志賀町の職員の給料5%減額の条例から登録職員団体の必要性を考える
1 志賀町で職員の給料5%減額の条例が成立しました
先日,ブログで石川県志賀町において,
新型コロナウイルス感染対策のために,
全町民に2万円を支給する原資として,
志賀町の職員の給料を6月から10ヶ月間10%減額する問題
について記載しました。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202004289245.html
この問題について,志賀町職員互助会から給料の5%減額の提案
があったようで,5月8日の町議会の臨時会が開催されて,
志賀町の職員の給料を5%減額する条例が成立しました。
https://www.asahi.com/articles/ASN586TZWN58PISC00N.html
職員互助会の提案を受け入れたことが,
給料の5%減額の条例が成立した要因になっていそうですが,
職員互助会は,志賀町の職員の意見を代弁したのか疑問です。
本日は,地方自治体における職員の給料の決定と
登録職員団体について解説します。
2 勤務条件条例主義
まず,地方自治体の職員の給料や勤務時間などの勤務条件は,
条例で定められ(地方自治法24条5項),
条例に基づかない給料の支給はできません(地方自治法25条1項)。
これを勤務条件条例主義といいます。
条例は議会が制定します。
地方自治体の職員の勤務条件を住民代表の議会による民主的統制におき,
使用者である当局の恣意を排除して,職員の身分と生活を保障するのです。
とはいえ,議会は,地方自治体の労使関係の現場の状況を
熟知しているわけではありません。
そのため,使用者である当局と職員団体との団体交渉で
具体化した結果を,首長が議会に提案し,
議会は,労使交渉の結果をできるだけ尊重して,
合理的な範囲内で修正して,議決することになります。
議会は,労使交渉を尊重することになるので,
当局と職員団体の団体交渉が重要になります。
3 地方自治体の職員団体
ここで,地方自治体の職員団体について説明します。
民間企業における労働組合が,
地方自治体の場合,職員団体といいます。
職員団体は,人事委員会または公平委員会に対して
登録を申請することができて(地方自治法53条1項),
登録を受けた職員団体のみが団体交渉権を付与されるのです
(地方自治法55条1項)。
そのため,登録を受けた職員団体は,
地方自治体の当局を交渉に応ずべき地位に立たせることができるのです。
団体交渉とは,労働組合または労働者の集団が,
代表者を通じて,使用者と,労働者の待遇または
労使関係上のルールについて行う交渉のことです。
使用者との関係では,労働者1人1人の立場は弱いのですが,
1人1人の労働者が団体として結集すれば,
交渉力が強化され,使用者と実質的に対等な立場に立つことができて,
労働条件の維持,改善を図ることができるのです。
団体交渉は,労使双方が利害の対立を前提としつつも,
勤務条件について一致点を見出すべく模索する過程なのです。
職員団体と地方自治体の当局との団体交渉の結果を,
書面による協定にまとめることもできます(地方自治法55条9項)。
地方自治体の当局が合理的理由もなく団体交渉を拒否した場合には,
団結権及び団体交渉権を侵害するとして,
不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。
そのため,地方自治体の当局が職員の給料を減額しようとする場合,
登録職員団体と誠実に団体交渉をする必要があります。
しかし,志賀町には登録された職員団体がなく,
職員互助会は,志賀町当局と団体交渉ができません。
職員の給料を減額するのですから,
職員の意見を代弁する機会である団体交渉が実施されるべきなのですが,
残念ながら,団体交渉はされず,職員互助会の提案では,
職員の意見が代弁されたとはいえないと考えます。
給料が減額されることで,職員の士気は下がらないのか,
2万円の現金を給付することで,
どれだけ町民の生活にメリットがあるのか,
などの職員の意見が反映される機会がなかったのが残念です。
地方自治体においても,労働者である公務員の意見を代弁する
登録職員団体の存在が必要であることを考えさせられたニュースでした。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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