若年性認知症の影響による万引についての懲戒免職処分が取り消された事例
1 犯罪行為と懲戒処分
人は時として過ちをおかしてしまうことがあります。
刑事事件の弁護人をしていると,貧困が原因で万引をしたり,
精神的な病気から犯罪をしてしまったり,
という事件をよく担当することがあります。
罪を犯した人が人生のやり直しのきっかけを与えることも
弁護士の大切な仕事だと考えています。
犯罪をしたことが勤務先に発覚すると,
懲戒処分となるリスクが高まります。
本日は,犯罪行為と懲戒処分について,
検討された裁判例を紹介します。
海上自衛隊厚木航空基地自衛官事件の
東京地裁平成30年10月25日判決です(労働判例1201号84頁)。
この事件では,自衛官がコンビニで栄養ドリンクを万引したとして,
懲戒免職処分を受けましたが,この懲戒免職処分の
取り消しを求めて訴訟を提起しました。
2 懲戒処分の要件
懲戒処分が有効となるためには,
①懲戒処分の根拠規定の存在,
②懲戒事由への該当性,
③懲戒処分の相当性
の3つの要件が満たされなければなりません。
本件事件では,②と③の要件が争点となりました。
まず,原告の自衛官がどのような万引をしたのかが争いとなりました。
原告は,万引をして,コンビニの店長に捕まったときに,
許してもらいたくて,店長から言われるがままの事実を認めてしまいました。
しかし,防犯カメラの映像といった客観的な証拠からは,
原告が2日間にわたり,栄養ドリンクを各1本ずつ
万引したことしか認定できませんでした。
民事事件においても,懲戒処分の該当行為については,
客観的な証拠の裏付けをもとに厳格に認定される傾向があります。
3 懲戒処分の相当性
次に,コンビニで栄養ドリンクを2回万引したことで,
懲戒免職処分ができるのかが争われました。
この点,公務員に対する懲戒処分について,
懲戒事由該当行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響の他,
公務員の懲戒事由該当行為の前後における態度,
懲戒処分などの処分歴,選択する処分が他の公務員に与える影響など,
諸般の事情を考慮して,懲戒権者の裁量の逸脱・濫用がないかを検討します。
本件事件では,以下の事情が考慮されました。
・2回にわたり2本の栄養ドリンクを万引したものであり,
被害の程度は軽微であること。
・原告は,被害店舗に謝罪して被害弁書をして示談が成立していること。
・原告は,過去に停職1日の懲戒処分を受けているものの,
14年前のことであり,本件とは事案が異なること。
・原告は,若年性認知症によって認知機能が低下していて,
これが犯罪行為に影響を与えた可能性があること。
以上の事実を総合考慮すれば,懲戒免職処分は重すぎ
停職処分が相当であるので,懲戒免職処分が取り消されたのです。
最近では,万引をしたのに記憶がないと主張する方がおり,
若年性認知症が影響しているのではないかと疑うケースがあるので,
若年性認知症のことが,労働者に有利に判断されたことが評価できます。
懲戒処分を争うときには,③懲戒処分の相当性で
労働者が勝つことがあるので,
懲戒処分が重すぎないかを検討することが重要です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
返信を残す
Want to join the discussion?Feel free to contribute!