労働者は仕事中に私用メールやパソコンの私的利用をしてはいけないのか

1 私用メールやパソコンの私的利用の問題

 

 

私が現在担当している労働事件の裁判で,

労働者が仕事中に会社のメールを私的に利用したことが争点となりました。

 

 

実務では,労働者が仕事中に私用メールや

パソコンの私的利用をしたことを理由に,

懲戒処分をされたり,解雇されたりして,

問題になることがあるのです。

 

 

 

この争点について,私用メールや会社のパソコンの私的利用について

争われた過去の裁判例や文献を調べましたので,アウトプットします。

 

 

2 職務専念義務

 

 

まず,労働者は,会社の指揮命令に服しつつ,

職務を誠実に遂行すべき義務を負い,

労働時間中は職務に専念し,

他の私的活動を差し控える義務を負っています。

 

 

これを職務専念義務といいます。

 

 

私用メールや会社のパソコンの私的利用は,

業務時間内に行えば,職務専念義務違反に問われるリスクがあります。

 

 

もっとも,労働者も社会人である以上,

日常の社会生活を営む上で必要な範囲内で行う

私用メールやパソコンの私的利用まで

職務専念義務違反と考えるべきではありません。

 

 

職場における私語や喫煙コーナーでの喫煙など,

他の私的な行為についても社会通念上相当な範囲で

黙認されていることが多いこととの均衡を図る必要があるからです。

 

 

私用メールは,会社における私語と変わらない面があり,

私語を禁止する職場では,息苦しくて働きにくいからです。

 

 

そのため,私用メールやパソコンの私的利用について,

社会通念上相当な範囲内の軽微な頻度・回数にとどまり,

業務に支障を及ぼさず,会社の経済的負担も軽微なものにとどまる場合は,

職務専念義務は否定されるべきです。

 

 

具体的には,私用メールやパソコンの私的利用について,

その閲覧の対象,時間,頻度,

私的利用を禁止する規程の有無や周知の状況,

上司や同僚の私的利用の有無,

被処分者に対する事前の注意・指導や処分歴の有無などに照らして,

社会通念上相当な範囲にとどまる限り,

職務専念義務に違反しないか,

反するとしてもあまり重くみることはできません。

 

 

3 企業秩序遵守義務

 

 

次に,会社は,企業の存立・運営に不可欠な企業秩序を定立して

維持する当然の権限を有し,労働者は,企業秩序遵守義務を負っています。

 

 

要するに,労働者は,会社のルールを守り,

企業秩序が維持されるように協力しなければならないのです。

 

 

私用メールやパソコンの私的利用については,

会社の設備であるパソコン端末や通信回線を目的以外の用途で使用し,

会社に通信料金や電気料金などの負担を生じさせるので,

企業設備の私的利用の禁止という

企業秩序遵守義務に違反するリスクがあります。

 

 

 

もっとも,企業秩序遵守義務違反を問う場合には,

あらかじめ,就業規則などで,

会社のパソコンについて私的利用を禁止することを明示し,

普段から禁止措置を周知徹底しておく必要があります。

 

 

また,会社の経済的負担が軽微で,

パソコンの私的利用によるウイルス感染などの

実害が生じていない場合には,

企業秩序遵守義務違反に問えるかが微妙になります。

 

 

私用メールやパソコンの私的利用について,

その閲覧対象,時間,頻度などに照らし,

会社の経済的負担の程度や企業秩序に

どのような悪影響を及ぼしたのかなどが検討されることになります。

 

 

このように,私用メールやパソコンの私的利用については,

ケースバイケースで事実を確認して,

懲戒処分や解雇にふさわしいものかを厳密に検討していきます。

 

 

もし,私用メールやパソコンの私的利用を理由に,

懲戒や解雇された場合には,争うことができないか,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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