戒事由に該当しないと判断されることがあります。
大阪電子専門学校の事件にあてはめると,さすがに,就業規則で,
マスク不着用で会議に出席することを懲戒事由にしていない
と思いますので,おそらく,マスク不着用で,
校内で新型コロナウイルスを感染させる危険を及ぼして,
学校秩序を乱したことなどを懲戒事由にしたのだと考えられます。
しかし,マスク不着用だった嘱託職員が,
新型コロナウイルスに感染していなければ,
マスク不着用でも,他人に感染させることはないですし,
そもそも,休校中で学生は校内にいないのであれば,
感染リスクも極めて限定的です。
そのため,学校秩序を乱したことにはならず,
懲戒該当事由がないと考えられます。
3 懲戒処分は重すぎないか
第2の要件として,懲戒処分は,
労働者の行為の性質及び態様その他の事情を考慮して,
社会通念上相当でなければなりません。
労働者の行為の性質とは,懲戒事由となった
労働者の行為そのものの内容をいいます。
労働者の態様とは,問題行為がなされた状況や悪質さの程度をいいます。
その他の事情には,
労働者の行為の結果(企業秩序に対してどのような影響があったのか),
労働者の情状(過去の処分・非違行為歴,反省の有無・態様),
使用者側の対応(他の労働者の処分との均衡,行為から処分までの期間)
などが含まれます。
ようするに,社会通念上相当か否かについては,
労働者の問題行為の内容・悪質性の程度からして,
懲戒処分が重すぎないかという,
問題行為と懲戒処分とのバランスがとれているかを判断します。
大阪電子専門学校の事件にあてはめると,
この嘱託職員がマスク不着用で会議に参加した4月7日時点では,
薬局などにマスクが売られておらず,
一般の方がマスクを購入するのは困難な状況であり,
嘱託職員がマスク不着用で会議に参加することに
やむを得ない事情がありました。
さらに前述のとおり,休校中で学生は校内におらず,
感染リスクも限定されていたことから,
マスク不着用で会議に参加することの悪質性の程度は
限りなく低いと言えます。
そのため,新型コロナウイルスを感染させる危険性が
高度にあるとはいえないのに,
マスク不着用で会議に出席したことを理由に,
4日間の出勤停止の懲戒処分とすることは重すぎます。
懲戒処分をするのではなく,厳重注意をすれば,事足りたはずです。
以上より,大阪電子専門学校における懲戒処分は無効になると考えます。
このような懲戒処分が二度となされないことを期待したいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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