勤務時間中のパソコンの私的利用と懲戒処分

1 パソコンの私的利用による懲戒処分が争われた裁判例

 

 

昨日のブログでは,労働者が仕事中に

私用メールやパソコンを私的利用したことを原因として

懲戒処分される場合について,記載しました。

 

 

 

本日は,具体的に,私用メールやパソコンを私的利用したことの

懲戒処分が争われた裁判例を検討したいと思います。

 

 

本日検討するのは,K工業技術専門学校(私用メール)事件の

福岡高裁平成17年9月14日判決(労働判例903号68頁)です。

 

 

この事件は,専門学校の教員が勤務先から貸与された

業務用パソコンを使用してインターネット上の出会い系サイトに

投稿して多数回メールを送受信したことを理由に

行われた懲戒解雇の効力が争われました。

 

 

原告労働者は,貸与されていたパソコンと

学校のメールアドレスを使って,

5年間で合計約2900通のメールの送受信を行い,

そのうちの6割が交際相手や出会い系サイトで知り合った女性との

私用メールであり,昼休みを除く勤務時間内に送受信されていました。

 

 

出会い系サイトに登録した原告労働者のメールアドレスが

閲覧可能になっいたようで,この件が発覚したようです。

 

 

被告の学校は,原告労働者を,職務専念義務違反や

信用失墜行為の禁止違反の懲戒事由に該当するとして,

懲戒解雇したのでした。

 

 

2 一審判決

 

 

この事件では,一審と控訴審で結論がわかれました。

 

 

一審判決では,メールの内容が卑猥なものではない,

授業や学生の就職関係の事務を特におろそかにしたことはない,

メールの送受信自体によって業務自体に著しい支障を生じさせていない

として,職務専念義務違反は重大なものではないと判断されました。

 

 

また,一審判決では,原告労働者の投稿が

被告学校の名誉や信用を毀損して社会的評価を低下させたとはいいがたく,

パソコンの使用について被告学校が適宜対処しなかった

落ち度があるとして,懲戒解雇は無効としました。

 

 

3 控訴審判決

 

 

これに対して,控訴審判決では,結論が逆転しました。

 

 

控訴審判決は,連日のように複数回メールを送受信して,

その多くが勤務時間内に行われており,

その分の時間と労力を本来の職務に充てれば,

より一層の成果が得られたはずであり,

職務専念義務違反の程度は相当に重いと判断されました。

 

 

また,SM相手を募集するなど露骨に性的関係を求める内容の投稿で

メールアドレスを第三者に閲覧可能にした行為は,

著しく不謹慎かつ軽率で,被告学校の名誉や信用を

傷つけるものであるとして,懲戒解雇は有効と判断されました。

 

 

 

勤務先が教育機関であったこと,

メールの内容がSM相手の募集で出会い系サイトが利用されていたこと,

第三者に閲覧可能なメールアドレスが

被告学校のものであるとわかることが,

情状を重くしたと考えられます。

 

 

事実は同じであっても,事実の評価のしかたで,

結論が全く異なったので,懲戒処分や解雇の事件は,

結論がどっちに転ぶのか見立てが難しいです。

 

 

私用メールやパソコンを私的利用したことの懲戒処分を検討する際に,

参考になる裁判例なので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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