厚生労働省の統計不正問題から長期間経過後の懲戒処分を考える
昨日,通常国会が招集され,厚生労働省の
「毎月勤労統計」の不正統計問題が追及されています。
毎月勤労統計では,500人以上の事業所については
全ての事業所を対象にして調査しなければならないにもかかわらず,
東京都の500人以上の事業所約1400全てを調べることなく,
約500の事業所だけを選んで調べていた結果,
データが誤ったものとなりました。
データが誤ったものとなった結果,
雇用保険の失業給付金や労災の給付金が
本来支払われる金額よりも少なくなっており,
その総額は数百億円にのぼるといわれています。
失業中や仕事中にけがして休んでいる大変な時に
支給される給付金が,本来支払われる金額よりも
少なかったのですから,給付金を支給されていた人達は憤ります。
この統計不正ですが,2003年7月のマニュアルから
始まったらしく,2017年冬ころに,
違法調査の報告があったようですが,放置されて,
2019年に大問題となったようです。
その結果,厚生労働省の歴代幹部や職員22人が
訓告や減給の懲戒処分を受けました。
これほど大問題になったわけですので,
懲戒処分はやむをえないのですが,
今回の懲戒処分を検討する際に気になるポイントがあります。
それは,統計不正が始まったのが2003年ころとすると
約15年経過しているわけですが,
長期間経過後の懲戒処分は認められるのかという問題です。
懲戒処分該当行為から長期間経過
することによって企業秩序が回復したり,
懲戒処分はされないだろうという
労働者の期待が生じることから,
長期間経過後に懲戒処分が許されるのかが
問題になることがあるのです。
この点が争点となった東京地裁平成30年1月16日判決
を紹介します(判例時報2384号99頁)。
この事件は,私立大学の准教授が他人の論文を
2回盗用したとして,懲戒解雇されたのですが,
原告の准教授は,懲戒解雇に不服があり,裁判を起こしました。
裁判では,原告の准教授が故意に他人の論文を盗用したと認定され,
本件論文盗用行為は,他人の研究成果を踏みにじり,
自らの研究業績をねつ造するもので,
研究者としての基本的姿勢にもとる行為にあたり,
研究者としての資質に疑問を抱かせるもので
悪質性は顕著であると判断されました。
さらに,大学に対する信頼を毀損させたとして,
懲戒事由に該当すると判断されました。
そして,この論文の盗用は,懲戒解雇から13年前の出来事なので,
准教授の防御を図る観点から慎重を期す場合があるものの,
論文盗用という研究の本質に鑑みた場合の行為の悪質性,
その問題に正対せずに不自然不合理な
弁明を繰り返した准教授の姿勢から,
懲戒処分の該当行為から長期間経過したことで,
行為の悪質性を減殺することはできないと判断されました。
ようするに,懲戒処分の該当行為の悪質性が重い場合には,
長期間経過していることは,あまり考慮されない
可能性があるということです。
また,論文盗用という懲戒処分該当行為については,
長期間経過しても防御にそれほど支障がなかった
という点も考慮されています。
懲戒処分該当行為から長期間経過していることは,
一般的には労働者に有利に考慮されるのですが,
懲戒処分該当行為の内容によっては,
考慮されないことがありますので,
気をつける必要があります。
さて,話を厚生労働省の統計不正問題に戻しますと,
雇用保険の失業給付金や労災の給付金が
本来支払われる金額よりも少なくなっていたのであれば,
その間に給付金を受給していた人達が納得できるはずもなく,
国民の行政や統計に対する信頼を大きく失墜させました。
そのため,統計不正が始まって約15年以上が経過していても,
厚生労働省の幹部や職員に対する懲戒処分は
避けられなかったのだと考えます。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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